第一部「ガイと出会い、仲間たちと旅をする」
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第二十三話「秘密を抱えた彼女に、踏み込んだとき」
旅の道中、野営では見張り役を交代するのが
決まりだ。
もっとも、私は申し出ても。
「見張り役は結構です。どうぞ、お休みください」
と丁重に断られるのだが。
(byジェイド)
ーーところが。
今回に限っては例外だった。
「ガイが一緒なら」という条件付きで、ようやく見張り役を任されることになった。
「ごめんな、疲れているだろうに」
「前から少し見張り役、興味あったんだよね」
ガイの言葉に即座に答えた。
(私は戦えないし‥)
ひとりでは、危険だ。
夜の野営見守りは確かに、怖くないとは言えない。
「‥まあガイがいるとさ、安心」
「あのなー褒めても何も出ないぞ」
小さく笑い合う二人。
焚き火の近くにガイは腰を下ろす。
私は向かい合う形で座る。
しばらく沈黙が続き、切り出したガイ。
「はるは‥」
「‥私も」
思わず顔を上げる。
2人の声が重なる。
その様子を見て、苦笑する。
「そっか。私も話したいことが、あってさ」
「奇遇だな‥」
「俺だって……お前に聞きたいことが山ほどあったんだ」
ガイは焚き火の薪をパチ、と爆ぜさせながら、少し真面目なトーンに声を落とした。
「……じゃあ、お前から話すか? それとも、俺から行く?」
「……ガイさんから、どうぞ」
私が膝を抱え込んでそう促す。
ガイはふっと息を漏らし、まっすぐに私を見つめてきた。
昼間のガイはどこまでも優しく、でも絶対に逃がしてくれない。
真剣なエメラルドグリーンの瞳だ。
「昼間の続きだ。……お前、アクゼリュスに近づくにつれて、どんどん顔色が悪くなってる」
「ただの道中の疲れや、ルークの我が儘に呆れてるってレベルじゃない」
「まるであそこに行くのを……」
「いや、あそこで『何かが起きる』のを、あらかじめ知っていて」
「‥怯えてるみたいに見えるんだ」
核心を突かれて、私の心臓がドクリと跳ねた。
「はる。俺はこれでも、ルークの世話役を長くやってるからな」
「人間が何かを隠して取り乱してる時の空気くらい分かる。……お前、俺たちに黙って、一人で何を抱え込んでるんだ? 」
「頼むから、俺にだけでも話してくれ。お前がそんなに震えるほどの地獄なら、俺が半分背負ってやるからさ」
「……ガイ……」
焚き火の爆ぜる音だけが、私たちの間に響く。
ガイの言葉は、凍りついていた私の心を溶かすほど温かい。
でも、温かいからこそ、私は唇を噛み締めてしまう。
(言えるわけがない。ここで言ったら…)
(もしジェイドなら、『この世界の人間ではない』と見抜いてしまうかもしれない)
(何より、ガイを巻き込みたくない……!)
はるは俯き、暗い表情になる。
そこへ。
ガイは隣に腰を下ろした。
私の目の前にいるのはーー。
女性恐怖症を抱えながらも。
迷わず私の隣へ来てくれた人だった。
「私…話せない。もし話したら、全部がだめになりそうで‥」
ぽつりと溢した私の声は。
夜風に消えてしまいそうなほど、小さかった。
「‥‥仮の話、聞いた話なんだけど」
「ああ、話してみてくれ。俺で良ければ」
「ーーそう例えば、テーブルってあるでしょう?」
「ああ、それが」
「もし、足がなくなったら‥?」
「崩れるんじゃないか、支えもないし」
「それ、それ」
「‥? どういうことだ」
「まあ‥。仮なんだけどね」
「同じことが、これから起きて‥。地面に真っ逆さ」
「それだと、先に避難しないといけないでしょう」
「つまり?」
「ーー街ごと、落ちるってこと」
パチ、と焚き火の薪が小さく爆ぜた。
その音さえ耳障りに思えるほど、私たちの間に完全な静寂が訪れる。
「……街ごと、落ちる?」
ガイは信じられないというように眉を寄せた。
そんなことが、本当に起こるのか。
だが――。
目の前のはるが、こんな嘘をつく人間ではないことも知っていた。
今にも泣き出しそうな、それでいて嘘偽りのない必死な瞳を見て。
これがただの「おとぎ話」でもないことを、彼の本能が察知していた。
アクゼリュスは炭鉱の街。地殻の歪み、障気、そして……。
ガイの頭の中で、これまでのはるの言葉が最悪の形で結びついていく。
「はる。それ…どこで聞いた?」
ガイの声が、これまでにないほど低く、響く。
「……言えない。でも、信じてガイ」
はるはしばらく沈黙すると。
「信じて‥なんて言えないか」
はるは力なく笑った。
「‥俺は」
ガイははるに向き合った。
小さな体は、小刻みに震えてる。
はるを安心させたいーー。
そう思って。
「俺が信じるよ」
「!」
ガイは震える拳を包み込むようにそっと、握る。
「お前がここまで怯えてるんだ、嘘なわけがない」
ガイの力強い言葉に、私の視界が涙でじんわりと滲む。
「だけど……そうなると、ルークを止めなきゃならないな。あいつは今、ヴァン師匠の言葉しか頭にない」
「あいつが『親善大使』として、あの街で何かをしでかす前に、俺たちが何とかして……」
ガイの言う通りだ。
だけど、ルークは私たちの言葉なんて聞きやしない。ヴァンの罠はもう、デオ峠のすぐ向こう側で待っている。
アクゼリュス崩落まで、残された時間はあとわずか。
私とガイの必死の模索が、この静かな野営の裏で始まろうとしていた。
旅の道中、野営では見張り役を交代するのが
決まりだ。
もっとも、私は申し出ても。
「見張り役は結構です。どうぞ、お休みください」
と丁重に断られるのだが。
(byジェイド)
ーーところが。
今回に限っては例外だった。
「ガイが一緒なら」という条件付きで、ようやく見張り役を任されることになった。
「ごめんな、疲れているだろうに」
「前から少し見張り役、興味あったんだよね」
ガイの言葉に即座に答えた。
(私は戦えないし‥)
ひとりでは、危険だ。
夜の野営見守りは確かに、怖くないとは言えない。
「‥まあガイがいるとさ、安心」
「あのなー褒めても何も出ないぞ」
小さく笑い合う二人。
焚き火の近くにガイは腰を下ろす。
私は向かい合う形で座る。
しばらく沈黙が続き、切り出したガイ。
「はるは‥」
「‥私も」
思わず顔を上げる。
2人の声が重なる。
その様子を見て、苦笑する。
「そっか。私も話したいことが、あってさ」
「奇遇だな‥」
「俺だって……お前に聞きたいことが山ほどあったんだ」
ガイは焚き火の薪をパチ、と爆ぜさせながら、少し真面目なトーンに声を落とした。
「……じゃあ、お前から話すか? それとも、俺から行く?」
「……ガイさんから、どうぞ」
私が膝を抱え込んでそう促す。
ガイはふっと息を漏らし、まっすぐに私を見つめてきた。
昼間のガイはどこまでも優しく、でも絶対に逃がしてくれない。
真剣なエメラルドグリーンの瞳だ。
「昼間の続きだ。……お前、アクゼリュスに近づくにつれて、どんどん顔色が悪くなってる」
「ただの道中の疲れや、ルークの我が儘に呆れてるってレベルじゃない」
「まるであそこに行くのを……」
「いや、あそこで『何かが起きる』のを、あらかじめ知っていて」
「‥怯えてるみたいに見えるんだ」
核心を突かれて、私の心臓がドクリと跳ねた。
「はる。俺はこれでも、ルークの世話役を長くやってるからな」
「人間が何かを隠して取り乱してる時の空気くらい分かる。……お前、俺たちに黙って、一人で何を抱え込んでるんだ? 」
「頼むから、俺にだけでも話してくれ。お前がそんなに震えるほどの地獄なら、俺が半分背負ってやるからさ」
「……ガイ……」
焚き火の爆ぜる音だけが、私たちの間に響く。
ガイの言葉は、凍りついていた私の心を溶かすほど温かい。
でも、温かいからこそ、私は唇を噛み締めてしまう。
(言えるわけがない。ここで言ったら…)
(もしジェイドなら、『この世界の人間ではない』と見抜いてしまうかもしれない)
(何より、ガイを巻き込みたくない……!)
はるは俯き、暗い表情になる。
そこへ。
ガイは隣に腰を下ろした。
私の目の前にいるのはーー。
女性恐怖症を抱えながらも。
迷わず私の隣へ来てくれた人だった。
「私…話せない。もし話したら、全部がだめになりそうで‥」
ぽつりと溢した私の声は。
夜風に消えてしまいそうなほど、小さかった。
「‥‥仮の話、聞いた話なんだけど」
「ああ、話してみてくれ。俺で良ければ」
「ーーそう例えば、テーブルってあるでしょう?」
「ああ、それが」
「もし、足がなくなったら‥?」
「崩れるんじゃないか、支えもないし」
「それ、それ」
「‥? どういうことだ」
「まあ‥。仮なんだけどね」
「同じことが、これから起きて‥。地面に真っ逆さ」
「それだと、先に避難しないといけないでしょう」
「つまり?」
「ーー街ごと、落ちるってこと」
パチ、と焚き火の薪が小さく爆ぜた。
その音さえ耳障りに思えるほど、私たちの間に完全な静寂が訪れる。
「……街ごと、落ちる?」
ガイは信じられないというように眉を寄せた。
そんなことが、本当に起こるのか。
だが――。
目の前のはるが、こんな嘘をつく人間ではないことも知っていた。
今にも泣き出しそうな、それでいて嘘偽りのない必死な瞳を見て。
これがただの「おとぎ話」でもないことを、彼の本能が察知していた。
アクゼリュスは炭鉱の街。地殻の歪み、障気、そして……。
ガイの頭の中で、これまでのはるの言葉が最悪の形で結びついていく。
「はる。それ…どこで聞いた?」
ガイの声が、これまでにないほど低く、響く。
「……言えない。でも、信じてガイ」
はるはしばらく沈黙すると。
「信じて‥なんて言えないか」
はるは力なく笑った。
「‥俺は」
ガイははるに向き合った。
小さな体は、小刻みに震えてる。
はるを安心させたいーー。
そう思って。
「俺が信じるよ」
「!」
ガイは震える拳を包み込むようにそっと、握る。
「お前がここまで怯えてるんだ、嘘なわけがない」
ガイの力強い言葉に、私の視界が涙でじんわりと滲む。
「だけど……そうなると、ルークを止めなきゃならないな。あいつは今、ヴァン師匠の言葉しか頭にない」
「あいつが『親善大使』として、あの街で何かをしでかす前に、俺たちが何とかして……」
ガイの言う通りだ。
だけど、ルークは私たちの言葉なんて聞きやしない。ヴァンの罠はもう、デオ峠のすぐ向こう側で待っている。
アクゼリュス崩落まで、残された時間はあとわずか。
私とガイの必死の模索が、この静かな野営の裏で始まろうとしていた。
