鳳長太郎誕生祭2020
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「あ、」
昼休み、職員室にいる榊監督に部室の鍵を借りに行った帰り。向日先輩と廊下でばったり出会った。
──時が過ぎるのは早いもので、先輩たちが部活を引退してからもう数ヶ月が経っていたのだ。
「よお、岬。久しぶりじゃん」
「お久しぶりです、向日先輩。先輩も職員室にご用ですか?」
「いや、昼飯足りなかったから購買にパン買いに来たとこ」
ほら、と後ろポケットから焼きそばパンを取り出し眼前に見せつけてくる向日先輩。……本人には言えないけど、大食漢なのは相変わらずみたいだ。
「あはは、お元気そうで何よりです。三年生はこの時期、勉強に追われてそうで心配だなって思ってました」
「確かに外部受験の奴等とか、内申点足りないって奴は大変かもな。俺らは跡部以外そのまま高等部上がるし、わりと暇なもんだぜ」
「へえ……そうなんですか」
確かになあと思ってうんうん頷いていると、急にあー!と大声を出した向日先輩がきょろきょろと辺りを見回したあと、忍ぶように私に耳打ちをしてきた。
「なあ……今って鳳、いないよな?」
「ええ?えーっと、」
先輩に倣うように周りに目を向ける。
「うん。いないと思いますけど、どうしたんですか?」
長太郎くんに言えない話?って何だろう。向日先輩は、窓の外に見える中庭の方を指を差して「外、出よーぜ」と提案してきた……どうやら、かなり重要な話みたいだ。
校舎の外に出た私たちは、中庭にある大樹の下に並んで体育座りをしていた。何を言われるんだとドキドキしてる私にぐいと顔を近づけると、向日先輩は満を持してというように口を開いた。
「なあ」
「は、はいっ」
「もうすぐさ、鳳の誕生日あるだろ。お前、その日何かすんの?」
「…………え?」
「だーかーらー!」
向日先輩は怒ったように腕をばたつかせて立ち上がり、私をびしっと指差した。
「跡部の奴が誕生日パーティー開くだの何だの言ってっからさあ。もし二人でデートとか行くんなら、日程ずらした方がいいかな、と、思ってって……あ"ー!くそっくそっ!ていうか何で俺がこんなこと聞かなきゃなんねーんだよ!!こーいうのは侑士か滝が適任だろー!」
「あ……あは、あははっ!」
「何笑ってんだよ!」
「あは、すみません、向日先輩が顔真っ赤にしてるの、何か新鮮で。はあ、涙出てきたっ……」
「お前さあ……一応俺、先輩なんだからな」
頬を膨らませる先輩に向き直って謝った。
「ごめんなさい、嬉しかったんです。やっぱり部活引退すると、学園内で会える機会ってぐんと減るじゃないですか。だから、もしかしたら先輩たち、私たちのこと忘れちゃったりしてるんじゃないかなって思ったこともあったりして……」
「はあ!?んなわけねーだろ!鳳だって日吉って樺地だって……っ勿論岬!お前だってみーんな可愛い後輩なんだからな!!」
「か、可愛い……」
無意識のうちに口走ったのであろうその一言は、何だかすごく照れ臭いもので。先輩はばつが悪そうな顔をしたと思ったら、あぐらをかいて私の真ん前に座り込んだ。
「えっと、あの、先輩?誕生日パーティーのこは気にしないで開催してください。長太郎くんも、きっと先輩たちに会いたいだろうし」
「いいのかよ」
嘘つけ、予定ねーのかよ、とインディゴブルーの二つの瞳が不安そうにゆらゆらと揺れている。
「はい。……それにっ!」
微妙な空気を断ち切りたくて、大きな声を出してすくっと立ち上がる。先輩はびっくりしたような顔をして、私を上目遣いで見つめていた。
「それに。もう心配しなくても大丈夫ですよ、いつでも会えるので……先輩たちのおかげで私たち、もっと近づけたから」
ね?としゃがんではにかんでみせると、緊張の糸が切れたみたいで、大きな溜め息を吐いた。
「んだよっ。心配して損した!結局惚気られてんじゃねーか!」
「ふふ、ごめんなさい……あっ、」
話を遮るように、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「やべっ!次俺体育なんだよ、岬っ、ほら!」
「わっ、わ、わーっ向日先輩!?引っ張らなくても走れますって!」
「いーからいーから!いくぞ!!」
先ほどとは打って変わって得意気な笑みをしている先輩に置いていかれないように、足がもつれて転ばないように、一生懸命着いていく。
「岳人ぉー!おっせーぞ!!」
「あっ!っ宍戸先輩!」
グラウンドと新館の間にあるT字路の前に、向日先輩のであろうジャージをぶんぶん振り回しながら、大声でこちらに手を振る宍戸先輩が立っていた。
「っし、じゃあここまでだな!パーティーのことまた後で連絡すっからな!」
「っはあ、はあ、っはい!じゃあ失礼しますっ、!」
「おう!……これも持ってけよ!」
例の焼きそばパンがお腹にぎゅうと押しつけられる。そっか。向日先輩達の担任の先生厳しいって有名だから、持っていけないんだと瞬時に理解した。
「やる!部活前に蓄えとけよ!あとっ!!」
ありがとうございます、と返答しようとしたら、間もなくすぐさま次の言葉が投げられた。
「今度鳳と一緒に三年の教室に遊びに来いよ!!約束っ、絶対約束だかんなぁー!!!」
「~~~っ……っ、はいっ!!先輩っ本っ当に!ありがとうございました!」
ぺこりと礼をして踵を返し、昇降口へ向かう。顔が熱い、熱い。熱い!嬉しいんだ、ここまで可愛がってくれていたのが。まだ先輩の心の中で後輩として生きていられるのが。嫌だ、嬉しすぎてたまらなく嫌だ!
私が長太郎くんと付き合えたのは間違いなく、先輩たちが応援してくれていたから。そんな大好きな先輩たちと過ごす誕生日、楽しくならないわけがない!
──長太郎くんの誕生日まで、あと少し!
期待に胸を膨らませて。貰ったパンを右手に、貰った大好きの気持ちを左手に握りしめて。冷たくて暖かい風を切って、私は昇降口へと走った。
「ほら、ジャージ。上だけでも羽織っとけ」
「おう。サンキュ」
「……岳人、多分あの声学園中に響いてたぜ」
「あ"ぁ!?……いーんだよ最後くらいさあ、何言ったって俺の自由だっ」
「お前は……いや、本人が納得してるなら俺は言うことないけどさあ。きっと高等部上がったら、俺らも彼女出来るって」
「だぁーーーー!もうそれ口にすんのやめろって言っただろ!!宍戸のバカッ置いてくかんな!」
「あっ、バカ!せめて前見て走れ!!」
昼休み、職員室にいる榊監督に部室の鍵を借りに行った帰り。向日先輩と廊下でばったり出会った。
──時が過ぎるのは早いもので、先輩たちが部活を引退してからもう数ヶ月が経っていたのだ。
「よお、岬。久しぶりじゃん」
「お久しぶりです、向日先輩。先輩も職員室にご用ですか?」
「いや、昼飯足りなかったから購買にパン買いに来たとこ」
ほら、と後ろポケットから焼きそばパンを取り出し眼前に見せつけてくる向日先輩。……本人には言えないけど、大食漢なのは相変わらずみたいだ。
「あはは、お元気そうで何よりです。三年生はこの時期、勉強に追われてそうで心配だなって思ってました」
「確かに外部受験の奴等とか、内申点足りないって奴は大変かもな。俺らは跡部以外そのまま高等部上がるし、わりと暇なもんだぜ」
「へえ……そうなんですか」
確かになあと思ってうんうん頷いていると、急にあー!と大声を出した向日先輩がきょろきょろと辺りを見回したあと、忍ぶように私に耳打ちをしてきた。
「なあ……今って鳳、いないよな?」
「ええ?えーっと、」
先輩に倣うように周りに目を向ける。
「うん。いないと思いますけど、どうしたんですか?」
長太郎くんに言えない話?って何だろう。向日先輩は、窓の外に見える中庭の方を指を差して「外、出よーぜ」と提案してきた……どうやら、かなり重要な話みたいだ。
校舎の外に出た私たちは、中庭にある大樹の下に並んで体育座りをしていた。何を言われるんだとドキドキしてる私にぐいと顔を近づけると、向日先輩は満を持してというように口を開いた。
「なあ」
「は、はいっ」
「もうすぐさ、鳳の誕生日あるだろ。お前、その日何かすんの?」
「…………え?」
「だーかーらー!」
向日先輩は怒ったように腕をばたつかせて立ち上がり、私をびしっと指差した。
「跡部の奴が誕生日パーティー開くだの何だの言ってっからさあ。もし二人でデートとか行くんなら、日程ずらした方がいいかな、と、思ってって……あ"ー!くそっくそっ!ていうか何で俺がこんなこと聞かなきゃなんねーんだよ!!こーいうのは侑士か滝が適任だろー!」
「あ……あは、あははっ!」
「何笑ってんだよ!」
「あは、すみません、向日先輩が顔真っ赤にしてるの、何か新鮮で。はあ、涙出てきたっ……」
「お前さあ……一応俺、先輩なんだからな」
頬を膨らませる先輩に向き直って謝った。
「ごめんなさい、嬉しかったんです。やっぱり部活引退すると、学園内で会える機会ってぐんと減るじゃないですか。だから、もしかしたら先輩たち、私たちのこと忘れちゃったりしてるんじゃないかなって思ったこともあったりして……」
「はあ!?んなわけねーだろ!鳳だって日吉って樺地だって……っ勿論岬!お前だってみーんな可愛い後輩なんだからな!!」
「か、可愛い……」
無意識のうちに口走ったのであろうその一言は、何だかすごく照れ臭いもので。先輩はばつが悪そうな顔をしたと思ったら、あぐらをかいて私の真ん前に座り込んだ。
「えっと、あの、先輩?誕生日パーティーのこは気にしないで開催してください。長太郎くんも、きっと先輩たちに会いたいだろうし」
「いいのかよ」
嘘つけ、予定ねーのかよ、とインディゴブルーの二つの瞳が不安そうにゆらゆらと揺れている。
「はい。……それにっ!」
微妙な空気を断ち切りたくて、大きな声を出してすくっと立ち上がる。先輩はびっくりしたような顔をして、私を上目遣いで見つめていた。
「それに。もう心配しなくても大丈夫ですよ、いつでも会えるので……先輩たちのおかげで私たち、もっと近づけたから」
ね?としゃがんではにかんでみせると、緊張の糸が切れたみたいで、大きな溜め息を吐いた。
「んだよっ。心配して損した!結局惚気られてんじゃねーか!」
「ふふ、ごめんなさい……あっ、」
話を遮るように、昼休みの終わりを知らせるチャイムが鳴り響いた。
「やべっ!次俺体育なんだよ、岬っ、ほら!」
「わっ、わ、わーっ向日先輩!?引っ張らなくても走れますって!」
「いーからいーから!いくぞ!!」
先ほどとは打って変わって得意気な笑みをしている先輩に置いていかれないように、足がもつれて転ばないように、一生懸命着いていく。
「岳人ぉー!おっせーぞ!!」
「あっ!っ宍戸先輩!」
グラウンドと新館の間にあるT字路の前に、向日先輩のであろうジャージをぶんぶん振り回しながら、大声でこちらに手を振る宍戸先輩が立っていた。
「っし、じゃあここまでだな!パーティーのことまた後で連絡すっからな!」
「っはあ、はあ、っはい!じゃあ失礼しますっ、!」
「おう!……これも持ってけよ!」
例の焼きそばパンがお腹にぎゅうと押しつけられる。そっか。向日先輩達の担任の先生厳しいって有名だから、持っていけないんだと瞬時に理解した。
「やる!部活前に蓄えとけよ!あとっ!!」
ありがとうございます、と返答しようとしたら、間もなくすぐさま次の言葉が投げられた。
「今度鳳と一緒に三年の教室に遊びに来いよ!!約束っ、絶対約束だかんなぁー!!!」
「~~~っ……っ、はいっ!!先輩っ本っ当に!ありがとうございました!」
ぺこりと礼をして踵を返し、昇降口へ向かう。顔が熱い、熱い。熱い!嬉しいんだ、ここまで可愛がってくれていたのが。まだ先輩の心の中で後輩として生きていられるのが。嫌だ、嬉しすぎてたまらなく嫌だ!
私が長太郎くんと付き合えたのは間違いなく、先輩たちが応援してくれていたから。そんな大好きな先輩たちと過ごす誕生日、楽しくならないわけがない!
──長太郎くんの誕生日まで、あと少し!
期待に胸を膨らませて。貰ったパンを右手に、貰った大好きの気持ちを左手に握りしめて。冷たくて暖かい風を切って、私は昇降口へと走った。
「ほら、ジャージ。上だけでも羽織っとけ」
「おう。サンキュ」
「……岳人、多分あの声学園中に響いてたぜ」
「あ"ぁ!?……いーんだよ最後くらいさあ、何言ったって俺の自由だっ」
「お前は……いや、本人が納得してるなら俺は言うことないけどさあ。きっと高等部上がったら、俺らも彼女出来るって」
「だぁーーーー!もうそれ口にすんのやめろって言っただろ!!宍戸のバカッ置いてくかんな!」
「あっ、バカ!せめて前見て走れ!!」
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