僕が「救けて」と言えるまで
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他のみんなはそれぞれ別の場所に飛ばされている。
人数が人数だから殆どがツーマンセルで飛ばされるはずだけど、まあ有象無象じゃあ無理だろうな。
---ひたり---
首筋に冷たい手が添えられる。
「神呪!?なぜここに!!」
目の前で相澤先生が戦っている。
黒霧に運ばれた先は、弔君の元だった。
僕は何も言わない、動かない。
んーん、動けない。
「なあイレイザーヘッド…子供が目の前で死ぬのは、どんな気持ちだ」
弔君の手が首を絞めつける。
少しだけ、苦しい。
「なあ血鬼、なんであんな顔してた…?誰が、お前を苦しめる…?」
僕の耳元で囁く。
ぼーっと目の前を見る、なんであんなに必死なんだろう。
見ず知らずのたかだか生徒に、なんであそこまで必死に守ろうとするの?
相澤先生が必死に敵をなぎ倒しながら、僕に手を伸ばす。
「神呪!!」
なんで、あんなに…
「ここは、息ができないよ…」
絞り出した声は、弔君の耳には届いたみたい。
ゆっくりと僕の首から手が離れていく。
「あいつか…」
相澤先生の方へ走り出す弔君。
僕は、やっぱり動けなかった。
「動き回るので分かり辛いけど、髪が下がる瞬間がある」
弔君が触れた、先生の肘が崩れていく。
やめて…やめて…
「一アクション終わるごとだ…そしてその間隔は段々短くなってる」
---無理をするなよ、イレイザーヘッド---
お願い弔君…その人はダメ…やめてよ
「神呪!早く逃げろ!!」
赤い目が、僕を真っすぐに見る。
弔君に肘を崩されても、立て続けに攻撃をくらっても、相澤先生は僕のことを見ている。
「やめ、てよ…」
手が震える。
今まで弔君にも先生にも、逆らったことなんてなかった。
言われたことは、ちゃんとやった。
邪魔したことなんてなかった。
でも、でもダメなんだ。
「本命は俺じゃない」
脳無が動く。
「対平和の象徴 改人“脳無”」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
「やめてぇぇぇぇぇええええええ!!!!!!」
範囲最大。
僕以外の、時よ止まれ。
「ダメだよ、脳無」
ゆっくりと近づいて、脳無が砕こうとしている先生の腕を離す。
僕の力じゃ全身を助けることはできない。
連続で絶対停止を使う。
やめて、やめてよ…相澤先生が、壊れちゃうよ。
脳無を動かせない。
僕は先生の体に覆いかぶさる。
「やめてよ…」
「かん、のう…」
僕の下から先生のか細い声がする。
良かった。右腕は壊れなかったね。
「っっっっっ」
弔君の目が驚きに見開かれた。
「なに、してる」
聞いたことないくらいの低い声。
僕はくすりと笑う。
これが、反抗期ってやつなのかなあなんてお気楽にも考える。
「この人はダメだよ…脳無」
脳無の動きは止まらない。
邪魔なものを排除しようと、その腕を振り下ろす。
他がどうなろうと知ったこっちゃない。
「この人は、僕を助けてくれたんだ」
お母さんもおじさんも、真っ赤な手も、この人が取り去ってくれた。
この人だけが、取り去ってくれた。
「やめろ、脳無!!!!!!」
弔君の叫び声。
僕の背中に、脳無の拳が叩き落とされた。
何が起こったのか全く分からなかった。
噴水のところにいたはずの神呪君が、一瞬で相澤先生の上に覆いかぶさっていた。
まるで、時間が止まってその中で神呪君だけが動いたみたいに。
「え、神呪ちゃん、どうして」
蛙吸さんも何がなんなのかわかってないって感じだ。
手の敵が慌てて脳無を止めようとするけど、その拳が神呪君の小さな体に叩き落とされる。
---ぼきぃ、ぐちゃっ---
生々しい音を立てて、神呪君の体がひしゃげる。
体がエビぞりのように曲がり、口からは血を吐き出す。
脳無は神呪君の右腕を掴み、捻りつぶした。
そのまま、後方へと投げる。
うめき声すら上げずに木に叩きつけられる。
僕は、まだ何も見えちゃいなかった…
圧倒的な力の前に、こうも無残に命は踏み握られる。
僕も蛙吸さんも、峰田君も、ぴくりとも動けなかった。
神呪君が無事か確かめに行きたい。
けれど、目の前の敵から目が離せなかった。
「ちっ、やりすぎだ」
脳無が相澤先生の頭を掴んで叩きつける。
「死柄木弔」
「黒霧、13号はやったか。」
モヤの敵が戻ってくる。
どうやら飯田君が外に出られたみたいだ。
あとは時間を稼げば、きっと先生達が救けにきてくれる…っっ
「帰ろっか」
ゲームオーバーだと言って手の敵が身を翻す。
何言ってるんだ。オールマイトを殺したいんじゃないのか?
ここで帰ったら雄英の警戒レベルが上がるだけなのに。
「その前に黒霧、血鬼を回収しろ」
けっき?
なんのことだ…?
「血鬼を回収して帰るぞ。でもその前に平和の象徴としての矜持を少しでも、へし折って帰ろう」
体が動かない…頭がぼーっとする
ああ、そうだ。脳無にやられたんだ。
うっすら目を開ければ、いつの間にかオールマイトがいた。
脳無と戦ってる。
周りには切島君や爆豪君、轟君の姿もある。
蛙吸さんと峰田君に担がれた相澤先生が見える。
壊れて、ないよね…??
オールマイトのパンチで脳無が飛んでいく。
ああ、強いなあ。凄いなあ。
平和の象徴。
目の前が真っ赤に染まっていく。
あの日と同じ。
僕は、飛び行く意識の中で思い出す。
真っ赤に染まる、あのお屋敷を。
呼吸が荒くなる。
その時、誰かの手が僕の視界を遮った。
---大丈夫。大丈夫だよ、類君---
優しい手。
僕を呼ぶ、声。
あの日、天気の話をする声と同じ、穏やかな声。
---大丈夫。私に任せて。ゆっくり、息をして---
すうっと赤が引いていく。
呼吸が戻ってくる。
「ごめん、なさい」
温かいものが、頬を伝う。
---うん、わかってるよ。大丈夫。だから、ゆっくり休んで---
もう赤くない。
怖くない。
僕には、お姉さんがいる。