僕が「救けて」と言えるまで
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水曜日の午後。
「今日のヒーロー基礎学だが、俺とオールマイトそしてもう一人の3人体制で見ることになった」
プロヒーロー一人増えるんだ。
大丈夫かな。弔君。
弔君のためにも、うまくいくといいけど。
盗んだ書類の通り、USJでの救助訓練だった。
コスチュームに着替えてバスに乗り込む。
僕は轟君の隣に座った。
前の方でみんなが何かを話している。
轟君の左側は、ぽかぽかと暖かかった。
「そういえば神呪ちゃんの個性も万能よね」
ふと呼ばれた名前に顔を上げると、蛙吸さんたちが僕を見ていた。
うん?僕の話?
「そうだな!血液操作だったら救助も攻撃もどっちもできるもんな!まさにヒーロー向きだぜ!」
切島君の言葉に僕は笑う。
うまく笑えているか分からない。
ヒーロー向きだなんて、始めて言われた。
でもいまここで笑いあってるみんなが、本当の僕を知ったらどう思うんだろう。
僕の本当の個性を知ったら、どんな目をするんだろう。
「…どうした、寒いのか」
轟君の言葉に手が震えていることに気づいた。
えへへと苦笑して、自分で自分の手を握りしめる。
びっくりするくらい、冷たかった。
みんなの笑い声が、遠くに聞こえた。
「「「すっげー!!!USJかよ!!!」」」
みんなのテンションが上がる。
「水難事故、土砂災害、火事etc…あらゆる事故や災害を想定し、僕が作った演習場です。その名も…ウソの(U)災害や(S)事故(J)ルーム!」
宇宙服みたいなヒーロー…スペースヒーロー13号がいた。
そこにオールマイトの姿はない。
(????どういうこと?僕、間違った?)
やばい。弔君の不機嫌な顔が浮かぶ。
僕、怒られるかも…
「13号、オールマイトは?ここで待ち合わせるはずだが」
相澤先生の言葉に13号先生が指を3本立てて答えている。
どうやら不測の事態で遅れてくるらしい。
良かったー。これで僕は怒られないぞ。
「えー始める前にお小言を1つ、2つ、3つ…」
どんどん増えるじゃん、お小言。
「皆さんご存じだとは思いますが、僕の個性は“ブラックホール”。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」
ふーん。強いなあ。さすがプロヒーロー。良い個性持ってるよね。
「その個性でどんな災害からも人を救い上げるんですよね!」
「ええ、しかし簡単に人を殺せる力です」
拳をぎゅっと握りこむ。
「みんなの中にもそういう個性がいるでしょう。超人社会は個性の使用を資格制にし、厳しく規制することで、一見成り立っているように見えます。」
「しかし一歩間違えれば容易に人を殺せる“いきすぎた個性”を個々が持っていることを忘れないでください」
いきすぎた、個性。
手が震える。
「相澤さんの体力テストで自身の力が秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したと思います。この授業では心機一転!人命の為に“個性”をどう活用するかを学んでいきましょう」
無駄だ。
僕の個性は、人の為になんか使えない。
溜息が出た。
僕の個性は、人を殺すことが前提の個性だもの。
「君たちの力は傷つける為にあるのではない。救けるためにあるのだと、心得て帰ってください!以上、ご清聴ありがとうございました。」
歓声が上がる。
みんながみんな、13号先生の言葉に感銘を受けていた。
心が沈んでいく。
ああ、先生。救けて…苦しいよ…
僕には、ここは、眩しすぎる…
「そんじゃあまずは…」
ぞわりと足元を這う悪意。
それが僕の心を酷く落ち着けた。
施設中央の噴水にゲートが現れる。
顔に手をつけた弔君が、ぎろりとこちらを睨みながら出てきた。
(弔君、弔君、弔君)
僕の視線に気づいた弔君の顔が一層険しくなる。
「一塊になって動くな!!!」
相澤先生の声が響く。
もやがかかったように、何も聞こえない。
「あれは敵だ!!!」
僕もそっちに行きたい…
ここは息ができないんだ。
「13号避難開始!学校に連絡試せ!センサーの対策も頭にある敵だ。電波系のやつが妨害している可能性がある」
相澤先生の声が響く。
僕はピクリとも動けない。
弔君が何か黒霧に話してる。
でもここでの僕に仕事はない。
ただ生徒を外に出すなって言われた。
僕はここで、それをするだけ。
「先生は!?一人で戦うんですか!?あの数じゃいくら個性を消すっていっても!!」
個性を、消す?
それが、相澤先生の個性なの?
「イレイザーヘッドの戦闘スタイルは敵の個性を消してからの捕縛だ。正面戦闘は…」
「一芸だけじゃ、ヒーローは務まらん」
緑谷君の言葉に相澤先生は、首元の布に手をかけながら飛び出した。
ひゅっと息が詰まる。
行ってほしくないと、思ってしまう。
先生の背中が、小さくなっていく。
広場でどんどんと先生が敵をなぎ倒していく。
強い。
けど、僕の心をざわざわと揺れる。
あそこにいるのはただの有象無象。
じゃあ、あいつと先生が戦ったら…??
「神呪!早く逃げるぞ!」
先生を見ていると、誰かに肩を引っ張られる。
切島君が、先生は大丈夫だからと言ってくれる。
違うんだ。大丈夫じゃないんだよ。
「させませんよ」
ぶわりと広がる闇。
黒霧が、生徒達の前に立ちふさがった。
不意に目が合う。
??
「初めまして。我々は敵連合。せんえつながらこの度ヒーローの巣窟雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴オールマイトに息絶えて頂きたいと思ってのことでして」
ぶわりと黒霧の体が広がる。
爆豪君と切島君が攻撃を仕掛けるけど、意味はない。
散らして、嬲り、殺す
僕はここで足止めをする予定なのに、どうして…?
僕は黒霧に飲み込まれた。