鳳長太郎誕生祭2020
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あれから色々あって。私と長太郎くんが両思いだったことが判明し、晴れて私たちは恋人同士になった。
告白されたときは信じられなくて、いま自分は夢でも見ているんじゃないかと思ったことは記憶に新しい。
長太郎くんの部活が終わった後に一緒に帰ったり、お休みの日はデートしたり。世間一般でいう恋人らしいことは一通りしたと思う。
付き合ってから再認識したのだけれど……本当に本当に、本っ当に長太郎くんは優しくて、かっこいい!
クラスの友達にも「詩織、最近ずーっとふわふわしてるよねえ」と笑われるくらいには毎日長太郎くんのことばかり考えて過ごしている。だけど……現在、私はその大好きな彼のことに関する悩みが一つだけあるのだ。
それを解決するヒントを持っているであろう人物の協力を仰ぐため、とある日の放課後、私は一人テニス部の部室に出向いていた。
「──若!ちょっと話聞いて。相談乗って」
「聞くだけな」
私の提案をさらりとかわし、大机にて分厚い書類を整理しているのは幼なじみの日吉若。私と長太郎くんを引き合わせるきっかけともなった人物でもある。
「けち!」
「俺も暇じゃねえんだよ」
「もうっ。あのね、もうすぐ長太郎くんの誕生日でしょ?ど、ど……どうすれば、いいと思う?」
「はあ?」
「何すればいいのか全然分かんないんだよね。長太郎くん、どうすれば喜んでくれるかなあ……」
「んなもん、チョコでいいだろ」
勿論、言うに及ばずソレは真っ先に思いついたし、候補に入っていた。
二月の十四日。恋心を抱いている彼にチョコレートを渡すにはうってつけの記念日だ。でも、でも。
「ええっ!貰いすぎて飽きちゃったりしてないかなあ!?だって誕生日バレンタインデーだよ!?」
「じゃあ聞くな。あいつの欲しいものなんか知らねえよ」
「ああ、もう、ごめんってば。お願いだから話聞いてってば」
眉をしかめてこちらを見つめてきた。きっと面倒臭いなこいつって思ってるんだろうな、顔にそう書いてるし。
申し訳ないが、この問題が解決するまではここから出ていくつもりは毛頭ない。
「ネットとかさ、テレビとかさ、友だちとかに聞いても全っ然ダメ。どれもピンと来ないの」
これは紛れもない事実で、ここ最近は夜も満足に眠れてない。おかげで授業中に船を漕ぐ回数が今までより段違いに増えた。
「そこまで悩んでるなら本人に聞きゃいいだろ、時間の無駄だ」
「で、でもさあー……面と向かってプレゼント、何がいーい?とか聞くの、何か、恥ずかしくない……?」
私の答えを聞くと、若は愛想を尽かしたといった様子でそっぽを向いた。
「一生そうしてろ」
「わあーっお願いお願い、見捨てないで!若しか頼れる人いないんだよ。男子の友だち、私そんなにいないし」
そう口にした瞬間。向かいに座っていた幼なじみは、今日一番の大きな溜め息を吐いて、ゆっくり言葉を紡ぎ始めた。
「あのな、詩織。俺が鳳だったら、他の男に相談して選ばれたプレゼントなんてちっとも嬉しくないね」
「え、」
「分からないなら分からないなりに考えればいいし、それが無理なら本人に聞くのが一番なんじゃねえのかよ。それが彼氏へのプレゼントなら尚更だろ」
「で、でも……」
「じゃあ逆に、お前の誕生日に鳳が『これ、クラスメートの女の子に相談して選んだんだ』って言いながらプレゼント渡してきたらどう思う」
「う……」
想像してみる。大好きな彼が私のためにと選んでくれたものが、クラスの女の子の意見を取り入れて選ばれたものだとしたら。
一切悪気はなく、ただ喜ばせたい一心で選ばれたものだとしても、きっとそれを心から喜んで受けとることは無理だし、何より何で私に聞いてくれなかったの?と思ってしまいそうで。
それは、すごく、何ていうか、
「や、やだっ!!……あ、」
半ば無意識に漏れ出した己の声にハッとした。──それと同時に、自分の間違いに気がついた。
「うん。そっか、そうか。そうだよね…………これ、嫌だね。ごめん若。変なこと聞いちゃって」
今までの自分の言動を脳内で振り返ってみると、すごく支離滅裂かつとんでもない言いぐさだった。相談に乗ってくれた若の提案をはね除けて、うだうだ言ったり、ひどい。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「本当にごめん。私、長太郎くんに喜んでほしかったんだけど、気持ちが空回りしてた」
「ふん、分かればいい」
「うん……だから私ね。若の言う通り、長太郎くんに直接何が欲しいかって聞いてみる!」
若のおかげで本当に大切なこと気づけたよ。ありがとうと、両手を握って感謝の気持ちを伝えたらびっくりしたようなを顔をして、次の瞬間にパッと手を離された。
「あっ、わ、」
「……」
「え、えっとその、…………ごめん。嫌だった?」
「嫌じゃない」
「じゃあ、」
「嫌じゃないが、これからは付き合ってもない男にベタベタ触るのはやめた方がいい。誤解されるのも面倒だ」
「幼なじみでもダメなんだ」
「ああ、ダメだな」
……ダメと言うわりには楽しそうな顔してるんだよなあ、若。分かるよ、幼なじみなんだから。
怒ってるのかと勘違いしたけど、そうじゃないみたい。いつもと変わらない対応に、心のなかでホッと胸を撫で下ろしている自分がいた。
「そんな顔するなよ。俺以外だったら勘違いされるぞ」
「ええ。私、どんな顔してた?」
「間抜け面」
「あー!またバカにする」
「今更。お前の彼氏は甘すぎるからな、たまにはいいだろ」
「もうっ。何かそれ、恥ずかしいよ」
「本当に好きなんだな、アイツのこと」
「そ、そ…………そうだよ!?ていうか、それは若が一番知ってるでしょ!今まで何回相談したと思ってるの!」
「へっ、まあな。それこそ耳にタコができるくらい聞いた」
「……聞き飽きた?」
「いや?」
いつの間にか書類整理は終わったみたいで。荷物をまとめて椅子から立ち上がった彼は、珍しく微笑を浮かべながらひとつ言葉を投げ掛けてきた。
「お前ら、見ていて飽きないからな。少しくらいは付き合ってやってもいい」
意地っ張りな私の幼なじみは、何やかんや言いつつ、とっても優しい。
これからもきっと、私と長太郎くんのことを近くで見守ってくれるんだろうなと、心のどこかで感じている自分がいた。
「──ねえ。若はさ、長太郎くんにプレゼント渡すの?誕生日の方で、」
「逆に誕生日の方しかねえよ」
とっぷりと日も暮れた帰り道。二人並んで歩いているときにふと思い浮かんだことを質問してみると、呆れたような表情で鋭い突っ込みを返された。
「一応、渡すことにはなっている。前々から頼み込まれてたことがあったからな」
当日には渡せないが、とマフラーで口元を隠しながらそう付け加えてきた。
「へえ、意外……長太郎くん無欲そうなのに、お願いとかするんだ。やっぱ仲良いよね、二人って」
「へっ。どうだかな」
一体若にどんな頼みごとしたんだろう、気になる。というか、当日に渡せないってのもありなんだ。
色々予想はしてみたけれども、全く想像がつかない……一人うんうん唸っていると、再び彼が口を開いた。
「なあ、詩織」
「?、なあに?」
「お前、三年に上がったらどこか部活に入る予定とか無いよな?」
「う、うん。今のところはないけど」
「そうか。ならいい」
「ええ、急にどうしたの?」
「……お前、春から忙しくなるぞ。せいぜい覚悟しておくんだな」
「う、ん……?」
それ以降会話が続くことはなく、うすぼんやりとした空気のまま私たちはお互いの家の中間にあるT字路でそのまま別れた。
若、一体何のことについて喋ってたんだろう。
──ついぞ私は彼の言葉の真意に気づくことがなく、そのまま時は二月、三月と音も立てずに過ぎ去っていったのだ。
時は過ぎて、三年の始業式の朝。
詩織の下駄箱の中には、差出人不明の封筒が一通入っていた。
怪訝な顔をしてそれを開封しようとする少女の後ろには、弾んだ心が抑えられないと言ったような笑顔をみせる鳳と、いつものような仏頂面で封筒を見つめる日吉の二人が立っている。
「──マネージャー推薦状って、なに!?!」
詩織の大声が昇降口に響き渡り、周りの注目を集めるまで、あと数秒。
告白されたときは信じられなくて、いま自分は夢でも見ているんじゃないかと思ったことは記憶に新しい。
長太郎くんの部活が終わった後に一緒に帰ったり、お休みの日はデートしたり。世間一般でいう恋人らしいことは一通りしたと思う。
付き合ってから再認識したのだけれど……本当に本当に、本っ当に長太郎くんは優しくて、かっこいい!
クラスの友達にも「詩織、最近ずーっとふわふわしてるよねえ」と笑われるくらいには毎日長太郎くんのことばかり考えて過ごしている。だけど……現在、私はその大好きな彼のことに関する悩みが一つだけあるのだ。
それを解決するヒントを持っているであろう人物の協力を仰ぐため、とある日の放課後、私は一人テニス部の部室に出向いていた。
「──若!ちょっと話聞いて。相談乗って」
「聞くだけな」
私の提案をさらりとかわし、大机にて分厚い書類を整理しているのは幼なじみの日吉若。私と長太郎くんを引き合わせるきっかけともなった人物でもある。
「けち!」
「俺も暇じゃねえんだよ」
「もうっ。あのね、もうすぐ長太郎くんの誕生日でしょ?ど、ど……どうすれば、いいと思う?」
「はあ?」
「何すればいいのか全然分かんないんだよね。長太郎くん、どうすれば喜んでくれるかなあ……」
「んなもん、チョコでいいだろ」
勿論、言うに及ばずソレは真っ先に思いついたし、候補に入っていた。
二月の十四日。恋心を抱いている彼にチョコレートを渡すにはうってつけの記念日だ。でも、でも。
「ええっ!貰いすぎて飽きちゃったりしてないかなあ!?だって誕生日バレンタインデーだよ!?」
「じゃあ聞くな。あいつの欲しいものなんか知らねえよ」
「ああ、もう、ごめんってば。お願いだから話聞いてってば」
眉をしかめてこちらを見つめてきた。きっと面倒臭いなこいつって思ってるんだろうな、顔にそう書いてるし。
申し訳ないが、この問題が解決するまではここから出ていくつもりは毛頭ない。
「ネットとかさ、テレビとかさ、友だちとかに聞いても全っ然ダメ。どれもピンと来ないの」
これは紛れもない事実で、ここ最近は夜も満足に眠れてない。おかげで授業中に船を漕ぐ回数が今までより段違いに増えた。
「そこまで悩んでるなら本人に聞きゃいいだろ、時間の無駄だ」
「で、でもさあー……面と向かってプレゼント、何がいーい?とか聞くの、何か、恥ずかしくない……?」
私の答えを聞くと、若は愛想を尽かしたといった様子でそっぽを向いた。
「一生そうしてろ」
「わあーっお願いお願い、見捨てないで!若しか頼れる人いないんだよ。男子の友だち、私そんなにいないし」
そう口にした瞬間。向かいに座っていた幼なじみは、今日一番の大きな溜め息を吐いて、ゆっくり言葉を紡ぎ始めた。
「あのな、詩織。俺が鳳だったら、他の男に相談して選ばれたプレゼントなんてちっとも嬉しくないね」
「え、」
「分からないなら分からないなりに考えればいいし、それが無理なら本人に聞くのが一番なんじゃねえのかよ。それが彼氏へのプレゼントなら尚更だろ」
「で、でも……」
「じゃあ逆に、お前の誕生日に鳳が『これ、クラスメートの女の子に相談して選んだんだ』って言いながらプレゼント渡してきたらどう思う」
「う……」
想像してみる。大好きな彼が私のためにと選んでくれたものが、クラスの女の子の意見を取り入れて選ばれたものだとしたら。
一切悪気はなく、ただ喜ばせたい一心で選ばれたものだとしても、きっとそれを心から喜んで受けとることは無理だし、何より何で私に聞いてくれなかったの?と思ってしまいそうで。
それは、すごく、何ていうか、
「や、やだっ!!……あ、」
半ば無意識に漏れ出した己の声にハッとした。──それと同時に、自分の間違いに気がついた。
「うん。そっか、そうか。そうだよね…………これ、嫌だね。ごめん若。変なこと聞いちゃって」
今までの自分の言動を脳内で振り返ってみると、すごく支離滅裂かつとんでもない言いぐさだった。相談に乗ってくれた若の提案をはね除けて、うだうだ言ったり、ひどい。申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「本当にごめん。私、長太郎くんに喜んでほしかったんだけど、気持ちが空回りしてた」
「ふん、分かればいい」
「うん……だから私ね。若の言う通り、長太郎くんに直接何が欲しいかって聞いてみる!」
若のおかげで本当に大切なこと気づけたよ。ありがとうと、両手を握って感謝の気持ちを伝えたらびっくりしたようなを顔をして、次の瞬間にパッと手を離された。
「あっ、わ、」
「……」
「え、えっとその、…………ごめん。嫌だった?」
「嫌じゃない」
「じゃあ、」
「嫌じゃないが、これからは付き合ってもない男にベタベタ触るのはやめた方がいい。誤解されるのも面倒だ」
「幼なじみでもダメなんだ」
「ああ、ダメだな」
……ダメと言うわりには楽しそうな顔してるんだよなあ、若。分かるよ、幼なじみなんだから。
怒ってるのかと勘違いしたけど、そうじゃないみたい。いつもと変わらない対応に、心のなかでホッと胸を撫で下ろしている自分がいた。
「そんな顔するなよ。俺以外だったら勘違いされるぞ」
「ええ。私、どんな顔してた?」
「間抜け面」
「あー!またバカにする」
「今更。お前の彼氏は甘すぎるからな、たまにはいいだろ」
「もうっ。何かそれ、恥ずかしいよ」
「本当に好きなんだな、アイツのこと」
「そ、そ…………そうだよ!?ていうか、それは若が一番知ってるでしょ!今まで何回相談したと思ってるの!」
「へっ、まあな。それこそ耳にタコができるくらい聞いた」
「……聞き飽きた?」
「いや?」
いつの間にか書類整理は終わったみたいで。荷物をまとめて椅子から立ち上がった彼は、珍しく微笑を浮かべながらひとつ言葉を投げ掛けてきた。
「お前ら、見ていて飽きないからな。少しくらいは付き合ってやってもいい」
意地っ張りな私の幼なじみは、何やかんや言いつつ、とっても優しい。
これからもきっと、私と長太郎くんのことを近くで見守ってくれるんだろうなと、心のどこかで感じている自分がいた。
「──ねえ。若はさ、長太郎くんにプレゼント渡すの?誕生日の方で、」
「逆に誕生日の方しかねえよ」
とっぷりと日も暮れた帰り道。二人並んで歩いているときにふと思い浮かんだことを質問してみると、呆れたような表情で鋭い突っ込みを返された。
「一応、渡すことにはなっている。前々から頼み込まれてたことがあったからな」
当日には渡せないが、とマフラーで口元を隠しながらそう付け加えてきた。
「へえ、意外……長太郎くん無欲そうなのに、お願いとかするんだ。やっぱ仲良いよね、二人って」
「へっ。どうだかな」
一体若にどんな頼みごとしたんだろう、気になる。というか、当日に渡せないってのもありなんだ。
色々予想はしてみたけれども、全く想像がつかない……一人うんうん唸っていると、再び彼が口を開いた。
「なあ、詩織」
「?、なあに?」
「お前、三年に上がったらどこか部活に入る予定とか無いよな?」
「う、うん。今のところはないけど」
「そうか。ならいい」
「ええ、急にどうしたの?」
「……お前、春から忙しくなるぞ。せいぜい覚悟しておくんだな」
「う、ん……?」
それ以降会話が続くことはなく、うすぼんやりとした空気のまま私たちはお互いの家の中間にあるT字路でそのまま別れた。
若、一体何のことについて喋ってたんだろう。
──ついぞ私は彼の言葉の真意に気づくことがなく、そのまま時は二月、三月と音も立てずに過ぎ去っていったのだ。
時は過ぎて、三年の始業式の朝。
詩織の下駄箱の中には、差出人不明の封筒が一通入っていた。
怪訝な顔をしてそれを開封しようとする少女の後ろには、弾んだ心が抑えられないと言ったような笑顔をみせる鳳と、いつものような仏頂面で封筒を見つめる日吉の二人が立っている。
「──マネージャー推薦状って、なに!?!」
詩織の大声が昇降口に響き渡り、周りの注目を集めるまで、あと数秒。