僕が「救けて」と言えるまで
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次の日、僕は思わず足を止めた。
うっわ、最悪。
校門の前には無数の報道陣。
やだなー、僕あんまりテレビとか好きじゃないんだけど。
「あっ!あなたヒーロー科!?ちょっと学校でのオールマイトについて話してくれない!」
獲物を見つけた捕食者の如く、報道陣のカメラがこっちに向く。
内心悪態をつきながらも、僕はにっこりと笑った。
「すっごく強いですよ」
「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績見させてもらった」
朝のHR。
相澤先生が書類を置きながら言う。
爆豪君と緑谷君が怒られてる。
それをぼーっと聞いてると、相澤先生の視線が僕へと移った。
ん?
「神呪は後から職員室へ来い」
え!?呼び出し!?
待って待って!僕、今日なかなかに忙しいんだけど!
後っていつ?
休み時間?昼休み?放課後?
「さてHRの本題だ。急で悪いが今日は君らに、学級委員長を決めてもらう」
「「「学校っぽいのきたー!!!!」」」
沸き立つクラス。
無言で固まる僕。
なに、この温度差。
まあ呼び出しの件は一回置いといて、学級委員長?
すんごいみんな手上げてるけど、なに、そんなに人気あるの?
結局埒が明かないので投票になったらしい。
みんな自分に入れるだろうけど、ここで複数票入った人が本物なんだって。
うーん誰に入れようかなぁ。
眼鏡だし、真面目だし、やっぱり飯田君かな。
「なんと僕にも一票がっっ!!」
結局緑谷君に決まったみたいだけど、飯田君は自分に入った票にとてつもなく感動してた。
ごめん、眼鏡っていう理由だけでいれて、なんかごめんね。
休み時間。
僕は相澤先生に会いに職員室に来ていた。
なんだろう?
相澤先生を呼ぶと、僕はそのまま個室に連れていかれる。
本当になに?
「え、僕何かしたでしょうか?」
怖い。相澤先生の顔が怖い。
明らかに怒られる!
「言いたくないことなら言わなくていい。…お前の両親は、本当の親か?」
は?
思わずポカーンとする。
思い出すのは警察署で僕を迎えに来たオカアサン。
戸籍登録の時も、あのオカアサンを使ってる。
だから多分先生が言っているのは、彼女のことだと思う。
「あ、いえ、僕、養子なので」
一応真実を少し混ぜることになっているので、戸籍にも僕は5歳の時に養子に出されたことになっている。
「だから個性の扱い方も親に聞けないのか」
それには何も言わないで頷いた。
まあ本当の親でも聞けないけどね。
ただ体力テストで倒れたことを考えれば、そう思ってくれた方が好都合だ。
「はい、お母さんの個性は僕とは全然違うものなので…」
「家庭の事情で中学には行っていなかったみたいだな」
僕は必死に黒霧に教えられた情報を引っ張り出す。
こんなテストみたいなことさせられると思わなかったよ。
「はい。お母さんが日本と海外を頻繁に移動する仕事なので、勉強は家庭教師に教えてもらってました」
家庭教師・黒霧にね。
「お前は、ヒーローとなにがあったんだ」
唐突な質問に、僕は眉間に皺を寄せる。
そして思い出すのは先生の言葉。
Vを見たって言ってた。昨日の。
だったらきっとその言葉の意味するところはこうだ。
昨日オールマイトに言った言葉。
---悪いことをしたヒーローは、誰が裁いてくれますか?---
思わず聞いちゃってたんだよね。
うーん、そこに関しては決めてなかったけど、少しくらいだったら言っても大丈夫だよね。
「僕、本当の親には虐待されてたんです」
そういうと先生が分かりやすく顔を歪める。
「小さかったのであまり覚えてないんですけど、本当の親はヒーローだったみたいなんですよね」
嘘。
はっきりと覚えてる。
あいつらにされたことも、全部、明確に。
思わず呼吸が早くなる。
ああ、思い出したくないなあ。
「僕を救けてくれるはずの一番近くのヒーローが、僕の手を払いのけました」
自分の手を見つめる。
あの時伸ばした手は、叩き落とされた。
笑いながらお母さんは言った。
「言いました。僕を産んだことを後悔したと」
手が震える。
言葉が止まらない。
頭の中がぐちゃぐちゃになる。
嫌だ。嫌だよ。
「僕は、だから…だからっっ」
目の前が真っ赤に染まっていく。
もういないはずなのに、おじさんの荒い息遣いが聞こえてくる。
手が真っ赤に染まっていく。
自分の体を抱きしめる。
救けてくれない。誰も、ヒーローも、警察も、誰もかも。
ふわりと周りが暗くなる。
良い、匂いがする。
「すまん。嫌なことを思い出させたな」
相澤先生の声が凄く近くで聞こえる。
心臓の音が聞こえる。
先生のとは違う、匂いがする。
落ち着く、良い匂い。
「悪かった。もう大丈夫だ」
そういって頭を撫でてくれる。
息ができる。手の震えがなくなる。
僕はゆっくりと目を閉じた。
頭の中のお母さんもおじさんも、もういなかった。
「なるほど、そういうことなんだね」
神呪を教室に戻した後、オールマイトさんに先ほどのことを話す。
あとから校長にも話さなければな。
「ここ数年、ヒーローの中で虐待などを理由に逮捕された者はいません、おそらく…」
「うん、神呪君の本当の両親はまだ裁かれてはいないんだろうね」
親が子を虐待する。
胸糞悪い話だ。
あの神呪の様子から察するに、本人はよく覚えてはいないと言っていたが、断片的にでもされたことは覚えているんだろう。
呼吸は乱れ、手は震え、冷や汗をかいていた。
「あいつは過去に囚われてる。誰もそこから引き揚げてくれないんでしょうね」