番外編 ー彼らの記憶の欠片ー
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第6話「師と弟子」ーリグレットー
オラクル本部へ連れてこられてから、数日が経った。
窓の外には、見慣れない景色が広がっている。
私はベッドの端に座りながら、自分の手を見つめていた。
まだ身体が重い。
アクゼリュスで力を使い果たした影響なのか、以前より疲れやすくなっていた。
けれど――。
頭の中には、あの時の光景が残っている。
崩れていく大地。
逃げていく人たち。
そして、止めなければと思った瞬間に溢れ出した力。
「……私、あの時……何をしたんだろう」
自分でも分からなかった。
セブンスフォニム。
それだけは分かる。
けれど、どうして自分に扱えたのか。
どうして、あれほどの力を感じ取れたのか。
何一つ説明できない。
「入るわよ」
「……はい」
扉が開く。
入ってきたのは、リグレットだった。
「身体の具合は?」
「だいぶ良くなりました」
「そう」
リグレットは私を見た。
その視線は、まるで見透かすようでもあった。
「なら、今日から始めるわ」
「……訓練ですか?」
「ええ」
私は少しだけ緊張した。
「何をするんですか?」
「あなた自身の力を知ることよ」
「私の……力?」
「そう」
リグレットは静かに答えた。
「アクゼリュスで、あなたが何をしたのか。あなた自身が一番理解していないでしょう?」
「……はい」
「なら、一つずつ確かめる」
そう言って、リグレットは部屋を出ていった。
訓練場。
私は中央に立っていた。
「目を閉じて」
言われた通りに目を閉じる。
「周囲にあるフォニムを感じなさい」
「……」
意識を集中させる。
すると――。
感じた。
空気の中に、何かがある。
目には見えない。
けれど、確かに存在している。
「……あります」
「何が?」
「フォニム……だと思います」
「思います、ではなく?」
「……あります」
「そう」
リグレットは続ける。
「では、その流れを感じ取って」
私は集中した。
右。
左。
上。
下。
いくつもの流れが重なっている。
「……いっぱいあります」
「当然よ」
「それぞれ違う……?」
「よく見なさい」
目を閉じたまま、さらに意識を深くする。
すると、流れの強さが少しずつ分かってきた。
「……こっちは強い」
「そう」
「こっちは弱いです」
「ええ」
「でも……」
私は眉を寄せる。
「同じフォニムなのに、流れ方が違う」
リグレットが少し黙った。
「そこまで感じ取れるのね」
「……?」
「あなたは、自分が思っている以上にフォニムを感じ取っている」
「でも、私は何も知らないです」
「そうね」
リグレットは否定しなかった。
「あなたは理論を知らない」
「……はい」
「けれど、感覚だけでここまで扱っている」
その言葉に、私は黙った。
それから、訓練は毎日続いた。
一日目は、ただフォニムを感じ取る。
二日目は、流れを追う。
三日目は、強さを見分ける。
四日目には、フォニムが集まる場所を探す。
できないことも多かった。
集中しすぎて頭が痛くなることもあった。
力を使いすぎて、途中で座り込んだこともある。
そのたびにリグレットは訓練を止めた。
「今日はここまで」
「まだできます」
「できないから言っているのよ」
「……」
「力を使えることと、力を使い続けられることは違うわ」
その言葉が、何度も胸に残った。
一週間が過ぎた頃。
私は初めて、自分からフォニムの流れを探すことができるようになっていた。
「右側に……何かあります」
「何?」
「フォニムの流れです」
「どんな?」
「少し乱れています」
リグレットが確認する。
「正解よ」
「……!」
嬉しかった。
ほんの少しだけ。
けれど、確かに自分で分かった。
「できました」
「ええ」
リグレットは短く答えた。
けれど――。
その声には、最初とは少し違うものがあった。
「よくなっているわ」
「ありがとうございます」
「ただし、ここからが本番よ」
「……え?」
「あなたは今まで、力を感じ取るだけだった」
リグレットが私を見る。
「これからは、必要な時に必要なだけ、その力を使う訓練をする」
「……はい」
「暴走させない」
「はい」
「無理に引き出さない」
「はい」
「そして――」
リグレットは少しだけ間を置いた。
「自分の力を恐れないこと」
私は目を見開いた。
「……恐れて、いるんでしょうか」
「あなたはアクゼリュスで、自分の力を使った」
「……」
「そして、その結果、自分自身が倒れた」
言葉が詰まる。
「だから、無意識に力を抑えようとしている」
「……」
図星だった。
あの時の感覚を思い出すと、怖かった。
自分の中から、あんな力が溢れ出したことが。
「力を恐れる必要はないわ」
リグレットは静かに言った。
「理解しなさい」
「……理解?」
「ええ」
「自分の力を理解して、自分で選んで使う」
「……」
「それができて初めて、力はあなたのものになる」
二週間。
三週間。
時間は少しずつ過ぎていった。
私はフォニムの流れを以前より明確に感じ取れるようになった。
ただ「何かがいる」ではない。
どこにあるのか。
どちらへ流れているのか。
強いのか、弱いのか。
少しずつ分かるようになってきた。
リグレットも、以前ほど細かく指示を出さなくなった。
「探して」
「はい」
「……右です」
「続けて」
「……いました」
「正解」
それだけ。
けれど、その短い言葉が嬉しかった。
そして――。
一か月が経とうとしていた。
その日。
私は訓練場の中央に立っていた。
「今日は最後の確認をするわ」
「最後……?」
「この一か月で、あなたが何を身につけたのかを見る」
リグレットが少し離れた場所に立つ。
「目を閉じなさい」
私は目を閉じた。
呼吸を整える。
周囲のフォニムを感じる。
――いる。
右。
少し上。
その先に、もう一つ。
「……二つ」
リグレットは何も言わない。
私はさらに集中する。
「右側に一つ」
「……」
「左奥にもあります」
少し間を置く。
「それから……」
私は目を開けた。
「中央に、強い流れがあります」
リグレットが静かに私を見る。
「そう」
「……合っていますか?」
「ええ」
その一言に、自然と笑みがこぼれた。
一か月前の私は、何も分からなかった。
ただ感じていただけだった。
けれど今は違う。
自分が感じているものを、少しずつ理解できる。
「ありがとうございました」
私は頭を下げた。
「まだ礼を言うのは早いわ」
「え?」
「あなたはようやく、入口に立っただけ」
リグレットはそう言った。
けれど、その表情は少しだけ柔らかかった。
「これから先も、訓練は続く」
「はい」
「あなたにはまだ学ぶことが多い」
「はい」
「それでも――」
リグレットは私を見る。
「この一か月で、よくここまで来たわね」
胸が温かくなった。
「……ありがとうございます」
「はる」
「はい」
「これからは、私を師と思いなさい」
「……師?」
「ええ」
リグレットはまっすぐ私を見つめた。
「あなたが自分の力を扱えるようになるまで、私が教える」
私は少し驚いて――。
それから、ゆっくり頷いた。
「……はい」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こうして。
オラクル本部で過ごした一か月。
私は、初めて自分の力を理解するための師を得た。
そしてリグレットもまた――。
ただの「特殊な力を持つ女」ではなく、
一人の弟子として、私を見るようになっていた。
ーー後日。
私は力を意識し始めて、ようやく実現できそうな
治癒術があった。
笑顔でリグレットへ伝える。
「教官! ファーストエイド取得できそうです」
「できそうではなく、できたのでは?」
「見てください!」
意識を集中して。
セブンスフォニムを感じて。
取り込む。
すると、身体が軽くなったような気がした。
「なるほど」
「でも、まだまだね」
「違うわ」
「えっ!」
「まず私の動き、型に付いて来なさい」
「はい!」
無事に治癒術のファーストエイドを取得できた。
オラクル本部へ連れてこられてから、数日が経った。
窓の外には、見慣れない景色が広がっている。
私はベッドの端に座りながら、自分の手を見つめていた。
まだ身体が重い。
アクゼリュスで力を使い果たした影響なのか、以前より疲れやすくなっていた。
けれど――。
頭の中には、あの時の光景が残っている。
崩れていく大地。
逃げていく人たち。
そして、止めなければと思った瞬間に溢れ出した力。
「……私、あの時……何をしたんだろう」
自分でも分からなかった。
セブンスフォニム。
それだけは分かる。
けれど、どうして自分に扱えたのか。
どうして、あれほどの力を感じ取れたのか。
何一つ説明できない。
「入るわよ」
「……はい」
扉が開く。
入ってきたのは、リグレットだった。
「身体の具合は?」
「だいぶ良くなりました」
「そう」
リグレットは私を見た。
その視線は、まるで見透かすようでもあった。
「なら、今日から始めるわ」
「……訓練ですか?」
「ええ」
私は少しだけ緊張した。
「何をするんですか?」
「あなた自身の力を知ることよ」
「私の……力?」
「そう」
リグレットは静かに答えた。
「アクゼリュスで、あなたが何をしたのか。あなた自身が一番理解していないでしょう?」
「……はい」
「なら、一つずつ確かめる」
そう言って、リグレットは部屋を出ていった。
訓練場。
私は中央に立っていた。
「目を閉じて」
言われた通りに目を閉じる。
「周囲にあるフォニムを感じなさい」
「……」
意識を集中させる。
すると――。
感じた。
空気の中に、何かがある。
目には見えない。
けれど、確かに存在している。
「……あります」
「何が?」
「フォニム……だと思います」
「思います、ではなく?」
「……あります」
「そう」
リグレットは続ける。
「では、その流れを感じ取って」
私は集中した。
右。
左。
上。
下。
いくつもの流れが重なっている。
「……いっぱいあります」
「当然よ」
「それぞれ違う……?」
「よく見なさい」
目を閉じたまま、さらに意識を深くする。
すると、流れの強さが少しずつ分かってきた。
「……こっちは強い」
「そう」
「こっちは弱いです」
「ええ」
「でも……」
私は眉を寄せる。
「同じフォニムなのに、流れ方が違う」
リグレットが少し黙った。
「そこまで感じ取れるのね」
「……?」
「あなたは、自分が思っている以上にフォニムを感じ取っている」
「でも、私は何も知らないです」
「そうね」
リグレットは否定しなかった。
「あなたは理論を知らない」
「……はい」
「けれど、感覚だけでここまで扱っている」
その言葉に、私は黙った。
それから、訓練は毎日続いた。
一日目は、ただフォニムを感じ取る。
二日目は、流れを追う。
三日目は、強さを見分ける。
四日目には、フォニムが集まる場所を探す。
できないことも多かった。
集中しすぎて頭が痛くなることもあった。
力を使いすぎて、途中で座り込んだこともある。
そのたびにリグレットは訓練を止めた。
「今日はここまで」
「まだできます」
「できないから言っているのよ」
「……」
「力を使えることと、力を使い続けられることは違うわ」
その言葉が、何度も胸に残った。
一週間が過ぎた頃。
私は初めて、自分からフォニムの流れを探すことができるようになっていた。
「右側に……何かあります」
「何?」
「フォニムの流れです」
「どんな?」
「少し乱れています」
リグレットが確認する。
「正解よ」
「……!」
嬉しかった。
ほんの少しだけ。
けれど、確かに自分で分かった。
「できました」
「ええ」
リグレットは短く答えた。
けれど――。
その声には、最初とは少し違うものがあった。
「よくなっているわ」
「ありがとうございます」
「ただし、ここからが本番よ」
「……え?」
「あなたは今まで、力を感じ取るだけだった」
リグレットが私を見る。
「これからは、必要な時に必要なだけ、その力を使う訓練をする」
「……はい」
「暴走させない」
「はい」
「無理に引き出さない」
「はい」
「そして――」
リグレットは少しだけ間を置いた。
「自分の力を恐れないこと」
私は目を見開いた。
「……恐れて、いるんでしょうか」
「あなたはアクゼリュスで、自分の力を使った」
「……」
「そして、その結果、自分自身が倒れた」
言葉が詰まる。
「だから、無意識に力を抑えようとしている」
「……」
図星だった。
あの時の感覚を思い出すと、怖かった。
自分の中から、あんな力が溢れ出したことが。
「力を恐れる必要はないわ」
リグレットは静かに言った。
「理解しなさい」
「……理解?」
「ええ」
「自分の力を理解して、自分で選んで使う」
「……」
「それができて初めて、力はあなたのものになる」
二週間。
三週間。
時間は少しずつ過ぎていった。
私はフォニムの流れを以前より明確に感じ取れるようになった。
ただ「何かがいる」ではない。
どこにあるのか。
どちらへ流れているのか。
強いのか、弱いのか。
少しずつ分かるようになってきた。
リグレットも、以前ほど細かく指示を出さなくなった。
「探して」
「はい」
「……右です」
「続けて」
「……いました」
「正解」
それだけ。
けれど、その短い言葉が嬉しかった。
そして――。
一か月が経とうとしていた。
その日。
私は訓練場の中央に立っていた。
「今日は最後の確認をするわ」
「最後……?」
「この一か月で、あなたが何を身につけたのかを見る」
リグレットが少し離れた場所に立つ。
「目を閉じなさい」
私は目を閉じた。
呼吸を整える。
周囲のフォニムを感じる。
――いる。
右。
少し上。
その先に、もう一つ。
「……二つ」
リグレットは何も言わない。
私はさらに集中する。
「右側に一つ」
「……」
「左奥にもあります」
少し間を置く。
「それから……」
私は目を開けた。
「中央に、強い流れがあります」
リグレットが静かに私を見る。
「そう」
「……合っていますか?」
「ええ」
その一言に、自然と笑みがこぼれた。
一か月前の私は、何も分からなかった。
ただ感じていただけだった。
けれど今は違う。
自分が感じているものを、少しずつ理解できる。
「ありがとうございました」
私は頭を下げた。
「まだ礼を言うのは早いわ」
「え?」
「あなたはようやく、入口に立っただけ」
リグレットはそう言った。
けれど、その表情は少しだけ柔らかかった。
「これから先も、訓練は続く」
「はい」
「あなたにはまだ学ぶことが多い」
「はい」
「それでも――」
リグレットは私を見る。
「この一か月で、よくここまで来たわね」
胸が温かくなった。
「……ありがとうございます」
「はる」
「はい」
「これからは、私を師と思いなさい」
「……師?」
「ええ」
リグレットはまっすぐ私を見つめた。
「あなたが自分の力を扱えるようになるまで、私が教える」
私は少し驚いて――。
それから、ゆっくり頷いた。
「……はい」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
こうして。
オラクル本部で過ごした一か月。
私は、初めて自分の力を理解するための師を得た。
そしてリグレットもまた――。
ただの「特殊な力を持つ女」ではなく、
一人の弟子として、私を見るようになっていた。
ーー後日。
私は力を意識し始めて、ようやく実現できそうな
治癒術があった。
笑顔でリグレットへ伝える。
「教官! ファーストエイド取得できそうです」
「できそうではなく、できたのでは?」
「見てください!」
意識を集中して。
セブンスフォニムを感じて。
取り込む。
すると、身体が軽くなったような気がした。
「なるほど」
「でも、まだまだね」
「違うわ」
「えっ!」
「まず私の動き、型に付いて来なさい」
「はい!」
無事に治癒術のファーストエイドを取得できた。
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