<テルゆひ> 惑星の花嫁
「うーん……」
唸り声を上げながら、自室にいた遊飛は頬を机の上へと乗せていた。眉間に皺を寄せ、両足をばたつかせ、また一つ唸り声を上げる。
そんな繰り返しをしていき、遊飛は大きな溜息をつきながら先日の合羽井テルへ告げた言葉を思い出す。
「お前、一度考え直した方がいいよ」
どうしてあのような事を言ったのか、遊飛は分からずにいた。考えてもらったとしても、結果は同じだというのは理解しているのに。
それでも、自分のことで悩み続けて欲しい。という気持ちが強く出ていた。
「だとしても、ここまで会えないものなのか?」
自分から会わないと言っても、同じ町内なのだから鉢合わせする可能性はあると遊飛は考えていた。その時は即座に逃げるか、隠れていく等の対策案を上げていたのだが、全くもってテルと鉢合わせすることはなかった。
「俺もちゃんと考えた方がいいってことなのかな……」
こうして一人で考える時間を作れているなら、そういう意味として捉えるだろう。遊飛は目を瞑り、静かに深呼吸をする。
これまでのテルと話していた事。その接し方や話し方にどう感じていたのか。思い返せが返すほど、遊飛はある結果が出てきてしまう。
(嫌じゃなかったってのが、本当に困りものなんだよ)
すっと机から頬を離して頭を上げた遊飛は、そのまま椅子の背もたれへと体重をかけていく。閉じていた目を開け、じっと天井を眺めていた。そうしていると、ドアから軽いノックの音が響き渡る。
そして、遊飛が声をかける前にドアが開いた。
「遊飛、入るヨ」
「遊歩……返事する前に入ってくるなよ」
「まぁ、まぁ」と言いながら遊歩はベッドの上へと座り、ジッと遊飛を見つめる。そのまま、遊歩は掛け布団の上を叩いた。ここに来て座れとでも言いたいのだろうか。
それが伝わった遊飛は何か大事な話でもあるのかと、椅子から離れて遊歩の元へと向かい、ゆっくりと隣へ座った。
「それで、何か相談事でもあるのか?」
「違うヨ。むしろ、それは遊飛なんじゃないのカナ?」
そう言われ、遊飛の瞳は大きく見開く。遊歩は当たっていたことに、にこっと笑みを浮かべながら首を傾げた。
「我がお兄様は、何かに思い悩んでいるようだからネ」
「遊歩」
「話を聞くことくらいは出来るヨ。あっ、でも報酬は遊飛のおやつカナ」
「ちゃっかりしてるなぁ」
遊飛は苦笑いしながらそう言う。それでも、遊歩の優しさに心が温かくなっていくのを感じていた。遊飛はそっと自分自身の胸元に指先を当てる。
とくんとくんっと静かに脈打つ鼓動。その鼓動は家族としての温かみであり、テルに告げられた時の鼓動とは違う。この違いの意味は理解している。遊飛は目を細めていると、空いているもう片方の手の甲に、遊歩の手が重なった。
「だって、この問題は遊飛が考えて導かなきゃダメなんだから」
「そうだな」
軽く頷き、遊飛は一瞬だけ瞬きをする。そして、ずっと心の内にあった事を語り始めようと口を開いた。
「最初は「面倒臭いなコイツ」だったんだよな。勝手に話は進めるし、人の話は聞かないし、確定事項の様に決めつけるし」
「それはまた、随分と面倒ダネ」
「だろ?それに、なんか俺を見ている時の視線がさ、誰かと重ねていてさ……まぁ、当の本人は気がついてなかったけど」
「その想い人を遊飛に重ねて見ていたってこと?」
「そうそう」
一つ一つ語りながら遊飛の瞳は、徐々に寂しそうなまなざしへと変わっていく。
「だからつい頭にきちゃってさ」
あの時、遊飛の心は怒りや切なさで一杯だった。こんなにも静かに怒ったのは初めてだし、こんなにも心が痛く感じたのも初めてであった。自分らしくないことばかり起こり、そうしてくるテルの行動や囁きが原因なのは理解している。
「やっぱり好きだからなのかな……」
ぼそっと遊飛はか細く呟く。その小さな本心の声が聞こえていた遊歩は、繋いでいる手を強く握り締めた。
「遊飛がそう思うなら、そうなんじゃないカナ」
遊歩の言葉に、遊飛は「そっか」と呟く。好きだと理解したからには、今後について考えなくてはならない。なにせ相手は、想い人への気持ちが根強く残っている。
その想い人より自分を見てもらうにはどうすればいいのか。遊飛は考えていると、視界に入っていた部屋の床が地面へと急に切り替わる。
「えっ?」
顔を上げてみると、視界に入ったのはテルの姿。だが、いつもの白衣姿ではなく深緑のボロついたポンチョを着ている。
よく見てみると髪の毛や肌もカサついており、少しだけ顔つきも幼く見える。どうなっているのかと、そう思っている間にテルが手を伸ばし、遊飛の頬へと触れた。
「執着して何が悪い。次があるならば、私は……」
必死な声。真剣な眼差し。頬から伝わる冷たい体温。そして、テルの瞳に写っている自分の姿を見た遊飛は目を大きく見開く。
「誰?」
自分では無い姿に、遊飛は戸惑った。見た目は自分と似ている。だが肌や髪の色は白に近く、耳もエルフの様に横長い。服装も白いロングコートで、髪も肩にかかるまで伸ばしていない。自分ではない姿に、遊飛は理解する。
この人が、テルが想い続けている人なのだと。
真っ直ぐで真剣な眼差し。本当に目の前の相手のことが大事なのだと、遊飛は理解していくうちに目の奥が熱くなっていく。
「そう……だよな。アイツは俺のことじゃなくて、あの人のことを……」
そして、遊飛はもう一つ理解する。自分はその人の生まれ変わりである事を。それならば、確かにテルは生まれ変わりである自分の事をその人へ置き換えてしまうのは無理もない。
「バカだなぁ……俺……なんで、本気になったんだろ……」
勝てるわけが無い。遊飛は一筋の涙を零し、そっと目を閉じる。テルはずっとこの人に会いたくって探していた。
だから、あの時のデュエルもテルはどこか必死だったのは、愛する人が戻ってきて欲しい気持ちであったのだろう。
バラバラだったパズルのピースが合わさっていき、遊飛は過去のテルを見つめながら口を開く。
「そこまで、その人に会いたいなら俺はーー」
〈じゃあ、変わっていいよね!〉
耳元から囁かれる明るい声に、遊飛は我に返る。目の前にいたテルの姿は消え、自分の部屋に戻ってきたのだと分かった同時にバッと後ろへと振り返る。
ふよふよと風船のように浮かんでいる紫色の物体に、遊飛と遊歩はソレが何かすぐに理解した。
「「アースダマー!」」
いつの間にそこに居たのか、遊飛と遊歩は分からなかった。だが、コレだけは分かる。
今、とても良くないことが起きるとーー
ゆっくりと浮かんでいたアースダマーは大きく広げ、遊飛の全身を包み込む様に襲い掛かった。まるで捕食するかのようであり、遊歩は遊飛を助け出そうと手を伸ばした。
「遊飛っ!きゃっ!」
アースダマーを触れようとした瞬間、アースダマーから強い光と突風が吹き荒れる。突然の事で遊歩は防御を取る暇もなく、そのまま部屋の外へ追い出されるように吹き飛ばされた。
「っ!」
背中が壁に強く打ち付けられ、遊歩は一瞬だけ呼吸が出来なくなる。そして、そのまま床へと倒れた遊歩は揺れる視界の中、アースダマーに飲まれていく遊飛へと手を伸ばす。
「ゆう、ひ……」
今気絶してはいけないのに、遊歩の意思を無視するようにそのまま視界は真っ暗になっていった。
2023/08/27
唸り声を上げながら、自室にいた遊飛は頬を机の上へと乗せていた。眉間に皺を寄せ、両足をばたつかせ、また一つ唸り声を上げる。
そんな繰り返しをしていき、遊飛は大きな溜息をつきながら先日の合羽井テルへ告げた言葉を思い出す。
「お前、一度考え直した方がいいよ」
どうしてあのような事を言ったのか、遊飛は分からずにいた。考えてもらったとしても、結果は同じだというのは理解しているのに。
それでも、自分のことで悩み続けて欲しい。という気持ちが強く出ていた。
「だとしても、ここまで会えないものなのか?」
自分から会わないと言っても、同じ町内なのだから鉢合わせする可能性はあると遊飛は考えていた。その時は即座に逃げるか、隠れていく等の対策案を上げていたのだが、全くもってテルと鉢合わせすることはなかった。
「俺もちゃんと考えた方がいいってことなのかな……」
こうして一人で考える時間を作れているなら、そういう意味として捉えるだろう。遊飛は目を瞑り、静かに深呼吸をする。
これまでのテルと話していた事。その接し方や話し方にどう感じていたのか。思い返せが返すほど、遊飛はある結果が出てきてしまう。
(嫌じゃなかったってのが、本当に困りものなんだよ)
すっと机から頬を離して頭を上げた遊飛は、そのまま椅子の背もたれへと体重をかけていく。閉じていた目を開け、じっと天井を眺めていた。そうしていると、ドアから軽いノックの音が響き渡る。
そして、遊飛が声をかける前にドアが開いた。
「遊飛、入るヨ」
「遊歩……返事する前に入ってくるなよ」
「まぁ、まぁ」と言いながら遊歩はベッドの上へと座り、ジッと遊飛を見つめる。そのまま、遊歩は掛け布団の上を叩いた。ここに来て座れとでも言いたいのだろうか。
それが伝わった遊飛は何か大事な話でもあるのかと、椅子から離れて遊歩の元へと向かい、ゆっくりと隣へ座った。
「それで、何か相談事でもあるのか?」
「違うヨ。むしろ、それは遊飛なんじゃないのカナ?」
そう言われ、遊飛の瞳は大きく見開く。遊歩は当たっていたことに、にこっと笑みを浮かべながら首を傾げた。
「我がお兄様は、何かに思い悩んでいるようだからネ」
「遊歩」
「話を聞くことくらいは出来るヨ。あっ、でも報酬は遊飛のおやつカナ」
「ちゃっかりしてるなぁ」
遊飛は苦笑いしながらそう言う。それでも、遊歩の優しさに心が温かくなっていくのを感じていた。遊飛はそっと自分自身の胸元に指先を当てる。
とくんとくんっと静かに脈打つ鼓動。その鼓動は家族としての温かみであり、テルに告げられた時の鼓動とは違う。この違いの意味は理解している。遊飛は目を細めていると、空いているもう片方の手の甲に、遊歩の手が重なった。
「だって、この問題は遊飛が考えて導かなきゃダメなんだから」
「そうだな」
軽く頷き、遊飛は一瞬だけ瞬きをする。そして、ずっと心の内にあった事を語り始めようと口を開いた。
「最初は「面倒臭いなコイツ」だったんだよな。勝手に話は進めるし、人の話は聞かないし、確定事項の様に決めつけるし」
「それはまた、随分と面倒ダネ」
「だろ?それに、なんか俺を見ている時の視線がさ、誰かと重ねていてさ……まぁ、当の本人は気がついてなかったけど」
「その想い人を遊飛に重ねて見ていたってこと?」
「そうそう」
一つ一つ語りながら遊飛の瞳は、徐々に寂しそうなまなざしへと変わっていく。
「だからつい頭にきちゃってさ」
あの時、遊飛の心は怒りや切なさで一杯だった。こんなにも静かに怒ったのは初めてだし、こんなにも心が痛く感じたのも初めてであった。自分らしくないことばかり起こり、そうしてくるテルの行動や囁きが原因なのは理解している。
「やっぱり好きだからなのかな……」
ぼそっと遊飛はか細く呟く。その小さな本心の声が聞こえていた遊歩は、繋いでいる手を強く握り締めた。
「遊飛がそう思うなら、そうなんじゃないカナ」
遊歩の言葉に、遊飛は「そっか」と呟く。好きだと理解したからには、今後について考えなくてはならない。なにせ相手は、想い人への気持ちが根強く残っている。
その想い人より自分を見てもらうにはどうすればいいのか。遊飛は考えていると、視界に入っていた部屋の床が地面へと急に切り替わる。
「えっ?」
顔を上げてみると、視界に入ったのはテルの姿。だが、いつもの白衣姿ではなく深緑のボロついたポンチョを着ている。
よく見てみると髪の毛や肌もカサついており、少しだけ顔つきも幼く見える。どうなっているのかと、そう思っている間にテルが手を伸ばし、遊飛の頬へと触れた。
「執着して何が悪い。次があるならば、私は……」
必死な声。真剣な眼差し。頬から伝わる冷たい体温。そして、テルの瞳に写っている自分の姿を見た遊飛は目を大きく見開く。
「誰?」
自分では無い姿に、遊飛は戸惑った。見た目は自分と似ている。だが肌や髪の色は白に近く、耳もエルフの様に横長い。服装も白いロングコートで、髪も肩にかかるまで伸ばしていない。自分ではない姿に、遊飛は理解する。
この人が、テルが想い続けている人なのだと。
真っ直ぐで真剣な眼差し。本当に目の前の相手のことが大事なのだと、遊飛は理解していくうちに目の奥が熱くなっていく。
「そう……だよな。アイツは俺のことじゃなくて、あの人のことを……」
そして、遊飛はもう一つ理解する。自分はその人の生まれ変わりである事を。それならば、確かにテルは生まれ変わりである自分の事をその人へ置き換えてしまうのは無理もない。
「バカだなぁ……俺……なんで、本気になったんだろ……」
勝てるわけが無い。遊飛は一筋の涙を零し、そっと目を閉じる。テルはずっとこの人に会いたくって探していた。
だから、あの時のデュエルもテルはどこか必死だったのは、愛する人が戻ってきて欲しい気持ちであったのだろう。
バラバラだったパズルのピースが合わさっていき、遊飛は過去のテルを見つめながら口を開く。
「そこまで、その人に会いたいなら俺はーー」
〈じゃあ、変わっていいよね!〉
耳元から囁かれる明るい声に、遊飛は我に返る。目の前にいたテルの姿は消え、自分の部屋に戻ってきたのだと分かった同時にバッと後ろへと振り返る。
ふよふよと風船のように浮かんでいる紫色の物体に、遊飛と遊歩はソレが何かすぐに理解した。
「「アースダマー!」」
いつの間にそこに居たのか、遊飛と遊歩は分からなかった。だが、コレだけは分かる。
今、とても良くないことが起きるとーー
ゆっくりと浮かんでいたアースダマーは大きく広げ、遊飛の全身を包み込む様に襲い掛かった。まるで捕食するかのようであり、遊歩は遊飛を助け出そうと手を伸ばした。
「遊飛っ!きゃっ!」
アースダマーを触れようとした瞬間、アースダマーから強い光と突風が吹き荒れる。突然の事で遊歩は防御を取る暇もなく、そのまま部屋の外へ追い出されるように吹き飛ばされた。
「っ!」
背中が壁に強く打ち付けられ、遊歩は一瞬だけ呼吸が出来なくなる。そして、そのまま床へと倒れた遊歩は揺れる視界の中、アースダマーに飲まれていく遊飛へと手を伸ばす。
「ゆう、ひ……」
今気絶してはいけないのに、遊歩の意思を無視するようにそのまま視界は真っ暗になっていった。
2023/08/27