短編 連載『君が好きだと言えたらいいのに』
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『君が好きだと言えたらいいのに』
第三話「名前を呼ぶ距離」
――ガイ視点
図書館へ通うようになって、一か月ほどが過ぎた。
週に一度。
仕事が終わると自然と足が向く。
もう本を借りることが目的なのか、彼女に会うことが目的なのか、自分でも分からない。
きっと……後者だ。
「こんにちは、ガイさん。」
聞き慣れた声。
カウンターへ向かうと、彼女が笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは。」
前よりは緊張しなくなった。
……少しだけだけど。
「今日は返却ですね。」
「ああ。面白かった。」
借りていた文庫本を差し出す。
「本当に?」
彼女は目を輝かせた。
「あれ、私が一番好きな作品なんです。」
「そうだったのか。」
自然と話が弾む。
好きな作家。
読書を始めたきっかけ。
休日の過ごし方。
気づけば十五分以上話していた。
「……すみません。」
彼女は時計を見て苦笑する。
「つい話し込んじゃいました。」
「俺もだ。」
思わず笑う。
彼女といると、不思議と時間が早く過ぎていく。
その時だった。
「おーい、はる。」
奥から女性職員が声をかけた。
「この本、お願い。」
「はーい!」
彼女は返事をして振り返る。
(はる……。)
初めて知った名前。
はる。
優しい笑顔にぴったりな名前だった。
「失礼しました。」
戻ってきた彼女に、俺は少し迷って口を開く。
「…… はるさん、っていうんだな。」
「あっ。」
少し照れたように笑う。
「聞こえちゃいました?」
「ああ。」
「改めて…… はるです。」
そう言って、小さく頭を下げる。
「ガイさんのお名前は、利用者カードで知っちゃいましたけど。」
「はは、それはお互い様だな。」
二人で笑った。
ほんの少し。
距離が縮まった気がした。
⸻
閉館時間。
俺が図書館を出ようとすると、はるも職員用のバッグを持って出てきた。
「あれ?」
「お疲れ様です。」
「今帰り?」
「はい。」
駅までの道は同じらしい。
「もしよかったら、一緒に帰りませんか?」
その一言で胸が跳ねる。
「え?」
「ご迷惑でした?」
「い、いや!」
慌てて首を振る。
「ぜひ。」
二人で歩き始めた。
夕焼けに染まる歩道。
蝉の声。
夏の終わりを感じさせる風。
「ガイさんのお仕事って建築関係でしたよね?」
「ああ。現場の管理をしてる。」
「大変そう……。」
「でも、嫌いじゃない。」
「ふふ。」
春は嬉しそうに笑う。
「好きなお仕事があるって素敵ですね。」
その笑顔を見ているだけで幸せだった。
駅が近づく。
「あっ。」
はるが立ち止まった。
「今日、おすすめしたい本があったのに忘れちゃいました。」
「また今度でいい。」
そう言うと、彼女は安心したように微笑んだ。
「じゃあ、来週。」
「……来週?」
「来てくれますよね?」
その言葉に思わず笑ってしまう。
「もちろん。」
はるも笑う。
「約束ですよ。」
手を振る彼女を見送りながら、俺は空を見上げた。
(来週が待ち遠しいなんて……。)
こんな気持ちは初めてだった。
ただ会えるだけで嬉しい。
ただ名前を呼べるだけで幸せ。
そんな毎日が、ずっと続けばいい。
そう願い始めている自分に、ようやく気づいた。
――俺は、はるのことが好きなんだ。
第三話「名前を呼ぶ距離」
――ガイ視点
図書館へ通うようになって、一か月ほどが過ぎた。
週に一度。
仕事が終わると自然と足が向く。
もう本を借りることが目的なのか、彼女に会うことが目的なのか、自分でも分からない。
きっと……後者だ。
「こんにちは、ガイさん。」
聞き慣れた声。
カウンターへ向かうと、彼女が笑顔で迎えてくれた。
「こんにちは。」
前よりは緊張しなくなった。
……少しだけだけど。
「今日は返却ですね。」
「ああ。面白かった。」
借りていた文庫本を差し出す。
「本当に?」
彼女は目を輝かせた。
「あれ、私が一番好きな作品なんです。」
「そうだったのか。」
自然と話が弾む。
好きな作家。
読書を始めたきっかけ。
休日の過ごし方。
気づけば十五分以上話していた。
「……すみません。」
彼女は時計を見て苦笑する。
「つい話し込んじゃいました。」
「俺もだ。」
思わず笑う。
彼女といると、不思議と時間が早く過ぎていく。
その時だった。
「おーい、はる。」
奥から女性職員が声をかけた。
「この本、お願い。」
「はーい!」
彼女は返事をして振り返る。
(はる……。)
初めて知った名前。
はる。
優しい笑顔にぴったりな名前だった。
「失礼しました。」
戻ってきた彼女に、俺は少し迷って口を開く。
「…… はるさん、っていうんだな。」
「あっ。」
少し照れたように笑う。
「聞こえちゃいました?」
「ああ。」
「改めて…… はるです。」
そう言って、小さく頭を下げる。
「ガイさんのお名前は、利用者カードで知っちゃいましたけど。」
「はは、それはお互い様だな。」
二人で笑った。
ほんの少し。
距離が縮まった気がした。
⸻
閉館時間。
俺が図書館を出ようとすると、はるも職員用のバッグを持って出てきた。
「あれ?」
「お疲れ様です。」
「今帰り?」
「はい。」
駅までの道は同じらしい。
「もしよかったら、一緒に帰りませんか?」
その一言で胸が跳ねる。
「え?」
「ご迷惑でした?」
「い、いや!」
慌てて首を振る。
「ぜひ。」
二人で歩き始めた。
夕焼けに染まる歩道。
蝉の声。
夏の終わりを感じさせる風。
「ガイさんのお仕事って建築関係でしたよね?」
「ああ。現場の管理をしてる。」
「大変そう……。」
「でも、嫌いじゃない。」
「ふふ。」
春は嬉しそうに笑う。
「好きなお仕事があるって素敵ですね。」
その笑顔を見ているだけで幸せだった。
駅が近づく。
「あっ。」
はるが立ち止まった。
「今日、おすすめしたい本があったのに忘れちゃいました。」
「また今度でいい。」
そう言うと、彼女は安心したように微笑んだ。
「じゃあ、来週。」
「……来週?」
「来てくれますよね?」
その言葉に思わず笑ってしまう。
「もちろん。」
はるも笑う。
「約束ですよ。」
手を振る彼女を見送りながら、俺は空を見上げた。
(来週が待ち遠しいなんて……。)
こんな気持ちは初めてだった。
ただ会えるだけで嬉しい。
ただ名前を呼べるだけで幸せ。
そんな毎日が、ずっと続けばいい。
そう願い始めている自分に、ようやく気づいた。
――俺は、はるのことが好きなんだ。
