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<テルゆひ> 惑星の花嫁

 全身に痛みが走っていた風圧は収まり、チカチカしていた視界もクリアになってくる。テルは掴んでいた遊飛の手の感触が無くなっている事に気がつき、視線を手へと移動させると血で真っ赤に染っている自身の手の平しかなかった。
 テルの心臓はうるさく鳴り響き、視界が激しく揺れ、喉に何か詰まって呼吸が出来ない。「かひゅ、かひゅっ!」と掠れた音を口から鳴らし、重力をなくしたかのように両膝が地面へと崩れ落ちる。

遊飛を失った。

目の前で、また失った。

私は、またーー

ーーワタシハーー

 ゆらゆらと揺れる視界、目に映る色もモノクロへと反転していく。このまま死んでもいいかもしれない。そう思うほど、テルの思考はぐちゃぐちゃになっていたのだ。

ソウカ

シネバ

カレノモトニ

イケルカモシレナイ

 テルは息を荒らげながら口を開き、歯を自身の舌の上へと乗せる。ノコギリの様にギコギコと歯を震えながら、グッと顎に力入れて食い込ませていく。舌から痛みが走り、これで彼の元へ行けると思った同時に、頬からパンッ!と乾いた音が鳴り響いた。
 衝撃の反動により噛もうとした歯と舌は離れ、何が起きたのかテルは分からず、じわじわと痛む頬を手で触れて顔を上げると、目の前に立っていたのはユーヒであった。

「ユー……ヒ……?」

 なぜ彼が居るのだろうか。考えても答えが上手く出てこずにいたが、彼が居るのならば、遊飛も居るのではないのか。そう考えついたテルはすぐに立ち上がり、慌てた表情でまわりを見渡した。
 物も無ければ音も無い真っ白な風景と、ユウディアス達の姿がない。この時、ようやくテルは今自分がいる場所が別空間である事に気がついたのだ。

「ここは……」

 遊飛の精神世界に居た時と似た空間。先程の爆風がきっかけなのだろうかと、ユーヒに説明を求めようとした。
 だが、ユーヒは両手や表情を使ってジェスチャーをしている。声が出せない状況なのだと理解し、テルはユーヒが伝えたい部分を解読しようと見ていると、彼は両手をパンッと叩いた。
 すると、テルとユーヒの間に一つの光が現れる。満月の様に丸かった物が形を変えていき、徐々に人の形へと固まっていく。その人の形を見たテルは目を大きく見開いた。遊飛が現れたのだ。

「っ!」

 咄嗟に両腕を伸ばし、降りてきた遊飛を受け止める。腕から感じる体温、胸元は呼吸するように上下に動いており、目を閉じているが消えていない事をテルは理解し、目の奥が暑くなっていく。

「生きている……」

 唇を震わせ、か細い声でテルは呟き、瞳からは一粒の涙がこぼれ落ちた。テルの涙が遊飛の頬を濡らす中、もう手放さないと気持ちを込めて、遊飛を強く抱き締める。
 とくんとくんと聞こえる心臓の音が更に現実である事を実感し、腕に力が籠ってしまい苦しいと言われるかもしれないが知った事ではない。
 そんなテルの姿を眺めているユーヒは両手を腰に当て、うんうんっと頷きながら満足そうに微笑んでいた。
 少しの時間が経った事で気持ちが落ち着いたテルは涙の跡を残している顔を上げ、深く息を吐き捨てる。

「……彼を失ってたら、私は今度こそ死ぬつもりでした」

 そう呟くとユーヒは頬を膨らませ、テルの頭に向けて軽くゲンコツをしてきた。「そんな事、許すと思う?」と唇を尖らせ、そう言いたげな眼差しを向けるユーヒに、テルの口角は自然と上がり軽く頷いた。

「そうですね、貴方の分まで彼と一緒にいるつもりですよ」

 テルの答えにユーヒも肩をすくませて笑っている。何か言いたそうであるが、言葉を発せられないユーヒの表情だけでテルは感じ取ってみる。
 悪い方ではない表情だと思っていると、ユーヒは手を伸ばして遊飛の前髪に触れる。優しく撫でると遊飛の前髪はさらっと揺れ、ユーヒの表情は優しく微笑んでいた。

「行くのか、ユーヒ……」

 腕の中で声にテルはすぐに視線を向ける。しっかり両目が開いており、少し疲れてる様な表情をしている遊飛と目が合った。
 目覚めた事にテルは喜びに打ち震え、鼻の奥がつーんっと痛くなっていくのを感じる。

「俺、一緒に行くつもりだったんだぜ?」

 遊飛の言葉にテルはピクッと眉を動かし、ユーヒは「あーあ」と困った表情をしてしまう。場の空気が悪くなってる事を察した遊飛は、軽く首を傾げながら困惑した表情をした。

「え、なに?俺、不味い事を言った?」

 追い打ちをかける様に爆弾発言している遊飛に対して、一気に気持ちが冷めたテルはスゥ…と目を細める。

「それを私が許すと思っているんですか?」
「痛い痛い」

 遊飛の肩を掴んでる手に力が入り、ミシッと肩から嫌な音が響いていたが関係ない。痛がる遊飛を無視してテルは握り締めていると、ユーヒがそれを止めに入ってくる。
 「まぁまぁ落ち着いて」という仕草を見せるユーヒに、まるであの時に戻った様だとテルはそう思った。この時間が永遠に続けばいいのにと、願っていても時間は待ってくれないのはテルも遊飛も察していた。
 ユーヒの身体が透け始めており、「時間だ」という仕草をユーヒは見せて最後に遊飛の額に手を当てて優しく微笑み、唇を動かして何か言葉を伝えている。テルは黙って見つめていると、遊飛は軽くうなづた。

「うん、俺もユーヒに会えて良かったよ」

 ユーヒの言葉が伝わっているのか、遊飛は返事をしながら笑顔を向けていた。その言葉を聞いて嬉しそうにユーヒは、片手をひらひらと横に振り、姿が見えなくなるほどの眩い光がテルの視界を見えなくさせていった。

 ◇ ◇ ◇

『ユウヒ!ユウヒ!』
「おー、バリベルギャー。無事だったんだな」

 目の前に現れたバリベルギャーに、テルはビクッと肩を揺らしている中、遊飛は笑顔を向けながらバリベルギャーに向けて手を伸ばす。すとんっと遊飛の胸元へと降りたバリベルギャーは涙を流しており、テルは真っ白であった空間が遺跡へと戻ったのだとようやく理解する。
 最後にユーヒが居た場所へとテルは視線を向け続けていると、下から「あのね……」と遊飛の声が聞こえた。

「ユーヒはね、俺を巻き込まない様にしたんだよ」

 そう言う遊飛に、テルはどういう意味なのかと視線を向ける。互いの瞳が合い、バリベルギャーを撫でながら遊飛は語ろうと唇が動く。

「アースダマーを自分自身へ移してさ」
「つまり今の君には」
「アースダマーは無くなってる」

 腹部あたりに手を当て、円を描く様に回しながら遊飛ははにかんだ笑顔へとなっていく。そこに何かあったのか、不安になるテルは声をかけようとしたが、遊飛の言葉は続いた。

「お前にアースダマー取られた時と似て、なんかココが空っぽになった様な感覚があるんだよな」

 その言葉にグサリと刺さる感覚があった。確かにあの時は記憶が無かったとしても、無茶な負担をかけさせてしまったのだ。ジド目で睨んでくるバリベルギャーに、テルは謝罪しようとするが、遊飛は息を吐きながら目を細める。

「まぁ、まだ残ってる感じはあるけど、一時的なものかな」

 残留的なものだろう。このまま時間が経てば、アースダマーは遊飛の中で消えていき、次の代へと継承されていくのかもしれない。それが何年後なのか何百年後なのかわからない。
 そうテルは考えていると、遊飛はある方角へと視線を向け様と頭を動かしている。

「多分、アイツの為に使えって事なんだと思うけど」

 どういう意味なのかと、テルは遊飛が向けてる視線へと顔を上げてみる。その先には、座り込んでいるユウディアスの背中が見えた。

「ズウィージョウ!ズウィージョウ!」

 横になっているズウィージョウの周りには赤い血が染まっており、どう見ても致命的な重症であることがわかる。必死に名前を呼び続けるユウディアスの姿を眺めていると、ぽんぽんっと前肩に触れられる。テルは視線を遊飛へと視線を移して目が合う。

「連れてって」
「ですが……」

 どうしたものかとテルは悩んだ。連れて行けば、遊飛は絶対にズウィージョウを治療する為にアースダマーを使うだろう。はたしてそれが正しい選択なのかと思っていると、遊飛に服を引っ張られる。

「早く」

 そう言われてしまい、テルは遊飛を抱え直してユウディアス達の元へと近づく。バリベルギャーも遊飛から離れ、宙へ飛んでいった。

『ユウディアス!ユウディアス!』
「ユウディアス」
「遊飛!ズウィージョウが!ソレガシを庇って!血が!血が止まらないのだ!」
「落ち着けってユウディアス。大丈夫だから」

 遊飛は手を伸ばし、今にも泣きそうなユウディアスの頭の上に手を置いて撫で始める。落ち着いた声と撫でられた事でユウディアスは少し気持ちが冷静に戻ったのか、ゆっくりうなづいた。

「おろしてくれるか?」
「えぇ」

 言われる通りにテルは地面へと下ろすと、遊飛は座ったままズウィージョウへと顔を向けている。数秒黙ったまま見つめていた遊飛は「やっぱ優しいじゃん」と小さな声で呟いているのを、テルは聞き逃さずにいた。

「アースダマーの力で治療するな」
「……本当に大丈夫なんですか?」

 いくら少し残っていたとして、命が尽きる程までに力を解放したばかりだ。身体や精神も回復してない状態で使った場合、どうなってしまうのかテルは不安な目で遊飛の肩を掴みながら見つめた。
 きっと「大丈夫」と聞いても、今のテルは安心出来ないだろう。それでも遊飛の表情は穏やかであり、優しく微笑みながらうなづいていた。

「大丈夫だって」

 そう言い地面に座った遊飛はすぅっと息を吸い、両手をズウィージョウへと向けて伸ばす。遊飛の身体から微量だがアースダマーの力が溢れ出し、その力はズウィージョウへと注がれていく。みるみると傷口が塞がっていき、傷跡も残さないくらい完治していった。
 その光景を眺めながら、テルはある事に気がつく。自分の手の痛みも引いていっているのだ。すぐに見てみると、両手にアースダマーが纏わりついており、皮膚の皮が捲れて血まみれであった傷口は、何も無かったかの様に綺麗にされていく。
 テルは軽く手を握ったり開いたりと動かしてみると、骨の痛みも無くなっており、遊飛が自分の手も治療したのだと理解する。
 微力なものを無理して引き出してるのじゃないかと、すぐに止めに入ろうとした時、治療が終わったのか遊飛からオーラは消えていった。

「はい、終わり」

 そう言い深く息を吐く遊飛に、ユウディアスはズウィージョウを覗き込む様に見つめる。するとズウィージョウの瞼が微かに動きだし、閉じていた瞼はゆっくりと持ち上がった。

「うっ……ワレは……」
「ズウィージョウ!」

 目覚めたズウィージョウはユウディアスと遊飛を見つめた後、起き上がろうとしているのか、腕を動かそうとする仕草をしていた。だが、いくら動かそうとしても腕や指はしんっと静かなままである。
 それを見ていたユウディアスは、不思議そうに首を傾げながらズウィージョウへ問い掛けた。

「どうしたのだ?」
「身体が……うまく動かん……」
「傷口は塞いでるけど、肉体的なダメージはそのままだから、しばらく動けないからな」

 「あー疲れたぁ!」と言いながら遊飛は両腕を伸ばし、両腕を下ろした後に口角を上げてニッと笑っている。

「お互いボロボロだな」
「そうだな」

 軽く笑って返すズウィージョウに、乾いた笑い声を漏らしている遊飛。そんな空気の中、テルは遊飛の肩を掴んで自分の方へと振り向かせた。
 テルの顔を見た遊飛はどう感じたのか、まるで隠し事がバレて叱られる事に怯える表情をしている。自分の顔つきが今どうなっているのかテルは分からないが、怒りの気持ちになっている事は間違っていないだろう。

「なんだよ、その顔」
「私の傷も治療しましたね」

 そう言い、テルは片手を遊飛へ見せつけて説明を求めた。すると、バツが悪そうに遊飛は明後日の方角へと視線を逸らされてしまう。

「あー、一緒にやった方がいいかなって」

 視線を逸らしたまま答える遊飛に、テルは深く溜息をついた。どうして彼は報連相をしないまま進めていくのだろうかと、言いたい事は後にしてテルは遊飛の両頬を鷲掴みし、無理矢理目を合わせ様と振り向かせた。

「体調とか大丈夫ですか、身体に変化は」
「っ!大丈夫、なんともないから」

 遊飛の頬が少し赤く染っており、瞳はしどろもどろと動き回っている。頬から伝わってくる体温も上がっていて、発熱が起こってるのではないかと、テルは検診しようとした同時に地面からズンッ!と突き上げるような揺れがきた。

「なんなのだ!」
「あれだけの衝撃では、崩れ始めるのは当たり前です」

 冷静に言っていると、目の前に瓦礫が落ちてきた。数センチズレていなかったら、今頃プチッと潰されていたであろう。

「に、逃げるのだー!」

 ユウディアスの声と同時に、バリベルギャーは先へ進んでいき、テルは遊飛を抱き上げ、ユウディアスはズウィージョウを背負い込んで走り出した。崩れ落ちてくる瓦礫をうまく避け、出口へと向かっていく。すると、外の光が見え始める。
 もう一息だとテルは足に力を入れ、外へ出るとユウディアスも後から出てきた。だが、外に出たからと油断は禁物である。なるべく遺跡から距離を取ろうと走り続け、安全な場所まで離れきった後に足を止める。
 少し息を上げながらテルは遺跡の方へと振り返ると、崩れ落ちている遺跡は地中へと沈んでいく。ゴゴゴゴッ!と鳴り響き、その光景を静かに眺めていた遊飛は口を開く。

「あそこが壊れたら、次の儀式とか大丈夫なのか?」
「数百年ぶりの儀式でしたし、次が来るまでには新たに建て直してるんじゃないんですかね」

 テルのあっさりとした返答に、聞いていた三人はどう思ったのか。ズウィージョウは呆れた表情をしながら溜息をついており、ユウディアスは瞳を輝かしながらガッツポーズを取っている。

「他人事のようだな」
「だが、無事に遊飛もズウィージョウも帰って来れた!」
「ははは、本当にユウディアスのそういう所、俺は好きだなぁ」

 ユウディアスの何気ない言葉に笑いながらそう言う遊飛に対して、テルの中でモヤッとした感覚が襲われる。その言葉は友愛だと分かっていたとしても、自然と手に力が籠ってしまい遊飛の肩を握り締めてしまう。

「痛い痛い、肩外れる!あと冷たいから下ろせって!」

 いつの間にカッパ体液が溢れ出ているのを遊飛の言葉で気がつき、テルは「すみません」と軽く謝罪しながら下ろした。
 地面に足ついた遊飛は、いろんな箇所で染みているつなぎを眺めながら眉が下がっていく。

「うへぇ、ビッチョビチョじゃんか」

 そう言う遊飛はつなぎの上着部分だけ脱ぎ、袖を腰周りに巻いて結んでいく。タンクトップ姿を見せ、後頭部に手を当ててわしわしと掻いている。
 そんな遊飛の姿にどう声を掛けるべきかテルは悩んでいると、ズウィージョウが遊飛に向けて声を掛けてきた。

「遊飛、少しユウディアスと話がしたい」

 遊飛は数秒ズウィージョウを見つめた後、満足そうな笑みを浮かべて軽く頷いた。

「わかった。少し席外すな」

 ふらつきながら立ち上がった遊飛は歩き出し、その後を追うようにテルもついて行く。離れる際、チラッとユウディアスとズウィージョウの姿を見てみると、バリベルギャーもユウディアスの元に残っているのを確認した。そしてテルは、視線を遊飛の背中へと移して問い掛ける。

「いいんですか」
「大丈夫。今のズウィージョウは、ユウディアスを傷つけたりはしないから」

 信頼してるように言う遊飛に、テルは少し複雑な気持ちになる。あの短時間で、どうしてズウィージョウを信じられるのか。忘れてはいないがズウィージョウが遊飛を主として認め、主従関係になっている。その疑問も抱いているし、モヤモヤした気持ちの状態だ。
 確かに遊飛は人を惹き込ませるものを持ち、テルも昔からそんな彼が気になり、ずっと会える事を願っていた。その気持ちは誰にも負けていないと思っている。

「なんか聞きたそうな顔だな」
「っ!いえ、その……」

 聞きたい事は沢山ある。だが、一気に聞いてしまえば、今度は遊飛がどう説明すればいいか困惑してしまうかもしれない。
 そうさせない為にも、何から聞くべきか順番を頭の中で決めていき、テルは遊飛へ問い掛ける。

「君はどうやって過去に?」

 テルの質問に遊飛は何度か瞬きした後、納得するような表情へと切り替わっていく。

「精神世界で閉じ篭ってた時、ユーヒが俺を過去へ連れて行ったんだ」
「あの時ですか」
「だから俺的にはつい最近。でも、お前は長い時間の中、傷ついていたんだよな」

 悲しそうな表情を向け、謝罪の様な声色で言う遊飛の姿にテルの心臓はギュッと締められる感覚が襲われる。別に遊飛が謝るべき事ではない。
 未来の人間が過去の世界へ、過去の人間が未来の世界へ行くとなると世界の理も狂ってしまう。例え自分と遊飛の出会いが過去でなければならない理由だったとしても、それは禁忌に触れるものである。
 あの別れは必然であり、それでも悲しい表情をさせてしまっている遊飛にどう声をかけるべきなのか、テルは思い悩み言葉を上手く出せずにいた。

「私は……」

 喉に何か詰まってるかのように口篭り、数秒間の無言な空気に焦ってしまう。そうしていると、ユウディアスの肩を借りているズウィージョウが近づいて来た。

「遊飛」

 声を掛けられた遊飛はズウィージョウの方へと顔を向けていき、邪魔された事に対してテルは眉間に皺を寄せて不機嫌な表情でズウィージョウを睨みついた。
 そんな視線を気にとめずにいるズウィージョウは、話をしようと口を開く。

「ワレはベルギャー星へと戻り、終戦を進めていく」
「それは力で?」

 遊飛の問い掛けの声は低く、たった一言であるが真剣であることが伝わる。テルもそんな遊飛に息を飲み、ユウディアスは黙って二人を見守る様にしていた。
 問い掛けられたズウィージョウは、すぐに軽く首を横に振っていく。

「いや、対話で互いを理解していこうと考えている」
「本当に対話だけで終戦出来ると思ってるんですか?」

 テルの問い掛けに、遊飛は「お前なぁ」と呆れられた表情を向けられてしまう。そう疑念を抱いているのは致し方ない。つい先程まで遊飛のアースダマーを使い、全ての惑星に力を示し屈服させようとした。
 そんな彼がすぐに改心するものなのか、疑問と警戒を含めてテルは睨みつけていると、ズウィージョウは軽く首を横に振る。

「確かに前のワレではその考えばかりであった。だが、力だけでねじ伏せたとして、それは本当に救いではないとも感じた」

 ズウィージョウの答えに、遊飛は黙ったままじっと見つめ続ける。そして表情が柔らかくなり、優しく微笑みながらうなづいた。

「ズウィージョウ、いい顔してる。俺、今のズウィージョウなら大丈夫だって思うぜ」

 そう返答する遊飛の声は確信のある自信気な言葉に、ズウィージョウも励まされたのか口角が上がっている。微笑ましく、お互い笑顔を向き合い、ユウディアスも嬉しそうに笑顔になっていた。
 その光景を眺めていたテルは、不満そうな表情をする。まるで自分が悪者のように感じたからだ。表情には出さず、いつも通りにしていたテルだったが、遊飛に手を取られて微笑みかけられる。

「お前が言いたい気持ちも分かってるよ。心配してくれて、ありがとな」

 本当にそういう所が、自分は好きになったキッカケでもあるんだと、テルは改めてそう感じた。
 こうして遊飛はいろんな人々と縁を結び、そして好意を寄せられる事が多々ある。これ以上増やさない為にも遊飛の前に立とうかと考えていると、ズウィージョウの瞳を見てテルは何かを察した。
 確かにズウィージョウが遊飛へ向けてる視線は好意を向けているものであるが、恋愛ではなく主人へ向けるような寵愛な眼差しだ。

「遊飛、お前がワレの背中を叩いてくれたおかげでもある」

 そう言い頭を下げたズウィージョウは隣に居るユウディアスへ視線を向け、柔らかい笑みを浮かべる。

「そのおかげで、ワレはユウディアスとの対話もできた」
「うむ!ズウィージョウの考えていることを聞けて、ソレガシも着いて行くのを決めたのである!」
「そっか」

 それぞれの目的を聞き、遊飛はどう思ったのだろうか。その一言の声色に、テルの中では嬉しく思っているのではないのかと感じ取っている。そして、少しだけ別れである事に寂しさも含まれているのも感じていた。
 ズウィージョウは遊飛の前に手を差し出す。

「何かあった時、ワレを呼ぶといい。どんな所でも向かおう」
「その時は頼りにしてるぜ」

 遊飛はそう返し、ズウィージョウと軽く握手をする。その時、テルはズウィージョウと目が合った。何か言いたそうな目線に、どういう意味を含めているのか観察してみる。
 すると、ズウィージョウは声を出さずに口だけ動かし、その一つ一つの形を見て答えが導き出される。
 「主人である遊飛を悲しませるな」と理解したテルは目を細め、睨みつく。それが返事でもあると含めて。
 その視線にズウィージョウも理解したのか、フッと軽く笑った後に遊飛と手を離し、テルとの視線を外す。視線を外されたテルの方は手を握り締め、ズウィージョウに煽られた事に理解する。

(本当に腹立たしい)

 煽り耐性は持っているつもりだが、遊飛関連になるとどうも冷静になれない自分に対し、テルは内心ため息をつく。
 そうしていると、「遊飛!」とユウディアスが声を掛けてきた。

「ソレガシは、交渉が終わったら地球へ戻るのだ!」
「おう、ユウディアスは大事なUTSのメンバーだ!待ってるからな!」
「うむ!また会おう、遊飛!」

 遊飛とユウディアスは左右の片手を上げ、パチンッ!とハイタッチして強く握り締め合う。

「俺達はずっと親友だ」
「ソレガシらはずっと親友なのだ」

 互に想っている気持ちを言葉にして伝え、笑い合った後に手を離した。
 ズウィージョウと共にザイダベルギャーへ向かって行くユウディアスとバリベルギャーに手を振って見送る遊飛に、テルはそんな光景を眺め続ける。
 空高く飛び立っていき、姿が見えなくなるまで遊飛は手を振り続け、そして下ろして軽く息を吐き、テルの方へと顔を向けられる。

「さてと、俺らも帰ろうか」
「はい」

 小型宇宙船へ向かうように歩き始め、遊飛は両手を後頭部で組みながら空を見上げる。

「遊歩達に色々と言われるだろうなぁ」
「そこは頑張ってください。結構、怒ってましたので」
「そりゃそうだよなぁ」

 どう説明するのを悩んでいるのか、あれこれ考え込んでいる遊飛を見つめる。すると、その視線に気がついた遊飛は、上目遣いのようにテルを見上げた。

「なぁ、地球に戻ったら、お前はこれからどうするんだよ?」
「君のそばにいるつもりですが」

 テルは当たり前のように質問を返すと、遊飛は「えっ?」と言いたげな表情へと変わっていく。そんな反応を見たテルは嫌な予感が走る。いや、そうでないことを願っていたが、遊飛の発する言葉に絶望する。

「俺になんも興味ないだろ?アースダマーもユーヒもいないし」
「何言ってるんですか?」
「だって、お前が好きなのユーヒだろ?」

 予想外な言葉を放つ遊飛に対して、頭が痛くなっていくのをテルは感じた。何故、その考えに至ってるのか。過去に別れ際、テルは遊飛に告白した事は思い出している。そのまま口付けした事も覚えている。
 そこまでしたのに、当の本人は気がついていない。むしろ、気がついてるが、それはユーヒとしての告白として取られている可能性もある。
 どこから説明すればいいのか、とりあえず相手が気がつかなければ意味は無いと判断したテルは質問を投げた。

「何故、その解釈になってるんです?」
「お前が言っていた花嫁ってユーヒじゃん。俺じゃないし」
「確かに花嫁とは言ってましたが、彼は恋愛というより、友愛や憧れの方が強かったですね」
「いやいや、よく考えてみろよ!」

 「むしろ君がよく考えてください」と言い返したかった。だが、そういう解釈となった紐解きをするのが優先だと思い、テルはグッと堪える。

「それに、君と別れる前に言いましたよね。君は私の花嫁だと」

 一か八か別れ際に言った時を告げ、遊飛の反応を観察した。少し瞳を大きく見開き、瞳孔も揺れ動いてるのがわかる。その数秒後に口が小さく開き、遊飛が声を漏らした。

「あれ、聞き間違いじゃなかったんだ……」
「覚えてるじゃないですか」
「いや、そのぉ……急な事だったし、別れる時に混乱して言ってるんだと思ってて……」

 これでは埒が明かない。自ら気がつかなければ意味は無いが、テルもそんなに気は長いタイプではなかった。後頭部に手を当てて軽く髪を乱した後、手を離しながら溜息をついた。
 テルの態度に不安を感じたのか、少し瞳が挙動不審になっている遊飛を見つめて口を開いた。

「むしろ、私は出会った時から君の事を好いてましたよ」
「へっ?」
「ユーヒに記憶を封じ込められてましたが、思い出した時、私は改めて思ったんです」

 テルは目を細め、出会ったあの時を昨日のように思い出す。

「君が空から落ちてきた時から、私は君を恋愛対象として好いていた事に」

 全てを言い切り、テルの心臓はうるさく鳴っていた。想っている事を全て言葉として伝えた。あとはそれを受け止めた遊飛が、どう返答をするかである。すると、遊飛の表情は驚いたものへと変えていき、首を横に全力で振った。

「いや、それは嘘だろ!?」

 そう言う遊飛に、テルの眉間に皺が寄る。ここまで本心を伝えて、何故否定的な反応を返すのだろうか。それはそれでムカつき始めるテルは、遊飛の前へと詰め寄って見下ろす。

「なぜですか」
「だって俺の事、めっちゃ毛嫌いしてたじゃん!」

 はっきり言う遊飛に、ここまで思い込ませてしまった過去の自分の行動に恨みを感じた。テルは自身の手で顔を覆いかぶさせ、軽く息を吐き捨てて指の隙間から遊飛の顔を見る。
 予想外な反応をしてるからか、遊飛は少しソワソワした表情をしており、テルはそんな彼の顔を見つめ、あの時の気持ちを伝える。

「好きな人の前ほど、素直になれないというパターンだったんです」
「えっ?」
「若かったんですよ、私も」

 全てをさらけ出し、顔が少し熱くなるのを感じる。顔を隠していた手を離し、テルは深く息を吐き捨てた後に遊飛へ視線を向けると目を大きく見開く。
 遊飛の表情は鳩が豆鉄砲を食らったかのようであり、まるで理解不能と言いたげだ。そんな遊飛の反応を見たテルにとってイラつき、問い掛ける。

「なんですか、その顔は」
「いや、えっと、その、お前にもちゃんと照れる気持ちってのがあったんだなぁって」
「私をなんだと思っているんですか?」
「え、デリカシーがない俺のファーストキスを奪ったヤバいカッパ」

 遊飛の言葉にグサッと胸に刺さり、テルはこれまでの行いを恨みそうにもなる。過去の自分にも、今の自分にも、遠巻きな行動が全て裏目に出ていた事に対して。
 ならば変わるとしたら今しかないと考え、テルは遊飛を見下ろしながら見つめる。心臓の鼓動はうるさく、緊張しているのが分かる。今まで普通に出来ていたことが、何故うまく出来ないことに対して、テルは気持ちを落ち着かせようと深呼吸した後、本心を語り始める。

「もう一度、告げます。王道遊飛」
「えっ……?」
「私は君を愛してます。この先もずっと、私は君の隣に居たい」

 本心の言葉を全て伝え、全身が熱くなっていくのを感じる。ここまで体温上昇してるとなると、カッパ体液も酷く出ているだろう。
 遊飛の返答は待たず、最後に伝えなければいけない部分を言おうと、テルは口を開く。

「もし断った場合、君をあの牢屋へ閉じ込めます」
「やっぱりヤバいカッパじゃん!」

 ツッコミする遊飛にテルは(コレも駄目なのか)と内心思った。どうしたものかと考え込んでいると、遊飛の頬が赤くなっており、視線は明後日の方角へと向けて唇を尖らせ言葉を発する。

「そんな事しなくても、俺だって同じ気持ちだし」
「えっ?」
「あっ」

 マズいと言いたげな表情で慌てて口を手で塞ぐ遊飛に対し、テルはすかさずに塞いでいる遊飛の手首を掴み、口から引き離した。
 今のは絶対に聞き間違えではない。遊飛の本心が聞けた事に、テルは絶対にこの機会を逃してはいけないと本能が叫んだ。強く握り締め、少し前へと手を引っ張り身体を近づかせる。

「今、私の告白を受け入れましたね」
「なしなしなしなし!今のなし!」
「何故ですか、今の言葉が君の本心なんですよね?」
「あ、うっ……いや、俺は……お前の事なんか……」

 あっちこっち目が泳ぎ、顔はトマトの様に真っ赤に染まっており、もうそれが答えだと分かってしまう。だが、一方的に素直にならない遊飛に対し、テルは顔を近づかせて宣言をする。

「それでは、今からキスします」
「なんでっ!?」
「そうでもしないと、君が素直にならなそうなので」

 口から言わせるには、これぐらいしないといけないと判断したテルにとって、駆け引きでもあった。もしキスを拒絶されてしまったら高確率で牢獄行きは決めており、今度こそ手放さない勢いで遊飛を囲うつもりもあるのだから。
 その時、遊歩から何か言われるだろうと思うが、それが起きた時はなんとかするようにすればいい。そう、今のテルはヤケクソ状態である。
 顔を近づかせていき、待ったなしで残り数cmで唇同士が重なりかけた時、遊飛が音を上げるように声を出した。

「あーもう!俺も好きだよ!」

 叫びながら告白し、遊飛は力が抜けるように座り込んでしまう。そして、深い溜息を吐き捨てて頭を抱えるようにしていた。

「なんで俺、好きになったんだろうな……」
「私はとても潤っていますけどね」

 「すぐに素直にならなかった君が悪い」と付け足し、テルの心は満たされていた。やっと遊飛の本心が聞けたのだ。これ以上の魂が潤う事はあるだろうか。
 満足しながらテルは笑みを浮かべていると、頭を抱えて顔を隠していた遊飛が顔を上げ、テルと目を合わせられる。

「……なぁ」
「なんですか?」
「俺、好きになっていいの?お前のこと」

 そう問い掛けてくる遊飛に、テルはしゃがんで視線を合わせる。そして手を伸ばし、遊飛の頬に触れた後に顔を近づかせた。

「ずっと言い続けていたじゃないですか。私は君を愛してると」

 その言葉を最後に、テルは遊飛の唇を重ね合わせた。唇から伝わる体温としっとりとした感触。じっと遊飛の瞳を見つめてみると、瞳孔は揺れ動き抵抗しないままゆっくり瞼を閉じた。
 この口付けはほんの一瞬であったが、遊飛とテルにとっては長い感覚であっただろう。
 重ねていた唇を離し、そのままコツンっと互いのひたいを合わせた。

「今度こそ、手放すつもりなんてありませんから」
「あぁ」

 テルの言葉に、嬉しそうに返事をする遊飛。テルは遊飛の手を取り、一緒に立ち上がるよう引っ張り上げた。
 その時、優しい風が二人へ向けて触れてくる。まるで二人を祝福するかの様であり、テルと遊飛は微笑み合いながら晴天な空を見上げるのであった。




















 ◇ ◇ ◇

あの後、小型船の宇宙船に乗った俺達は、地球へと目指していた。
到着までの間、俺はテルとこれまで空いた隙間を埋める様、共に過ごしていくのに何をするか語り合った。
長く待たせた辛い時間を、沢山楽しい時間へと変えていく事に。
地球へ帰ったらまず何をしようか。ラッシュデュエルするのもいいし、出掛けるのもいいかもしれない。
そんな他愛もない話を俺達は楽しく話、自分は本当に幸せだと感じていた。




そう、地球に戻るまではーー




 ザーッと滝の様な雨の音が鳴り響く森林の中、傘もささずにずぶ濡れの状態である遊飛は目を伏せていた。雨の香りの他に、土や草木の香りを感じ取り、ゆっくり瞼を開け、目の前にいる黒帽子に黒スーツ、黒のサングラスを付けさすまたを持った人々を見つめる。
 MIKと名乗った彼らは恐怖と警戒するかのな眼差しで見つめ、さすまたを向けている事に対し、遊飛は内心ため息をつく。

(そんなに警戒しなくても、俺にはもうアースダマーは無いんだけどな)

 数十分前からそれを伝えてはいたが、検査する必要性があるとかで一方的に受け入れてくれる雰囲気はなかった。アースダマーの危険性は、あの時のユウディアスとズウィージョウのデュエルや、遊飛が連れ去られる時に証明されてしまっている。
 いつまた何かで利用されない為にも、遊飛を連れて行こうとする理由も分かる。
 だが、迎えに来てくれた遊歩も最後まで見届けていたテルも説得していたが、逆に共犯者として決めつけられてしまい、このままでは捕まる可能性もあった。それを聞いた遊飛は止めに入ったが案の定、テルを止める事は出来なかった。
 その結果、今遊飛の前にはボロボロにされて地面に倒れているテルと、殺気立った眼差しで見下ろしている緑髪に赤色の前髪の青年の光景を見せつけられていた。

「くっ……うっ……」

 無理して起き上がろうとしているテルの姿は痛々しく、遊飛を絶対に守ろうとしているのが伝わる。遊歩も遊飛の手を取り、必死に行く必要は無い事を伝えてくれるが、遊飛の中ではもう覚悟を決めている。
 二人を守る為にも、今この場を収めることが出来るのは自分自身でしかないことに。それを悟った遊歩は首を横に振り、遊飛の腕を離さないようにしがみつく。

「遊飛、行かないで!」
「テルの手当て、頼むな遊歩」

 それだけ言い残し、遊飛は遊歩の手を解いて歩き始める。足が地面を踏む度、びちゃびちゃと水の音が鳴り、テルの隣を歩いて青年の元へと向かおうとした時、足首を掴まれ止められてしまう。

「っ!」

 掴んだ相手は遊飛も分かっている通りテルであった。遊飛はしゃがみ、テルと視線を合わせる。傷と泥で酷い面になっており、苦しそうな表情で必死に遊飛に声を掛ける。

「行かないで……下さい……私はまだ……戦え……」
「ごめん、テル」

 握り締められている手を優しく解いていき、遊飛はテルに笑顔を向けながら何度か頬を撫でる。大丈夫、大丈夫と子供をあやすような触れ方をし、その手を離してゆっくり立ち上がった。
 そして、遊飛は背後にいる存在へと振り返り、彼の前まで歩み寄り真剣な眼差しで見つめる。

「俺が目的なんだろ。だったら、お前のそばにいる。だから、これ以上危害を加えるな」

 遊飛の言葉に青年は頷き、手を差し伸べてくる。この手を取れと言いたいのだろう。遊飛はその手を取ると、優しく握り返された。
 彼の満足気な表情に、先程までの殺気立っていたのはなんだったのか。彼の眼差しは警戒ではなく、慈愛に満ちているものであり、遊飛はそんな彼の眼差しに微かな疑問が浮かび上がった。だが、その考えは今はしない方がいいと思い、遊飛は彼の名前を呼ぶ。

「行こう、竜宮フェイザー」

 その言葉と共にフェイザーは合図を送り、MIKは動きます。遊飛を連れて歩き出す団体に、残された遊歩は泣き叫び、テルは歯を食いしばり、地面を強く叩きつけるのであった。


第1章 惑星の花嫁 完


2025.01.18
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