薄桜鬼〜浪華録〜
「それから、我は沈む夕陽を背に東へ逃げた。我の故郷のある、大坂へ。」
淡々と述べられた女の過去に、広間はしばらく静まり返った。
女が告げた事実。
女が人魚であること。
迷い込んだ里で忌み子とされ迫害されたこと。
そこに不知火匡がいて、彼も迫害されていたこと。
二人で里を逃げ出したこと。
追ってきた人間に捕らえられそうになったこと。
そして、そのまま二人が離れ離れになったこと。
「何で…何で、里の人間はお前を追ってきたんだ?」
藤堂がそう言うと、山南はぽそりと言葉を零した。
「人魚の肉を食べれば不老不死になるという話を聞いたことがあります」
その言葉に藤堂が目を丸くすると、女は哀しげに笑った。
「人魚の肉を食ろうても、不老不死にはならぬ。」
しかし、続く山南の言葉に、女は表情を失った。
「人魚の血を飲めば、巨大な力が手に入るとも、聞いたことがあります。」
「…よく…知っておるな…」
女は冷え切った瞳で広間の人間を見回す。
「男人魚の血を飲めば、強靭な肉体と身体能力、治癒力が手に入る。…しかし…その代わり、狂う」
「狂う…?」
土方が眉を動かす。
引っかかった言葉。
強靭な肉体と身体能力、治癒力。
そして“狂う”という言葉。
「血に、狂うのじゃ。」
それはまるで…羅刹の力。
「そして女人魚の血には、その狂いを抑える力がある」
女の言葉に、その場は水を打ったように静まる。
「……土方くん。」
沈黙を破った山南に、土方が小さく頷く。
「お前の身柄は、しばらく新選組で預かることにする。…いいな、近藤さん。」
土方の言葉に近藤は目を輝かせた。
「もちろんだとも!!!」
そして、近藤は女の縄をほどき、優しく手を握る。
「名前が無い、と言ったね。…よかったら俺が名を付けたいんだけど…良いかな?」
女は状況が飲み込めず、目を丸くしている。
「ーーーというのは、どうかな?」
その深海のような瞳に映る近藤は、そう言って優しく笑った。
淡々と述べられた女の過去に、広間はしばらく静まり返った。
女が告げた事実。
女が人魚であること。
迷い込んだ里で忌み子とされ迫害されたこと。
そこに不知火匡がいて、彼も迫害されていたこと。
二人で里を逃げ出したこと。
追ってきた人間に捕らえられそうになったこと。
そして、そのまま二人が離れ離れになったこと。
「何で…何で、里の人間はお前を追ってきたんだ?」
藤堂がそう言うと、山南はぽそりと言葉を零した。
「人魚の肉を食べれば不老不死になるという話を聞いたことがあります」
その言葉に藤堂が目を丸くすると、女は哀しげに笑った。
「人魚の肉を食ろうても、不老不死にはならぬ。」
しかし、続く山南の言葉に、女は表情を失った。
「人魚の血を飲めば、巨大な力が手に入るとも、聞いたことがあります。」
「…よく…知っておるな…」
女は冷え切った瞳で広間の人間を見回す。
「男人魚の血を飲めば、強靭な肉体と身体能力、治癒力が手に入る。…しかし…その代わり、狂う」
「狂う…?」
土方が眉を動かす。
引っかかった言葉。
強靭な肉体と身体能力、治癒力。
そして“狂う”という言葉。
「血に、狂うのじゃ。」
それはまるで…羅刹の力。
「そして女人魚の血には、その狂いを抑える力がある」
女の言葉に、その場は水を打ったように静まる。
「……土方くん。」
沈黙を破った山南に、土方が小さく頷く。
「お前の身柄は、しばらく新選組で預かることにする。…いいな、近藤さん。」
土方の言葉に近藤は目を輝かせた。
「もちろんだとも!!!」
そして、近藤は女の縄をほどき、優しく手を握る。
「名前が無い、と言ったね。…よかったら俺が名を付けたいんだけど…良いかな?」
女は状況が飲み込めず、目を丸くしている。
「ーーーというのは、どうかな?」
その深海のような瞳に映る近藤は、そう言って優しく笑った。