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落第人生、転落忍生



兵太夫&庄左ヱ門の場合

※反社会的行為の描写があります。
ご注意ください。


♡♠︎♢♣︎
《笹山兵太夫と黒木庄左ヱ門の悪巧み》



「庄ちゃーん」

「何?」

「三治郎見つかりそう?」

「見つかってたら報告しているよ」

「だよねー」



二人が出会ったのは、四年前。
庄左ヱ門は高校二年生、兵太夫は一年生。
生徒会役員である庄左ヱ門が新入生の誘導をしていた時のことだ。

“庄ちゃん”

矢羽音が庄左ヱ門の耳を掠めた。
懐かしさに驚き辺りを見回す。

“右見て、右。”

促されるまま視線を向ければそこには


“兵太夫”

“久しぶり、庄ちゃん”


かつての級友、兵太夫が笑っていた。



そんな経緯で再会した二人。
前世の記憶があるのが自分だけではないことが判明した。つまり、他の皆もどこかにいるはず。

「庄ちゃん。僕、三治郎を探したい」

「僕だって、は組のみんなを探したい」


お互い、相棒は別にいた。
だから、これは暫定的な相棒だ。


再会から一年後、兵太夫は庄左ヱ門の家に招かれた。

庄左ヱ門の部屋は、真面目な彼らしくない、ちょっと散らかった部屋だった。
散らかってはいるが、掃除は行き届いていて清潔。少し不思議な部屋だった。

そう思いながら部屋を見回す兵太夫に庄左ヱ門は声をかけた。

「ねえ、兵太夫。兵太夫は両親から裏通りの話は聞いてる?」

「もちろん聞いてるよ。“絶対に裏通りには入ってはいけない”でしょ?」

「うん。僕もそう言われてる。…この街の子供はみんなそう言われて育つ。」

「それがどうかしたの?」

庄左ヱ門の意図がわからず首をかしげる。

「…みんなその言葉を守って、絶対に裏通りに入らない。」

そんな兵太夫の目の前で庄左ヱ門はそう言って整理整頓された棚からノートパソコンを取り出す。

「何が言いたいの?庄ちゃん」

「つまり、思考停止。だれも信じて疑わない」

淡々とした口調。無駄のない動き。
高校生のそれらに似合わない。

「だけど僕は考えた。裏通りには一体何があるのか」

「庄ちゃん…?」

そう、そこにいるのは平和な世に生きる高校生ではない。
忍術学園を卒業し、炭屋の傍ら闇夜を翔けた忍、黒木庄左ヱ門だ。

「これ、見て」

庄左ヱ門が差し出したノートパソコンの画面に映し出されたのは、オオカワ警察のマーク。

「え、なにこれ」

「オオカワ警察のデータベース」

「こんなのどうやってアクセスしたの?」

「簡単だよ、ハッキングしたんだ」

「ハッキング!?」

目をひん剥く兵太夫に対し、相変わらず冷静なままの庄左ヱ門。

「そんなことより見てこれ」

「何?」

「これ、職員のデータベースなんだけど、警察官と警備官っていう二つのカテゴリーに分けられてるんだ。警察官は普通に僕たちが見かけるお巡りさん。」

「警備官は…?」

「裏通り専門の捜査を行なってる。」

「!」

「つまり、わざわざ分けないといけないほどの何かが裏通りにあるんだよ」


庄左ヱ門の言葉に、ふつふつと、兵太夫の腹の底から何かが湧き出てくる。


それは、好奇心と探究心。


彼だって、平和ボケした高校生ではない。
卒業後、様々な城からカラクリ造りを依頼された一流カラクリ師、笹山兵太夫だ。


「探そう、庄ちゃん」

「そう言うと思ったよ」


それから、庄左ヱ門は情報系の大学へ進学し、“大学生”という隠れ蓑を得た天才ハッカーとなった。
兵太夫は進学せず、独学で機械工学や通信工学、電気工学など様々なことを学び、“自称”ではあるが発明家となり庄左ヱ門をサポートする。


「暫定コンビ、始めようか」

「庄ちゃんったら相変わらず冷静ね」


それから二年。
二人は立花仙蔵と再会し、その立花仙蔵からとあるアパートに呼び出された。

裏通りにあるそこは田村三木ヱ門の住処だった。そして同じく立花に呼び出されたであろう綾部喜八郎と潮江文次郎がその場にいた。

「我々は、ぬるま湯の世界に飽きてしまってね。…兵太夫、なにか面白いことを思いつかないか?」

立花はそう言って兵太夫に笑いかけた。


ああ、そうだ。

ここにいる人たちだって
卒業後、
フリーの忍者になり、国が滅ぶほどの戦を未然に防いだ立花仙蔵。
兵太夫と並んで人気の罠師になった綾部喜八郎。
無名の城に就職したが、その城を国で一番大きな城へと大成させた潮江文次郎。
佐武衆お抱え忍び隊を結成、最年少17歳で隊長を務め火縄の天才と呼ばれた田村三木ヱ門。

そうだ。そうだった。
みんな、そういう人たちだ。


「“何でも屋”というのはどうでしょう?」


平和な日々では物足りない。
やりたいことをやった者が勝者だ。

「わくわくしません?」



ああ、悪巧みは最高だ。



そうやって始まった何でも屋稼業。
発足から一年後、軌道に乗り始めたころから物語は始まる。

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