僕が「救けて」と言えるまで
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世界は平等じゃない
---ごめんなさい ごめんなさい---
これは齢4歳で知る 世界の摂理
---それでも さようなら---
これは僕が救けを求めるまでの物語
『本日早朝、カニバルの新たな被害者が出ました。被害者は…』
街頭モニターから速報でニュースが流れる。
眠そうに目をこする人、仕事へと向かう人、まだ焦る時間ではないのか皆ゆっくりと歩いている。
誰もかれもが自分には関係ないと思っているのか、真剣に見ようとする人はいない。
「…」
小さな影が路地裏の闇からモニターを眺めている。
全身真っ黒なそれは、手に持つマスクについた赤を手でぬぐう。
「笑って、大丈夫…間違ってない。僕は、笑う」
歪な笑顔。
手についた液体を舐めとって、ぐーっと体を伸ばした。
「早く、見つけて」
小さな影は背後に現れた靄の中に消えていく。
路地裏から伸びた赤い線が、細く伸びていた。
「おい血鬼(けっき)、誰にも見られないだろうな」
帰ってすぐにシャワーを浴びると、珍しく朝のニュースなんてものを見ながら弔君が言う。
ニュースから流れるのは、もちろん僕の事件。
「大丈夫。いつも通りだよ」
にっこりと笑う。
血のついた体はシャワーで綺麗に洗い流した。
黒霧が出してくれた水を飲みながら、僕はひと息ついた。
先生からの仕事をつつがなくこなす。
それが、僕がここにいられる理由。
僕が存在する理由。
そう僕は、人食い鬼のカニバル
「やあ塚内くん、朝から大変だね」
署でパソコンに打ち込んでいるとかかった声に塚内直正が顔あげる。
「お互い様だろ。この間のお昼過ぎに発生したヘドロ事件、君が解決したんだって?」
周りに誰もいないのを確認して話す。
ここにいるのはオールマイトではなく、トゥルーフォームの彼だから誰かに聞かれるわけにはいかないのだ。
「いやいや、僕もまだまだだ。危うく口先だけのニセ筋になるところだった。」
緑の少年を思い出してオールマイトが苦笑する。
個性の譲渡を決めてから、今は彼の特訓中だ。
「それにしても、ここまで何も手がかりがないと厳しいね」
パソコンの画面をのぞくと、いくつも開かれた資料は全てカニバルのものだった。
塚内は苦笑すると、ネクタイを緩めながらエナジードリンクを飲み干す。
「個性不明、容姿不明、年齢不明、本名不明、まったく嫌になるほどまっさらな資料だよ」
この一年追っている敵。
きっかけは、心臓を持った死体だった。
ご丁寧に遺体の手は腹の上で合わせられ、その手の中には被害者の心臓が置いてあった。
一口だけ、齧った跡を残して。
動物の犯行ではない。あれは、思想を持った人間の仕業だ。
人食い鬼・カニバル
奴の名前が知れ渡るのに、時間はかからなかった。
被害者数6人。
その全てが法では裁かれない悪人だったからだ。
証拠不十分もしくは上からの圧力などで裁けなかった者たち。
虐待、横領、酷いパワハラや性犯罪。
そんなものに手を染めていても、警察は確固たる証拠がないと動けない。
歯がゆい思いをしていたところに現れたのが、奴だった。
---罪人よ、逃げられると思うなよ---
まるでそう言うかのようだった。
そのせいか義賊として報道され、今では一部に狂信的な信者がいるほどだ。
それでもやっていることは正義とは言えない。
敵であることには変わりないのだが。
「君が奴を追って、もう随分になるね」
奴の初犯と思われる事件から、ずっとカニバルを追ってきた。
行動パターンを読み、次の犯行場所を絞り込む。
そうすることで少しずつ死亡推定時刻が近づいてきた。
「早く捕まえないと…これ以上被害者を出してたまるか」
罪人でも、殺してしまえば元も子もない。
死ではなく、ちゃんと償わせる必要がある。
塚内はぐっと拳を握りこんだ。