番外編 ー彼らの記憶の欠片ー
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プロローグ
「皆、待ってくれ。」
バチカルからアクゼリュスへ向かう道中、はるは疲労し辛そうにしていた。
ガイは無理もない、六神将の奴らにイオン様は攫われ一向は少し先足だっている。
彼女はまだ力の制御が不慣れだ。
第七音素(セブンスフォニム)の素養があるって分かって、まだ一カ月も経っちゃいない。
それにはるは‥自分が無理をしている。
気づいてないわけではないが、やはり自覚がない。
ーーああだめだ。情け無い。
せっかく俺が守るって言っておいて。
こんな感じじゃな‥。
「私……ごめん」
「いや……俺が気づいてやれず、すまなかった。少し休もう」
ガイの悔しげな横顔を見ながら、私はそっと目を閉じた。
(私、無理をしていたのか。そうか……。皆には悪いけど、今は甘えさせてもらおう)
意識が急速に遠ざかっていく。
この感覚、前にもあったような……。
そう、同じことが――。
脳裏には、酷く懐かしい「私の世界」の情景が溢れ出してきた。
遠い日の、小さな記憶。まだ文字も満足に読めないほど、幼かった頃の私。
番外編
第3話「悪夢」 ーはるの幼き記憶ー
「はる」
誰かが私を呼ぶ声がする。でも、その声にいつもの温かさはない。
「りこん……って、なぁに?」
わからない。
幼い頭でどれだけ考えても、その言葉の意味は掴めなかった。
だけど、ひとつだけ確かなことがあった。
最近、大好きなパパとママが、ずっと喧嘩をしている。
「……どうして」
きっと、私が何か悪いことをしたんだ。
だから二人はあんなに怒って、悲しそうな顔をしているんだ。きっと、私がもっと「いい子」じゃなかったから。
「わたし、いい子じゃないといけ、ないの」
「わたし、もう少しだけ、がんばるから……」
だから。
「ママを、ママを……もう一度でいいから、あわせて……」
小さな手を伸ばしても、ぬくもりはすり抜けていく。
閉ざされかけた意識の向こうで、ドミノが倒れるように記憶のピースが次々と繋がっていく。
そうだ。私は知っている。そこには、愛おしい妹がいた。大好きな家族がいた。便利で、退屈だけど確かに温かかった、現代の記憶。
なぜ、今になって呼び覚まされてしまったのか。
激しい疲労で指一本動かせないまま、横たわる私の目から、一筋の涙がこぼれ落ちて頬を伝った。
優しかった家族の顔。妹の笑い声。
そして、この世界で出会った大切な人たちの顔が、交互に浮かんでは消えていく。
押し寄せる記憶の濁流に呑まれながら、私の意識は完全に深い闇へと沈んでいった。
「―― はる! はる、しっかりしろ!」
「……っ!」
大きな声で名前を呼ぶ、あの人は‥。
私は跳び起きるように目を開いた。
視界に飛び込んできたのは、ひどく心配した表情のガイの顔だった。
私を揺さぶろうとしたようだが、彼の手は、驚いたように宙で止まっている。
「良かった……気がついたな。ひどくうなされていたから、心配したよ」
「ガイ……。私、また……」
冷たい汗が背中を伝う。
周囲を見渡すと、私たちは移動用の天幕(テント)の中にいた。
ルークやティアたちは、少し離れた場所で次の移動の準備や、イオン様の行方についての話し合いを続けているようだ。
「すまない、はる。第七音素(セブンスフォニム)の負荷を甘く見ていた。バチカルを発ってから、お前はずっと緊張の糸が張り詰めていたんだ。……何か、怖い夢でも見たのか?」
ガイはいつもの優しい微笑みを浮かべようとしていたが、その瞳の奥には、私を本当に心配する色が濃く滲んでいた。
「ううん、大丈夫。ただの、昔の夢……」
私は誤魔化すように首を振る。
現代の記憶のこと、そして『離婚』によって引き裂かれた家族のトラウマのこと。
この第七音素が満ちる世界(オールドラント)の人々に話したところで、理解してもらえるはずがない。
それに、ただでさえイオン様の件でみんな余裕がないのだ。
これ以上、足手まといになりたくなかった。
「……無理はするな、と言っても、お前はするんだろうな。ルークと同じで、妙なところで頑固だ」
ガイは小さくため息をつくと、私の頭にそっと手を置こうとして――。
自身の「女性恐怖症」の呪縛を思い出したように、少しだけ苦笑いしながら手を引っ込めた。
「だけどな、はる。俺はお前を守ると決めたんだ。お前が一人で抱え込もうとする悪夢ごと、俺が引き受けてやる。だから、そんなに泣きそうな顔をするな」
「ガイ……」
彼の言葉は、冷え切った私の心を少しだけ温めてくれた。
まだ体の芯に残る疲労感と、過去の記憶がもたらす不安。
それでも、この世界で私を気遣ってくれる人の存在が、闇に沈みかけた私を現実へと繋ぎ止めてくれる。
「ありがとう、ガイ。……もう大丈夫。行こう、みんなのところへ」
立ち上がり、天幕の外へ一歩を踏み出す。
これから向かうアクゼリュスには、さらなる過酷な運命が待ち受けているとも知らずに、私はガイの背中を追いかけた。
「皆、待ってくれ。」
バチカルからアクゼリュスへ向かう道中、はるは疲労し辛そうにしていた。
ガイは無理もない、六神将の奴らにイオン様は攫われ一向は少し先足だっている。
彼女はまだ力の制御が不慣れだ。
第七音素(セブンスフォニム)の素養があるって分かって、まだ一カ月も経っちゃいない。
それにはるは‥自分が無理をしている。
気づいてないわけではないが、やはり自覚がない。
ーーああだめだ。情け無い。
せっかく俺が守るって言っておいて。
こんな感じじゃな‥。
「私……ごめん」
「いや……俺が気づいてやれず、すまなかった。少し休もう」
ガイの悔しげな横顔を見ながら、私はそっと目を閉じた。
(私、無理をしていたのか。そうか……。皆には悪いけど、今は甘えさせてもらおう)
意識が急速に遠ざかっていく。
この感覚、前にもあったような……。
そう、同じことが――。
脳裏には、酷く懐かしい「私の世界」の情景が溢れ出してきた。
遠い日の、小さな記憶。まだ文字も満足に読めないほど、幼かった頃の私。
番外編
第3話「悪夢」 ーはるの幼き記憶ー
「はる」
誰かが私を呼ぶ声がする。でも、その声にいつもの温かさはない。
「りこん……って、なぁに?」
わからない。
幼い頭でどれだけ考えても、その言葉の意味は掴めなかった。
だけど、ひとつだけ確かなことがあった。
最近、大好きなパパとママが、ずっと喧嘩をしている。
「……どうして」
きっと、私が何か悪いことをしたんだ。
だから二人はあんなに怒って、悲しそうな顔をしているんだ。きっと、私がもっと「いい子」じゃなかったから。
「わたし、いい子じゃないといけ、ないの」
「わたし、もう少しだけ、がんばるから……」
だから。
「ママを、ママを……もう一度でいいから、あわせて……」
小さな手を伸ばしても、ぬくもりはすり抜けていく。
閉ざされかけた意識の向こうで、ドミノが倒れるように記憶のピースが次々と繋がっていく。
そうだ。私は知っている。そこには、愛おしい妹がいた。大好きな家族がいた。便利で、退屈だけど確かに温かかった、現代の記憶。
なぜ、今になって呼び覚まされてしまったのか。
激しい疲労で指一本動かせないまま、横たわる私の目から、一筋の涙がこぼれ落ちて頬を伝った。
優しかった家族の顔。妹の笑い声。
そして、この世界で出会った大切な人たちの顔が、交互に浮かんでは消えていく。
押し寄せる記憶の濁流に呑まれながら、私の意識は完全に深い闇へと沈んでいった。
「―― はる! はる、しっかりしろ!」
「……っ!」
大きな声で名前を呼ぶ、あの人は‥。
私は跳び起きるように目を開いた。
視界に飛び込んできたのは、ひどく心配した表情のガイの顔だった。
私を揺さぶろうとしたようだが、彼の手は、驚いたように宙で止まっている。
「良かった……気がついたな。ひどくうなされていたから、心配したよ」
「ガイ……。私、また……」
冷たい汗が背中を伝う。
周囲を見渡すと、私たちは移動用の天幕(テント)の中にいた。
ルークやティアたちは、少し離れた場所で次の移動の準備や、イオン様の行方についての話し合いを続けているようだ。
「すまない、はる。第七音素(セブンスフォニム)の負荷を甘く見ていた。バチカルを発ってから、お前はずっと緊張の糸が張り詰めていたんだ。……何か、怖い夢でも見たのか?」
ガイはいつもの優しい微笑みを浮かべようとしていたが、その瞳の奥には、私を本当に心配する色が濃く滲んでいた。
「ううん、大丈夫。ただの、昔の夢……」
私は誤魔化すように首を振る。
現代の記憶のこと、そして『離婚』によって引き裂かれた家族のトラウマのこと。
この第七音素が満ちる世界(オールドラント)の人々に話したところで、理解してもらえるはずがない。
それに、ただでさえイオン様の件でみんな余裕がないのだ。
これ以上、足手まといになりたくなかった。
「……無理はするな、と言っても、お前はするんだろうな。ルークと同じで、妙なところで頑固だ」
ガイは小さくため息をつくと、私の頭にそっと手を置こうとして――。
自身の「女性恐怖症」の呪縛を思い出したように、少しだけ苦笑いしながら手を引っ込めた。
「だけどな、はる。俺はお前を守ると決めたんだ。お前が一人で抱え込もうとする悪夢ごと、俺が引き受けてやる。だから、そんなに泣きそうな顔をするな」
「ガイ……」
彼の言葉は、冷え切った私の心を少しだけ温めてくれた。
まだ体の芯に残る疲労感と、過去の記憶がもたらす不安。
それでも、この世界で私を気遣ってくれる人の存在が、闇に沈みかけた私を現実へと繋ぎ止めてくれる。
「ありがとう、ガイ。……もう大丈夫。行こう、みんなのところへ」
立ち上がり、天幕の外へ一歩を踏み出す。
これから向かうアクゼリュスには、さらなる過酷な運命が待ち受けているとも知らずに、私はガイの背中を追いかけた。
