<テルゆひ> 惑星の花嫁
彼の意識がモンスターと同化したのを確認した時、私は氷水を頭からかけられたかのように、全身が冷たくなっていくのを感じた。
彼を失うのが怖かった。また、あの時のように失うのかと。あの時のような思いをするのかと。アースダマーの新たな力を目の当たりにして、私は己の知識不足に腹が立った。
前回は彼がそばに居たからこそ、なんとか留めることは出来た。だが、今回はそうはいかない。彼の意識は完全にあちら側へと行ってしまってる。どんなに声を掛けたとして、戻ってくる確証はない。
「私がそばに居れば、こんなことにならなかったのか?」
いや、今は反省している場合ではない。すでに起きてしまったことは致し方ない。そう思いながら私は首を横に振り、マイナス思考を止めた。
むしろ、どうすれば彼を取り戻せるのかを考えなければいけない。アースダマーの力によって引き込まれたならば、力を解放している機械を停止させなければ。
もし、その装置を見張っている宇宙人が居るとなると、私一人では難しい。
「あの人の力を借りるか」
六葉町が大変なことになってるのを、彼女は黙っていないのは理解している。それをうまく活用すればいい。彼を助ける為なら、私は何でも使っていく。
まわりが騒いでいる中、私は一旦ムツバタワーから離れた。焦っているのか私の足は早く歩いており、気がつけば速度が上がっていた。
あの時もそうだった。ユーヒが一人で勝手に行き、行方が分からなくなり、私はただ走り回った時と。そして結局、私は間に合わなかったんだ。ユーヒが目の前で消えていく姿を。
最後に交した言葉を思い出そうとした時、私の視界は急に砂嵐となり見えなくなっていく。まるで、ブラン管テレビの砂嵐の映像を見せられてるかのようであり、私は目を細めていると砂嵐の中からユーヒの姿が見えた。
「ユーヒッ!」
消えかかってる姿。目は濁っており、すぐにでも生気が無くなりそうな彼に私は手を伸ばそうとした。だが私の手はユーヒの身体をすり抜けてしまう。触れられないことに、私は苦虫を噛み潰したようにギリッと歯ぎしりをたてる。
これはきっと、幻想を見せられているんだ。アースダマーの影響なのか、それとも別のものなのか。ユーヒが何か語っているが、声が聞こえないことが辛い。
今君は一体、私に何を伝えようとしているんだ。そう思いながら私はじっと見つめていると、ユーヒは微笑みながら右手を上げる。最後の力を振り絞ってるのか右手は震えており、人差し指の指先を私の眉間へと押し当てた。
『だから、僕の力で君の記憶をーー』
突然聞こえたユーヒの声に私は声を掛けようとしたと同時に視界はクリアになっていき、現実へと引き戻された。呼吸を忘れていたかのように私は「はっ!」と息を吸い、足元がふらついて近くの壁へともたれかかる。
「……なんだ、今のは?」
今見た光景は嫌という程、私は覚えている。だが、さっきのユーヒが言っていた記憶は初めて見たものだ。あの会話は一体どういう意味なのか。ユーヒはどうしてそのようなことを言ったのか。
「そもそも私の記憶に何をしたんだ……」
それを思い出そうとすると、ズキッ!と頭痛が走る。まるで思い出させない。と言ってるかのようで、私は内心イラつくのを感じた。最近の私の記憶に一部思い出すことが出来ないのは、ユーヒが原因であることはわかった。
だがユーヒがアースダマーの力を使ってまでも、私の記憶に何をしたかったのかがわからない。何か今の私は知ってはいけない事なのか。それすらも知る術がない。
「……今悩んでも致し方ない」
今はこの現状をどうにかするのが先だ。彼を助けなければ、君の言っていた答えが得られなくなってしまう。
それに私は決めたんだ。
もう、君を失いたくないと。
そう思いながら私はなんとかアースダマーを回収し、力を発信させる機械を壊したおかげなのか、それとも彼らのデュエルによってユウディアスが勝ったからなのか。
彼の意識が無事に戻って来たことに、私は安心したと同時に内心ではいろんな感情が渦巻いていた。この機械を止めたとして、ユウディアスがラッシュデュエルで勝ったとして、もし彼の意識が帰ってこなかったらと考えてしまっていた。
あの事件から彼はアースダマーの影響か、高熱を出してしまい寝込んでいるのは調べ上げている。彼が目覚め、無事に回復していったのは確認している。彼は無事だ。問題ないと理解はしている。
それでも私はーー
「行かなければ……」
直接会い、触れ、声を聞かなければ、私の魂は潤わないと思った。無事なのを遠くで見ていたのに、何故か私は彼に会いたい気持ちでいっぱいだった。そんな焦ることでは無いはずなのに、胸騒ぎが止まらない。
あぁ、私は乾いているんだ。
君に、今すぐ会いたい。
◇◇◇
ただ会いたくて、気がつけば私は暴走してしまい、君を無理矢理裏路地まで連れ込んでいた。君の声が聞こえる。ちゃんと体温も感じる。目の奥が熱く感じ、泣きそうになるのを堪えながら私は強く抱き締めた。
肌から伝わる君の心音。生きている。ちゃんと君はここにいる。ほっとしながらも、私の本能はそれだけでは足りない気持ちに溢れていた。行かないでほしい。このまま、私の傍にいてほしい。想えば想うほど感情は強くなっていく。
「ユウディアスのそばにいろって言ったのお前じゃんか」
君の口から出される他者の名前を聞いた時、私の中で何かが切れる音が聞こえた。
私以外の名前を呼ぶな。
そう思ったと同時に身体は動き、気がつけば君に口付けをしていた。寝込んでいた原因なのか、君の唇はカサカサに乾燥している。
潤わせなければと、私は舌を出して舐めていく。ビクッ!と君は肩を揺らしていたが、特に抵抗する仕草もない。拒絶されない事が嬉しく思った。だからこそ、今思っていることを伝えなければと、口付けを止めた私は君を強く抱き締めて言葉を発する。
「愛してます……愛しているんです」
そう言うと、急に突き飛ばされてしまった。胸元から伝わるその衝撃で、私は少し我に返る。先を急ぎ過ぎたのだろうか。だが、ここまで進めてしまったのだから、もう一度本心を伝えようと思った。
君の事が好きなのだと、あの事件から君の事が心配であったと。そう言おうと口を開いたと同時に、先に声を掛けたのは君だった。
「お前のその言葉ってさ、本当に俺に向けて言ってるの?」
君の言葉に、私は一瞬、理解出来なかった。
「どういう意味です?」
「なんだろ。お前の目線や言葉って、俺じゃない誰かに向けて言ってる感じがするんだ」
「っ!」
「お前、俺のことを見てないだろ?」
違う。違うんだ。私はユーヒも君も……いや、私は本当に君の事を個人として好きなのだろうか。君の言うとおり、私は君をユーヒと重ねているだけで、違う。私は君の事も愛しているんだ。
どうにかこの気持ちを声に出したくても、何故か口内は乾ききっており、喉奥に何かが詰まってるかのように上手く出せずにいた。早く伝えなければと、私は口を開いた。
「……そんなことは」
なんて情けない声なんだ。ハッキリ言えてない事に、私はギリッと右手を強く握り締める。こんな声では、君は理解してくれない。納得してくれない。
案の定、君の表情は険しく、眉間に皺を寄せている。このままではダメだと、私は手を伸ばそうとするが君は一歩後ろへと下がっていく。
「ま、お前が俺を誰かの代用として見ていても、俺は……」
話していた途中で急に口をつぐみ、その先の言葉を放たない。私は何を言いたいのか、全身のカッパ体液が止まらずに君の名前を呼ぼうと口を開く。
「王道遊飛?」
「うん。お前、一度考え直した方がいいよ」
勝手に一人で納得した表情をし、軽く頷く君。一体何を納得したというんだ。私を置いて話を進めないでほしい。
「俺はしばらく、お前に会うつもりはないから」
それだけ言い残し、私を置いて去って行った。しばらくとは、いつまでを指すんだ。すぐに追いかけたかった。だが、それは出来なかった。
君の言葉は本気である事は伝わっていた私は、まるで両足に足枷があるかのように重たく、動かすことが出来なかった。
そして、君の後ろ姿が見えなくなるまで、私は黙って眺めることしか出来ずにいた。
◇◇◇
王道遊飛から会わないと言われ、早3日の時間が経った。彼は言っていた通り、私と会うこともなく、また私も会おうとしても会わせてはくれなかった。
どうにか接触しようとしても、偶然なのか必然と言いたいのか、同じ町に住んでいるのに、こんなにも会えないものなのかとも思った。
内心舌打ちしたい気持ちであるが、今彼を一人にする訳にはいかない。それを忠告したくても、それを伝える術はない。ならば、あのベルギャー星人に頼むしかない。
そう、私はちょうど商店街に一人でいた水色髪のベルギャー星人の後ろ姿を見つけ、声を掛けた。
「ユウディアス・ベルギャー」
「おぉっ!この前の探究心が強い河童星人ではないか!」
私の声に振り返ったと同時に、眩しい笑顔で私の名前ではなく異星人として呼んできた。そういえば、名前を伝えていなかったな。
「合羽井テルです」
一応、名前だけは名乗っておこうと、私はそう伝えながらベルギャー星人へと近づく。そして、私は相手の顔を見てみると何やら不思議そうな目線で首を傾げていた。
「どうしたのだ?遊飛は今日、ソレガシと一緒ではないぞ?」
目的が王道遊飛であることは、わかっているらしい。それならば話は早い。
「今日は君に用がある」
「ソレガシにか?」
私はそれだけ言い、着いてくるようにと合図を送る。ここでは人の目が多すぎる。もし、アースダマーの話を第三者に聞かれてしまえば王道遊飛の身に何が起こるかわからない。いや、もう既に何かが起きてしまってるいるが。
そう思いながら私は歩き始めると、背後から私の後を追う足音と気配は感じた。そして、人気のない所へとたどり着いた私は足を止め、振り返ると同時に本題を話そうと口を開いた。
「アースダマーの存在が知れ渡った今、彼は狙われやすくなる」
「っ!」
私の言葉の意味がすぐに理解したのか、先程までの優しい眼差しが一気に戦士へと変わっていく。彼もまた王道遊飛に魅入っているのだろうか。いや、彼の眼差しはどちらかと言うと友愛や仲間としての方が強いのだろう。
仲間思いであることは、これまで王道遊飛を観察していた時にわかっていた事だ。だからこそ、このベルギャー星人は使えると思ったのだから。
「MIKや他宇宙人にとって、アースダマーの力は危険であり、また魅力的でもある」
「だが、アースダマーは遊飛から切り離されているのだろう?」
「えぇ。ですが、保有者であるのは変わりない」
1ダマーを抜き取ったとして、あれが全てでは無い可能性もある。もしかすると新たなアースダマーが、王道遊飛の中で構築される可能性だってありえる。そうでは無い場合であっても、元々あの力は彼の中にあったものだ。
「彼を使ってアースダマーの力を制御させる可能性もある」
そうなった場合、今度こそ彼は危うくなる可能性が高い。ただでさえ精神だけが連れて行かれ、意識が戻ったのは奇跡に近いものだ。次も同じ様な奇跡が起こることは難しい。
「彼を守ってほしい」
そう私は頭を軽く下げた。
「何故、そこまで遊飛を気にするのだ?」
不思議に思いながら問い掛けてくる彼に、頭を上げた私は答えようとした。王道遊飛は私の番であり、運命の花嫁であることを。
「彼は私の……いいえ、彼に伝わってなければ意味はない」
だが、そんなことをベルギャー星人に話したとして、王道遊飛に拒絶されることは目に見えていた。そう思うと、胸あたりが苦しくなっていくのを感じ、私は目を細めて俯く。
「なにがあったか知らぬが、遊飛は優しいし面倒見もいい、ソレガシの大切な親友だ!」
「わかってますよ」
王道遊飛は大の付くほどのお人好しであり、種族関係なく優しく接している。どんなに姿形が違っていたとしても、同じヒトとして見ている。そんな彼に私は惹かれたんだ。
ユーヒも同じだ。あの拾ったペットにも優しく接していた。そう、私がどんなに危険だと言ったとしても、ユーヒは…あのペットを…ペット?どんなペットが私達の側にいたんだ?
ふと私は一つの疑問を抱いた。その同時に私の視界は急に砂嵐へと変わっていく。
『お前、もう少し優しく接したらどうなんだよ』
ユーヒと同じ声なのに別人である言葉遣いに、私は一瞬何が起きたのか分からなかった。なにより姿がまったく見えなかった。確かに目の前に誰かが居たのに。
全てが砂嵐によって見えなくされていることに、私は思い出させようと脳を掻き回すかのように唸ってみる。それと同時に、背後から感じた強い光。
私は振り返り、天に昇る一筋の紫色の光に目を大きく見開く。
「っ!」
「なんなのだ、今の光は」
あぁ、どうしてこのタイミングなんだ。
また、私から奪おうとするのか。
「アースダマー」
その光が立っている場所は、王道遊飛が居るUTSの事務所であることに、嫌な予感が私の中で渦巻いていくのであった。
2023.08.09
彼を失うのが怖かった。また、あの時のように失うのかと。あの時のような思いをするのかと。アースダマーの新たな力を目の当たりにして、私は己の知識不足に腹が立った。
前回は彼がそばに居たからこそ、なんとか留めることは出来た。だが、今回はそうはいかない。彼の意識は完全にあちら側へと行ってしまってる。どんなに声を掛けたとして、戻ってくる確証はない。
「私がそばに居れば、こんなことにならなかったのか?」
いや、今は反省している場合ではない。すでに起きてしまったことは致し方ない。そう思いながら私は首を横に振り、マイナス思考を止めた。
むしろ、どうすれば彼を取り戻せるのかを考えなければいけない。アースダマーの力によって引き込まれたならば、力を解放している機械を停止させなければ。
もし、その装置を見張っている宇宙人が居るとなると、私一人では難しい。
「あの人の力を借りるか」
六葉町が大変なことになってるのを、彼女は黙っていないのは理解している。それをうまく活用すればいい。彼を助ける為なら、私は何でも使っていく。
まわりが騒いでいる中、私は一旦ムツバタワーから離れた。焦っているのか私の足は早く歩いており、気がつけば速度が上がっていた。
あの時もそうだった。ユーヒが一人で勝手に行き、行方が分からなくなり、私はただ走り回った時と。そして結局、私は間に合わなかったんだ。ユーヒが目の前で消えていく姿を。
最後に交した言葉を思い出そうとした時、私の視界は急に砂嵐となり見えなくなっていく。まるで、ブラン管テレビの砂嵐の映像を見せられてるかのようであり、私は目を細めていると砂嵐の中からユーヒの姿が見えた。
「ユーヒッ!」
消えかかってる姿。目は濁っており、すぐにでも生気が無くなりそうな彼に私は手を伸ばそうとした。だが私の手はユーヒの身体をすり抜けてしまう。触れられないことに、私は苦虫を噛み潰したようにギリッと歯ぎしりをたてる。
これはきっと、幻想を見せられているんだ。アースダマーの影響なのか、それとも別のものなのか。ユーヒが何か語っているが、声が聞こえないことが辛い。
今君は一体、私に何を伝えようとしているんだ。そう思いながら私はじっと見つめていると、ユーヒは微笑みながら右手を上げる。最後の力を振り絞ってるのか右手は震えており、人差し指の指先を私の眉間へと押し当てた。
『だから、僕の力で君の記憶をーー』
突然聞こえたユーヒの声に私は声を掛けようとしたと同時に視界はクリアになっていき、現実へと引き戻された。呼吸を忘れていたかのように私は「はっ!」と息を吸い、足元がふらついて近くの壁へともたれかかる。
「……なんだ、今のは?」
今見た光景は嫌という程、私は覚えている。だが、さっきのユーヒが言っていた記憶は初めて見たものだ。あの会話は一体どういう意味なのか。ユーヒはどうしてそのようなことを言ったのか。
「そもそも私の記憶に何をしたんだ……」
それを思い出そうとすると、ズキッ!と頭痛が走る。まるで思い出させない。と言ってるかのようで、私は内心イラつくのを感じた。最近の私の記憶に一部思い出すことが出来ないのは、ユーヒが原因であることはわかった。
だがユーヒがアースダマーの力を使ってまでも、私の記憶に何をしたかったのかがわからない。何か今の私は知ってはいけない事なのか。それすらも知る術がない。
「……今悩んでも致し方ない」
今はこの現状をどうにかするのが先だ。彼を助けなければ、君の言っていた答えが得られなくなってしまう。
それに私は決めたんだ。
もう、君を失いたくないと。
そう思いながら私はなんとかアースダマーを回収し、力を発信させる機械を壊したおかげなのか、それとも彼らのデュエルによってユウディアスが勝ったからなのか。
彼の意識が無事に戻って来たことに、私は安心したと同時に内心ではいろんな感情が渦巻いていた。この機械を止めたとして、ユウディアスがラッシュデュエルで勝ったとして、もし彼の意識が帰ってこなかったらと考えてしまっていた。
あの事件から彼はアースダマーの影響か、高熱を出してしまい寝込んでいるのは調べ上げている。彼が目覚め、無事に回復していったのは確認している。彼は無事だ。問題ないと理解はしている。
それでも私はーー
「行かなければ……」
直接会い、触れ、声を聞かなければ、私の魂は潤わないと思った。無事なのを遠くで見ていたのに、何故か私は彼に会いたい気持ちでいっぱいだった。そんな焦ることでは無いはずなのに、胸騒ぎが止まらない。
あぁ、私は乾いているんだ。
君に、今すぐ会いたい。
◇◇◇
ただ会いたくて、気がつけば私は暴走してしまい、君を無理矢理裏路地まで連れ込んでいた。君の声が聞こえる。ちゃんと体温も感じる。目の奥が熱く感じ、泣きそうになるのを堪えながら私は強く抱き締めた。
肌から伝わる君の心音。生きている。ちゃんと君はここにいる。ほっとしながらも、私の本能はそれだけでは足りない気持ちに溢れていた。行かないでほしい。このまま、私の傍にいてほしい。想えば想うほど感情は強くなっていく。
「ユウディアスのそばにいろって言ったのお前じゃんか」
君の口から出される他者の名前を聞いた時、私の中で何かが切れる音が聞こえた。
私以外の名前を呼ぶな。
そう思ったと同時に身体は動き、気がつけば君に口付けをしていた。寝込んでいた原因なのか、君の唇はカサカサに乾燥している。
潤わせなければと、私は舌を出して舐めていく。ビクッ!と君は肩を揺らしていたが、特に抵抗する仕草もない。拒絶されない事が嬉しく思った。だからこそ、今思っていることを伝えなければと、口付けを止めた私は君を強く抱き締めて言葉を発する。
「愛してます……愛しているんです」
そう言うと、急に突き飛ばされてしまった。胸元から伝わるその衝撃で、私は少し我に返る。先を急ぎ過ぎたのだろうか。だが、ここまで進めてしまったのだから、もう一度本心を伝えようと思った。
君の事が好きなのだと、あの事件から君の事が心配であったと。そう言おうと口を開いたと同時に、先に声を掛けたのは君だった。
「お前のその言葉ってさ、本当に俺に向けて言ってるの?」
君の言葉に、私は一瞬、理解出来なかった。
「どういう意味です?」
「なんだろ。お前の目線や言葉って、俺じゃない誰かに向けて言ってる感じがするんだ」
「っ!」
「お前、俺のことを見てないだろ?」
違う。違うんだ。私はユーヒも君も……いや、私は本当に君の事を個人として好きなのだろうか。君の言うとおり、私は君をユーヒと重ねているだけで、違う。私は君の事も愛しているんだ。
どうにかこの気持ちを声に出したくても、何故か口内は乾ききっており、喉奥に何かが詰まってるかのように上手く出せずにいた。早く伝えなければと、私は口を開いた。
「……そんなことは」
なんて情けない声なんだ。ハッキリ言えてない事に、私はギリッと右手を強く握り締める。こんな声では、君は理解してくれない。納得してくれない。
案の定、君の表情は険しく、眉間に皺を寄せている。このままではダメだと、私は手を伸ばそうとするが君は一歩後ろへと下がっていく。
「ま、お前が俺を誰かの代用として見ていても、俺は……」
話していた途中で急に口をつぐみ、その先の言葉を放たない。私は何を言いたいのか、全身のカッパ体液が止まらずに君の名前を呼ぼうと口を開く。
「王道遊飛?」
「うん。お前、一度考え直した方がいいよ」
勝手に一人で納得した表情をし、軽く頷く君。一体何を納得したというんだ。私を置いて話を進めないでほしい。
「俺はしばらく、お前に会うつもりはないから」
それだけ言い残し、私を置いて去って行った。しばらくとは、いつまでを指すんだ。すぐに追いかけたかった。だが、それは出来なかった。
君の言葉は本気である事は伝わっていた私は、まるで両足に足枷があるかのように重たく、動かすことが出来なかった。
そして、君の後ろ姿が見えなくなるまで、私は黙って眺めることしか出来ずにいた。
◇◇◇
王道遊飛から会わないと言われ、早3日の時間が経った。彼は言っていた通り、私と会うこともなく、また私も会おうとしても会わせてはくれなかった。
どうにか接触しようとしても、偶然なのか必然と言いたいのか、同じ町に住んでいるのに、こんなにも会えないものなのかとも思った。
内心舌打ちしたい気持ちであるが、今彼を一人にする訳にはいかない。それを忠告したくても、それを伝える術はない。ならば、あのベルギャー星人に頼むしかない。
そう、私はちょうど商店街に一人でいた水色髪のベルギャー星人の後ろ姿を見つけ、声を掛けた。
「ユウディアス・ベルギャー」
「おぉっ!この前の探究心が強い河童星人ではないか!」
私の声に振り返ったと同時に、眩しい笑顔で私の名前ではなく異星人として呼んできた。そういえば、名前を伝えていなかったな。
「合羽井テルです」
一応、名前だけは名乗っておこうと、私はそう伝えながらベルギャー星人へと近づく。そして、私は相手の顔を見てみると何やら不思議そうな目線で首を傾げていた。
「どうしたのだ?遊飛は今日、ソレガシと一緒ではないぞ?」
目的が王道遊飛であることは、わかっているらしい。それならば話は早い。
「今日は君に用がある」
「ソレガシにか?」
私はそれだけ言い、着いてくるようにと合図を送る。ここでは人の目が多すぎる。もし、アースダマーの話を第三者に聞かれてしまえば王道遊飛の身に何が起こるかわからない。いや、もう既に何かが起きてしまってるいるが。
そう思いながら私は歩き始めると、背後から私の後を追う足音と気配は感じた。そして、人気のない所へとたどり着いた私は足を止め、振り返ると同時に本題を話そうと口を開いた。
「アースダマーの存在が知れ渡った今、彼は狙われやすくなる」
「っ!」
私の言葉の意味がすぐに理解したのか、先程までの優しい眼差しが一気に戦士へと変わっていく。彼もまた王道遊飛に魅入っているのだろうか。いや、彼の眼差しはどちらかと言うと友愛や仲間としての方が強いのだろう。
仲間思いであることは、これまで王道遊飛を観察していた時にわかっていた事だ。だからこそ、このベルギャー星人は使えると思ったのだから。
「MIKや他宇宙人にとって、アースダマーの力は危険であり、また魅力的でもある」
「だが、アースダマーは遊飛から切り離されているのだろう?」
「えぇ。ですが、保有者であるのは変わりない」
1ダマーを抜き取ったとして、あれが全てでは無い可能性もある。もしかすると新たなアースダマーが、王道遊飛の中で構築される可能性だってありえる。そうでは無い場合であっても、元々あの力は彼の中にあったものだ。
「彼を使ってアースダマーの力を制御させる可能性もある」
そうなった場合、今度こそ彼は危うくなる可能性が高い。ただでさえ精神だけが連れて行かれ、意識が戻ったのは奇跡に近いものだ。次も同じ様な奇跡が起こることは難しい。
「彼を守ってほしい」
そう私は頭を軽く下げた。
「何故、そこまで遊飛を気にするのだ?」
不思議に思いながら問い掛けてくる彼に、頭を上げた私は答えようとした。王道遊飛は私の番であり、運命の花嫁であることを。
「彼は私の……いいえ、彼に伝わってなければ意味はない」
だが、そんなことをベルギャー星人に話したとして、王道遊飛に拒絶されることは目に見えていた。そう思うと、胸あたりが苦しくなっていくのを感じ、私は目を細めて俯く。
「なにがあったか知らぬが、遊飛は優しいし面倒見もいい、ソレガシの大切な親友だ!」
「わかってますよ」
王道遊飛は大の付くほどのお人好しであり、種族関係なく優しく接している。どんなに姿形が違っていたとしても、同じヒトとして見ている。そんな彼に私は惹かれたんだ。
ユーヒも同じだ。あの拾ったペットにも優しく接していた。そう、私がどんなに危険だと言ったとしても、ユーヒは…あのペットを…ペット?どんなペットが私達の側にいたんだ?
ふと私は一つの疑問を抱いた。その同時に私の視界は急に砂嵐へと変わっていく。
『お前、もう少し優しく接したらどうなんだよ』
ユーヒと同じ声なのに別人である言葉遣いに、私は一瞬何が起きたのか分からなかった。なにより姿がまったく見えなかった。確かに目の前に誰かが居たのに。
全てが砂嵐によって見えなくされていることに、私は思い出させようと脳を掻き回すかのように唸ってみる。それと同時に、背後から感じた強い光。
私は振り返り、天に昇る一筋の紫色の光に目を大きく見開く。
「っ!」
「なんなのだ、今の光は」
あぁ、どうしてこのタイミングなんだ。
また、私から奪おうとするのか。
「アースダマー」
その光が立っている場所は、王道遊飛が居るUTSの事務所であることに、嫌な予感が私の中で渦巻いていくのであった。
2023.08.09