短編 連載『君が好きだと言えたらいいのに』
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『君が好きだと言えたらいいのに』
第四話「伝えられない想い」
――ガイ視点
はると出会ってから、二か月。
週に一度会うだけだった時間は、少しずつ増えていた。
本を返しに行く日。
仕事帰りに少し立ち寄る日。
閉館後、一緒に駅まで歩く日。
「ガイさん。」
その笑顔を見るだけで、一日の疲れが吹き飛ぶ。
……でも。
俺はまだ一度も「好き」なんて言えずにいた。
⸻
その日も仕事を終え、図書館へ向かう。
自動ドアをくぐると、いつものようにはるを探した。
(……あれ?)
カウンターにはいない。
本棚の間を歩くと、話し声が聞こえた。
「はるさん、この前おすすめしてくれた本、面白かったです。」
「本当ですか? よかった。」
若い男性が笑っている。
年は俺と同じくらいだろうか。
二人は楽しそうに話していた。
春も自然な笑顔を見せている。
その光景を見た瞬間。
胸がざわついた。
(……誰だ。)
ただの利用者。
そう分かっている。
なのに足が止まる。
「じゃあ、また来ます。」
「はい、お待ちしています。」
男性は笑顔で帰っていった。
俺は物陰から見ているだけだった。
情けない。
話しかければいい。
それだけなのに。
「……ガイさん?」
はるが俺に気づいて駆け寄ってきた。
「いつ来たんですか?」
「……今。」
「ごめんなさい、お待たせしました。」
「いや、大丈夫。」
笑おうとした。
でも、うまく笑えない。
「今日は元気ないですね。」
「そんなことない。」
嘘だ。
元気なんてあるはずがない。
はるは少し心配そうな顔をした。
「何かありました?」
「仕事が少し忙しくて。」
また嘘をつく。
本当は違う。
さっき見た光景が頭から離れないだけだ。
「無理しないでくださいね。」
その優しい言葉が、余計に胸へ刺さる。
⸻
帰り道。
いつもなら一緒に駅まで歩く。
でも今日は。
「悪い、今日は少し急ぐから。」
「そうですか。」
はるは少し寂しそうに笑った。
「また来週。」
「ああ。」
それだけ言って歩き出す。
振り返ることはできなかった。
⸻
家へ帰っても落ち着かない。
ソファに座り、借りた本を開く。
……一文字も頭に入らない。
(何やってるんだ、俺。)
はるは図書館の職員だ。
利用者と話すのは当たり前。
それなのに。
勝手に落ち込んで。
勝手に嫉妬して。
「……子どもか。」
思わず苦笑する。
でも。
その時、ようやく気づいた。
俺ははるが笑う相手が、自分じゃないことに嫉妬していた。
それくらい。
好きになっていた。
好きだから苦しい。
好きだから臆病になる。
「……君が好きだ。」
静かな部屋で、小さく呟く。
本人の前では言えない言葉。
誰にも聞こえない告白だった。
窓の外では、夏の終わりを告げる風が吹いている。
その風に消えるように、俺はもう一度だけ呟いた。
「……君が好きだと言えたらいいのに。」
第四話「伝えられない想い」
――ガイ視点
はると出会ってから、二か月。
週に一度会うだけだった時間は、少しずつ増えていた。
本を返しに行く日。
仕事帰りに少し立ち寄る日。
閉館後、一緒に駅まで歩く日。
「ガイさん。」
その笑顔を見るだけで、一日の疲れが吹き飛ぶ。
……でも。
俺はまだ一度も「好き」なんて言えずにいた。
⸻
その日も仕事を終え、図書館へ向かう。
自動ドアをくぐると、いつものようにはるを探した。
(……あれ?)
カウンターにはいない。
本棚の間を歩くと、話し声が聞こえた。
「はるさん、この前おすすめしてくれた本、面白かったです。」
「本当ですか? よかった。」
若い男性が笑っている。
年は俺と同じくらいだろうか。
二人は楽しそうに話していた。
春も自然な笑顔を見せている。
その光景を見た瞬間。
胸がざわついた。
(……誰だ。)
ただの利用者。
そう分かっている。
なのに足が止まる。
「じゃあ、また来ます。」
「はい、お待ちしています。」
男性は笑顔で帰っていった。
俺は物陰から見ているだけだった。
情けない。
話しかければいい。
それだけなのに。
「……ガイさん?」
はるが俺に気づいて駆け寄ってきた。
「いつ来たんですか?」
「……今。」
「ごめんなさい、お待たせしました。」
「いや、大丈夫。」
笑おうとした。
でも、うまく笑えない。
「今日は元気ないですね。」
「そんなことない。」
嘘だ。
元気なんてあるはずがない。
はるは少し心配そうな顔をした。
「何かありました?」
「仕事が少し忙しくて。」
また嘘をつく。
本当は違う。
さっき見た光景が頭から離れないだけだ。
「無理しないでくださいね。」
その優しい言葉が、余計に胸へ刺さる。
⸻
帰り道。
いつもなら一緒に駅まで歩く。
でも今日は。
「悪い、今日は少し急ぐから。」
「そうですか。」
はるは少し寂しそうに笑った。
「また来週。」
「ああ。」
それだけ言って歩き出す。
振り返ることはできなかった。
⸻
家へ帰っても落ち着かない。
ソファに座り、借りた本を開く。
……一文字も頭に入らない。
(何やってるんだ、俺。)
はるは図書館の職員だ。
利用者と話すのは当たり前。
それなのに。
勝手に落ち込んで。
勝手に嫉妬して。
「……子どもか。」
思わず苦笑する。
でも。
その時、ようやく気づいた。
俺ははるが笑う相手が、自分じゃないことに嫉妬していた。
それくらい。
好きになっていた。
好きだから苦しい。
好きだから臆病になる。
「……君が好きだ。」
静かな部屋で、小さく呟く。
本人の前では言えない言葉。
誰にも聞こえない告白だった。
窓の外では、夏の終わりを告げる風が吹いている。
その風に消えるように、俺はもう一度だけ呟いた。
「……君が好きだと言えたらいいのに。」
