第一部「ガイと出会い、仲間たちと旅をする」
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第二十四話「孤立していくルーク」
デオ峠――。
険しい岩山を縫うように、一行はアクゼリュスを目指していた。
冷たい風が吹き抜ける中、誰もが疲労を隠せない。
だが、一人だけ歩みを止めようとしない者がいた。
「急ぐぞ!」
先頭を歩くルークだった。
「先生が待ってるんだ! こんなところで時間を無駄にしてられない!」
その声に、誰も返事をしない。
ティアは静かにため息をつき、ジェイドは眼鏡を押し上げる。
ガイだけが少し早足になり、ルークの隣へ並んだ。
「ルーク。みんな限界だ。一回休もう」
「ダメだ!」
即座に返ってきた言葉は鋭かった。
「どうして皆、そんなにのんびりしてるんだよ!」
その怒鳴り声に、ナタリアも表情を曇らせる。
「ルーク……」
「先生は一人で戦ってるんだぞ!」
はるは少し後ろから、その背中を見つめていた。
(焦ってる……)
ヴァンを信じる気持ち。
それが今のルークを支えている。
だからこそ――。
誰の言葉も届かない。
しばらく歩いた頃だった。
イオンがふらりと、体を揺らす。
「イオン様!」
アニスが慌てて支える。
顔色は真っ白だった。
「少し……休ませてください……」
息も絶え絶えだった。
アニスはルークを見る。
「お願い、少しだけ!」
しかし。
「ダメだ」
冷たい一言。
「え?」
「先生が待ってる」
「ルーク!」
アニスの声が震える。
「イオン様が倒れちゃうよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
空気が凍った。
ティアが静かに目を伏せる。
「……もういいわ。アニス、イオン様をあちらの影で休ませましょう」
(少しはいいところもあると、思っていたのに)
その声には失望が含まれていた。
しかし、ルークは気づかない。
いや。気づこうとしていなかった。
ティアは冷徹な目でルークを一瞥し、イオンに肩を貸す。
ジェイドもまた、静かに眼鏡の奥の目を細め、「やれやれ」と小さく首を振った。
完全に周囲から心が離れ、孤立していくルーク。
誰も自分のアクゼリュスを救うという使命を理解してくれない――。
そんな苛立ちを爆発させるルークの前に、もう一歩、深く前に踏み出したのはガイだった。
「……ルーク」
「なんだよガイ! お前まで俺の邪魔をする気か!?」
突っかかるルークの肩に、ガイはいつもの軽い調子ではなく、ずしりと重い手を置いた。
その目は、昼間の頼れる幼馴染のそれではなく、何か恐ろしい未来を警戒するような、鋭く、そしどこか悲痛な光を宿している。
「邪魔をする気はないさ。ただな……」
「お前がそれほど盲信しているヴァン師匠の言葉が」
「もし、お前を奈落に突き落とすものだったらどうする?」
「な、何言ってるんだよ!? 師匠が俺を騙すわけないだろ!」
「だったら、少しは落ち着け。周りを見て、仲間を労われ」
「……今のままで、アクゼリュスに突入してみろ。足元をすくわれて、取り返しのつかないことになるぜ。……本当に、文字通りな。」
ガイの脳裏には、昨夜の野営ではるが必死に絞り出した『街ごと真っ逆さまに落ちる』という言葉が焼き付いていた。
だからこそ、ルークをこのままヴァンの元へ行かせるわけにはいかないのだ。
「……チッ、どいつもこいつも、俺を子供扱いしやがって……!」
ルークはガイの手を乱暴に振り払い、一人で険しい道の先へと歩き出してしまう。
ーーその日の夜。
焚き火を囲む仲間たち。
誰も口を開かない。
重い沈黙だけが流れていた。
ガイははるの近くへ、腰を下ろす。
「……眠れそうか?」
はるは首を横に振る。
「ガイ‥さん」
「ん?」
「昨日、話したこと……」
ガイの表情が真剣になる。
「アクゼリュスは……本当に落ちます」
「……」
「もう時間がありません」
ガイは拳を握る。
信じたい。
だが信じれば、何万人もの命が懸かる。
「……ジェイドに話そう」
はるは頷いた。
夜更け。
ガイはジェイドのテントを訪れる。
「少しいいですか。」
ジェイドは本を閉じる。
「珍しいですね。」
ガイは周囲を確認してから、小さな声で話し始めた。
「はるが……アクゼリュスが崩落すると言っています」
ジェイドの目が細くなる。
「彼女は見えるのですか‥。この先の未来を、ですか」
「信じてもらえないかもしれません。でも俺は……」
少し沈黙が流れた。
やがてジェイドは静かに笑う。
「私は未来予知を信じる性格ではありません」
ガイの肩が落ちる。
しかし。
「ですが」
ジェイドは立ち上がった。
「もし本当なら、最悪の事態になります」
「!」
「調査だけなら、損はありません」
「……!」
「調査隊を密かに送りましょう」
ガイは目を見開いた。
「それと」
ジェイドは地図を広げる。
「避難経路も確保します」
「ありがとうございます」
「ただし」
ジェイドの目が鋭く光る。
「ヴァンという男」
「……」
「最初から信用していませんので」
その一言に、ガイは小さく笑った。
「やっぱり、あんたは頼りになります」
一方、その頃。
離れた場所で一人眠れずにいたのは、はるだった。
夜空を見上げる。
(本当に変えられるのかな……)
未来は変わるのか。
それとも。
自分のせいで、もっと悪い未来になるのか。
胸の奥が締め付けられる。
すると、そっと肩に上着が掛けられた。
「夜は冷える」
振り向くとガイだった。
「ありがとう……」
「心配するな」
ガイは星空を見上げながら言う。
「一人じゃない」
「……」
「未来がどうなろうと、俺たちみんなで背負う」
その言葉に、はるの目には涙が滲んだ。
「だから」
ガイは優しく微笑む。
「お前は、自分を責めるな」
その温かな笑顔だけが、不安でいっぱいだった心を少しだけ軽くしてくれた。
デオ峠――。
険しい岩山を縫うように、一行はアクゼリュスを目指していた。
冷たい風が吹き抜ける中、誰もが疲労を隠せない。
だが、一人だけ歩みを止めようとしない者がいた。
「急ぐぞ!」
先頭を歩くルークだった。
「先生が待ってるんだ! こんなところで時間を無駄にしてられない!」
その声に、誰も返事をしない。
ティアは静かにため息をつき、ジェイドは眼鏡を押し上げる。
ガイだけが少し早足になり、ルークの隣へ並んだ。
「ルーク。みんな限界だ。一回休もう」
「ダメだ!」
即座に返ってきた言葉は鋭かった。
「どうして皆、そんなにのんびりしてるんだよ!」
その怒鳴り声に、ナタリアも表情を曇らせる。
「ルーク……」
「先生は一人で戦ってるんだぞ!」
はるは少し後ろから、その背中を見つめていた。
(焦ってる……)
ヴァンを信じる気持ち。
それが今のルークを支えている。
だからこそ――。
誰の言葉も届かない。
しばらく歩いた頃だった。
イオンがふらりと、体を揺らす。
「イオン様!」
アニスが慌てて支える。
顔色は真っ白だった。
「少し……休ませてください……」
息も絶え絶えだった。
アニスはルークを見る。
「お願い、少しだけ!」
しかし。
「ダメだ」
冷たい一言。
「え?」
「先生が待ってる」
「ルーク!」
アニスの声が震える。
「イオン様が倒れちゃうよ!」
「そんなこと言ってる場合じゃない!」
空気が凍った。
ティアが静かに目を伏せる。
「……もういいわ。アニス、イオン様をあちらの影で休ませましょう」
(少しはいいところもあると、思っていたのに)
その声には失望が含まれていた。
しかし、ルークは気づかない。
いや。気づこうとしていなかった。
ティアは冷徹な目でルークを一瞥し、イオンに肩を貸す。
ジェイドもまた、静かに眼鏡の奥の目を細め、「やれやれ」と小さく首を振った。
完全に周囲から心が離れ、孤立していくルーク。
誰も自分のアクゼリュスを救うという使命を理解してくれない――。
そんな苛立ちを爆発させるルークの前に、もう一歩、深く前に踏み出したのはガイだった。
「……ルーク」
「なんだよガイ! お前まで俺の邪魔をする気か!?」
突っかかるルークの肩に、ガイはいつもの軽い調子ではなく、ずしりと重い手を置いた。
その目は、昼間の頼れる幼馴染のそれではなく、何か恐ろしい未来を警戒するような、鋭く、そしどこか悲痛な光を宿している。
「邪魔をする気はないさ。ただな……」
「お前がそれほど盲信しているヴァン師匠の言葉が」
「もし、お前を奈落に突き落とすものだったらどうする?」
「な、何言ってるんだよ!? 師匠が俺を騙すわけないだろ!」
「だったら、少しは落ち着け。周りを見て、仲間を労われ」
「……今のままで、アクゼリュスに突入してみろ。足元をすくわれて、取り返しのつかないことになるぜ。……本当に、文字通りな。」
ガイの脳裏には、昨夜の野営ではるが必死に絞り出した『街ごと真っ逆さまに落ちる』という言葉が焼き付いていた。
だからこそ、ルークをこのままヴァンの元へ行かせるわけにはいかないのだ。
「……チッ、どいつもこいつも、俺を子供扱いしやがって……!」
ルークはガイの手を乱暴に振り払い、一人で険しい道の先へと歩き出してしまう。
ーーその日の夜。
焚き火を囲む仲間たち。
誰も口を開かない。
重い沈黙だけが流れていた。
ガイははるの近くへ、腰を下ろす。
「……眠れそうか?」
はるは首を横に振る。
「ガイ‥さん」
「ん?」
「昨日、話したこと……」
ガイの表情が真剣になる。
「アクゼリュスは……本当に落ちます」
「……」
「もう時間がありません」
ガイは拳を握る。
信じたい。
だが信じれば、何万人もの命が懸かる。
「……ジェイドに話そう」
はるは頷いた。
夜更け。
ガイはジェイドのテントを訪れる。
「少しいいですか。」
ジェイドは本を閉じる。
「珍しいですね。」
ガイは周囲を確認してから、小さな声で話し始めた。
「はるが……アクゼリュスが崩落すると言っています」
ジェイドの目が細くなる。
「彼女は見えるのですか‥。この先の未来を、ですか」
「信じてもらえないかもしれません。でも俺は……」
少し沈黙が流れた。
やがてジェイドは静かに笑う。
「私は未来予知を信じる性格ではありません」
ガイの肩が落ちる。
しかし。
「ですが」
ジェイドは立ち上がった。
「もし本当なら、最悪の事態になります」
「!」
「調査だけなら、損はありません」
「……!」
「調査隊を密かに送りましょう」
ガイは目を見開いた。
「それと」
ジェイドは地図を広げる。
「避難経路も確保します」
「ありがとうございます」
「ただし」
ジェイドの目が鋭く光る。
「ヴァンという男」
「……」
「最初から信用していませんので」
その一言に、ガイは小さく笑った。
「やっぱり、あんたは頼りになります」
一方、その頃。
離れた場所で一人眠れずにいたのは、はるだった。
夜空を見上げる。
(本当に変えられるのかな……)
未来は変わるのか。
それとも。
自分のせいで、もっと悪い未来になるのか。
胸の奥が締め付けられる。
すると、そっと肩に上着が掛けられた。
「夜は冷える」
振り向くとガイだった。
「ありがとう……」
「心配するな」
ガイは星空を見上げながら言う。
「一人じゃない」
「……」
「未来がどうなろうと、俺たちみんなで背負う」
その言葉に、はるの目には涙が滲んだ。
「だから」
ガイは優しく微笑む。
「お前は、自分を責めるな」
その温かな笑顔だけが、不安でいっぱいだった心を少しだけ軽くしてくれた。
