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<テルゆひ> 惑星の花嫁

 昨日、ようやく出会えたあの子と会話をした。だからこそ、私は記録を残していこうと打ち始めた。忘れないようにと。
 過去に一度は会っているが、あの時は彼があの子であるというのに気づいていなかった。だから、ノーカウントに等しい。
 王道遊飛。ユーヒの生まれ変わり。私の花嫁。私のたった一人の大切な存在。守りたかったのに、守れなかった存在。

『また会おうな……テル』

 最後に交した言葉を思い出した私は、記録として打ち込んでいた指を止めた。とくんとくんっと、いつもより早い心拍。そこから感じる温かさに、私は自然と口角が上がっていく。

「そうだな。ようやく会えた……」

 止まっていた時間が動き出した。その感覚が、私の魂が潤い始めていく。だが、カッパ体液が収まることは無い。
 この乾いている気持ちは理解できる。彼が私の気持ちを受け入れてくれてないからだろう。

「だとしても、私は諦めるつもりはない」

 ようやく出会えたのだ。この機会を逃すつもりもなければ、手放すつもりもない。ユーヒの記憶がなくても、もう一度落とせばいいのだ。

 今度は勝手な行動を起こさないようにーー

「だとしても、王道遊飛も君と似た行動をするからな」

 こうして記録している合間に、もしかすると想定外なことをしているかもしれない。そう考えれば考えるほど、私の中で嫌な予感がした。
 こういう時の私の勘は当たるものだから。

「念の為、見に行こう」

 雑念が入ってくる原因で、記録を上手くまとめられないという理由をつけて私は立ち上がった。決して、王道遊飛を遠くからでもいいから眺めたいという訳ではない。そう、これは観察でもある。

「この時間ならば、きっとまだ事務所に居るだろう」

 昨日、クリーニングした服を彼は結局取りに来なかった。これはチャンスだと思った私は、配達して彼の家は把握したのだ。そして、何時頃に配達した方が調度良いのか等、内部情報も大体は理解した。
 キュウリが入っているペットボトルと、必要道具を片手に私は外へと出た。暗闇の地下室から急に出た事で一瞬、目の前が白くなったがすぐに視界は慣れていく。

「さて、向かいますか」

 それだけ言い残し、私は事務所へと向かっていく。最初は車で向かおうと思ったが、流石にクリーニングの車では目立ってしまうかもしれない。
 今回は徒歩で向かい、数十分掛かったが到着した。一応、誰もいないことを確認する。人の気配が無いことを確認した私は白衣のポケットに両手を入れ、物陰に隠れながら事務所が見える場所へと移動する。

「見つけた」

 やはり事務所内に居た彼に、私は目を細めて見つめる。顔色が悪そうに見えるが、あれもアースダマーの影響なのだろうか。
 会話を聞き取りたくても、距離が遠い原因でわからない。これでは、彼の体調変化などの研究が進まない。

「近々、盗聴器を設置した方がいいな」

 もし設置するとなると、ほとんどの人が外出している時がいいだろう。その方が私も楽だ。鍵関連とかはそこはなんとかなる。
 少しでも彼の異変が気がつけるならば、些細な事でも構わない。もう、あのような気持ちになりたくはない。今度こそ、私は君を守ってみせる。
 そう思っている時、ツキッと右手から痛みが走る。よく見てみると、手のひらには爪先がくい込んでいる痕があった。無意識に手を握り締めていたのだろう。私は目を細め、一部赤くなってるのを眺めた。

「私の目に見える間は、起こさせるものか」

 そう呟きながら顔を上げ、もう一度、彼の姿を見つめる。これで問題なければ研究所へ戻ろうと思った。
 だが私は、ふと彼の行動を見て気がつく。

「あのベルギャー星人と距離を置いている?」

 よそよそしいと言うのだろうか。ベルギャー星人が近づこうとすると、彼は鉢合わせしないように逃げるようにも見えた。
 誰かと話してる途中でも、会話を中断して部屋を後にする。そんな彼の行動を眺め続けていると、ついに一人で外に出てきた。
 走り去っていく彼の背中を追い掛け、眺めながら私は一つ息をこぼす。

「私の言いつけを守らないか」

 本当に困った存在だ。いや、むしろその行動が、私にとって探究心をくすぶらせる。今だって私の心臓は君の行動で何を起こすのか、不安もあれば楽しみになっていたりしてるのだから。

「君は本当に面白い存在だよ」

 軽く笑いながら私は彼の後を追って行く。今はまだ彼を、一人にさせる訳にはいかない。それに、アースダマーの何か影響が出て昨日のように倒れても困る。
 もし誰にも知られないまま、彼が消えてしまうという想像をしただけでもゾッとする。この気持ちの温度差は、しっかりしなければとも思った。愛しい私の花嫁。出来ればもう外に出ないように、私の用意した箱庭に閉じ込めておきたい。
 だが、それだと私にとって魂が潤わないのもわかっている。あぁ、本当に君は、骨の髄まで私を犯していく。昔も今も、私は君の眩い光に魅入られているんだ。

「だからこそ、閉じ込めてはいけない」

 そう私は言い聞かせるように呟き、囲いたい衝動を抑え込む。今彼が一人だからと、連れ去ろうとは思ってはいけない。
 身体中に溢れてるカッパ体液に、私は水分不足にならないようペットボトルに口つける。体内へ流れ込んでくる冷たい水。少しだけ気持ちが和らいだ私は、彼が向かっている場所へと歩んで行った。
 そして歩き始めてから時間が経ち、私はふと気がついた。この場所は、昨日私とデュエルした場所だと。何故、彼がこの場所へと向かっていたのか分からない。
 ようやく足を止めた彼の表情も、なにやら戸惑っているかのように見えた。もしかして、無意識でここまで歩いてきたのか。

「誰が!お前の!言うことなんか!聞くかーーっ!」

 急に叫び出した彼の背中を見て、私はすぐにその言葉の意味がわかった。昨日、私が忠告したことを聞く気は無いという意思の表れなのだと。本当に彼はとても面白い。
 そう思いながら私は静かに彼の背後に立っていると、振り返ってきた彼がぶつかった。きっとそうなるとわかっていた分、私は特に痛みは感じなかった。むしろ、顔を上げて私の顔を見た彼の表情が、会いたくなかったかの様に見える。
 そして、私は彼に今日の行動のおかしさや、あのベルギャー星人を避けていることについて指摘した。すると彼はまるで抱えていた感情を爆発したかのように、私に向けていろいろと吐き出してきた。

「お前に言われてから、なんか変な感じなんだよ!」

 最後に言った言葉に、私は聞き逃さなかった。彼は余計なことを言ったと、そう思っているみたいだが。
 私は逃がしたくない思いで彼の手を掴み阻止する。彼の口から答えが出るまで、絶対に離すつもりはないと強く握り締める。そして彼もようやく諦めたのか、固く閉ざしていた口を開いた。

「同性のお前に言われて、気持ち悪いって感じがしなかったんだよっ!」

 その言葉を聞いて、私は少しだけ目を見開き、胸あたりが強く鼓動を打つのを感じた。
 つまりそれは、私の告白を受け入れているのではないのか。お付き合いOKという意味なのではないのか。そう思えば思うほど、魂が潤っていくのを感じていく。
 あぁ、そんな表情で私を見つめてくるな。前の君と違う、そんな意識してる仕草を見てしまったら私は。私は……

 今すぐにでも君を囲いたくなってしまうではないかーー

 私の脳内は連れ去ろうという意志へと、ドロドロに犯されていくのを感じる。駄目だと頭では理解していても、身体は動いてしまう。掴んでいた彼の手を強く引き、私は強く抱き締めて彼の顎下に指を置き、上へと持ち上げて目線を合わせた。

「王道遊飛。君は私の好意を気持ち悪いとは感じてない。つまり君は、私の好意を受け止めようとしている」
「ちがっ!俺は「なら、試してみますか?」

 言葉で伝えても理解しないなら、物理で理解させるしかない。ユーヒも王道遊飛も、こうでもしなければ受け入れてくれない。それに、君は私の気持ちを無意識に受け止めてるんだ。口付けの一つくらいしても、問題ないと私はそう思っている。
 息が掛かるくらいの至近距離まで顔を近づけた時、胸元から強い衝撃が走った。急な事で私はバランスを崩し、彼から離れてしまった。

「ぜったいに!違うからな!誰がお前の気持ちを受け止めるか!」

 そう言い残し、彼は私を置いて去っていった。顔をあんなにも赤く染めていて、何が受け止めるかなんだろうか。あぁ、あぁ、私の気持ちが乾いていくのを感じる。
 先程まではあんなにも潤っていた気持ちが、彼に拒絶されただけでこんなにも乾くなんて。どうしたらいい、この乾いた気持ちを潤す為には。

「やはり囲うしかないのか」

 ボソッと私は小さく呟いた後、彼を追いかけようと思った。だが、足が思うように動かない。まるで追ってはいけない。と、私の意志とは反するようだ。
 囲ったところでなんになる。そんなことをすれば、彼の笑顔が無くなることは目に見えているだろう。

『君って、時々執着心が強いからね……』

 ユーヒが言っていた言葉をふと思い出した私は、ギリッと奥歯を噛み締める。

「……執着しても構わないだろ」

 それくらい私の心は、全て君に持っていかれているのだから。だからこそ、早く研究を進めなければならない。
 いつアースダマーが暴走し、君が巻き込まれてしまわないか不安だから。その不安を早く脱ぎ取り、君の隣に並べるように私は研究所へと戻って行った。

そして数日が経ち、アースダマーの力を使ったモンスター実体化実験が始まった。

つづく…?

2023/06/04
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