第一部「ガイと出会い、仲間たちと旅をする」
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プロローグ
数年ぶりに手に取った「テイルズ オブ ジ アビス」のパッケージ。
社会人になってから、ゲームもできなかった。
ようやく時間ができて。
再び、あの世界を旅したくなった。
久しぶりに起動すると、
懐かしい音楽と共に記憶がよみがえる。
ーーそうだ、この物語は。
もう一度やり直したい。
そう思っていた。
助けられなかったキャラ、変えられなかった展開。
そして、ガイ――。
変わらない優しさ、からかい混じりの笑み、仲間を包み込む温かさ。
私は昔も今も彼が好きだ。
恋愛しようと努力したことはあった。
でも、うまくいかなかった。
やっぱり心から「この人がいい」と思えないと、ダメなんだ。
物語はエンディングへ。
ティアが譜歌を歌い、私は目を閉じた。
その瞬間――空気が変わった。
聞き慣れない音が聞こえる。
柔らかい鳥の声、頬を撫でる潮風、遠くから聞こえる喧嘩。
ゆっくりと目を開けると、
そこは見知らぬ場所だった。
石造りの道、色鮮やかな服を着た人々、
異国の市場。
手に握られているはずのコントローラーはなく、代わりに自分の手がしっかりと見える。
「ーーまさか、これって」
そう呟いたとき、背後から声がした。
「おっと、お嬢さん。そんな顔してると、攫われちまうぜ?」
振り返れば、黄金の髪に柔らかな笑み――ガイ・セシルが、そこに立っていた。
第一話「異世界で、黄金の笑みと出会う」
「攫われちまうぜ?」
振り返った先で、ガイは柔らかく笑っていた。
「……え、ガイ?」
思わず名前を呼んでしまった私に、
彼は片眉を上げる。
「へぇ、初対面なのに俺の名前を知ってるとは。どこかで会ったっけ?」
ーー頭の中が混乱する。
まさか本当に、ゲームの世界?
「あ、えっと。‥人から聞いたことがあって」
無理やり取り繕うと、ガイは「ふーん」と軽く
笑って、私の前に回り込んだ。
「で、どうした? 観光客にしちゃあ、ずいぶんと困ってる顔だな」
「……道が、わからなくて」
彼は肩をすくめる。
「じゃあ案内してやるよ。こんな所で迷ってたら危ないしな」
「ありがとうございます」
ガイに近づき、お辞儀をする。
しかし。
「ひっ!」
ーー声を上げると、彼の顔は引きつっていた。
また瞬時に、私から二メートル程距離をとっている。
その様子に胸の鼓動が跳ねた。
「あのすみません」
悪いことをしたと思い、謝る。
しょうがない。
彼は『女性恐怖症』だ。
「悪い‥‥」
「気にしないでください」
少し驚いたが。
やっぱりガイだ。
ゲームの画面越しに見ていたあの人が、
ーー今、目の前にいる。
彼は市場の喧騒をかき分け、私を人混みから庇うように歩いてくれる。
距離は相変わらず。離れているけど。
しかし、彼は背が高い。背中は思っていたよりも広くて、頼もしさが全身から滲んでいた。
「そういや、名前は?」
「…… はる」
「はる、ね。いい名前だ」
一瞬、彼の笑みが柔らかくなった気がした。
その何気ない仕草に、私は胸が踊るのを感じた。
ガイは軽く微笑んだあと、私をじっと見る。
「……しかし、その服装。変わってるな」
「え?」
見下ろすと、いつものTシャツとデニム、そしてスニーカー。
この世界では確かに浮いているかもしれない。
「旅人ってわけでもなさそうだし、見たことない生地だ。どこから来た?」
「あっ……。その……」
言葉に詰まった瞬間、後ろから小さな衝撃。
誰かがぶつかった、と思った。
次の瞬間――。
「……っ!」
ガイは素早く、私の背後に回ると。
すれ違いざまに男の手首を掴んだ。
「おい、これはお前のじゃねぇだろ。」
男の手には、私のスマホが握られていた。
「スマホ……!」
ポケットに入れていたはずの。
スマホが盗まれようとしていた。
ガイは軽々と男をいなし、スマホを私に返す。
「大事なもんなんだろ? 気をつけな」
「ありがとう……」
心臓がまだドキドキしている。
ゲームの中で何度も見た、あの軽やかな動き――それが目の前で繰り広げられた。
「へぇ……面白いモノ持ってるな。これ、何だ?」
ガイが興味深そうにスマホを手のひらで転がす。
「えっと……。説明が難しいんだけど」
「私の世界の道具、かな」
「‥なんてさ?」
「へぇ‥ますます気になるな、あんた」
彼の口元に浮かんだ笑みに、私はまた胸が熱くなるのを感じていた。
いたずらっぽく口元を緩めたガイは、私にスマホを返すと周囲を見渡した。
「さて……。このままじゃ」
「また狙われかねないな。宿は決まってるのか?」
「……いえ、まだ」
「じゃあ俺が案内するよ。こっちだ。」
彼は人混みを避けるように路地へ入り、歩幅を合わせてくれる。
すれ違う人々の服は色鮮やかで、刺繍や飾りが施されていた。
私のTシャツとジーンズは、やっぱり異質だ。
「その服、本当に見たことない生地だな。軽くて丈夫そうだ。」
「そうですね……。たぶん、この辺りにはないと思います」
「やっぱり、遠くから来たんだな」
そう言って、微笑むガイの目は、探るようで。
それでも柔らかい。
道すがら、彼は市場のあれこれを説明してくれた。
香辛料の匂い、果物の甘い香り、魚を売る威勢のいい声……。
「腹は減ってるか?」
「少しだけ」
「じゃあ宿に着いたら、軽く食べよう。ここの近くにうまい店がある」
足元は石畳で、所々に花が植えられた鉢が並んでいる。
歩きながら、私は何度もガイの背中を見た。
画面越しではわからなかった、ほんの少し乱れる髪、長い脚、さりげない仕草のひとつひとつが現実感が湧いてくる。
「……着いたぞ」
ガイが立ち止まった先には、木造の二階建ての建物。
入口には小さな看板が揺れ、窓からは温かい光が漏れている。
「ここは顔なじみの宿だ。安心して泊まれる。」
宿の扉を押すと、香ばしいパンの匂いと人々の笑い声が迎えてくれた。
「ほら、座って待ってろ。宿の主人に話をつけてくる」
ガイは軽く手を振って奥へ消える。
不安と安堵が入り混じる中、私は胸の中でひとつだけ確信していた。
きっと、この人に会えたのは――偶然じゃない。
数年ぶりに手に取った「テイルズ オブ ジ アビス」のパッケージ。
社会人になってから、ゲームもできなかった。
ようやく時間ができて。
再び、あの世界を旅したくなった。
久しぶりに起動すると、
懐かしい音楽と共に記憶がよみがえる。
ーーそうだ、この物語は。
もう一度やり直したい。
そう思っていた。
助けられなかったキャラ、変えられなかった展開。
そして、ガイ――。
変わらない優しさ、からかい混じりの笑み、仲間を包み込む温かさ。
私は昔も今も彼が好きだ。
恋愛しようと努力したことはあった。
でも、うまくいかなかった。
やっぱり心から「この人がいい」と思えないと、ダメなんだ。
物語はエンディングへ。
ティアが譜歌を歌い、私は目を閉じた。
その瞬間――空気が変わった。
聞き慣れない音が聞こえる。
柔らかい鳥の声、頬を撫でる潮風、遠くから聞こえる喧嘩。
ゆっくりと目を開けると、
そこは見知らぬ場所だった。
石造りの道、色鮮やかな服を着た人々、
異国の市場。
手に握られているはずのコントローラーはなく、代わりに自分の手がしっかりと見える。
「ーーまさか、これって」
そう呟いたとき、背後から声がした。
「おっと、お嬢さん。そんな顔してると、攫われちまうぜ?」
振り返れば、黄金の髪に柔らかな笑み――ガイ・セシルが、そこに立っていた。
第一話「異世界で、黄金の笑みと出会う」
「攫われちまうぜ?」
振り返った先で、ガイは柔らかく笑っていた。
「……え、ガイ?」
思わず名前を呼んでしまった私に、
彼は片眉を上げる。
「へぇ、初対面なのに俺の名前を知ってるとは。どこかで会ったっけ?」
ーー頭の中が混乱する。
まさか本当に、ゲームの世界?
「あ、えっと。‥人から聞いたことがあって」
無理やり取り繕うと、ガイは「ふーん」と軽く
笑って、私の前に回り込んだ。
「で、どうした? 観光客にしちゃあ、ずいぶんと困ってる顔だな」
「……道が、わからなくて」
彼は肩をすくめる。
「じゃあ案内してやるよ。こんな所で迷ってたら危ないしな」
「ありがとうございます」
ガイに近づき、お辞儀をする。
しかし。
「ひっ!」
ーー声を上げると、彼の顔は引きつっていた。
また瞬時に、私から二メートル程距離をとっている。
その様子に胸の鼓動が跳ねた。
「あのすみません」
悪いことをしたと思い、謝る。
しょうがない。
彼は『女性恐怖症』だ。
「悪い‥‥」
「気にしないでください」
少し驚いたが。
やっぱりガイだ。
ゲームの画面越しに見ていたあの人が、
ーー今、目の前にいる。
彼は市場の喧騒をかき分け、私を人混みから庇うように歩いてくれる。
距離は相変わらず。離れているけど。
しかし、彼は背が高い。背中は思っていたよりも広くて、頼もしさが全身から滲んでいた。
「そういや、名前は?」
「…… はる」
「はる、ね。いい名前だ」
一瞬、彼の笑みが柔らかくなった気がした。
その何気ない仕草に、私は胸が踊るのを感じた。
ガイは軽く微笑んだあと、私をじっと見る。
「……しかし、その服装。変わってるな」
「え?」
見下ろすと、いつものTシャツとデニム、そしてスニーカー。
この世界では確かに浮いているかもしれない。
「旅人ってわけでもなさそうだし、見たことない生地だ。どこから来た?」
「あっ……。その……」
言葉に詰まった瞬間、後ろから小さな衝撃。
誰かがぶつかった、と思った。
次の瞬間――。
「……っ!」
ガイは素早く、私の背後に回ると。
すれ違いざまに男の手首を掴んだ。
「おい、これはお前のじゃねぇだろ。」
男の手には、私のスマホが握られていた。
「スマホ……!」
ポケットに入れていたはずの。
スマホが盗まれようとしていた。
ガイは軽々と男をいなし、スマホを私に返す。
「大事なもんなんだろ? 気をつけな」
「ありがとう……」
心臓がまだドキドキしている。
ゲームの中で何度も見た、あの軽やかな動き――それが目の前で繰り広げられた。
「へぇ……面白いモノ持ってるな。これ、何だ?」
ガイが興味深そうにスマホを手のひらで転がす。
「えっと……。説明が難しいんだけど」
「私の世界の道具、かな」
「‥なんてさ?」
「へぇ‥ますます気になるな、あんた」
彼の口元に浮かんだ笑みに、私はまた胸が熱くなるのを感じていた。
いたずらっぽく口元を緩めたガイは、私にスマホを返すと周囲を見渡した。
「さて……。このままじゃ」
「また狙われかねないな。宿は決まってるのか?」
「……いえ、まだ」
「じゃあ俺が案内するよ。こっちだ。」
彼は人混みを避けるように路地へ入り、歩幅を合わせてくれる。
すれ違う人々の服は色鮮やかで、刺繍や飾りが施されていた。
私のTシャツとジーンズは、やっぱり異質だ。
「その服、本当に見たことない生地だな。軽くて丈夫そうだ。」
「そうですね……。たぶん、この辺りにはないと思います」
「やっぱり、遠くから来たんだな」
そう言って、微笑むガイの目は、探るようで。
それでも柔らかい。
道すがら、彼は市場のあれこれを説明してくれた。
香辛料の匂い、果物の甘い香り、魚を売る威勢のいい声……。
「腹は減ってるか?」
「少しだけ」
「じゃあ宿に着いたら、軽く食べよう。ここの近くにうまい店がある」
足元は石畳で、所々に花が植えられた鉢が並んでいる。
歩きながら、私は何度もガイの背中を見た。
画面越しではわからなかった、ほんの少し乱れる髪、長い脚、さりげない仕草のひとつひとつが現実感が湧いてくる。
「……着いたぞ」
ガイが立ち止まった先には、木造の二階建ての建物。
入口には小さな看板が揺れ、窓からは温かい光が漏れている。
「ここは顔なじみの宿だ。安心して泊まれる。」
宿の扉を押すと、香ばしいパンの匂いと人々の笑い声が迎えてくれた。
「ほら、座って待ってろ。宿の主人に話をつけてくる」
ガイは軽く手を振って奥へ消える。
不安と安堵が入り混じる中、私は胸の中でひとつだけ確信していた。
きっと、この人に会えたのは――偶然じゃない。
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