短編 連載『つなぎ姿の向こう側』
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第三話「距離が変わる日」
朝。
ブルーモーターズは開店と同時に慌ただしくなっていた。
現場では。
「ルーク! そっちは任せた!」
「はいっ!」
ルークはお客様から預かったダイハツ・ムーヴキャンバスをゆっくりと、作業スペースへ入庫させる。
「よし……」
オイル交換の準備に取り掛かった。
一方で、私はお客様から車両を預かり、受付を済ませていた。
胸のシャツに付けたインカムで作業内容を整備士に依頼する。
「ガイさん、‥‥ハイゼットのオイル交換お願いします」
「了解。すぐ向かいます」
ガイはいつものように笑顔で返事をすると、車両へと向かう。
その姿を受付から見つめる はる。
(やっぱり、すごいな……)
お客様からも、スタッフからも頼りにされている。
そんな姿を見ているだけで、自然と笑顔になってしまう。
はるは胸元のインカムに手を添えた。
入社してから毎日使っている小さな無線機。
私とスタッフ一同をつなぐ大切な連絡手段だ。
最初は話すタイミングも分からず戸惑っていたが、少しずつ慣れてきた。
「ガイさん、オイル交換一台お願いします」
そう伝えると、すぐに返事が返ってくる。
『了解です。ピット空けます』
インカム越しに聞こえる声に、少しだけ安心した。
昼休み。
休憩室にはみんなが集まっていた。
アニスが壁に貼られた予定表を見て声を上げる。
「そういえば来週、ガイさん誕生日ですよね!」
「もう二十八かぁ」
ルークが笑う。
「え、まだ二十八なんだ!若っ!」
その瞬間。
「……え?」
はるの箸が止まる。
「二十八?」
ガイが不思議そうに見る。
「はい。今年で二十八です」
(えぇぇぇっ!?)
はるの頭の中は大混乱だった。
(絶対、年上だと思ってた……!)
落ち着いてるし。
仕事はできるし。
みんなから頼られてるし。
年下なんて思いもしなかった。
その様子に気付いたナタリアが笑う。
「あら。知らなかったの?」
「は、はい……」
「じゃあ、 はるさんは?」
アニスが興味津々に聞く。
「私は三十二だけど……」
今度はガイが固まる。
「えっ」
「……え?」
「三十二?」
「はい」
「年上だったんですか!?」
ガイが思わず立ち上がる。
休憩室が静まり返る。
数秒後。
ルークが吹き出した。
「はあ?‥二人とも知らなかったのか!?」
「今まで何話してたんですか!」
アニスも笑い転げる。
「自己紹介してないんですか!」
「してないです……」
はるも苦笑い。
ガイも頭をかいた。
「年齢なんて聞く機会なくて……」
その時。
新聞を読んでいたジェイドが顔も上げずに言った。
「日々、顔を合わせているのに年齢は知らない」
「それでいて随分と仲が良い」
「実に不思議な関係ですね」
「ジェイドさんまで……」
するとガイが真面目な顔で言う。
「でも」
みんながガイを見る。
「俺、本当に年齢なんて気にしたことありませんでした」
「 はるさんは、一生懸命仕事してる人って印象しかなくて」
沈黙――。
今度は、 はるが固まる番だった。
(そ、そんなこと真顔で言う!?)
顔がみるみる赤くなる。
ルークがニヤニヤしながら肘でガイをつつく。
「先輩」
「はい?」
「それ、天然で言ってます?」
「え?」
アニスも笑いを堪えられない。
「もう! そういうところですよ!」
ガイだけが首をかしげている。
「?」
ジェイドはコーヒーを一口飲み、静かに微笑んだ。
「ガイ」
「はい」
「エンジンの異音にはすぐ気付きますが、自分が原因の騒ぎには気付かないようですね」
休憩室が笑いに包まれる。
「えぇっ!? 俺ですか!?」
ガイだけが状況を理解できず、さらにみんなの笑いを誘うのだった。
仕事終わり。
帰る支度をしている はるの横へ、ガイが歩いてくる。
「今日は驚きましたね」
「……そうですね」
「四歳差なんて思ってませんでした」
「私も」
二人は顔を見合わせて笑う。
「でも」
ガイは少し照れたように笑った。
「これからも、よろしくお願いします」
その笑顔を見た瞬間。
(年下なのに……)
(どうして、こんなに頼もしく見えるんだろう)
はるの胸は、また少しだけ高鳴るのだった。
朝。
ブルーモーターズは開店と同時に慌ただしくなっていた。
現場では。
「ルーク! そっちは任せた!」
「はいっ!」
ルークはお客様から預かったダイハツ・ムーヴキャンバスをゆっくりと、作業スペースへ入庫させる。
「よし……」
オイル交換の準備に取り掛かった。
一方で、私はお客様から車両を預かり、受付を済ませていた。
胸のシャツに付けたインカムで作業内容を整備士に依頼する。
「ガイさん、‥‥ハイゼットのオイル交換お願いします」
「了解。すぐ向かいます」
ガイはいつものように笑顔で返事をすると、車両へと向かう。
その姿を受付から見つめる はる。
(やっぱり、すごいな……)
お客様からも、スタッフからも頼りにされている。
そんな姿を見ているだけで、自然と笑顔になってしまう。
はるは胸元のインカムに手を添えた。
入社してから毎日使っている小さな無線機。
私とスタッフ一同をつなぐ大切な連絡手段だ。
最初は話すタイミングも分からず戸惑っていたが、少しずつ慣れてきた。
「ガイさん、オイル交換一台お願いします」
そう伝えると、すぐに返事が返ってくる。
『了解です。ピット空けます』
インカム越しに聞こえる声に、少しだけ安心した。
昼休み。
休憩室にはみんなが集まっていた。
アニスが壁に貼られた予定表を見て声を上げる。
「そういえば来週、ガイさん誕生日ですよね!」
「もう二十八かぁ」
ルークが笑う。
「え、まだ二十八なんだ!若っ!」
その瞬間。
「……え?」
はるの箸が止まる。
「二十八?」
ガイが不思議そうに見る。
「はい。今年で二十八です」
(えぇぇぇっ!?)
はるの頭の中は大混乱だった。
(絶対、年上だと思ってた……!)
落ち着いてるし。
仕事はできるし。
みんなから頼られてるし。
年下なんて思いもしなかった。
その様子に気付いたナタリアが笑う。
「あら。知らなかったの?」
「は、はい……」
「じゃあ、 はるさんは?」
アニスが興味津々に聞く。
「私は三十二だけど……」
今度はガイが固まる。
「えっ」
「……え?」
「三十二?」
「はい」
「年上だったんですか!?」
ガイが思わず立ち上がる。
休憩室が静まり返る。
数秒後。
ルークが吹き出した。
「はあ?‥二人とも知らなかったのか!?」
「今まで何話してたんですか!」
アニスも笑い転げる。
「自己紹介してないんですか!」
「してないです……」
はるも苦笑い。
ガイも頭をかいた。
「年齢なんて聞く機会なくて……」
その時。
新聞を読んでいたジェイドが顔も上げずに言った。
「日々、顔を合わせているのに年齢は知らない」
「それでいて随分と仲が良い」
「実に不思議な関係ですね」
「ジェイドさんまで……」
するとガイが真面目な顔で言う。
「でも」
みんながガイを見る。
「俺、本当に年齢なんて気にしたことありませんでした」
「 はるさんは、一生懸命仕事してる人って印象しかなくて」
沈黙――。
今度は、 はるが固まる番だった。
(そ、そんなこと真顔で言う!?)
顔がみるみる赤くなる。
ルークがニヤニヤしながら肘でガイをつつく。
「先輩」
「はい?」
「それ、天然で言ってます?」
「え?」
アニスも笑いを堪えられない。
「もう! そういうところですよ!」
ガイだけが首をかしげている。
「?」
ジェイドはコーヒーを一口飲み、静かに微笑んだ。
「ガイ」
「はい」
「エンジンの異音にはすぐ気付きますが、自分が原因の騒ぎには気付かないようですね」
休憩室が笑いに包まれる。
「えぇっ!? 俺ですか!?」
ガイだけが状況を理解できず、さらにみんなの笑いを誘うのだった。
仕事終わり。
帰る支度をしている はるの横へ、ガイが歩いてくる。
「今日は驚きましたね」
「……そうですね」
「四歳差なんて思ってませんでした」
「私も」
二人は顔を見合わせて笑う。
「でも」
ガイは少し照れたように笑った。
「これからも、よろしくお願いします」
その笑顔を見た瞬間。
(年下なのに……)
(どうして、こんなに頼もしく見えるんだろう)
はるの胸は、また少しだけ高鳴るのだった。
