<テルゆひ> 惑星の花嫁
あの子と別れ、どれくらいの時間が経ったのかあまり覚えていない。
だが、私はずっと探し続け、待ち続けていた。
あの子がこの広い宇宙のどこかで、新たな生命として生まれていることを。
そして、ようやく見つけたんだ。
あの子の力を持った地球人の少年を。あの子に似た器でいる、地球人の少年を見て、私は彼の中にあるアースダマーにとても幸福に満ち溢れていた。
「あぁ、やっと見つけた……」
この夏場のアスファルトに放置されたミミズのように乾いた魂を、癒してくれる存在がついに現れた。
そしてラッシュデュエルで勝利し、地球人の少年からアースダマーを回収することが出来た。
「君はここに居るんだ」
アースダマーは未知なる存在であり、未だに解明されてない部分が多い。だが、私はこのアースダマーの中にあの子が眠っているという確信があった。
この力は、元々あの子のものであり、あの地球人の少年はただの器なのだから。
「私の手で、必ず君を復活させてみせる」
君が消えてから、私はそう決めていた。見つけた時は、絶対に君を復活させると。また共に旅をしようと。
だが、私の研究は苦戦した。
「くそっ!」
事前に調べていたが、アースダマーのことを知れば知るほど、謎は深まるばかりだった。
どんなにやっても、あの子を感じられないことに、私は苛立ち、絶望を味わっていた。
「何故だ。何故、君は私の声に応えてくれない……」
目の前に揺れ動くアースダマーに、私は恨めしそうに睨んだ。
まるで上手くいってない私を嘲笑っているかのようであり、それがまた憎たらしく感じた。
どうしたら、囚われているあの子を救い出せる。
どうしたら、あの子の声が聞けるのだ。
「もう一度、私の名前を呼んでくれ」
私は祈るように、アースダマーへ向けて声を掛ける。それでも、アースダマーは何も反応を示してくれない。
「ユーヒ」
か細い声で私は、あの子の名前を呼んだ。
ユーヒ。私の選んだ花嫁。何十年もずっと待ち続けていた存在。
やっとこうして、出会えたのに何が足りないというのだ。
「……やはり、あの子の器である地球人にもう一度、会うしかないな」
私は立ち上がり、あの子の器にもう一度会うことを決めた。だがその前に、仕事を先に終わらせないといけない。
今日の分である仕事を終わらせてから、またあの器に会えばいい。
「さて、本日の分を終わらせましょう」
洗濯済の服を私はアイロン掛けする作業に入っている時、なにやら外から叫んでいる声が聞こえた。
そして力強く開く音がしたが、私はまたクレームかと思いながら気にせずに作業を進めた。
急いで終わらせ、器を探しに行かなくてはならないのだから。
「乾いているんだ……」
考えただけで私の心は乾き、傍に置いていたキュウリ入の水ペットボトルを手に取る。全身に水分を与え、再度作業へと戻ろうとした時に高い声が作業部屋全体に響き渡った。
「あの時の宇宙人だな!」
そう言われ、私は作業を止めて振り返る。
聞き覚えのある声に、私はその先にいた少年を見つめて目を細めた。
(まさか、あちらから来てくれるなんて)
なんて都合のいい展開だと思った。
これこそ地球で言う、飛んで火に入る夏の虫という言葉が、あの器にはピッタリだとそう思った。
「あの時の地球人」
私が声をかけた後に近づき、色々と私に向かって言っている。しかもちょうどいい場所に。
すぐに実行しようと、私は手に持っていたスイッチを押し、地下研究所へと連れて行った。
地下へと落ちていく器を見た後、私は今日の業務について引き継ぎをさせて退勤させてもらった。こういう時こそ、店長の特権を活かすべきだ。
「さて、会いに行きますか」
私も地下研究所へと向かっていき、中へ入ると警戒した状態でいる器がいた。
少しだけ後ろへと下がっているが、私は気にせずに詰め寄っていく。
「ようこそ。ちょうど私も会いたいと思っていました」
そしてあの子に似た器を見下ろし、私は目を細めた。
あぁ、苛立たしい。あの子に似ていることが。私の花嫁に模した存在が。
「いいから正体表わせ!カッパ星人!」
どうやら、あの器はアースダマーを駆けたラッシュデュエルを申し込んできた。
ならば、私が勝った時はあの子を復活させる為の研究材料として、一生飼育と観察をさせてもらう条件を出した。
アースダマーを失い、ラッシュデュエルがダメダメになったと言っていたのに、何故この器は負ける可能性が高いのに条件をのんだのだろうか。
(まぁいい。これで、私の研究は進む)
そう思いながら、私はラッシュデュエルができる場所へと移動した。
デュエルディスクを装着し、私は強気でいる器を見つめる。だが、器のデュエルディスクは私のカッパ体液の原因で起動するどころか爆発音と煙が出始めた。
「ええっ!ショートしたっ!?」
どうやらデュエルディスクが故障したみたいだ。これでは、私とのラッシュデュエルは不可能になった。
私は追い打ちをかけるよう、声を掛けて器を観察する。
(さて、この器はどうするのだろうか?)
あの子の器ならば、どう行動に移すのかほんの少しだけ期待していた。
だが、器は私の期待を裏切るように、悔しそうな表情で諦めかけていた。
(すぐに諦めようとするのか)
やはり、あの子の魂から生まれた器であっても、中身は違うのか。
そう思うと、私はまた乾いていく感覚がした。
「あの子は諦めようとはしなかったのに」
同じ魂だとしても、こうも違ってしまうものなのだろうか。いや、私はただこの器に、期待し過ぎていたのかもしれない。
このままラッシュデュエルが出来ないのならば、不戦勝として私の勝利となる。
(さて、あの器を連れていかなければ)
そう思い、私は器の元へと近づこうとした時、第三者の声が鳴り響いた。声だけだったものは器の前に姿を現したのは、小型の宇宙船。
その小型宇宙船は突然光だし、デュエルディスクへと変形した。
「バリベルギャーがデュエルディスクに変形した!」
「ほぉ……」
どうやら器は、何か引き寄せるものを持ってるらしい。
後から来たベルギャー星人との繋がりがあることも珍しさを感じたが、やはりあの子を超えるような興味は感じなかった。
(あの子も、よく小動物系に好かれていたな)
ふと思い出した過去の記憶。
身体が弱く、脆い存在なのに、いつも誰かの為に必死になっていた。
その度にいろんな者に好かれ、別れを繰り返していた。
「…………」
そういえば、過去にあの子はペットを飼っていたな。
アレはどうしたのだろうか。確か気がついたら、居なくなっていた気がする。
(いや、何かあったような……)
駄目だ、器を見ていると忘れていた思い出が溢れかえって、私の魂が乾いていく。
「今はデュエルに集中しなければ」
そう私は言い聞かせ、カードをドローする。
最初の手札を見ながら、器のデッキを思い出し、いつも通りの戦術でトラップカードとモンスターカードを伏せていく。
だが、器は新たなデッキを構築していた。そこはしっかり対策を練っているようだ。
(それでも、まだ詰めは甘い)
本気で私に勝つ気はあるのか。それともアースダマーが抜かれた原因で、本当にラッシュデュエルのスタイルがダメになってしまったのか。
「それはそれで面白い」
もし、アースダマーと器を引き合わせた時、どのような反応を示すのかも観察してみたい。
もしかすれば、あの子が目覚めるきっかけにもなるかもしれない。
そう思いながら、私は器の反応を見ながらラッシュデュエルを続けた。
「っていうか、前はそんなにびっちょびちょじゃなかったよな?」
問い掛けてくる器に、私はこれまでのことを語った。
カッパ体液が溢れ出すようになった理由も。あの子のことは伏せて。
「乾いてるんだ……」
(あの子と会えないことが)
「いや、びっちょ「乾いてるんだよぉっ!」
(あの子が声をかけてくれないことがっ!)
無意識に私は叫んでいた。
何十年も探し続け、ようやく見つけたのに出会えないことに、私はきっと焦っていたのだろう。
そして、認めたくなかったのかもしれない。
あの子がもう、この世界に存在してないということに。
(だからこそ、勝たなければならない。あの器を手に入れる為に!)
このターンで終わらせよう。
そう考え、私は河童大帝リバースライダーを召喚し、モンスター効果を使用して器が召喚しているモンスター2体を相殺した。
「でわ、バトルです」
モンスター同士の攻撃宣言し、私は器のライフを削った。これで、器を守るモンスターはいなくなった。
「とどめはカッパの親分ひょうすべの残り汁で、ダイレクトアタック!」
これで、終わりだと思った。これで、研究が進められると思った。
器の次なる行動を起こさなければ――
「この瞬間!墓地のココイルゾウ、クリップテラ、クラフトロルをデッキに戻して、トラップカード、ジョインテック・バンパーを発動!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
まさかこのタイミングで、モンスターを全滅させるトラップカードを発動するとは思わなかった。
確かにこのカードが通れば、私は攻撃宣言は出来なくなる。
また次のターンまで、どうにかしなければならないのかと考えていると、器のデュエルディスクの様子がおかしい。
「なんで発動しないんだよ!?」
エラーを出すように電流が流れているデュエルディスクに、私はなんとなく察しがついた。きっとあの小型宇宙船は、デュエルディスクへの変形が初めてなのだろう。
だからこそ、そこには小さな欠点が出てくる。
「どうやら君のデュエルディスクは、これ以上応えてくれない様子」
勝利を確信した私は器の精神を追い込もうと、さらなる言葉を突きつける。
これまで運良く続いたものだ。そこは賞賛するべきだろう。だが、私はそんなに甘くはない。
「今度の勝負も、私の勝利で幕を下ろすようですね」
そう言うと、器の表情が曇った。
またすぐに諦めるのかと、私は内心溜息をつきながら語り続ける。
「そもそもアースダマーを奪われて、ラッシュデュエルの腕がダメダメになったと言うのに、そのラッシュデュエルでアースダマーを取り返そうなどとは、これぞまさに本末転倒」
ここまで言えば、器の心やプライドはボロ雑巾のようにカッピカピになっただろう。
そう思っていた。私の中では。なのに何故だろうか、器の瞳はまだ諦めていない闘志を感じたのだ。
「俺は絶対に諦めない!なぜならお前らがいるからだ!お前らを信じているからだ!」
気高く、仲間のことを信頼し、勇気づける姿が私は惹かれた。
その立ち姿、真っ直ぐな瞳。それがとても懐かしく感じたからだ。
『絶対に諦めない!なぜなら、まだ自分の心は折れてないからだ!』
あの時の姿が重なり、私は目が見開いていくのを感じた。
胸あたりに感じる鼓動。血液が全身に駆け巡っていく感覚。
そして何より、あの器から感じた懐かしさ。
(あぁ、君は……そこに居たんだね)
器はあの子だった。あの子の意思は、アースダマーではなく、あの少年の中で生き続けていたのだ。
そう分かった途端、私の魂は震え上げ、潤いが巡っていく感覚があった。
(それでも、私は負けるつもりはない)
あの子だと知ったとしても、私は手を抜くつもりはなかった。
見てみたかったからだ。私がもう一つ伏せているトラップカードをどう対処するのか、彼がどう輝きを見せてくれるのかを。
今まで期待してなかったのに、私はいま彼がどう動くのか期待している。
(乾いた魂が徐々に潤っていく……あぁ、この感覚、とても懐かしい)
私はそう思っていると、彼のエースモンスターであるジョインテック・レックスがセットしていたカードを破壊される。
(このデュエル、私の負けですね)
そう思いながら私は攻撃を受け、完全に魂が潤っていくのを感じて満足していった。
だから約束通り、アースダマーを返そうと入っているケースを彼へ手渡す。
「えっ、いいの?ほんとに?」
最初は戸惑っていた彼だが、私が頷くと少しだけ瞳が輝いていた。
そして、ケースを受け取った彼は、輝いている瞳を私に向けてくれた。
「ありがとう!」
『ありがとう!』
あぁ、その瞳。その表情。
全てが懐かしく、愛おしい。
だが、あの子の面影もあるが、彼もまたあの子とは違う惹き込まれる感覚が私にはあった。
それが何なのか、それを私は知りたい。
私は少しだけ目を細め、探究心の標的をアースダマーから彼へと切り替わった事を伝え、体内へ戻す方法を伝えた。
「え……これを飲めって言われても」
「さぁ、一気に飲み干して……」
アースダマーの力は未知数であるが、彼なら上手く扱えそうな気がした。
抵抗感を出しているが、飲んでもらわないと困るはずなのだが。
(何故、こんなにも拒絶しているのだろうか)
そう思っていると、何かが接近してくる気配を感じた。
「っ!」
私が振り返った後には、既にアースダマーは突然現れた存在が奪い取っていた。
手際がいいように、すぐにその場から逃げる相手に私は後を追った。
(逃がすつもりはない)
奴の背中を追い続けると、人気のない裏道の場所で足を止めてくる。私も足を止めて様子を伺っていると、相手は私の方へと振り返った。
「なんの用だ」
「お前こそ、何故アースダマーを奪った。ベルギャー星人」
私が問いを投げると、金髪のロングヘアーのベルギャー星人はじろりと私を睨んだ。
殺気も含まれてる視線を向けられたが、私は特に気にせずにしていると奴は手に持っているアースダマーを私へ見せる。
「この力が必要だからだ」
「なるほど。つまり、戦争に使おうとしてるのか」
そう答えを伝えても、相手は答えたくないのか無言になった。
無言になるということは、イエスと言っているようなものだ。
「それは彼のものだ。彼しか扱えない力だ。返してもらおう」
「断る」
奴はポケットから何か取り出し、そのまま地面へと叩きつける。
そこから強い光が放たれ、あまりの眩しさに私は目を瞑ってしまう。眩い光はすぐに消え、私は閉じていた瞼をあげると目の前にいたベルギャー星人の姿は見えなくなっていた。
「逃げられたか」
こうなるとわかっていて用意していたのか、それともベルギャー星人は戦士としての歴史が長いゆえにしっかりとした作戦を練っていたのか。
そうだとしても、アースダマーの力を使って戦争するにはどうするつもりなのか、私は眉間に皺を寄せて考え込む。
「……何が目的なんだ?」
アースダマーを使うということは、いずれはあの子を狙う可能性もありえる。
あの力は未知的であり、それをずっと胎内に保持していた彼以外は何か影響を及ぼす。
そんな彼を守る為には、私が常に見ていないといけない。
「出来ればそばに居てほしいが……私にはやるべき事がある」
アースダマーが暴走した時、あの子の身だって何が起こるのかわからない。何十年前、ユーヒの中にあったアースダマーも暴走した時は星一つ崩壊する位の影響を出していた。
「あの時は、どうやって抑え込んだんだ?」
ふと、私はあの時の出来事である疑問が浮かんだ。確かにアースダマーは急に暴走し、ユーヒの身体も消滅してしまったのは覚えている。
だが、ユーヒの身体が消えたと同時に、暴走し続けていたアースダマーはどうした。本来なら抑え込む存在を失ったのだから、制御出来ないまま爆発してもおかしくない。
「それなのに何故、私は無事だったんだ?」
思い出そうとする度、その時の記憶にモヤが掛かってしまう。
まるで何者かの手によって消されてしまってるかのようであり、思い出せないことで私はイラついた。
ユーヒとの旅の記録は、私にとって忘れてはならないものであるのに。
「……私の身にも何かが起こっているのか?」
それは何か、今の私には知る術はない。ならば、その時が来るのを待つしかないのだろう。
私は深く息を吐き、今はあの子を守る方法を考えていこうと切り替えた。
「私の代わりに、あのベルギャー星人を使えばいい」
あの少年のそばに居た水色髪のベルギャー星人。
きっとアースダマーを奪った奴と関係性あるのと、いずれはアースダマーを使って現れた時にあの少年を守ってくれるだろう。
「それにしても、王道遊飛。遊飛か……まさか、名前まで同じだなんて」
ユーヒと同じ名前であることに、私は自然と口角を上げて軽く笑った。
「本当に私の探究心を擽らせる」
そう呟きながら、私は一旦デュエルした場所へと戻ろうと歩く。
なぜかそこへ向かいたい気持ちであった。もう少年は居ないはずなのに、先程の感覚を思い出したいのだろうか。
黙ったまま歩き続けていると、あっという間に到着した私は一つの人影に気がつく。
(おや?何故、一人でいるんだ)
そう、そこには王道遊飛の姿があった。
既に帰っていると思っていた少年が目の前にいる。
じっと背中を見つめていると、急に少年の身体が糸が切れた人形のように崩れ落ち始めた。
「っ!」
私はすぐに駆け出し、地面へと倒れかかる身体を受け止める。
間に合ったことに私は安堵の息を吐き、すぐに少年の様子を見ようと顔を覗き込んで驚いた。
顔色は真っ青であり、瞳の光は完全に消えかかっていた。
「ゆう……でぃあす?」
いま視界も見えにくくなっているんだろう。
受け止めた相手の顔も分からない状態であることに、私はこの症状が起きてる原因がすぐに分かった。
「……アースダマーと共鳴している原因ですね」
一時的に近くにあった存在が、急に引き離されたのが原因なのだろう。アースダマーはこの少年を求めている。
このままでは、意識は完全にあちら側へ持っていかれる可能性は高い。
「アースダマー……彼を連れていくな」
伸ばしている手を掴み、指を絡め合わせて握り締める。
「意識をしっかり持つんです」
私はこちら側へ戻ってくるように、優しく声を掛けた。その時、手を繋いでいた指がピクリと動くのを私は見逃さなかった。
聞こえていることを確認し、私は顔を近づけ額同時を重ね合わせて祈りながら語り掛ける。
「君が帰る場所を、君がその世界に留まる理由を考えてみてください」
そう言うと、少年の瞳に光が宿り始めていく。
意識がこちらへ戻ってきているのを確認し、私はもう一息だと思った。
「そう。その調子です」
「んっ……」
完全に意識が戻ってきた。現に少年は何度も瞬きしながら、今の状況を確認しようとしている。
私は内心ホッとしながら、目覚めたばかりの少年に声を掛けた。
「気分はどうですか?王道遊飛」
「ビジョガッパ……?」
ようやく視界がクリアになったのか、私の存在に気がついた。何とかなったことに私は顔を離して周りを見渡す。居ないことは分かっているが、念の為に私は問い掛ける。
「あの二人はどうしたんです」
「っ!先に帰ってもらった……」
「なぜ?」
「……二人の前で倒れる訳にはいかないって、なんかそう思ったんだよ」
「なるほど」
まわりに心配かけさせたくなかったか。そういう所は、ユーヒに似ているな。
元々身体が弱い種族であるにも関わらず、共に旅をしていたユーヒはよく体調が悪くなっても隠していた。
むしろ、その原因で何度も倒れては高熱を出し続け、私が指摘してもその癖は直らなかった。
そこは似てほしくなかったが、致し方ないのだろう。
ユーヒもだが、彼もきっと甘え方が下手なんだ。双子の兄であること、長男だからこそ妹を守る為に甘えないようにしている。
「あまり無理はしないでください。私が偶然、戻ってきたからよかったものを」
「それは、ごめんなさい……」
親に叱られた様な仕草で謝り、少しだけ眉も八の字になっている彼の仕草を見て、しっかり反省はしているのが伝わる。
私は反省してることに頷き、彼を起き上がらせて問題ないかを確認した。顔色も先程よりは良くなっているし、目眩などのふらつく様子もない。
これならば問題もないだろうと、名残惜しいが私は少し彼から離れて大事な話をしようとした。
「できれば、あのベルギャー星人の傍に居てほしいんですが」
そう伝えると、少年の表情が歪んだ。まるで苦いものを口に入れてしまったかのような、渋い顔をしていることに私は首を傾げた。
「なんですか、その表情は」
「星人名で呼ぶなよ。ちゃんと「ユウディアス」っていう名前があるんだからさ」
そう言う彼の表情や言葉が、私の中にある思い出が蘇る。
『ダメだよ、ちゃんと名前を呼ばなきゃ!……えっ?じゃあなんで自分には名前呼びしてくれないって?だって、僕は愛称としてカッパって呼んでるだけだし』
基本、研究ばかりであまり名前を呼ぼうとしなかった私に、あの子もよく指摘して叱ってくれた。それでも結局、私はユーヒ以外は名前を呼ばなかった。
また同じ事を指摘してくれたことに、私は喜びを感じながら目を細めて軽くうなづいた。
「そうでしたね」
「それで、なんでユウディアスの傍に居てほしいんだよ?」
「君を守れるのが、彼くらいかと思っただけです」
「はぁ?」
言ってる意味が分からなそうな反応を返す少年。それを見た私は、今までよくアースダマーを宿していた事がバレずにいられた事が不思議で致し方なかった。
ユーリの時はすぐにバレてしまい、よく狙われ続けていたのに。
きっと地球はあまりアースダマーというエネルギーが必要ないからこそ、私が見つけるまでバレなかったという可能性もある。
そう考えながら黙り込んでいると、少年は首を傾げていた。
「俺を守るって……別に俺、狙われることなんてしてないけど?」
「君はまだ知らないだけなんだ」
私の原因で知られてしまい、今後どうなるか分からない。今はアースダマーと切り離されてしまっているが、いずれはその力を制御させる為に狙われる可能性もある。
それだけは避けなければならない。もし、この少年もユーヒと同じ最後を迎えさせるのだけは、絶対に私が許さない。
私は手を伸ばし、少年の毛先を触れる。それに反応をするかのように少年が顔を上げて目が合った私は、愛おしい気持ちが溢れ出し口角が上がっていた。
「王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁」
「は、花嫁っ!?」
上擦った声を上げて後ろへと下がっていき、触れていた少年の髪の毛がスルッと去っていく。何故そのような反応を返すのか、私は分からなかった。ユーヒの記憶がなくても、きっと私の言葉を受け入れてくれると思っていた。
それなのに、少年の顔色は少し青くなっていて私へ向けて指差してきた。
「お、お前!そっちの趣味があったのか!?」
「別に私は性別とかは、あまり気にしないですからね」
「へ、へ~そうなんだ……でも、俺はお前の花嫁になるつもりはないから!」
少年の口から放たれた言葉に、グサッと心臓あたりにナイフが刺さったかのような痛みが走る。拒絶された事が悲しく、切なく、少年も同じ気持ちだと思っていたのに違った事に私の気持ちは乾いていった。
あぁ、カッパ体液がまた制御できなくなっていく。
「なんで、びっちょびちょになるんだよ!」
「乾いたから」
「意味わかんねぇ~!」
ポタポタと落ちていく雫を眺め、私はもう一度伝えようとする前に先手打つかのように少年の口の方が先に開いた。
「とにかく!何度も言うけど、俺はお前の花嫁とか、そんなんになるつもりねーから!」
「いえ、もう君は私の花嫁だというのは決まっているので」
「なんでだよ!」
これは既に決まっている事だからだ。私が見つけた花嫁。ユーヒの記憶がなくても、この魂で契りを交わしたからには逃すつもりはない。
あぁ、やはり誰の所にも行かないようにすればいいのか。あの牢屋へと入れ、誰にも会わさず、何処にも行かせず、ずっと私の手元へと置けばいいのか。
そう思っていると、考え過ぎたのか少年がいつの間にか逃げ出した。急いで追わなければと駆け出そうとした時、少年は急に足を止めて振り返った。
「でも助けてくれたことは、お礼言うな!ありがとう!」
その言葉を聞いて、私は目を大きく見開いた。さっきまであんなにも怯えていた表情から、何事も無かったかのように晴れやかに眩しい笑顔でいた少年。
ユーヒと変わらないその笑顔と性格に、私はついクスッと笑ってしまう。
「君は変わっていないな」
今すぐにでも監禁しようと思っていたドロドロとした感情はなくなり、私は軽く息を吐きながら両手をポケットへ入れる。
そして顔を上げて雲ひとつない晴れ晴れとした青空を見つめた後、研究室へ戻ろうと歩いていく。
次に会うのはきっと、すぐなのかもしれないし、そうではないかもしれない。とにかく、私は王道遊飛を観察しながら調べていかなくてはならない。
アースダマーを使った実験をしようとしている、あのベルギャー星人を。
そして、その実験を調べ尽くすことが出来なかった原因で、私はまたあの日のような想いをするということを。
今の私は知る由もなかった。
つづく…?
2023/05/22
だが、私はずっと探し続け、待ち続けていた。
あの子がこの広い宇宙のどこかで、新たな生命として生まれていることを。
そして、ようやく見つけたんだ。
あの子の力を持った地球人の少年を。あの子に似た器でいる、地球人の少年を見て、私は彼の中にあるアースダマーにとても幸福に満ち溢れていた。
「あぁ、やっと見つけた……」
この夏場のアスファルトに放置されたミミズのように乾いた魂を、癒してくれる存在がついに現れた。
そしてラッシュデュエルで勝利し、地球人の少年からアースダマーを回収することが出来た。
「君はここに居るんだ」
アースダマーは未知なる存在であり、未だに解明されてない部分が多い。だが、私はこのアースダマーの中にあの子が眠っているという確信があった。
この力は、元々あの子のものであり、あの地球人の少年はただの器なのだから。
「私の手で、必ず君を復活させてみせる」
君が消えてから、私はそう決めていた。見つけた時は、絶対に君を復活させると。また共に旅をしようと。
だが、私の研究は苦戦した。
「くそっ!」
事前に調べていたが、アースダマーのことを知れば知るほど、謎は深まるばかりだった。
どんなにやっても、あの子を感じられないことに、私は苛立ち、絶望を味わっていた。
「何故だ。何故、君は私の声に応えてくれない……」
目の前に揺れ動くアースダマーに、私は恨めしそうに睨んだ。
まるで上手くいってない私を嘲笑っているかのようであり、それがまた憎たらしく感じた。
どうしたら、囚われているあの子を救い出せる。
どうしたら、あの子の声が聞けるのだ。
「もう一度、私の名前を呼んでくれ」
私は祈るように、アースダマーへ向けて声を掛ける。それでも、アースダマーは何も反応を示してくれない。
「ユーヒ」
か細い声で私は、あの子の名前を呼んだ。
ユーヒ。私の選んだ花嫁。何十年もずっと待ち続けていた存在。
やっとこうして、出会えたのに何が足りないというのだ。
「……やはり、あの子の器である地球人にもう一度、会うしかないな」
私は立ち上がり、あの子の器にもう一度会うことを決めた。だがその前に、仕事を先に終わらせないといけない。
今日の分である仕事を終わらせてから、またあの器に会えばいい。
「さて、本日の分を終わらせましょう」
洗濯済の服を私はアイロン掛けする作業に入っている時、なにやら外から叫んでいる声が聞こえた。
そして力強く開く音がしたが、私はまたクレームかと思いながら気にせずに作業を進めた。
急いで終わらせ、器を探しに行かなくてはならないのだから。
「乾いているんだ……」
考えただけで私の心は乾き、傍に置いていたキュウリ入の水ペットボトルを手に取る。全身に水分を与え、再度作業へと戻ろうとした時に高い声が作業部屋全体に響き渡った。
「あの時の宇宙人だな!」
そう言われ、私は作業を止めて振り返る。
聞き覚えのある声に、私はその先にいた少年を見つめて目を細めた。
(まさか、あちらから来てくれるなんて)
なんて都合のいい展開だと思った。
これこそ地球で言う、飛んで火に入る夏の虫という言葉が、あの器にはピッタリだとそう思った。
「あの時の地球人」
私が声をかけた後に近づき、色々と私に向かって言っている。しかもちょうどいい場所に。
すぐに実行しようと、私は手に持っていたスイッチを押し、地下研究所へと連れて行った。
地下へと落ちていく器を見た後、私は今日の業務について引き継ぎをさせて退勤させてもらった。こういう時こそ、店長の特権を活かすべきだ。
「さて、会いに行きますか」
私も地下研究所へと向かっていき、中へ入ると警戒した状態でいる器がいた。
少しだけ後ろへと下がっているが、私は気にせずに詰め寄っていく。
「ようこそ。ちょうど私も会いたいと思っていました」
そしてあの子に似た器を見下ろし、私は目を細めた。
あぁ、苛立たしい。あの子に似ていることが。私の花嫁に模した存在が。
「いいから正体表わせ!カッパ星人!」
どうやら、あの器はアースダマーを駆けたラッシュデュエルを申し込んできた。
ならば、私が勝った時はあの子を復活させる為の研究材料として、一生飼育と観察をさせてもらう条件を出した。
アースダマーを失い、ラッシュデュエルがダメダメになったと言っていたのに、何故この器は負ける可能性が高いのに条件をのんだのだろうか。
(まぁいい。これで、私の研究は進む)
そう思いながら、私はラッシュデュエルができる場所へと移動した。
デュエルディスクを装着し、私は強気でいる器を見つめる。だが、器のデュエルディスクは私のカッパ体液の原因で起動するどころか爆発音と煙が出始めた。
「ええっ!ショートしたっ!?」
どうやらデュエルディスクが故障したみたいだ。これでは、私とのラッシュデュエルは不可能になった。
私は追い打ちをかけるよう、声を掛けて器を観察する。
(さて、この器はどうするのだろうか?)
あの子の器ならば、どう行動に移すのかほんの少しだけ期待していた。
だが、器は私の期待を裏切るように、悔しそうな表情で諦めかけていた。
(すぐに諦めようとするのか)
やはり、あの子の魂から生まれた器であっても、中身は違うのか。
そう思うと、私はまた乾いていく感覚がした。
「あの子は諦めようとはしなかったのに」
同じ魂だとしても、こうも違ってしまうものなのだろうか。いや、私はただこの器に、期待し過ぎていたのかもしれない。
このままラッシュデュエルが出来ないのならば、不戦勝として私の勝利となる。
(さて、あの器を連れていかなければ)
そう思い、私は器の元へと近づこうとした時、第三者の声が鳴り響いた。声だけだったものは器の前に姿を現したのは、小型の宇宙船。
その小型宇宙船は突然光だし、デュエルディスクへと変形した。
「バリベルギャーがデュエルディスクに変形した!」
「ほぉ……」
どうやら器は、何か引き寄せるものを持ってるらしい。
後から来たベルギャー星人との繋がりがあることも珍しさを感じたが、やはりあの子を超えるような興味は感じなかった。
(あの子も、よく小動物系に好かれていたな)
ふと思い出した過去の記憶。
身体が弱く、脆い存在なのに、いつも誰かの為に必死になっていた。
その度にいろんな者に好かれ、別れを繰り返していた。
「…………」
そういえば、過去にあの子はペットを飼っていたな。
アレはどうしたのだろうか。確か気がついたら、居なくなっていた気がする。
(いや、何かあったような……)
駄目だ、器を見ていると忘れていた思い出が溢れかえって、私の魂が乾いていく。
「今はデュエルに集中しなければ」
そう私は言い聞かせ、カードをドローする。
最初の手札を見ながら、器のデッキを思い出し、いつも通りの戦術でトラップカードとモンスターカードを伏せていく。
だが、器は新たなデッキを構築していた。そこはしっかり対策を練っているようだ。
(それでも、まだ詰めは甘い)
本気で私に勝つ気はあるのか。それともアースダマーが抜かれた原因で、本当にラッシュデュエルのスタイルがダメになってしまったのか。
「それはそれで面白い」
もし、アースダマーと器を引き合わせた時、どのような反応を示すのかも観察してみたい。
もしかすれば、あの子が目覚めるきっかけにもなるかもしれない。
そう思いながら、私は器の反応を見ながらラッシュデュエルを続けた。
「っていうか、前はそんなにびっちょびちょじゃなかったよな?」
問い掛けてくる器に、私はこれまでのことを語った。
カッパ体液が溢れ出すようになった理由も。あの子のことは伏せて。
「乾いてるんだ……」
(あの子と会えないことが)
「いや、びっちょ「乾いてるんだよぉっ!」
(あの子が声をかけてくれないことがっ!)
無意識に私は叫んでいた。
何十年も探し続け、ようやく見つけたのに出会えないことに、私はきっと焦っていたのだろう。
そして、認めたくなかったのかもしれない。
あの子がもう、この世界に存在してないということに。
(だからこそ、勝たなければならない。あの器を手に入れる為に!)
このターンで終わらせよう。
そう考え、私は河童大帝リバースライダーを召喚し、モンスター効果を使用して器が召喚しているモンスター2体を相殺した。
「でわ、バトルです」
モンスター同士の攻撃宣言し、私は器のライフを削った。これで、器を守るモンスターはいなくなった。
「とどめはカッパの親分ひょうすべの残り汁で、ダイレクトアタック!」
これで、終わりだと思った。これで、研究が進められると思った。
器の次なる行動を起こさなければ――
「この瞬間!墓地のココイルゾウ、クリップテラ、クラフトロルをデッキに戻して、トラップカード、ジョインテック・バンパーを発動!相手の攻撃表示モンスターを全て破壊する!」
まさかこのタイミングで、モンスターを全滅させるトラップカードを発動するとは思わなかった。
確かにこのカードが通れば、私は攻撃宣言は出来なくなる。
また次のターンまで、どうにかしなければならないのかと考えていると、器のデュエルディスクの様子がおかしい。
「なんで発動しないんだよ!?」
エラーを出すように電流が流れているデュエルディスクに、私はなんとなく察しがついた。きっとあの小型宇宙船は、デュエルディスクへの変形が初めてなのだろう。
だからこそ、そこには小さな欠点が出てくる。
「どうやら君のデュエルディスクは、これ以上応えてくれない様子」
勝利を確信した私は器の精神を追い込もうと、さらなる言葉を突きつける。
これまで運良く続いたものだ。そこは賞賛するべきだろう。だが、私はそんなに甘くはない。
「今度の勝負も、私の勝利で幕を下ろすようですね」
そう言うと、器の表情が曇った。
またすぐに諦めるのかと、私は内心溜息をつきながら語り続ける。
「そもそもアースダマーを奪われて、ラッシュデュエルの腕がダメダメになったと言うのに、そのラッシュデュエルでアースダマーを取り返そうなどとは、これぞまさに本末転倒」
ここまで言えば、器の心やプライドはボロ雑巾のようにカッピカピになっただろう。
そう思っていた。私の中では。なのに何故だろうか、器の瞳はまだ諦めていない闘志を感じたのだ。
「俺は絶対に諦めない!なぜならお前らがいるからだ!お前らを信じているからだ!」
気高く、仲間のことを信頼し、勇気づける姿が私は惹かれた。
その立ち姿、真っ直ぐな瞳。それがとても懐かしく感じたからだ。
『絶対に諦めない!なぜなら、まだ自分の心は折れてないからだ!』
あの時の姿が重なり、私は目が見開いていくのを感じた。
胸あたりに感じる鼓動。血液が全身に駆け巡っていく感覚。
そして何より、あの器から感じた懐かしさ。
(あぁ、君は……そこに居たんだね)
器はあの子だった。あの子の意思は、アースダマーではなく、あの少年の中で生き続けていたのだ。
そう分かった途端、私の魂は震え上げ、潤いが巡っていく感覚があった。
(それでも、私は負けるつもりはない)
あの子だと知ったとしても、私は手を抜くつもりはなかった。
見てみたかったからだ。私がもう一つ伏せているトラップカードをどう対処するのか、彼がどう輝きを見せてくれるのかを。
今まで期待してなかったのに、私はいま彼がどう動くのか期待している。
(乾いた魂が徐々に潤っていく……あぁ、この感覚、とても懐かしい)
私はそう思っていると、彼のエースモンスターであるジョインテック・レックスがセットしていたカードを破壊される。
(このデュエル、私の負けですね)
そう思いながら私は攻撃を受け、完全に魂が潤っていくのを感じて満足していった。
だから約束通り、アースダマーを返そうと入っているケースを彼へ手渡す。
「えっ、いいの?ほんとに?」
最初は戸惑っていた彼だが、私が頷くと少しだけ瞳が輝いていた。
そして、ケースを受け取った彼は、輝いている瞳を私に向けてくれた。
「ありがとう!」
『ありがとう!』
あぁ、その瞳。その表情。
全てが懐かしく、愛おしい。
だが、あの子の面影もあるが、彼もまたあの子とは違う惹き込まれる感覚が私にはあった。
それが何なのか、それを私は知りたい。
私は少しだけ目を細め、探究心の標的をアースダマーから彼へと切り替わった事を伝え、体内へ戻す方法を伝えた。
「え……これを飲めって言われても」
「さぁ、一気に飲み干して……」
アースダマーの力は未知数であるが、彼なら上手く扱えそうな気がした。
抵抗感を出しているが、飲んでもらわないと困るはずなのだが。
(何故、こんなにも拒絶しているのだろうか)
そう思っていると、何かが接近してくる気配を感じた。
「っ!」
私が振り返った後には、既にアースダマーは突然現れた存在が奪い取っていた。
手際がいいように、すぐにその場から逃げる相手に私は後を追った。
(逃がすつもりはない)
奴の背中を追い続けると、人気のない裏道の場所で足を止めてくる。私も足を止めて様子を伺っていると、相手は私の方へと振り返った。
「なんの用だ」
「お前こそ、何故アースダマーを奪った。ベルギャー星人」
私が問いを投げると、金髪のロングヘアーのベルギャー星人はじろりと私を睨んだ。
殺気も含まれてる視線を向けられたが、私は特に気にせずにしていると奴は手に持っているアースダマーを私へ見せる。
「この力が必要だからだ」
「なるほど。つまり、戦争に使おうとしてるのか」
そう答えを伝えても、相手は答えたくないのか無言になった。
無言になるということは、イエスと言っているようなものだ。
「それは彼のものだ。彼しか扱えない力だ。返してもらおう」
「断る」
奴はポケットから何か取り出し、そのまま地面へと叩きつける。
そこから強い光が放たれ、あまりの眩しさに私は目を瞑ってしまう。眩い光はすぐに消え、私は閉じていた瞼をあげると目の前にいたベルギャー星人の姿は見えなくなっていた。
「逃げられたか」
こうなるとわかっていて用意していたのか、それともベルギャー星人は戦士としての歴史が長いゆえにしっかりとした作戦を練っていたのか。
そうだとしても、アースダマーの力を使って戦争するにはどうするつもりなのか、私は眉間に皺を寄せて考え込む。
「……何が目的なんだ?」
アースダマーを使うということは、いずれはあの子を狙う可能性もありえる。
あの力は未知的であり、それをずっと胎内に保持していた彼以外は何か影響を及ぼす。
そんな彼を守る為には、私が常に見ていないといけない。
「出来ればそばに居てほしいが……私にはやるべき事がある」
アースダマーが暴走した時、あの子の身だって何が起こるのかわからない。何十年前、ユーヒの中にあったアースダマーも暴走した時は星一つ崩壊する位の影響を出していた。
「あの時は、どうやって抑え込んだんだ?」
ふと、私はあの時の出来事である疑問が浮かんだ。確かにアースダマーは急に暴走し、ユーヒの身体も消滅してしまったのは覚えている。
だが、ユーヒの身体が消えたと同時に、暴走し続けていたアースダマーはどうした。本来なら抑え込む存在を失ったのだから、制御出来ないまま爆発してもおかしくない。
「それなのに何故、私は無事だったんだ?」
思い出そうとする度、その時の記憶にモヤが掛かってしまう。
まるで何者かの手によって消されてしまってるかのようであり、思い出せないことで私はイラついた。
ユーヒとの旅の記録は、私にとって忘れてはならないものであるのに。
「……私の身にも何かが起こっているのか?」
それは何か、今の私には知る術はない。ならば、その時が来るのを待つしかないのだろう。
私は深く息を吐き、今はあの子を守る方法を考えていこうと切り替えた。
「私の代わりに、あのベルギャー星人を使えばいい」
あの少年のそばに居た水色髪のベルギャー星人。
きっとアースダマーを奪った奴と関係性あるのと、いずれはアースダマーを使って現れた時にあの少年を守ってくれるだろう。
「それにしても、王道遊飛。遊飛か……まさか、名前まで同じだなんて」
ユーヒと同じ名前であることに、私は自然と口角を上げて軽く笑った。
「本当に私の探究心を擽らせる」
そう呟きながら、私は一旦デュエルした場所へと戻ろうと歩く。
なぜかそこへ向かいたい気持ちであった。もう少年は居ないはずなのに、先程の感覚を思い出したいのだろうか。
黙ったまま歩き続けていると、あっという間に到着した私は一つの人影に気がつく。
(おや?何故、一人でいるんだ)
そう、そこには王道遊飛の姿があった。
既に帰っていると思っていた少年が目の前にいる。
じっと背中を見つめていると、急に少年の身体が糸が切れた人形のように崩れ落ち始めた。
「っ!」
私はすぐに駆け出し、地面へと倒れかかる身体を受け止める。
間に合ったことに私は安堵の息を吐き、すぐに少年の様子を見ようと顔を覗き込んで驚いた。
顔色は真っ青であり、瞳の光は完全に消えかかっていた。
「ゆう……でぃあす?」
いま視界も見えにくくなっているんだろう。
受け止めた相手の顔も分からない状態であることに、私はこの症状が起きてる原因がすぐに分かった。
「……アースダマーと共鳴している原因ですね」
一時的に近くにあった存在が、急に引き離されたのが原因なのだろう。アースダマーはこの少年を求めている。
このままでは、意識は完全にあちら側へ持っていかれる可能性は高い。
「アースダマー……彼を連れていくな」
伸ばしている手を掴み、指を絡め合わせて握り締める。
「意識をしっかり持つんです」
私はこちら側へ戻ってくるように、優しく声を掛けた。その時、手を繋いでいた指がピクリと動くのを私は見逃さなかった。
聞こえていることを確認し、私は顔を近づけ額同時を重ね合わせて祈りながら語り掛ける。
「君が帰る場所を、君がその世界に留まる理由を考えてみてください」
そう言うと、少年の瞳に光が宿り始めていく。
意識がこちらへ戻ってきているのを確認し、私はもう一息だと思った。
「そう。その調子です」
「んっ……」
完全に意識が戻ってきた。現に少年は何度も瞬きしながら、今の状況を確認しようとしている。
私は内心ホッとしながら、目覚めたばかりの少年に声を掛けた。
「気分はどうですか?王道遊飛」
「ビジョガッパ……?」
ようやく視界がクリアになったのか、私の存在に気がついた。何とかなったことに私は顔を離して周りを見渡す。居ないことは分かっているが、念の為に私は問い掛ける。
「あの二人はどうしたんです」
「っ!先に帰ってもらった……」
「なぜ?」
「……二人の前で倒れる訳にはいかないって、なんかそう思ったんだよ」
「なるほど」
まわりに心配かけさせたくなかったか。そういう所は、ユーヒに似ているな。
元々身体が弱い種族であるにも関わらず、共に旅をしていたユーヒはよく体調が悪くなっても隠していた。
むしろ、その原因で何度も倒れては高熱を出し続け、私が指摘してもその癖は直らなかった。
そこは似てほしくなかったが、致し方ないのだろう。
ユーヒもだが、彼もきっと甘え方が下手なんだ。双子の兄であること、長男だからこそ妹を守る為に甘えないようにしている。
「あまり無理はしないでください。私が偶然、戻ってきたからよかったものを」
「それは、ごめんなさい……」
親に叱られた様な仕草で謝り、少しだけ眉も八の字になっている彼の仕草を見て、しっかり反省はしているのが伝わる。
私は反省してることに頷き、彼を起き上がらせて問題ないかを確認した。顔色も先程よりは良くなっているし、目眩などのふらつく様子もない。
これならば問題もないだろうと、名残惜しいが私は少し彼から離れて大事な話をしようとした。
「できれば、あのベルギャー星人の傍に居てほしいんですが」
そう伝えると、少年の表情が歪んだ。まるで苦いものを口に入れてしまったかのような、渋い顔をしていることに私は首を傾げた。
「なんですか、その表情は」
「星人名で呼ぶなよ。ちゃんと「ユウディアス」っていう名前があるんだからさ」
そう言う彼の表情や言葉が、私の中にある思い出が蘇る。
『ダメだよ、ちゃんと名前を呼ばなきゃ!……えっ?じゃあなんで自分には名前呼びしてくれないって?だって、僕は愛称としてカッパって呼んでるだけだし』
基本、研究ばかりであまり名前を呼ぼうとしなかった私に、あの子もよく指摘して叱ってくれた。それでも結局、私はユーヒ以外は名前を呼ばなかった。
また同じ事を指摘してくれたことに、私は喜びを感じながら目を細めて軽くうなづいた。
「そうでしたね」
「それで、なんでユウディアスの傍に居てほしいんだよ?」
「君を守れるのが、彼くらいかと思っただけです」
「はぁ?」
言ってる意味が分からなそうな反応を返す少年。それを見た私は、今までよくアースダマーを宿していた事がバレずにいられた事が不思議で致し方なかった。
ユーリの時はすぐにバレてしまい、よく狙われ続けていたのに。
きっと地球はあまりアースダマーというエネルギーが必要ないからこそ、私が見つけるまでバレなかったという可能性もある。
そう考えながら黙り込んでいると、少年は首を傾げていた。
「俺を守るって……別に俺、狙われることなんてしてないけど?」
「君はまだ知らないだけなんだ」
私の原因で知られてしまい、今後どうなるか分からない。今はアースダマーと切り離されてしまっているが、いずれはその力を制御させる為に狙われる可能性もある。
それだけは避けなければならない。もし、この少年もユーヒと同じ最後を迎えさせるのだけは、絶対に私が許さない。
私は手を伸ばし、少年の毛先を触れる。それに反応をするかのように少年が顔を上げて目が合った私は、愛おしい気持ちが溢れ出し口角が上がっていた。
「王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁」
「は、花嫁っ!?」
上擦った声を上げて後ろへと下がっていき、触れていた少年の髪の毛がスルッと去っていく。何故そのような反応を返すのか、私は分からなかった。ユーヒの記憶がなくても、きっと私の言葉を受け入れてくれると思っていた。
それなのに、少年の顔色は少し青くなっていて私へ向けて指差してきた。
「お、お前!そっちの趣味があったのか!?」
「別に私は性別とかは、あまり気にしないですからね」
「へ、へ~そうなんだ……でも、俺はお前の花嫁になるつもりはないから!」
少年の口から放たれた言葉に、グサッと心臓あたりにナイフが刺さったかのような痛みが走る。拒絶された事が悲しく、切なく、少年も同じ気持ちだと思っていたのに違った事に私の気持ちは乾いていった。
あぁ、カッパ体液がまた制御できなくなっていく。
「なんで、びっちょびちょになるんだよ!」
「乾いたから」
「意味わかんねぇ~!」
ポタポタと落ちていく雫を眺め、私はもう一度伝えようとする前に先手打つかのように少年の口の方が先に開いた。
「とにかく!何度も言うけど、俺はお前の花嫁とか、そんなんになるつもりねーから!」
「いえ、もう君は私の花嫁だというのは決まっているので」
「なんでだよ!」
これは既に決まっている事だからだ。私が見つけた花嫁。ユーヒの記憶がなくても、この魂で契りを交わしたからには逃すつもりはない。
あぁ、やはり誰の所にも行かないようにすればいいのか。あの牢屋へと入れ、誰にも会わさず、何処にも行かせず、ずっと私の手元へと置けばいいのか。
そう思っていると、考え過ぎたのか少年がいつの間にか逃げ出した。急いで追わなければと駆け出そうとした時、少年は急に足を止めて振り返った。
「でも助けてくれたことは、お礼言うな!ありがとう!」
その言葉を聞いて、私は目を大きく見開いた。さっきまであんなにも怯えていた表情から、何事も無かったかのように晴れやかに眩しい笑顔でいた少年。
ユーヒと変わらないその笑顔と性格に、私はついクスッと笑ってしまう。
「君は変わっていないな」
今すぐにでも監禁しようと思っていたドロドロとした感情はなくなり、私は軽く息を吐きながら両手をポケットへ入れる。
そして顔を上げて雲ひとつない晴れ晴れとした青空を見つめた後、研究室へ戻ろうと歩いていく。
次に会うのはきっと、すぐなのかもしれないし、そうではないかもしれない。とにかく、私は王道遊飛を観察しながら調べていかなくてはならない。
アースダマーを使った実験をしようとしている、あのベルギャー星人を。
そして、その実験を調べ尽くすことが出来なかった原因で、私はまたあの日のような想いをするということを。
今の私は知る由もなかった。
つづく…?
2023/05/22