僕が「救けて」と言えるまで
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昼休み。
僕はぼーっとしながら校舎裏にいた。
誰もいない草陰。
木の幹に体を預けて、体育座りをしている。
(なんでだろ。先生にされるのとは違った…先生といると頭がぼーっとして、いつもあの日の夢を見る。忘れちゃダメだよって先生はいう)
自分の手を見つめる。
あれから午前の授業は全然身が入らなかった。
ふわふわして、気持ち悪かった。
(相澤先生は、あったかくて、優しくて…ああそうだ、お姉さんと同じだった)
優しい目。僕に微笑んでくれたお姉さん。
相澤先生が抱きしめてくれた時、胸がぎゅうって締め付けられて、目が熱くなった。
(わからない…あんな気持ち、知らない)
「血鬼」
呼ばれた名前にすっと僕の心からいろんなものがなくなる。
そうだ、僕はこれから仕事をしなくちゃいけない。
「もう少しで死柄木弔が動きます。準備してください」
僕の前に出されるカニバルの服とマスク。
受け取ってすぐに着替える。
制服は、草の中に隠しておく。
一度現場を見られてしまっているから、ちょうどいいので目はカラコンで赤くしている。
カニバルの目は赤、ってあの日認識されちゃったからね。
マスクをつければ出来上がり。
僕は人食い鬼、カニバル。
---ウウーーーーーーーーーー!!!!!---
けたたましく鳴り響く警報。
『セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください』
「さあ、始めよう」
僕はぴょんと飛び上がり、職員室を目指した。
廊下には誰もいない。職員室にも人影はない。
大方なだれ込んだマスコミの対応に追われてるんだろうな。
オールマイトのデスクに置いてある目的の書類の写しをとった。
ふーん、救助訓練ね。
その授業の担当にオールマイトがいる。
隔離施設だし、狙うならここかな。
(さて、あとはアリバイ作りかな)
急いで黒霧の元に戻ってカニバル一式と写しをゲートに投げ込む。
着替えて食堂に向かう。
ちょうど飯田君が非常口みたいに張り付いて叫んでた。
おおう、凄いところにいるんだけど。
「もみくちゃだったねー」
さもずっといましたみたいな雰囲気で切島君と上鳴君に話しかける。
ここまでごちゃごちゃなら誰がどこにいるかなんて把握してないから大丈夫でしょ。
二人には、僕が食堂にいたって証人になってもらわないといけない。
「おお、神呪!大丈夫だったか!」
「うん、上鳴君も大丈夫?怪我とかしてない?」
飯田君のおかげなのかみんな落ち着きを取り戻してる。
僕はぐちゃぐちゃになった制服を整えながら答えた。
まあぐちゃぐちゃになったのは慌てて着替えたからなんだけどね。
ちらりと窓からマスコミを方を見ると、崩された瓦礫が見えた。
弔君、派手にやるなあ。
「ただのマスコミに、こんなことができるかい」
瓦礫の山を見つめる。
「そそのかしたものがいるね…邪なものが入り込んだか、もしくは宣戦布告の腹積もりか」
嫌な予感がした。
彼の顔が過ったが、相澤君に聞いたところ食堂での騒動に巻き込まれていたと生徒からの証言があった。
「何もないと、いいんだけどね」
頭がふわふわする。
弔君の話が頭に入ってこない。
なんだろう、この気持ち。
抱きしめられた感覚がなくならない。
心がふわふわと、揺れている。
心が揺れる時は、先生のところに行く。
そうすると夢を見るから。
夢を見れば、嫌なことは忘れちゃう。
先生は言う。
これが僕の原点だって。
先生は言う。
僕がしていることが悪なのだというのなら、間違っているのは世界だと。
先生は言う。
悪いことした人は壊さないといけない。
先生は言う。
それをできるのは僕だけなんだって。
僕には先生だけだ。
あの日、誰も伸ばしてくれなかった手を、先生だけが伸ばしてくれた。
叩き落とされた手を、先生だけが握ってくれた。
先生の言うことだけ聞いていれば、間違わないんだって。
だから言われたとおりに壊してきた。
---本当に?じゃあいま彼らがやろうとしていることは?---
誰かが僕に言う。
---オールマイトは、悪?---
分からない…分からない。
でも弔君を救けてくれなかったオールマイトは悪じゃないの?
全てを救ってきたと笑う、彼は。
---君のクラスメイトは、壊してもいいの?---
切島君、轟君、上鳴君、飯田君、八百万さん、緑谷君…
まだ話したことない人いるけど、でも彼らが悪だとは思わない。
壊したいとも、思わない。
「血鬼?」
沈んでいく思考が引っ張り上げられる。
弔君が心配そうに顔を覗き込んでいた。
「とむら、くん」
「お前どうしたんだ。帰ってきてから変だぞ」
弔君の後ろに黒霧もいる。
ダメだ。心が揺れてたら、先生のところに連れていかれちゃう。
「んーん、大丈夫だよ」
僕はにっこりと笑う。
今日のことは忘れたくない…
あの感覚は、とても心地の良いものだったから。