僕が「救けて」と言えるまで
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「あー、悔しいですー!」
そのあと何度か交戦するも、核に触る先生を止めることができず、僕の負けで訓練は幕を閉じた。
ぶーと頬を膨らませながら僕はナイフを回収する。
やっぱり強いや。かすり傷一つつけられなかった。
さすが“平和の象徴”。
「神呪少年」
戻ろうとするとオールマイトが僕に声をかける。
モニタールームにいる時とは違う、少し低い声に僕はゆっくりと振り返った。
「君はなぜ、ヒーローを目指すんだい?」
僕がヒーローを目指す理由?
「そんなの、悪い人を壊したいからですよ」
その返答に先生が顔を顰める。
あ、間違えた。この言い方はダメなんだった。
「あ、違います。悪い人を捕まえたいからです。」
ただそれだけ。
悪いことをしたら償わなきゃいけない。
裁かれなきゃいけない。
僕は別にヒーローになりたいわけじゃない。
ただ、先生がいうからここにいるだけ。
ここにいて、あなたを見るために。
「ねえオールマイト、僕質問があるんです」
ヒーローが正義を貫くこの世界。
ヒーローが悪を裁くこの世界。
「悪いことをした人は裁かれなきゃいけない。それを捕まえるのが、ヒーローです。なら」
思い出す、あいつらの顔。
醜く歪んだ顔を、まだ鮮明に思い出せる。
「悪いことをしたヒーローは、誰が裁いてくれますか?」
僕を産んで、育てて、愛して、殴って、罵って、地獄へ売り飛ばしたヒーロー。
救けてくれなかったヒーロー。
あいつらは、誰が裁いてくれるの?
顔が歪むのが自分でもわかる。
「神呪、少年?」
「さ、オールマイト!早く戻りましょう」
僕は笑う。
綺麗に笑う。
無邪気に笑う。
僕は僕であるために、笑う。
「おお!神呪!お前、凄かったな!」
あれから先生は急いでたみたいで、僕の講評は後日ってことになった。
コスチュームを着替えていると、電気の子が僕の肩を叩いた。
えーっと、確か上鳴君。
「全然だよ。やっぱりオールマイトには敵わなかったもん」
ナイフも全部避けられちゃったし、血液による拘束もすぐ対応されちゃったしね。
「でもオールマイトに挑むってだけで漢らしいぜ!」
切島君も褒めてくれる。
普段褒められてないと、照れちゃうね。
僕は少し熱くなった顔をパタパタと仰ぐ。
「どうした神呪、熱いのか」
隣にいた轟君が、氷を出してくれる。
便利だなーって思いながらお礼を言って受け取って、頬っぺたにあてた。
つめたーい。きもちー。
「お前は、なんでオールマイトを選んだんだ」
器用に氷を持ちながら着替えていると、すでに着替え終わった轟君が僕を見てた。
その瞳は、冷たく揺れている。
「んー、なんで…だって強い人と戦った方が楽しくない?」
「楽しい?」
強い人との戦いは楽しい。
弔君が僕をよく戦闘狂っていうけど、あながち間違ってないと思う。
強い人と戦うのは楽しい。
生きてるって感じがするから。
「いろんなことが学べるでしょ?」
僕がそういうと、轟君は納得したように頷いた。
ここは学ぶ場所、だもんね。
あれからみんなは教室で反省会をするって言ってたけど、僕は丁重に断って帰り支度をした。
早く弔君に今日のこと話したいしね。
あのオールマイトと戦ったって言ったら、どんな顔するかなー。
くすくすと笑いながら廊下を歩いていると、ふと窓の外に緑谷君と爆豪君が見えた。
何か話してる。
ぐっと勢いよく上げた爆豪君の顔に僕は溜息が出た。
「あーあ、持ち直しちゃった」
真っすぐ前を見る爆豪君の目に、戦闘訓練の時みたいな歪みはない。
あれはもうダメ。
静かな、けど強い光を灯した目だもの。
「いいと思ったんだけどね」
あーあ、残念。
僕と一緒に堕ちてくれるかと思ったのにな。