薄桜鬼〜浪華録〜
こんにちは。雪村千鶴です。
私は、行方不明の父様を探しに江戸から京までやってきました。
頼りもなく途方に暮れた時、私は新選組の方と出会いました。
新選組は父様と関わりが深いらしく、同じく父様を探していたそうです。
そこで、私は新選組の屯所でお世話になりながら、一緒に父様を探すことになりました。
それから暫く経ったある日のことです。
千鶴は、夜の京を歩いていた。
今日は一番組組長沖田総司の巡察に同行し父、雪村鋼道を探すことになっている。
「見つかった?千鶴ちゃん」
「いいえ…」
沖田の問いに、ゆっくりかぶりを振る。
その時、千鶴の目に見覚えのある禿頭が入った。
「とう…さま…?」
人影はそのまま角を曲がってしまう。
「父様…!」
千鶴は慌てて人影が消えた方へ、沖田とは反対方向に走った。
角を曲がった先には…
「…あっ…」
父の姿はなく
「そんな…」
そこには、血だまりの中に佇む数人の羅刹の姿。
「こっちに…父様が…来たはず…」
足が竦んで動けない。
「ひっ…」
思い出すのは、新選組と出会った夜。
羅刹と呼ばれる存在。
変若水という薬によって身体能力と治癒力が異常に上がるが副作用により血を欲し狂う化け物。
幕命で新選組が秘密裏に開発している。
その羅刹に殺されかけたところを私は救われた。
けれど知ってはいけない事実、羅刹の存在を知ってしまった私は、一度、殺されそうになった。
しかし、彼らも私の父を探しており、手がかりとなる私は屯所に匿われることになった。
そして私は今も生きている。
彼らが父を探す理由は、父が変若水を開発したから。
衝撃の事実に戸惑いながら、私は父を探す。
羅刹たちがゆっくりと千鶴の方へ近づいてくる。
「い…いや…」
恐怖でその場に座り込む。
「お…沖田さん…」
か細い声は沖田には届かない。
「ひ…ひひひひひ…」
羅刹は歪な笑い声をあげ、刀を向ける。
腰に差した小太刀に手をかけるが、震えて抜くことができない。
もうだめだと目を瞑った。
その刹那
「ぐ…ぐぁああああ!!!!」
羅刹の断末魔が響いた。
「…え…?」
千鶴がゆっくりと目を開けると、そこにいたのは沖田ではなかった。
返り血を浴びて佇む一人の男の背中。
夜風になびく、高い位置で結われた髪が月光に照らされ青く光った。
まるで海のようだ、と千鶴の目を奪う。
男の両手には見たことのない変わった形をした二本の短剣が握られていた。
羅刹を、首を跳ねるか心臓を貫かないと殺せないあの羅刹を、一撃で仕留めたのだ。
「へぇ…なかなか強いじゃん」
聞き覚えのある声が響く。
振り返ると、沖田が立っていた。
「大丈夫?千鶴ちゃん。」
「は…はい。」
沖田に手を借り立ち上がる千鶴。
「困ったなぁ…せっかく千鶴ちゃんを助けてくれたけど、“あれ”を見られたら生かしておくわけにはいかないなぁ…」
そう言って沖田は刀を抜き、笑みを浮かべた。
慌てて間に割って入る。
「待ってください。彼は私の命の恩人です。殺すなんて…」
「口ごたえするなら君も斬っちゃうよ。」
沖田の脅し文句に怯むことなく、千鶴は凛として言い放った。
「一度屯所まで同行してもらいましょう。みなさんにこのことを報告して、それから決めましょう。…私の時のように。」
静寂が、三人を包む。
「千鶴ちゃんには敵わないなぁ…」
苦笑し、刀を収める沖田。無表情で佇む男に声をかける。
「ねぇ、君。屯所まで来てよ。拒んだらこの場で斬るからね。」
「…」
男は振り向く。
そして静かに頷き、剣を収めた。
開いた襟元から原田が巻いているような晒しが覗く。
男性にしては少し線が細い、と感じた千鶴だった。
私は、行方不明の父様を探しに江戸から京までやってきました。
頼りもなく途方に暮れた時、私は新選組の方と出会いました。
新選組は父様と関わりが深いらしく、同じく父様を探していたそうです。
そこで、私は新選組の屯所でお世話になりながら、一緒に父様を探すことになりました。
それから暫く経ったある日のことです。
千鶴は、夜の京を歩いていた。
今日は一番組組長沖田総司の巡察に同行し父、雪村鋼道を探すことになっている。
「見つかった?千鶴ちゃん」
「いいえ…」
沖田の問いに、ゆっくりかぶりを振る。
その時、千鶴の目に見覚えのある禿頭が入った。
「とう…さま…?」
人影はそのまま角を曲がってしまう。
「父様…!」
千鶴は慌てて人影が消えた方へ、沖田とは反対方向に走った。
角を曲がった先には…
「…あっ…」
父の姿はなく
「そんな…」
そこには、血だまりの中に佇む数人の羅刹の姿。
「こっちに…父様が…来たはず…」
足が竦んで動けない。
「ひっ…」
思い出すのは、新選組と出会った夜。
羅刹と呼ばれる存在。
変若水という薬によって身体能力と治癒力が異常に上がるが副作用により血を欲し狂う化け物。
幕命で新選組が秘密裏に開発している。
その羅刹に殺されかけたところを私は救われた。
けれど知ってはいけない事実、羅刹の存在を知ってしまった私は、一度、殺されそうになった。
しかし、彼らも私の父を探しており、手がかりとなる私は屯所に匿われることになった。
そして私は今も生きている。
彼らが父を探す理由は、父が変若水を開発したから。
衝撃の事実に戸惑いながら、私は父を探す。
羅刹たちがゆっくりと千鶴の方へ近づいてくる。
「い…いや…」
恐怖でその場に座り込む。
「お…沖田さん…」
か細い声は沖田には届かない。
「ひ…ひひひひひ…」
羅刹は歪な笑い声をあげ、刀を向ける。
腰に差した小太刀に手をかけるが、震えて抜くことができない。
もうだめだと目を瞑った。
その刹那
「ぐ…ぐぁああああ!!!!」
羅刹の断末魔が響いた。
「…え…?」
千鶴がゆっくりと目を開けると、そこにいたのは沖田ではなかった。
返り血を浴びて佇む一人の男の背中。
夜風になびく、高い位置で結われた髪が月光に照らされ青く光った。
まるで海のようだ、と千鶴の目を奪う。
男の両手には見たことのない変わった形をした二本の短剣が握られていた。
羅刹を、首を跳ねるか心臓を貫かないと殺せないあの羅刹を、一撃で仕留めたのだ。
「へぇ…なかなか強いじゃん」
聞き覚えのある声が響く。
振り返ると、沖田が立っていた。
「大丈夫?千鶴ちゃん。」
「は…はい。」
沖田に手を借り立ち上がる千鶴。
「困ったなぁ…せっかく千鶴ちゃんを助けてくれたけど、“あれ”を見られたら生かしておくわけにはいかないなぁ…」
そう言って沖田は刀を抜き、笑みを浮かべた。
慌てて間に割って入る。
「待ってください。彼は私の命の恩人です。殺すなんて…」
「口ごたえするなら君も斬っちゃうよ。」
沖田の脅し文句に怯むことなく、千鶴は凛として言い放った。
「一度屯所まで同行してもらいましょう。みなさんにこのことを報告して、それから決めましょう。…私の時のように。」
静寂が、三人を包む。
「千鶴ちゃんには敵わないなぁ…」
苦笑し、刀を収める沖田。無表情で佇む男に声をかける。
「ねぇ、君。屯所まで来てよ。拒んだらこの場で斬るからね。」
「…」
男は振り向く。
そして静かに頷き、剣を収めた。
開いた襟元から原田が巻いているような晒しが覗く。
男性にしては少し線が細い、と感じた千鶴だった。