<テルゆひ> 惑星の花嫁
UTSから見えた眩い光に、真っ先に走り出したのはテルだった。過去に一度だけ見たことがある光。アースダマーの暴走。
(アースダマーはMIKが厳重に保管してるはず。それが何故、UTS事務所にあるんだ)
そう簡単には脱走しずらく、頑丈にロックされているため外部から盗み出すことも不可能に近い。そう調べはついていた。
テルは内部の人間がやったのかとも考えていたが、今は急いで遊飛の安否を確認しなくてはならなかった。
(もし今の彼とアースダマーが接触したらマズイ)
あの時のような事が起きたら、取り返しのつかない事が起きてしまう。テルは過去に起きた出来事を思い出し、ギリッと奥歯を噛み締める。
(また私は、間に合わないのか)
消滅していくユーヒの姿。身体が少しずつ透けていき、光の粒が宙へと舞っていく。泣きそうな表情だったのに、それでも笑顔を絶やさずにテルの名前を呼ぶ、ユーヒと遊飛の姿が現れる。
(私は今、どうしてユーヒを王道遊飛の姿に重ね合わせたんだ?)
あの時の別れを告げたのはユーヒであり、遊飛ではない。それなのに、遊飛の姿を見たテルは違和感がなかった。むしろ、そこに居たのはユーヒではなく、王道遊飛なのではないかと思ってしまうくらいである。
前々から自分自身の記憶がおかしくなってる事に、テルは困惑していた。そんな中、背後から気配を感じる。
「何故、そんなに急いでいるのだ!」
後を追い掛けてくるユウディアスに、声を掛けられる。我に返ったテルは走る速さは変えず、ユウディアスにも分かりやすく伝えようと口を開いた。
「王道遊飛の身に、何かが起きた可能性が高い」
これだけ聞かせれば、ユウディアスも理解するであろう。テルは走る方へと集中しようとすると、いつの間にかユウディアスは横に並んで走っていた。
「バリベルギャー!」
ユウディアスの声に、猛スピードで空からバリベルギャーが姿を現れた。ユウディアスの目の前に浮遊し、両手を振りながら少し慌てている仕草をしていた。
《ユウディアス!ユウディアス!》
「遊飛の事だな。分かっている、彼をすぐに遊飛の元へ連れて行ってくれないだろうか!」
そう伝えると同時に、バリベルギャーの姿は大きくなっていき、人一人分乗れるサイズへと変身した。そして、ユウディアスの指示通りにテルを乗せていく。
乗せられた方のテルは驚きが隠せられなかった。自分が行くよりも、ユウディアスの方が状況を良くしてくれると思っていたからだ。
「何故、私を先に行かせようとするんだ」
テルは疑問に思っていたことを、ユウディアスに向けて口を出す。問いを投げられたユウディアスは、キョトンと不思議そうな表情をしていた。
だがすぐにユウディアスの表情は切り替わり、グッと拳を作って笑顔を向ける。
「ソレガシより、この状況を打破できると信じているからだ!」
強い眼差しでそう語るユウディアスに、テルの瞳は大きく見開く。こうして真っ直ぐな瞳で信じていると言われると、嫌な気持ちにはならなかった。
自分なら王道遊飛を救えるのではないか。そう自信をつけさせてくれるユウディアスに、テルは勇気を貰った気がした。
「それに、ソレガシは足の速さには自信ある!」
そう言うと同時に、ユウディアスは先へと走り出した。あっという間にユウディアスの姿は見えなくなっていき、残されたテルはバリベルギャーへ合図を送る。
「私達も向かいましょう」
テルの言葉にバリベルギャーは動き出す。宙へ浮き、ユウディアスの後を追うように目指す場所である、UTSへとむかっていくのであった。
◇◇◇
目的地へと辿り着いたテルとユウディアスは、じっとUTS事務所を見つめる。特に壊されている形跡はないが、ただ事務所から放たれる気配に息苦しさを感じた。
この中に何か得体の知れないものがいる。ずっしりと来る重みにユウディアスとテルは一粒の汗を垂れ流し、ゆっくり生唾を飲み込んだ。
「なんなのだ、この気配は……」
「アースダマーだ。奴は今、この中に居る」
テルの言葉にユウディアスはすぐにドアノブに手を掛け、勢いよくドアを開けた。
「遊飛!遊歩!居るであるか!」
バキャッ!と嫌な音が響いていたが、それを気にせずにユウディアスは駆け出す。アースダマーの力はどれほどマズイものなのか、身をもって受けていたユウディアスは理解しているのだから。
テルもその後を追い掛け、階段を駆け上がっていく。近くなってくる気配に、テルは遊飛が無事であることを祈っていた。そして階段をのぼり切り、廊下の方を見ると床に倒れ込んでいる遊歩の姿があった。
「遊歩っ!どうしたのだ!」
「アースダマーが現れて……遊「やったー!自由だー!」
遊歩の言葉を遮るような明るい声に、誰もがそちらの方へと視線を向ける。明るく聞き覚えのある声。遊飛がその先にいると視界に入れた瞬間、彼の姿に誰もが瞳を大きく見開いた。
にっこりと明るく満面の笑みを浮かべているが、その笑顔が恐ろしいと感じた。まるで絶対零度の様なとても冷たい笑み。心から喜んでいないことが分かる。
「とりあえず、手始めにこの地球を壊そうかっ!」
両腕を広げ、積み木で組み立てたものを壊すような言い方をする遊飛。そんなことを言わない彼の言葉に、ユウディアスは驚きが隠せられなかった。
「どうしたというのだ、遊飛!」
「いいや、あれは遊飛じゃないヨ」
ユウディアスの腕に手を当て、遊歩はゆっくり起き上がる。そして、遊飛を見つめながら口を開いた。
「君は一体、何者なんだい?」
遊歩からの問いに、遊飛の口角はチャシャ猫の様な三日月の笑みを浮かべる。その笑みに、遊歩とユウディアスは背筋から寒気が走った。得体も知れないものに向けられたような感覚がしたからだ。
そんな中、テルだけは静かにじっと遊飛を見つめた。観察するように、頭のてっぺんから足の爪先までじっくりと。遊飛の全身をくまなく眺めた後、テルは遊飛と目線を合わせた。
目が合った遊飛は自身の胸元に手を当てる。
「ボクの名前はユーヒ・エルピス。アースダマーを保有していた者だよ」
「ユーヒ・エルピス?」
「っ!」
遊飛の口から放たれた名前に、ユウディアスがくちづさむと同時にテルの指は微かに動く。それを見逃さなかった遊歩は目を細め、キッとテルを睨みついた。
「君はなにか知ってるようだネ」
遊歩の言葉に、テルはすぅっ…と息を吸い、すぐに吐き出した。気持ちを落ち着かせるように呼吸をした後、少しの間を開けた後に口を開く。
「……ユーヒ・エルピスは、王道遊飛の前世になる」
テルの答えに、遊歩とユウディアスは驚いた。何故、テルは遊飛の前世を知っているのか。遊飛の前世が何故、表に出てきたのか。遊飛が前世の記憶を取り戻し、人格が変わってしまったのか。
いくつもの憶測を立てている中、テルはその答えを出そうと語り続ける。
「彼は私と共に居た。だが、あるきっかけで彼は……」
「そう、前の身体は壊れた!」
明るくそう言いながらユーヒは、両腕を広げてくるっと一回転する。まるで踊るかのように回転し、笑みは絶えずにいた。
「それから数年経って、ボクの為に造られた新しい器が生まれた!王道遊飛はボクが目覚めるまで、この器を守る擬似的人格だ!だからこの身体はボクのもの!」
そう言い、軽くジャンプして動きを止めたユーヒは、テルの元へと駆け寄っていく。
「君とまた会えて嬉しいよテル。ボクはずっと君に会いたかったんだ」
テルに触れようと、ユーヒは手を伸ばした。だが、その手は届かず、パシンッと弾ける乾いた音が響く。テルの手によって弾き飛ばされたのだと理解し、少し驚いたユーヒは赤くなってる手の甲を摩る。
「テル?どうしたの?」
「お前は誰だ」
そう言われ、ユーヒの瞳は大きく見開いた。テルにそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。一瞬だけ口元が歪んだがすぐに笑顔へと切り替え、ユーヒは軽く首を傾げた。
「ヤダな、ボクだよ。ユー「ユーヒも王道遊飛も、私のことを名前で呼ばない」
テルはそう指摘し、目を細めながらユーヒを見下ろす。その視線はとても冷たく、ユーヒは軽く肩を揺らした。
「そもそも、ユーヒは世界を壊すつもりはなかった。むしろ、世界を守ろうとしていた」
そう言い切ったテルは眉間に皺を寄せる。
「彼の意志を汚すな。アースダマー」
ハッキリとテルはアースダマーの名前を呼び、遊歩とユウディアスはユーヒを見つめる。そう言われたユーヒは悲しむどころか、満面な笑みをテルへと向けた。
「あはっ!やっぱりバレちゃった!」
「王道遊飛を返すんだ」
「ヤーダッ!」
玩具を返したくない。という返事をするかのように、アースダマーはテルの言葉を拒否した。その返事にテルはキッと睨みつけるが、アースダマーは気にせず笑っていた。
「だってもう、この身体はボクのものだもん!」
「それは彼に許可取ってのことか」
「そうだよ。って言ったら、どうする?」
アースダマーの返答に、テルは一瞬だけ頭が真っ白になった。王道遊飛はアースダマーの力によって閉じ込められてるのか、それとも王道遊飛は自らそれを願って、アースダマーに身体を渡したのか。
どちらだとしてと、王道遊飛がこの世に存在しなくなったという可能性が高く感じ、テルの瞳孔は大きく見開く。それを見たアースダマーはにっこりと笑う。
「やっぱり、君の感情はいいね!」
「なんだと?」
「ボクの力はマイナスな感情……つまりネガティブなものによって強くなっていくんだ」
「つまり、君が入れ替わったキッカケは、遊飛がマイナスな感情になったからナノ?」
遊歩の質問にアースダマーは軽く頷き、自身の胸元に手を当てて口を開く。
「ユーヒはボクを抑え込むほどの精神力があった。だからボクはなかなか表に出られなかった。だから困ったんだよねぇ、このままじゃボクはずっとユーヒの中に居たままだって。遊飛も同じ。やっぱり、同じ魂だからかなぁ。でもね……君が来てくれた」
スッとアースダマーはテルに向けて指差す。ユウディアスと遊歩がテルへ視線を向けると同時に、アースダマーは満面な笑みを浮かべた。
「君のおかげで、ボクはユーヒと遊飛から完全に目覚めることが出来たんだ」
「私が……?」
「そう!君が!二人の気持ちを!揺らがせた!おかげなんだよ!」
強い言葉で放つアースダマーは、瞳を揺らがしているテルに更なる追い打ちをかけようとする。
「ありがとう。ボクを目覚めさせてくれて」
その笑みはピエロの様であった。全ての元凶が自分であることを知ったテルは、全身の血の気が落ちていくのを感じた。
(私が出会わなかったら、彼らは消えずに済んだのか。私が出会ったから……)
そう思い始めていくテルは視界が揺れ、そのまま身体は傾き倒れそうになる。だが誰かの手がテルの身体へと触れ、支えてくれた。
テルはその手が誰なのかと隣を見ると、遊歩が踏ん張りながらテルと視線を合わせる。
「気をしっかり持って!君がその気持ちじゃ、遊飛が帰って来れなくなるヨ!」
「っ!」
遊歩の言葉にテルは我に返る。この感情のままでは、アースダマーへエネルギーを与えてしまう。それはアースダマーの思う壷であり、テルは気持ちを切り替えようと倒れかけていた身体を起こした。
「ありがとうございます」
「お礼はいいよ。それに、遊飛の意識は消えてないヨ」
「どういう意味なのだ?」
遊歩の言葉にユウディアスは不思議に思っていると、すぐにテルはあの事を思い出す。遊飛がヴォイドヴェルグ・レクイエムへ意識が取り込まれた時である。
「貴女は確か、王道遊飛との意識を感じ取れましたね」
「そうダヨ。遊飛は消えてない。私が遊飛を連れ戻すヨ」
そう言い、遊歩はテルから離れていきアースダマーと視線を合わせる。目が合ったアースダマーはすぐに動き出した。
きっと遊歩の言葉に危険を察したのか、表情も先程と変わって笑顔ではなくなっていた。遊歩へ向けて手を伸ばそうとしたアースダマーにユウディアスが前に立ち、アースダマーの両腕を掴んで止めに入った。
「ユウディアス!」
「ソレガシがアースダマーを抑える!その間に遊飛を頼む!」
ユウディアスの言葉に遊歩は軽く頷き、強気な眼差しでアースダマーの瞳を見つめる。そして、遊歩はアースダマーの心の中へと入ろうと全神経を集中していく。
「あの人が言ってた通り、遊飛は絶対に連れて行かせないんだから」
そう言い、遊歩の視界は真っ暗闇へと切り替わっていくのであった。
2023/09/24
(アースダマーはMIKが厳重に保管してるはず。それが何故、UTS事務所にあるんだ)
そう簡単には脱走しずらく、頑丈にロックされているため外部から盗み出すことも不可能に近い。そう調べはついていた。
テルは内部の人間がやったのかとも考えていたが、今は急いで遊飛の安否を確認しなくてはならなかった。
(もし今の彼とアースダマーが接触したらマズイ)
あの時のような事が起きたら、取り返しのつかない事が起きてしまう。テルは過去に起きた出来事を思い出し、ギリッと奥歯を噛み締める。
(また私は、間に合わないのか)
消滅していくユーヒの姿。身体が少しずつ透けていき、光の粒が宙へと舞っていく。泣きそうな表情だったのに、それでも笑顔を絶やさずにテルの名前を呼ぶ、ユーヒと遊飛の姿が現れる。
(私は今、どうしてユーヒを王道遊飛の姿に重ね合わせたんだ?)
あの時の別れを告げたのはユーヒであり、遊飛ではない。それなのに、遊飛の姿を見たテルは違和感がなかった。むしろ、そこに居たのはユーヒではなく、王道遊飛なのではないかと思ってしまうくらいである。
前々から自分自身の記憶がおかしくなってる事に、テルは困惑していた。そんな中、背後から気配を感じる。
「何故、そんなに急いでいるのだ!」
後を追い掛けてくるユウディアスに、声を掛けられる。我に返ったテルは走る速さは変えず、ユウディアスにも分かりやすく伝えようと口を開いた。
「王道遊飛の身に、何かが起きた可能性が高い」
これだけ聞かせれば、ユウディアスも理解するであろう。テルは走る方へと集中しようとすると、いつの間にかユウディアスは横に並んで走っていた。
「バリベルギャー!」
ユウディアスの声に、猛スピードで空からバリベルギャーが姿を現れた。ユウディアスの目の前に浮遊し、両手を振りながら少し慌てている仕草をしていた。
《ユウディアス!ユウディアス!》
「遊飛の事だな。分かっている、彼をすぐに遊飛の元へ連れて行ってくれないだろうか!」
そう伝えると同時に、バリベルギャーの姿は大きくなっていき、人一人分乗れるサイズへと変身した。そして、ユウディアスの指示通りにテルを乗せていく。
乗せられた方のテルは驚きが隠せられなかった。自分が行くよりも、ユウディアスの方が状況を良くしてくれると思っていたからだ。
「何故、私を先に行かせようとするんだ」
テルは疑問に思っていたことを、ユウディアスに向けて口を出す。問いを投げられたユウディアスは、キョトンと不思議そうな表情をしていた。
だがすぐにユウディアスの表情は切り替わり、グッと拳を作って笑顔を向ける。
「ソレガシより、この状況を打破できると信じているからだ!」
強い眼差しでそう語るユウディアスに、テルの瞳は大きく見開く。こうして真っ直ぐな瞳で信じていると言われると、嫌な気持ちにはならなかった。
自分なら王道遊飛を救えるのではないか。そう自信をつけさせてくれるユウディアスに、テルは勇気を貰った気がした。
「それに、ソレガシは足の速さには自信ある!」
そう言うと同時に、ユウディアスは先へと走り出した。あっという間にユウディアスの姿は見えなくなっていき、残されたテルはバリベルギャーへ合図を送る。
「私達も向かいましょう」
テルの言葉にバリベルギャーは動き出す。宙へ浮き、ユウディアスの後を追うように目指す場所である、UTSへとむかっていくのであった。
◇◇◇
目的地へと辿り着いたテルとユウディアスは、じっとUTS事務所を見つめる。特に壊されている形跡はないが、ただ事務所から放たれる気配に息苦しさを感じた。
この中に何か得体の知れないものがいる。ずっしりと来る重みにユウディアスとテルは一粒の汗を垂れ流し、ゆっくり生唾を飲み込んだ。
「なんなのだ、この気配は……」
「アースダマーだ。奴は今、この中に居る」
テルの言葉にユウディアスはすぐにドアノブに手を掛け、勢いよくドアを開けた。
「遊飛!遊歩!居るであるか!」
バキャッ!と嫌な音が響いていたが、それを気にせずにユウディアスは駆け出す。アースダマーの力はどれほどマズイものなのか、身をもって受けていたユウディアスは理解しているのだから。
テルもその後を追い掛け、階段を駆け上がっていく。近くなってくる気配に、テルは遊飛が無事であることを祈っていた。そして階段をのぼり切り、廊下の方を見ると床に倒れ込んでいる遊歩の姿があった。
「遊歩っ!どうしたのだ!」
「アースダマーが現れて……遊「やったー!自由だー!」
遊歩の言葉を遮るような明るい声に、誰もがそちらの方へと視線を向ける。明るく聞き覚えのある声。遊飛がその先にいると視界に入れた瞬間、彼の姿に誰もが瞳を大きく見開いた。
にっこりと明るく満面の笑みを浮かべているが、その笑顔が恐ろしいと感じた。まるで絶対零度の様なとても冷たい笑み。心から喜んでいないことが分かる。
「とりあえず、手始めにこの地球を壊そうかっ!」
両腕を広げ、積み木で組み立てたものを壊すような言い方をする遊飛。そんなことを言わない彼の言葉に、ユウディアスは驚きが隠せられなかった。
「どうしたというのだ、遊飛!」
「いいや、あれは遊飛じゃないヨ」
ユウディアスの腕に手を当て、遊歩はゆっくり起き上がる。そして、遊飛を見つめながら口を開いた。
「君は一体、何者なんだい?」
遊歩からの問いに、遊飛の口角はチャシャ猫の様な三日月の笑みを浮かべる。その笑みに、遊歩とユウディアスは背筋から寒気が走った。得体も知れないものに向けられたような感覚がしたからだ。
そんな中、テルだけは静かにじっと遊飛を見つめた。観察するように、頭のてっぺんから足の爪先までじっくりと。遊飛の全身をくまなく眺めた後、テルは遊飛と目線を合わせた。
目が合った遊飛は自身の胸元に手を当てる。
「ボクの名前はユーヒ・エルピス。アースダマーを保有していた者だよ」
「ユーヒ・エルピス?」
「っ!」
遊飛の口から放たれた名前に、ユウディアスがくちづさむと同時にテルの指は微かに動く。それを見逃さなかった遊歩は目を細め、キッとテルを睨みついた。
「君はなにか知ってるようだネ」
遊歩の言葉に、テルはすぅっ…と息を吸い、すぐに吐き出した。気持ちを落ち着かせるように呼吸をした後、少しの間を開けた後に口を開く。
「……ユーヒ・エルピスは、王道遊飛の前世になる」
テルの答えに、遊歩とユウディアスは驚いた。何故、テルは遊飛の前世を知っているのか。遊飛の前世が何故、表に出てきたのか。遊飛が前世の記憶を取り戻し、人格が変わってしまったのか。
いくつもの憶測を立てている中、テルはその答えを出そうと語り続ける。
「彼は私と共に居た。だが、あるきっかけで彼は……」
「そう、前の身体は壊れた!」
明るくそう言いながらユーヒは、両腕を広げてくるっと一回転する。まるで踊るかのように回転し、笑みは絶えずにいた。
「それから数年経って、ボクの為に造られた新しい器が生まれた!王道遊飛はボクが目覚めるまで、この器を守る擬似的人格だ!だからこの身体はボクのもの!」
そう言い、軽くジャンプして動きを止めたユーヒは、テルの元へと駆け寄っていく。
「君とまた会えて嬉しいよテル。ボクはずっと君に会いたかったんだ」
テルに触れようと、ユーヒは手を伸ばした。だが、その手は届かず、パシンッと弾ける乾いた音が響く。テルの手によって弾き飛ばされたのだと理解し、少し驚いたユーヒは赤くなってる手の甲を摩る。
「テル?どうしたの?」
「お前は誰だ」
そう言われ、ユーヒの瞳は大きく見開いた。テルにそんな事を言われるとは思わなかったのだろう。一瞬だけ口元が歪んだがすぐに笑顔へと切り替え、ユーヒは軽く首を傾げた。
「ヤダな、ボクだよ。ユー「ユーヒも王道遊飛も、私のことを名前で呼ばない」
テルはそう指摘し、目を細めながらユーヒを見下ろす。その視線はとても冷たく、ユーヒは軽く肩を揺らした。
「そもそも、ユーヒは世界を壊すつもりはなかった。むしろ、世界を守ろうとしていた」
そう言い切ったテルは眉間に皺を寄せる。
「彼の意志を汚すな。アースダマー」
ハッキリとテルはアースダマーの名前を呼び、遊歩とユウディアスはユーヒを見つめる。そう言われたユーヒは悲しむどころか、満面な笑みをテルへと向けた。
「あはっ!やっぱりバレちゃった!」
「王道遊飛を返すんだ」
「ヤーダッ!」
玩具を返したくない。という返事をするかのように、アースダマーはテルの言葉を拒否した。その返事にテルはキッと睨みつけるが、アースダマーは気にせず笑っていた。
「だってもう、この身体はボクのものだもん!」
「それは彼に許可取ってのことか」
「そうだよ。って言ったら、どうする?」
アースダマーの返答に、テルは一瞬だけ頭が真っ白になった。王道遊飛はアースダマーの力によって閉じ込められてるのか、それとも王道遊飛は自らそれを願って、アースダマーに身体を渡したのか。
どちらだとしてと、王道遊飛がこの世に存在しなくなったという可能性が高く感じ、テルの瞳孔は大きく見開く。それを見たアースダマーはにっこりと笑う。
「やっぱり、君の感情はいいね!」
「なんだと?」
「ボクの力はマイナスな感情……つまりネガティブなものによって強くなっていくんだ」
「つまり、君が入れ替わったキッカケは、遊飛がマイナスな感情になったからナノ?」
遊歩の質問にアースダマーは軽く頷き、自身の胸元に手を当てて口を開く。
「ユーヒはボクを抑え込むほどの精神力があった。だからボクはなかなか表に出られなかった。だから困ったんだよねぇ、このままじゃボクはずっとユーヒの中に居たままだって。遊飛も同じ。やっぱり、同じ魂だからかなぁ。でもね……君が来てくれた」
スッとアースダマーはテルに向けて指差す。ユウディアスと遊歩がテルへ視線を向けると同時に、アースダマーは満面な笑みを浮かべた。
「君のおかげで、ボクはユーヒと遊飛から完全に目覚めることが出来たんだ」
「私が……?」
「そう!君が!二人の気持ちを!揺らがせた!おかげなんだよ!」
強い言葉で放つアースダマーは、瞳を揺らがしているテルに更なる追い打ちをかけようとする。
「ありがとう。ボクを目覚めさせてくれて」
その笑みはピエロの様であった。全ての元凶が自分であることを知ったテルは、全身の血の気が落ちていくのを感じた。
(私が出会わなかったら、彼らは消えずに済んだのか。私が出会ったから……)
そう思い始めていくテルは視界が揺れ、そのまま身体は傾き倒れそうになる。だが誰かの手がテルの身体へと触れ、支えてくれた。
テルはその手が誰なのかと隣を見ると、遊歩が踏ん張りながらテルと視線を合わせる。
「気をしっかり持って!君がその気持ちじゃ、遊飛が帰って来れなくなるヨ!」
「っ!」
遊歩の言葉にテルは我に返る。この感情のままでは、アースダマーへエネルギーを与えてしまう。それはアースダマーの思う壷であり、テルは気持ちを切り替えようと倒れかけていた身体を起こした。
「ありがとうございます」
「お礼はいいよ。それに、遊飛の意識は消えてないヨ」
「どういう意味なのだ?」
遊歩の言葉にユウディアスは不思議に思っていると、すぐにテルはあの事を思い出す。遊飛がヴォイドヴェルグ・レクイエムへ意識が取り込まれた時である。
「貴女は確か、王道遊飛との意識を感じ取れましたね」
「そうダヨ。遊飛は消えてない。私が遊飛を連れ戻すヨ」
そう言い、遊歩はテルから離れていきアースダマーと視線を合わせる。目が合ったアースダマーはすぐに動き出した。
きっと遊歩の言葉に危険を察したのか、表情も先程と変わって笑顔ではなくなっていた。遊歩へ向けて手を伸ばそうとしたアースダマーにユウディアスが前に立ち、アースダマーの両腕を掴んで止めに入った。
「ユウディアス!」
「ソレガシがアースダマーを抑える!その間に遊飛を頼む!」
ユウディアスの言葉に遊歩は軽く頷き、強気な眼差しでアースダマーの瞳を見つめる。そして、遊歩はアースダマーの心の中へと入ろうと全神経を集中していく。
「あの人が言ってた通り、遊飛は絶対に連れて行かせないんだから」
そう言い、遊歩の視界は真っ暗闇へと切り替わっていくのであった。
2023/09/24