第二部「 運命に抗い、交錯する想い」
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第三話「目覚めるはる。迫る刺客」
――ユリアシティ 宿屋。
朝日が窓から差し込み、静かな部屋を優しく照らしていた。
眠り続ける彼女の傍らには、一人の青年が腰を掛けている。
ガイだった。
ここ数日、毎朝欠かさず見舞いに訪れている。
「……皆は、そろそろ外郭大地へ戻るそうだ」
眠るはるへ語りかけるように、小さく呟く。
震える指先で、そっと彼女の手を包み込む。
驚くほど冷たい。
「でも……君を置いていくなんて‥‥」
「俺にはできない」
ガイは小さく息をつく。
「ルークも君を心配している。ティアも、ナタリアもアニスやイオン、ジェイド」
「……もちろん、俺だって」
(言いたいことが、あったはずなのに……)
(伝えたいことが、たくさんあったはずなのに……)
(お願いだ。俺の側に‥帰ってくれ‥)
その時だった。
指先が、僅かに動く。
「……が。ガイ……?」
はるが、かすかに声を漏らして言う。
「えっ」
「!!」
ガイは勢いよく顔を上げた。
ゆっくりと瞼が開く。
ぼんやりとした瞳が、目の前の青年を映した。
「…… はる!」
思わず立ち上がる。
「目が覚めたのか!」
「……私……どれくらい……」
「あれから何日も経ったんだ」
安堵したように笑うガイ。
「心配ばかりかけやがって」
その声は震えていた。
「ガイ!はるが起きたって‥本当か!」
部屋へ飛び込んできたルークが息を呑む。
「はる……!……よかった」
次の瞬間、ルークは涙ぐむ。
慌てて顔を伏せる。
「よかった……!」
ティアも静かに胸を撫で下ろす。
「本当に……心配したのよ」
ナタリアも優しく笑う。
「本当に心配しましたよー!」
アニスは顔を見て笑う。
イオンは両手を胸の前で組み、静かに祈りを捧げた。
「良かったです。本当に‥」
ジェイドだけは肩を竦める。
「これで一安心ですね」
「‥もちろん、後で色々と聞かせてもらいますが」
その言葉に皆が苦笑する。
重苦しかった空気が少しだけ和らいだ。
「……」
何か言おうと口を開く。
けれど、言葉にならない。
はるは皆を見回し、小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
その視線が自然とガイへ向く。
ガイは彼女の視線を受け止めると、照れ隠しのように視線を逸らし、小さく笑った。
ジェイドは静かに眼鏡を押し上げた。
「では、一時間ほど休みましょう」
「出発はその後です」
「はるも目覚めたばかりですからね」
「そうだな」
ルークやティアたちも頷き、部屋を後にする。
「無理はしないでくださいね」
ナタリアが優しく微笑み、アニスとイオンも軽く手を振った。
ルークは名残惜しそうにはるを見つめる。
「また後で来る」
「うん」
部屋の扉が静かに閉まる。
残されたのは、ガイとはるだけだった。
「……起き上がれるか?」
「ええ」
はるは身体を起こそうとする。
「いたっ……」
力が入らず、ふらりと身体が傾いた。
「おっと」
ガイが素早く肩を支える。
「まだ無理するな。俺が支えるから」
「歩けるようになるまで、さ」
はるは少し照れたように笑う。
「ありがとう」
ガイも小さく笑った。
「よし、待ってろ。何か栄養になりそうなものを作ってくる」
ガイは名残惜しそうにもう一度はるを見つめる。
「すぐ戻る」
「うん」
扉が閉まる。
はるはゆっくり息を吐いた。
(やっと……目が覚めたんだ)
身体はまだ重い。
(少しだけ……休もう)
まぶたが自然と閉じていく──。
コツ……
コツ……
と足音。
「ガイ……?」
そう思った次の瞬間――
ギィ……
扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、一人の女性。
オラクルの軍服に身を包んだ、鋭い眼差しだ。
「……あなたが、はるですね」
はるが目を開ける。
部屋の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは──
リグレット。
その後ろには、仮面を付けた少年――シンク。
さらに、小さな少女――アリエッタの姿。
はるの背筋が凍りつく。
(六神将……!)
リグレットは穏やかな笑みを浮かべたまま告げる。
「安心してください」
「抵抗しなければ危害は加えません」
シンクは周囲を警戒しながら短く言う。
「時間がない」
アリエッタは、じっとはるを見つめる。
「この子……」
リグレットは一歩前へ出た。
「私たちと来てもらいます」
「ヴァン閣下がお待ちです」
「ヴァン……?」
はるの表情が強張る――。
シンクが窓の外を見て、
「早くしなよ。来るぞ」
リグレットが静かに頷く。
「時間がありません」
アリエッタがはるの手を取る。
「ごめんね……」
抵抗しようとするはるだったが、目覚めたばかりで身体に力が入らない。
「待って‥仲間に書き置きを残したい」
「あまり時間もない。早くしなよ」
「はい‥」
リグレットは一瞬だけ考え、静かに頷いた。
「構いません」
はるは机の上の紙とペンを見つめる。
手を伸ばしかけて――動きが止まる。
(先に外郭へ行きます‥あっ)
(……違う)
(私、この世界の文字……)
(少し読めるようにはなったけど……書けない)
日本で使っていた文字は、ひらがな、カタカナ、漢字。
けれど、この世界で使われるフォニック文字は書けない。
「……」
リグレットはその表情を見て、すべてを察したように微笑んだ。
「なるほど……」
「文字が書けないのですね」
彼女は机へ歩み寄る。
紙を一枚取り、迷いなくペンを走らせた。
さらさら、とフォニック文字が並んでいく。
「これで十分でしょう」
書き終えた紙を机に置き、静かに振り返る。
「さあ、参りましょう」
リグレットが静かに頷く。
「悪いけど、眠ってもらうよ」
シンクが一瞬ではるの背後へ回る。
首筋に軽い衝撃が走った。
「……っ」
視界が大きく揺れる。
「……ガイ……」
最後にその名を呟き、はるの意識は深い闇へ沈んでいった。
――ユリアシティ 宿屋。
朝日が窓から差し込み、静かな部屋を優しく照らしていた。
眠り続ける彼女の傍らには、一人の青年が腰を掛けている。
ガイだった。
ここ数日、毎朝欠かさず見舞いに訪れている。
「……皆は、そろそろ外郭大地へ戻るそうだ」
眠るはるへ語りかけるように、小さく呟く。
震える指先で、そっと彼女の手を包み込む。
驚くほど冷たい。
「でも……君を置いていくなんて‥‥」
「俺にはできない」
ガイは小さく息をつく。
「ルークも君を心配している。ティアも、ナタリアもアニスやイオン、ジェイド」
「……もちろん、俺だって」
(言いたいことが、あったはずなのに……)
(伝えたいことが、たくさんあったはずなのに……)
(お願いだ。俺の側に‥帰ってくれ‥)
その時だった。
指先が、僅かに動く。
「……が。ガイ……?」
はるが、かすかに声を漏らして言う。
「えっ」
「!!」
ガイは勢いよく顔を上げた。
ゆっくりと瞼が開く。
ぼんやりとした瞳が、目の前の青年を映した。
「…… はる!」
思わず立ち上がる。
「目が覚めたのか!」
「……私……どれくらい……」
「あれから何日も経ったんだ」
安堵したように笑うガイ。
「心配ばかりかけやがって」
その声は震えていた。
「ガイ!はるが起きたって‥本当か!」
部屋へ飛び込んできたルークが息を呑む。
「はる……!……よかった」
次の瞬間、ルークは涙ぐむ。
慌てて顔を伏せる。
「よかった……!」
ティアも静かに胸を撫で下ろす。
「本当に……心配したのよ」
ナタリアも優しく笑う。
「本当に心配しましたよー!」
アニスは顔を見て笑う。
イオンは両手を胸の前で組み、静かに祈りを捧げた。
「良かったです。本当に‥」
ジェイドだけは肩を竦める。
「これで一安心ですね」
「‥もちろん、後で色々と聞かせてもらいますが」
その言葉に皆が苦笑する。
重苦しかった空気が少しだけ和らいだ。
「……」
何か言おうと口を開く。
けれど、言葉にならない。
はるは皆を見回し、小さく微笑んだ。
「……ありがとう」
その視線が自然とガイへ向く。
ガイは彼女の視線を受け止めると、照れ隠しのように視線を逸らし、小さく笑った。
ジェイドは静かに眼鏡を押し上げた。
「では、一時間ほど休みましょう」
「出発はその後です」
「はるも目覚めたばかりですからね」
「そうだな」
ルークやティアたちも頷き、部屋を後にする。
「無理はしないでくださいね」
ナタリアが優しく微笑み、アニスとイオンも軽く手を振った。
ルークは名残惜しそうにはるを見つめる。
「また後で来る」
「うん」
部屋の扉が静かに閉まる。
残されたのは、ガイとはるだけだった。
「……起き上がれるか?」
「ええ」
はるは身体を起こそうとする。
「いたっ……」
力が入らず、ふらりと身体が傾いた。
「おっと」
ガイが素早く肩を支える。
「まだ無理するな。俺が支えるから」
「歩けるようになるまで、さ」
はるは少し照れたように笑う。
「ありがとう」
ガイも小さく笑った。
「よし、待ってろ。何か栄養になりそうなものを作ってくる」
ガイは名残惜しそうにもう一度はるを見つめる。
「すぐ戻る」
「うん」
扉が閉まる。
はるはゆっくり息を吐いた。
(やっと……目が覚めたんだ)
身体はまだ重い。
(少しだけ……休もう)
まぶたが自然と閉じていく──。
コツ……
コツ……
と足音。
「ガイ……?」
そう思った次の瞬間――
ギィ……
扉がゆっくりと開いた。
そこに立っていたのは、一人の女性。
オラクルの軍服に身を包んだ、鋭い眼差しだ。
「……あなたが、はるですね」
はるが目を開ける。
部屋の扉が静かに開く。
そこに立っていたのは──
リグレット。
その後ろには、仮面を付けた少年――シンク。
さらに、小さな少女――アリエッタの姿。
はるの背筋が凍りつく。
(六神将……!)
リグレットは穏やかな笑みを浮かべたまま告げる。
「安心してください」
「抵抗しなければ危害は加えません」
シンクは周囲を警戒しながら短く言う。
「時間がない」
アリエッタは、じっとはるを見つめる。
「この子……」
リグレットは一歩前へ出た。
「私たちと来てもらいます」
「ヴァン閣下がお待ちです」
「ヴァン……?」
はるの表情が強張る――。
シンクが窓の外を見て、
「早くしなよ。来るぞ」
リグレットが静かに頷く。
「時間がありません」
アリエッタがはるの手を取る。
「ごめんね……」
抵抗しようとするはるだったが、目覚めたばかりで身体に力が入らない。
「待って‥仲間に書き置きを残したい」
「あまり時間もない。早くしなよ」
「はい‥」
リグレットは一瞬だけ考え、静かに頷いた。
「構いません」
はるは机の上の紙とペンを見つめる。
手を伸ばしかけて――動きが止まる。
(先に外郭へ行きます‥あっ)
(……違う)
(私、この世界の文字……)
(少し読めるようにはなったけど……書けない)
日本で使っていた文字は、ひらがな、カタカナ、漢字。
けれど、この世界で使われるフォニック文字は書けない。
「……」
リグレットはその表情を見て、すべてを察したように微笑んだ。
「なるほど……」
「文字が書けないのですね」
彼女は机へ歩み寄る。
紙を一枚取り、迷いなくペンを走らせた。
さらさら、とフォニック文字が並んでいく。
「これで十分でしょう」
書き終えた紙を机に置き、静かに振り返る。
「さあ、参りましょう」
リグレットが静かに頷く。
「悪いけど、眠ってもらうよ」
シンクが一瞬ではるの背後へ回る。
首筋に軽い衝撃が走った。
「……っ」
視界が大きく揺れる。
「……ガイ……」
最後にその名を呟き、はるの意識は深い闇へ沈んでいった。
