<テルゆひ> 惑星の花嫁
「まさかアースダマーがあんな形してたなんて……」
禍々しい色と形。それが自身の体内にあったものだと、そう考えただけでもおぞましい。遊飛は再び気持ち悪くなり、口元を手の平で覆い被せ、吐き気を抑え込む。
「おえっ……」と小さ呟いた後、遊飛はもう一つの出来事を思い出す。
『王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁』
昨日会ったテルの言葉に、先程の吐き気は急に消えた遊飛は顔が熱くなっていくのを感じた。
あの時のテルから聞かされた言葉は、何故か気持ち悪いという感情はなかった。友愛として好意を向けられるのは嬉しい。けど、テルの想いは友愛ではなく恋愛としての好意。
『君は私の花嫁だというのは決まっているので』
真剣な眼差しで伝えるテルの顔や瞳が綺麗だったとか、本気で自分の事が好きなのだと、いくら鈍感な遊飛でもそれは理解出来た。だからこそ嫌悪感より喜びに満ち溢れている感情になっていることが、今の遊飛にとって問題である。
(なんで、俺が照れるのかがわからない!)
火照っている頬を両手で触れ、遊飛は気持ちが上手く整理できず、内心かなり焦った。こんな風に思い悩むのはラッシュデュエル以外は初めてである。
(え、俺ってそっちの気もあったの?いや、そんなわけないよな!?)
いや、そんなこと無いはずだと遊飛はそう思った。確かに美形系や可愛い系の男子を見たとしても、周りが言ってる通り「そうだなぁ」という感覚だけである。
決して同性相手を恋愛として好きになる事までは、これまで起きたことはなかった。
「俺は綺麗なお姉さんが好き、俺は綺麗なお姉さんが好き、俺は綺麗なお姉さんが好き……」
そう刷り込ませるように遊飛は言い続けていると、遊飛の背後から近づいてくる一つの人影。
「さっきから、何一人で百面相してるのサ?」
「わぁっ!なんだ、遊歩か」
ひょっこりと現れた遊歩に驚き、声を上げた遊飛。だが、相手が遊歩だと知ったらすぐにホッとした表情へ切り替えると、遊歩が軽く首を傾げていた。
「遊飛、昨日から様子がおかしいヨ?」
「へっ?!そ、そんな、俺はいつも通りだよ!」
慌てて答えたのが不味かったのか、遊歩の表情が険しくなっていく。こういう時の遊歩の直感は当たりやすく、もし遊飛が考えていることを見抜かれたらと内心焦っていた。
そう思っていると、遊歩は遊飛の肩に触れて優しく叩く。
「まぁ、あんなの見ちゃったら、トラウマレベルになるのはわかるヨ」
哀れみな目でそう言う遊歩に、遊飛は間の抜けたような表情をし、何度か瞬きした。勘違いしていてくれていたことに、すぐにその話題へと切り替えようと遊飛は笑顔を向ける。
「え、あ、うっうん!そうだよなぁ、あんな禍々しいのが俺の中にあったなんてなぁ!は、ははははははははははっ!」
笑いながらそう言い、遊飛はバレてないことに安心した。
もしバレてしまったら、ネタとしてからかわれる未来が目に見えていたからだ。話題を何とか反らせて安心した時、廊下からユウディアスの声が聞こえ、遊飛はビクッと身体を震わせる。
「あっ!そうだ、用事があったから俺行かなきゃ!」
「ちょっと、遊飛!」
ユウディアスが部屋に入ってくると同時に、遊飛はユウディアスを横切って部屋を後にした。
背後からユウディアスの驚いた声が聞こえたが、遊飛は振り返らずに外へと飛び出す。
「ごめん、ユウディアス」
今の行動はおかしく思われたかもしれないが、遊飛は小さな声で謝りながら商店街へと向かっていった。
◇◇◇
特に買いたいものはなく、遊飛は各店舗を見渡しながら歩いていた。
少しでも気晴らしになるかと思いながら歩き続けていると、遊飛が着いた場所は昨日テルとデュエルした場所だった。
「え、なんでここに来てんだ、俺?」
無意識に向かってたとしても、なぜこの場所なのか遊飛はわからなかった。
早くこの場から離れようと思ったのに、遊飛はそのまま足を進めていき立ち止まる。
そして、まわりを見渡しながら昨日のテルから聞かされた言葉がリフレインするように思い出した。
『なるべく、あのベルギャー星人と一緒にいてください』
あの時、語っていたテルの瞳が初めて会った時と違うのを遊飛は感じていた。
まるで慈しみ、愛おしそうな瞳。その眼差しを向けていることに、何故か自身の胸は喜びに満ち溢れていたことに。
「っ!?」
それを思い出した遊飛は顔がまた熱くなっていき、忘れさせるように首を横に振った。
まわりから見れば首がもげてしまうのではないかと、そう思うくらい振り続けた遊飛は動きを止めて口を開く。
「誰が!お前の!言うことなんか!聞くかーーっ!」
青空へ向かって大声で叫び、遊飛は息を上げながら最後に深く息を吐いた。
少しだけ気持ちがスッキリした遊飛は、帰ろうかと振り返ると、トンっと何かにぶつかる。
「いたっ!」
後ろには何も無かった分、きっと背後にいた誰かとぶつかったのだろう。
遊飛は当たった鼻先を擦りながら、ぶつかった相手に謝罪しようと顔を上げて硬直した。
今、一番会いたくなかった人物が目の前に立っていたのだから。
「なるほど。つまり、私の助言を聞く気は無いと」
「な、なんでお前がここにいるんだよ!」
さっきの叫びを聞かれていたことに、遊飛は驚いた声を上げながらテルに向けて指を指した。
指された方は特に気にとめていない表情であり、遊飛の問いに答えようと口を開いた。
「君が一人でいたからね」
「別に俺が一人でいるのは勝手だろ!」
キツい言葉遣いで遊飛はそう言うと、テルの瞳を見てその先の言葉が詰まってしまう。
(なんで、そんな悲しそうな目をしてるんだよ。まるで、俺が悪いみたいじゃん)
表情はいつも通りすんっとしたものだが、瞳の動きが違うことに遊飛は気づく。さらにテルの身体がさらに濡れていってるのを見て、遊飛は胸あたりに痛みを感じた。
テルを虐めているかのように感じながらも、遊飛は軽く首を横に振って気持ちを切り替える。
そして、ずっとモヤモヤしていた気持ちを吐き出そうと、キッと遊飛はテルを睨んだ。
「だ、大体!お前が変なこと言うからだろ!」
「変なことですか?」
はて?と、身に覚えがないような仕草をとるテルに、遊飛はカッと頬を赤く染める。
そして昨日、テルが言った言葉を話そうとするが、本人の前で花嫁という単語を上手く出せずに口ごもっていた。
「お、俺の事をは、ははははな「あぁ、花嫁ですか」
サラッと言うテルに、遊飛は顔をさらに赤く染め上げていく。
面と向かって直球に言えるテルの神経に、着いて来れなくなってる遊飛は金魚のように口をパクパクと動かすことしか出来なかった。
なんでこんなにも真っ直ぐで、羞恥心もなく言えるのだろうかと、遊飛はそう思っているとテルの手が遊飛へ向けて伸ばされる。
「言ったでしょう。何百年経っても、花嫁である君を見つけると」
まるで壊れ物に触れるかのように遊飛の頬に手を当て、目を細めてそう言うテル。その言葉を聞いた遊飛はというと、ツキッと一瞬だけ頭痛が走った。
(あれ?なんで、聞き覚えある気がしてるんだ?)
初めて聞いた言葉なはずなのに、遊飛はその言葉がとても懐かしく感じた。全身に染み渡っていくような感覚。
何時、何処で聞いたのか。遊飛が思い出そうとすると、また頭からズキッと今度は強い痛みが走る。
(ダメだ、頭が痛い……)
これ以上、考えるとダメだと思った遊飛は思考を止めた。
すると、先程までの痛みが嘘のように消えていく。アレはなんだったのかと、遊飛はそう思っているとテルが両腕を組んで軽く息を吐いていた。
「それより、私の原因であのベルギャー星人「ユウディアス」ベルギャーせ「ユ、ウ、ディ、ア、ス」
昨日、注意したのにテルは宇宙人名を呼ぶことに、遊飛は再度念を押すように言う。
何度も言い聞かせられたテルの方は、咳払いするように手を口元に当てた。
「こほん、ユウディアスと接触しないようにしてるのですか?」
「っ!」
そうテルの問い掛けに遊飛は、どう答えればいいのかわからなかった。
確かにその問いは間違っていない。現に、テルの言葉の原因で、ユウディアスとどう接していけばいいのか、遊飛はわからなくなっていたのだから。
遊飛は何も言い返すことが出来ずにいると、「やはり」と納得するテルの言葉が聞こえた。
「まさか、私の原因で変に意識をしていたなんて」
その一言に遊飛の中で何かが切れる音が聞こえた。
「お前があんな変なことを言うからだろ!だから宇宙人は皆、性別関係なくそういう気持ちもあるのかと考えちゃったし。いや、そういう感情に関しては気持ち悪いとか思ってないし、そこは人それぞれだと考えてるけど……大体!俺はそっちの気もないのに!お前に言われてから、なんか変な感じなんだよ!」
言いたいことを全て相手にぶつけるように叫び、遊飛は息を上げながら「あっ……」と最後に声を漏らした。
言ってはいけない部分まで、テルに言ってしまったからだ。
「ほぉ、それはどんな感じなんです?」
案の定、興味ある眼差しで言うテルに、遊飛は墓穴掘ったと思った。
この場から逃げるべきだと考えていたが、先読みされていたのか、いつの間にか手を掴まれてしまっていて動けなくされてしまう。
「っ!」
掴まれた手首からは濡れていくのを感じ、遊飛は振り解こうと動かしてみる。
やはりうまく振り解くことができず、じわじわと手袋から染み渡っていく。このままでは片腕の袖だけがずぶ濡れになってしまうと、遊飛は決して近くにいて心臓がうるさくなってるから離して欲しい訳でないと、そう思いながら口を開いた。
「同性のお前に言われて、気持ち悪いって感じがしなかったんだよっ!」
そうはっきりと伝え、遊飛は穴があったら入りたい気持ちだった。恥ずかしい気持ちや、今言ったことで相手はどう思っているのだろうか。
徐々に上がっていく体温と心臓の鼓動に、遊飛はふとある事に気がつく。さっきまでびしょびしょであったテルの手が濡れていないことに。
「え、なんで乾いてるの?」
「君の口からそれを聞けて、潤ったからかな」
「意味わかんないんだけど……」
テルの言葉にますます困惑し、遊飛は眉間に皺を寄せていく。その表情を見ていたテルも釣られてなのか、遊飛と同じく眉間に皺を寄せ目を細めている。
「無自覚なのか。そうか……」
まるで残念そうな眼差しで見下ろすテルに、今度は胸がツキッと痛みが走る。何故、彼のこの表情を見る度に胸が痛むのか。こんなにも罪悪感に駆られるのか。
自然と「ごめん」の言葉が出そうになるのを、グッと声に出さないよう抑え込む。その後に鼻で息を吸い込み、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
少しだけ気持ちがマシになった遊飛は、なんでもいいからすぐに離れようと掴まれている腕を振りほどこうとした、その時。
「っ!」
気がつけば腕を引っ張られ、そのまま磁石の様に引き寄せられて抱き止められた。逃げられないようにしてるのか、遊飛の腰周りにテルの腕が回してガッチリとホールドされてしまう。
至近距離までの密着感に遊飛は焦った。もしかしたら、うるさく鳴ってる心臓の音がテルにバレてしまうのではないかと、そう思ったからだ。
洋服が濡れるとかの思考までいっておらず、遊飛がパニックしてるうちに、テルの指が遊飛の顎下へと触れられる。そして、くいっと持ち上げられて目が合った。
「王道遊飛。君は私の好意を気持ち悪いとは感じてない。つまり君は、私の好意を受け止めようとしている」
「!?」
真っ直ぐな瞳でそう告げられ、遊飛の心臓が強く鳴った。
全身の血液が音速のように流れていき、指先や頬などが徐々に熱が帯びていくのを感じる。一気に体温が上がったことで、背中から汗が流れ落ちていき、遊飛の呼吸が少しだけ荒れていく。何か言わなくては、このままだと相手に合っていると解釈取られてしまう。
遊飛は瞳を揺らしながら、閉ざしていた唇を開いた。
「ちがっ!俺は「なら、試してみますか?」
拒絶の声を上げてる途中を遮り、テルの腕に力が入ったことを遊飛は気づく。
何を試すのかと遊飛は思っていると、テルの顔が近づいてくる。視界がテルの瞳の色で一杯なりそうな時、遊飛はキスされると気がつき、テルの胸元に手の平を当てて力強く突き飛ばした。
「っ!」
何とかテルから離れた遊飛は何歩か後ろへと下がっていき、突然の事でテルは驚いた表情をしながら遊飛を見つめていた。
遊飛は今テルの顔を見たら身体が動けなくなると思い、ギュッと目を瞑りながら思っていることを口に出す。
「ぜったいに!違うからな!誰がお前の気持ちを受け止めるか!」
そう言って遊飛は、この場から離れようと駆け出した。前回と似たような事をしてると思いながら、遊飛は後ろへ振り返らず全速力で事務所へと戻っていく。
追われていないことを確認取る暇もなく、遊飛はただただ走り続けた。そして、事務所へ着いて早々に自室へと入り、強くドアを閉めた後に遊飛は大きく息を吸う。
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
呼吸するのを忘れるくらい、遊飛は全力疾走で走っていた。足は震え、いきなり空気を送り込んだからか肺は痛く、喉も乾ききった感覚がする。
そのまま床へと座り込んだ遊飛は両足を抱え込み、顔を埋めて弱々しく首を横に振った。
「違う。こんなにも心臓がうるさいのも、身体が熱いのも、全力で走ったからだ……」
そう言い聞かせながら遊飛は、汗でベッタリと衣服が肌に張り付いていることを気にならず、ただただ早くこの火照っている身体とうるさく鳴り響いている心臓の音が止むのを待つばかりであった。
つづく…?
2023/05/28
禍々しい色と形。それが自身の体内にあったものだと、そう考えただけでもおぞましい。遊飛は再び気持ち悪くなり、口元を手の平で覆い被せ、吐き気を抑え込む。
「おえっ……」と小さ呟いた後、遊飛はもう一つの出来事を思い出す。
『王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁』
昨日会ったテルの言葉に、先程の吐き気は急に消えた遊飛は顔が熱くなっていくのを感じた。
あの時のテルから聞かされた言葉は、何故か気持ち悪いという感情はなかった。友愛として好意を向けられるのは嬉しい。けど、テルの想いは友愛ではなく恋愛としての好意。
『君は私の花嫁だというのは決まっているので』
真剣な眼差しで伝えるテルの顔や瞳が綺麗だったとか、本気で自分の事が好きなのだと、いくら鈍感な遊飛でもそれは理解出来た。だからこそ嫌悪感より喜びに満ち溢れている感情になっていることが、今の遊飛にとって問題である。
(なんで、俺が照れるのかがわからない!)
火照っている頬を両手で触れ、遊飛は気持ちが上手く整理できず、内心かなり焦った。こんな風に思い悩むのはラッシュデュエル以外は初めてである。
(え、俺ってそっちの気もあったの?いや、そんなわけないよな!?)
いや、そんなこと無いはずだと遊飛はそう思った。確かに美形系や可愛い系の男子を見たとしても、周りが言ってる通り「そうだなぁ」という感覚だけである。
決して同性相手を恋愛として好きになる事までは、これまで起きたことはなかった。
「俺は綺麗なお姉さんが好き、俺は綺麗なお姉さんが好き、俺は綺麗なお姉さんが好き……」
そう刷り込ませるように遊飛は言い続けていると、遊飛の背後から近づいてくる一つの人影。
「さっきから、何一人で百面相してるのサ?」
「わぁっ!なんだ、遊歩か」
ひょっこりと現れた遊歩に驚き、声を上げた遊飛。だが、相手が遊歩だと知ったらすぐにホッとした表情へ切り替えると、遊歩が軽く首を傾げていた。
「遊飛、昨日から様子がおかしいヨ?」
「へっ?!そ、そんな、俺はいつも通りだよ!」
慌てて答えたのが不味かったのか、遊歩の表情が険しくなっていく。こういう時の遊歩の直感は当たりやすく、もし遊飛が考えていることを見抜かれたらと内心焦っていた。
そう思っていると、遊歩は遊飛の肩に触れて優しく叩く。
「まぁ、あんなの見ちゃったら、トラウマレベルになるのはわかるヨ」
哀れみな目でそう言う遊歩に、遊飛は間の抜けたような表情をし、何度か瞬きした。勘違いしていてくれていたことに、すぐにその話題へと切り替えようと遊飛は笑顔を向ける。
「え、あ、うっうん!そうだよなぁ、あんな禍々しいのが俺の中にあったなんてなぁ!は、ははははははははははっ!」
笑いながらそう言い、遊飛はバレてないことに安心した。
もしバレてしまったら、ネタとしてからかわれる未来が目に見えていたからだ。話題を何とか反らせて安心した時、廊下からユウディアスの声が聞こえ、遊飛はビクッと身体を震わせる。
「あっ!そうだ、用事があったから俺行かなきゃ!」
「ちょっと、遊飛!」
ユウディアスが部屋に入ってくると同時に、遊飛はユウディアスを横切って部屋を後にした。
背後からユウディアスの驚いた声が聞こえたが、遊飛は振り返らずに外へと飛び出す。
「ごめん、ユウディアス」
今の行動はおかしく思われたかもしれないが、遊飛は小さな声で謝りながら商店街へと向かっていった。
◇◇◇
特に買いたいものはなく、遊飛は各店舗を見渡しながら歩いていた。
少しでも気晴らしになるかと思いながら歩き続けていると、遊飛が着いた場所は昨日テルとデュエルした場所だった。
「え、なんでここに来てんだ、俺?」
無意識に向かってたとしても、なぜこの場所なのか遊飛はわからなかった。
早くこの場から離れようと思ったのに、遊飛はそのまま足を進めていき立ち止まる。
そして、まわりを見渡しながら昨日のテルから聞かされた言葉がリフレインするように思い出した。
『なるべく、あのベルギャー星人と一緒にいてください』
あの時、語っていたテルの瞳が初めて会った時と違うのを遊飛は感じていた。
まるで慈しみ、愛おしそうな瞳。その眼差しを向けていることに、何故か自身の胸は喜びに満ち溢れていたことに。
「っ!?」
それを思い出した遊飛は顔がまた熱くなっていき、忘れさせるように首を横に振った。
まわりから見れば首がもげてしまうのではないかと、そう思うくらい振り続けた遊飛は動きを止めて口を開く。
「誰が!お前の!言うことなんか!聞くかーーっ!」
青空へ向かって大声で叫び、遊飛は息を上げながら最後に深く息を吐いた。
少しだけ気持ちがスッキリした遊飛は、帰ろうかと振り返ると、トンっと何かにぶつかる。
「いたっ!」
後ろには何も無かった分、きっと背後にいた誰かとぶつかったのだろう。
遊飛は当たった鼻先を擦りながら、ぶつかった相手に謝罪しようと顔を上げて硬直した。
今、一番会いたくなかった人物が目の前に立っていたのだから。
「なるほど。つまり、私の助言を聞く気は無いと」
「な、なんでお前がここにいるんだよ!」
さっきの叫びを聞かれていたことに、遊飛は驚いた声を上げながらテルに向けて指を指した。
指された方は特に気にとめていない表情であり、遊飛の問いに答えようと口を開いた。
「君が一人でいたからね」
「別に俺が一人でいるのは勝手だろ!」
キツい言葉遣いで遊飛はそう言うと、テルの瞳を見てその先の言葉が詰まってしまう。
(なんで、そんな悲しそうな目をしてるんだよ。まるで、俺が悪いみたいじゃん)
表情はいつも通りすんっとしたものだが、瞳の動きが違うことに遊飛は気づく。さらにテルの身体がさらに濡れていってるのを見て、遊飛は胸あたりに痛みを感じた。
テルを虐めているかのように感じながらも、遊飛は軽く首を横に振って気持ちを切り替える。
そして、ずっとモヤモヤしていた気持ちを吐き出そうと、キッと遊飛はテルを睨んだ。
「だ、大体!お前が変なこと言うからだろ!」
「変なことですか?」
はて?と、身に覚えがないような仕草をとるテルに、遊飛はカッと頬を赤く染める。
そして昨日、テルが言った言葉を話そうとするが、本人の前で花嫁という単語を上手く出せずに口ごもっていた。
「お、俺の事をは、ははははな「あぁ、花嫁ですか」
サラッと言うテルに、遊飛は顔をさらに赤く染め上げていく。
面と向かって直球に言えるテルの神経に、着いて来れなくなってる遊飛は金魚のように口をパクパクと動かすことしか出来なかった。
なんでこんなにも真っ直ぐで、羞恥心もなく言えるのだろうかと、遊飛はそう思っているとテルの手が遊飛へ向けて伸ばされる。
「言ったでしょう。何百年経っても、花嫁である君を見つけると」
まるで壊れ物に触れるかのように遊飛の頬に手を当て、目を細めてそう言うテル。その言葉を聞いた遊飛はというと、ツキッと一瞬だけ頭痛が走った。
(あれ?なんで、聞き覚えある気がしてるんだ?)
初めて聞いた言葉なはずなのに、遊飛はその言葉がとても懐かしく感じた。全身に染み渡っていくような感覚。
何時、何処で聞いたのか。遊飛が思い出そうとすると、また頭からズキッと今度は強い痛みが走る。
(ダメだ、頭が痛い……)
これ以上、考えるとダメだと思った遊飛は思考を止めた。
すると、先程までの痛みが嘘のように消えていく。アレはなんだったのかと、遊飛はそう思っているとテルが両腕を組んで軽く息を吐いていた。
「それより、私の原因であのベルギャー星人「ユウディアス」ベルギャーせ「ユ、ウ、ディ、ア、ス」
昨日、注意したのにテルは宇宙人名を呼ぶことに、遊飛は再度念を押すように言う。
何度も言い聞かせられたテルの方は、咳払いするように手を口元に当てた。
「こほん、ユウディアスと接触しないようにしてるのですか?」
「っ!」
そうテルの問い掛けに遊飛は、どう答えればいいのかわからなかった。
確かにその問いは間違っていない。現に、テルの言葉の原因で、ユウディアスとどう接していけばいいのか、遊飛はわからなくなっていたのだから。
遊飛は何も言い返すことが出来ずにいると、「やはり」と納得するテルの言葉が聞こえた。
「まさか、私の原因で変に意識をしていたなんて」
その一言に遊飛の中で何かが切れる音が聞こえた。
「お前があんな変なことを言うからだろ!だから宇宙人は皆、性別関係なくそういう気持ちもあるのかと考えちゃったし。いや、そういう感情に関しては気持ち悪いとか思ってないし、そこは人それぞれだと考えてるけど……大体!俺はそっちの気もないのに!お前に言われてから、なんか変な感じなんだよ!」
言いたいことを全て相手にぶつけるように叫び、遊飛は息を上げながら「あっ……」と最後に声を漏らした。
言ってはいけない部分まで、テルに言ってしまったからだ。
「ほぉ、それはどんな感じなんです?」
案の定、興味ある眼差しで言うテルに、遊飛は墓穴掘ったと思った。
この場から逃げるべきだと考えていたが、先読みされていたのか、いつの間にか手を掴まれてしまっていて動けなくされてしまう。
「っ!」
掴まれた手首からは濡れていくのを感じ、遊飛は振り解こうと動かしてみる。
やはりうまく振り解くことができず、じわじわと手袋から染み渡っていく。このままでは片腕の袖だけがずぶ濡れになってしまうと、遊飛は決して近くにいて心臓がうるさくなってるから離して欲しい訳でないと、そう思いながら口を開いた。
「同性のお前に言われて、気持ち悪いって感じがしなかったんだよっ!」
そうはっきりと伝え、遊飛は穴があったら入りたい気持ちだった。恥ずかしい気持ちや、今言ったことで相手はどう思っているのだろうか。
徐々に上がっていく体温と心臓の鼓動に、遊飛はふとある事に気がつく。さっきまでびしょびしょであったテルの手が濡れていないことに。
「え、なんで乾いてるの?」
「君の口からそれを聞けて、潤ったからかな」
「意味わかんないんだけど……」
テルの言葉にますます困惑し、遊飛は眉間に皺を寄せていく。その表情を見ていたテルも釣られてなのか、遊飛と同じく眉間に皺を寄せ目を細めている。
「無自覚なのか。そうか……」
まるで残念そうな眼差しで見下ろすテルに、今度は胸がツキッと痛みが走る。何故、彼のこの表情を見る度に胸が痛むのか。こんなにも罪悪感に駆られるのか。
自然と「ごめん」の言葉が出そうになるのを、グッと声に出さないよう抑え込む。その後に鼻で息を吸い込み、気持ちを落ち着かせるように息を吐いた。
少しだけ気持ちがマシになった遊飛は、なんでもいいからすぐに離れようと掴まれている腕を振りほどこうとした、その時。
「っ!」
気がつけば腕を引っ張られ、そのまま磁石の様に引き寄せられて抱き止められた。逃げられないようにしてるのか、遊飛の腰周りにテルの腕が回してガッチリとホールドされてしまう。
至近距離までの密着感に遊飛は焦った。もしかしたら、うるさく鳴ってる心臓の音がテルにバレてしまうのではないかと、そう思ったからだ。
洋服が濡れるとかの思考までいっておらず、遊飛がパニックしてるうちに、テルの指が遊飛の顎下へと触れられる。そして、くいっと持ち上げられて目が合った。
「王道遊飛。君は私の好意を気持ち悪いとは感じてない。つまり君は、私の好意を受け止めようとしている」
「!?」
真っ直ぐな瞳でそう告げられ、遊飛の心臓が強く鳴った。
全身の血液が音速のように流れていき、指先や頬などが徐々に熱が帯びていくのを感じる。一気に体温が上がったことで、背中から汗が流れ落ちていき、遊飛の呼吸が少しだけ荒れていく。何か言わなくては、このままだと相手に合っていると解釈取られてしまう。
遊飛は瞳を揺らしながら、閉ざしていた唇を開いた。
「ちがっ!俺は「なら、試してみますか?」
拒絶の声を上げてる途中を遮り、テルの腕に力が入ったことを遊飛は気づく。
何を試すのかと遊飛は思っていると、テルの顔が近づいてくる。視界がテルの瞳の色で一杯なりそうな時、遊飛はキスされると気がつき、テルの胸元に手の平を当てて力強く突き飛ばした。
「っ!」
何とかテルから離れた遊飛は何歩か後ろへと下がっていき、突然の事でテルは驚いた表情をしながら遊飛を見つめていた。
遊飛は今テルの顔を見たら身体が動けなくなると思い、ギュッと目を瞑りながら思っていることを口に出す。
「ぜったいに!違うからな!誰がお前の気持ちを受け止めるか!」
そう言って遊飛は、この場から離れようと駆け出した。前回と似たような事をしてると思いながら、遊飛は後ろへ振り返らず全速力で事務所へと戻っていく。
追われていないことを確認取る暇もなく、遊飛はただただ走り続けた。そして、事務所へ着いて早々に自室へと入り、強くドアを閉めた後に遊飛は大きく息を吸う。
「はぁ、はぁ、はぁっ!」
呼吸するのを忘れるくらい、遊飛は全力疾走で走っていた。足は震え、いきなり空気を送り込んだからか肺は痛く、喉も乾ききった感覚がする。
そのまま床へと座り込んだ遊飛は両足を抱え込み、顔を埋めて弱々しく首を横に振った。
「違う。こんなにも心臓がうるさいのも、身体が熱いのも、全力で走ったからだ……」
そう言い聞かせながら遊飛は、汗でベッタリと衣服が肌に張り付いていることを気にならず、ただただ早くこの火照っている身体とうるさく鳴り響いている心臓の音が止むのを待つばかりであった。
つづく…?
2023/05/28