番外編 ー彼らの記憶の欠片ー
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第2話「母の想い出」 ーティアのペンダントー
「これを‥」
私は母の形見のペンダントを売った。
ーー少し心残りだった。
振り返ってもしょうがないけど、仕方ない。
私はキムラスカ家の貴族、公爵家の息子ルークを私との間で起こった超振動によって、巻き込んでしまったからだ。
彼は私と出会ってから、外の景色を見てはしゃいで喜んだり怒ったり‥悩んだり。まるで子供のようだと内心は思い、目が離せなかった。
私はオラクル騎士団第衛士モース様の一部下であり、リグレット教官の下で学んだ弟子だ。
公爵家の息子を街まで送る‥それが私の責任だ。
ーー旅の道中、仲間が増えた。
はる‥彼女はガイの親戚だったかしら。
彼女は民間人。
旅の途中、ガイは街まで送ることを約束したらしく一緒に同行することになった。
「はい、良かったら」
彼女は戦いには参加しない。
でも、私たちのことを良く観察している。
‥そんな気がした。
「これは‥」
はるから差し出されたのは、ーー手作りのバッグだった。
そういえば私の使っているバッグは、だいぶほつれてきていた。
「あっえーと、手作り感満載だけどさ。」
確かに言われよく見れば、縫製は歪んで波をうっている。そしてワンポイントに小さな花の刺繍が入っている。
ーーなんて言うか。
「‥素敵。かわいいわ。」
「本当!‥やった!」
彼女は満足そうに笑う。
‥それはあまりない体験だった。
女性同士だと、こんな感じになるのだろうか。
旅のメンバーは軍人、兵士や貴族で、お互いをどこか牽制している。そんな空気が常ある。
だからこそ、気持ちがほぐれる‥そんな気がした。
はるの作ってくれたバッグを手に取り、まじまじと見つめる。
歪んだ縫い目。少し不格好だけど、どこか温かみのある、小さな花の刺繍。
「これは……」
私は指先で、その刺繍のふちをそっと撫でた。
「あ、やっぱり気になる? ごめんね、私本当に裁縫が苦手で……。ルークにも『なんだそれ、不格好だな!』って笑われちゃって」
はるは困ったように眉を下げて頭を掻いている。
でも、私の胸に去来していたのは、呆れでも落胆でもなかった。
「ううん、違うの。……ただ、少し似ているなと思って」
「え? 何に?」
「……私の、母の作品に」
ぽつりと呟いた言葉に、はるは瞬きを繰り返した。
兄さんから、一度だけ聞いたことがある。
私たちの母親は、とても不器用な人だったらしい。けれど、一度何かに熱中すると、周りが見えなくなるほど集中する人だった、と。
そして、こんな風に、拙いけれど一針一針に心を込めた、花の刺繍をよく好んで縫っていたのだという。
ペンダントを売ってしまった寂しさが、ほんの少しだけ、この手作りのバッグによって埋まっていくような気がした。
形見の品は手放してしまったけれど、母の生きた証やその温もりは、形を変えて私の記憶の中に、そして目の前の優しい繋がりの中に生きている。
「ティア……?」
覗き込んできたはるの顔を見て、私は自分が少し微笑んでいることに気がついた。
軍人として、いつも気を張っていなければならない私を、彼女はただの「一人の女の子」に戻してくれる。
「なんでもないわ。……ありがとう、はる。大切に使うわね」
「うん! 気に入ってもらえてよかった!」
満面の笑みを浮かべる彼女を見て、私はもう一度バッグを強く抱きしめた。
ルークを無事に送り届けるための旅。殺伐とした世界の中で、このかわいい花の刺繍は、間違いなく私の心を支える小さなお守りになった。
「これを‥」
私は母の形見のペンダントを売った。
ーー少し心残りだった。
振り返ってもしょうがないけど、仕方ない。
私はキムラスカ家の貴族、公爵家の息子ルークを私との間で起こった超振動によって、巻き込んでしまったからだ。
彼は私と出会ってから、外の景色を見てはしゃいで喜んだり怒ったり‥悩んだり。まるで子供のようだと内心は思い、目が離せなかった。
私はオラクル騎士団第衛士モース様の一部下であり、リグレット教官の下で学んだ弟子だ。
公爵家の息子を街まで送る‥それが私の責任だ。
ーー旅の道中、仲間が増えた。
はる‥彼女はガイの親戚だったかしら。
彼女は民間人。
旅の途中、ガイは街まで送ることを約束したらしく一緒に同行することになった。
「はい、良かったら」
彼女は戦いには参加しない。
でも、私たちのことを良く観察している。
‥そんな気がした。
「これは‥」
はるから差し出されたのは、ーー手作りのバッグだった。
そういえば私の使っているバッグは、だいぶほつれてきていた。
「あっえーと、手作り感満載だけどさ。」
確かに言われよく見れば、縫製は歪んで波をうっている。そしてワンポイントに小さな花の刺繍が入っている。
ーーなんて言うか。
「‥素敵。かわいいわ。」
「本当!‥やった!」
彼女は満足そうに笑う。
‥それはあまりない体験だった。
女性同士だと、こんな感じになるのだろうか。
旅のメンバーは軍人、兵士や貴族で、お互いをどこか牽制している。そんな空気が常ある。
だからこそ、気持ちがほぐれる‥そんな気がした。
はるの作ってくれたバッグを手に取り、まじまじと見つめる。
歪んだ縫い目。少し不格好だけど、どこか温かみのある、小さな花の刺繍。
「これは……」
私は指先で、その刺繍のふちをそっと撫でた。
「あ、やっぱり気になる? ごめんね、私本当に裁縫が苦手で……。ルークにも『なんだそれ、不格好だな!』って笑われちゃって」
はるは困ったように眉を下げて頭を掻いている。
でも、私の胸に去来していたのは、呆れでも落胆でもなかった。
「ううん、違うの。……ただ、少し似ているなと思って」
「え? 何に?」
「……私の、母の作品に」
ぽつりと呟いた言葉に、はるは瞬きを繰り返した。
兄さんから、一度だけ聞いたことがある。
私たちの母親は、とても不器用な人だったらしい。けれど、一度何かに熱中すると、周りが見えなくなるほど集中する人だった、と。
そして、こんな風に、拙いけれど一針一針に心を込めた、花の刺繍をよく好んで縫っていたのだという。
ペンダントを売ってしまった寂しさが、ほんの少しだけ、この手作りのバッグによって埋まっていくような気がした。
形見の品は手放してしまったけれど、母の生きた証やその温もりは、形を変えて私の記憶の中に、そして目の前の優しい繋がりの中に生きている。
「ティア……?」
覗き込んできたはるの顔を見て、私は自分が少し微笑んでいることに気がついた。
軍人として、いつも気を張っていなければならない私を、彼女はただの「一人の女の子」に戻してくれる。
「なんでもないわ。……ありがとう、はる。大切に使うわね」
「うん! 気に入ってもらえてよかった!」
満面の笑みを浮かべる彼女を見て、私はもう一度バッグを強く抱きしめた。
ルークを無事に送り届けるための旅。殺伐とした世界の中で、このかわいい花の刺繍は、間違いなく私の心を支える小さなお守りになった。
