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<テルゆひ> 惑星の花嫁

 ピコピコと電子音が響く中、テルは宇宙船を操縦しながら出来る限り早く着けるルートを設定していた。しかし、隣に座っているユウディアスの小刻みに揺れ動く事に目が行ってしまい、何度目かの溜息をついてしまう。
 急ぎたい気持ちも分かる。だが、それを身体の動きで表現するのを止めてほしい気持ちもあった。そんな事を知る訳でもないユウディアスは、少し前のめりでテルに問い掛ける。

「例の惑星が到着するのは何時になる?」
「そんなに時間は掛かりません。なので、もう少し落ち着いて座って下さい」

 ピシャリと冷たく返すと、ユウディアスは大人しく座り直した。これもいつまで持つのかと考えていたが、それはすぐに打ち破られてしまう。

「合羽井は何故、ユーヒと旅をしていたのだ?」

 やはり彼は、無言が続く空気があまり得意なのではないのだろう。なんとなく察していたテルは、ユウディアスの会話に乗るしかないと判断する。
 今は目的地や標準の入力は完了している為、テルは操縦をオートモードへと切り替えた。背もたれに背中を預け、キィッと椅子を鳴らしながらテルはユウディアスへと視線を向ける。

「そうですね。最初はアースダマーの研究として近づきました」

 過去の記憶を思い出しながらテルは語り始める。ユーヒと初めて出会った事を。この話を他の人へ話すのは初めてだと思い、それでも一度語り始めた言葉は止まる事もなく続いていく。

「ユーヒはアースダマーの影響か、とても身体が弱い人でした。少し運動しただけで吐血する程です」
「……そんな状態でよく旅が出来たのだな」

 予想外な内容に驚きが隠せられなかったユウディアスは、少し声が戸惑っていた。そう思われてしまうのも致し方ないと、テルは内心思いながら語り続ける。

「なのに無茶するんですよ。ひ弱なのに助けに走ったり、私が脅しても反論してきましたし」
「遊飛とそっくりだ!」

 両手に拳を作り、強く頷きながら嬉しそうに語るユウディアス。その言葉にテルは一瞬、何か引っ掛かる感覚がきた。

「……いえ、ユーヒはそんな無茶なする人じゃなかったはず……ペットを飼いたいと我儘は言いましたが、駆け出したりはしなかった」

 脳裏に思い浮かぶ記憶は、まるでビデオテープがデッキに絡まり、映像が乱れて分からなくなってしまう。必死に記憶を追い求めてみるが、目の視点が急に合わなくなりグワングワンと視界が揺れ動き気分が悪くなる。
 急に力が抜け落ちグラッと上半身が傾き、操縦機にぶつかりそうな中、テルはどうにか手で支え、ぶつからずに済んだ。

「どうしたのだ!」
「大丈夫です、少し目眩がしただけです」

 心配そうなユウディアスへそう返し、テルは軽く頭を振って軽く息を吐く。ゆっくり背もたれへ背中を預け、天井を眺めて目を細める。

(なんだ、前にも似たようなことがあったが……ペット……確かにユーヒはアレを飼いたいと言った)

 笑顔を向けながら「気に入っちゃったんだもん」と言うユーヒに抱き上げられているペット。だがそのペットの姿が、形が思い出せない。記憶を辿ろうとする度、何故かグリッジノイズで歪まされている。
 重たい息を吐き、テルは手で自身の顔を覆いかぶせ、一つの疑問を口に出す。

「そもそも、あれは動物だったのか?」

 形を思い出せない事に、テルの気持ちが揺れ動く。何か大切な部分が抜け落ちているような感覚。記憶が絡み合った糸の様に複雑であり、この糸を紐解けば何かが知れるのではないかと、そう思っていた時、操縦画面からピピッ!と音が鳴り響く。
 その音によって考える事を止めたテルは上半身を動かし、操縦画面の方へと視線を向ける。

「どうにか着きましたね」

 着陸の準備を始める宇宙船に、テルは自動運転モードから手動へと切り替える。ハンドルを握り、ゆっくり前へと押していくと宇宙船の角度が下へと向けていく。
 熱圏へと入り、ガタガタと激しく揺れる宇宙船にテルは冷静な判断を取り、着陸する場所へと誘導していき地面へと降り立った。

「酸素濃度も昔と変わってないので、このまま外に出れます」
「そうか!ならば、早く遊飛達がいる遺跡へ向かおう!」

 ガタッと椅子から立ち上がり、我先にとユウディアスは外へ出ようと向かう。その迅速的な行動が良い点でもあるが、先に着いているズウィージョウが、罠を仕掛けていないかを考えていないのだろうか。
 テルは軽くため息をつきながら立ち上がり、ユウディアスの後を追った。既にシャッターは開いており、外へ出たテルは辺りを見渡した。

「ここに来るのは何年ぶりでしょうね」

 ユーヒが消えてしまったのを最後に見た光景は、遺跡のまわりは草木がほぼない状態であり、地面もひび割れがあって人が生活していくには難しい環境であった。
 今もその変わらない風景に、テルは目を細めて眺めていると地面からズドンッの盛り上がる様な大きな揺れがくる。

「なんなのだ!この揺れは!」
「……まさか、もう発動させたのか」

 前に似た揺れを経験した事があるテルにとっては、最悪な状況だと瞬時に理解する。ドクドクとうるさく鳴り響く心臓を落ち着かせようと呼吸し、気持ちを切り替えたテルは目の前にある遺跡へと視線を向ける。

「急ぎましょう。ズウィージョウはアースダマーを使い始めたのかと思います」
「遊飛!」

 ユウディアスは駆け出し、遺跡の中へと入っていく。テルも早歩きで後を追うと、ユウディアスが足を止めておりキョロキョロとまわりを見ている。
 「どうかしましたか」と、テルは声を掛けると、振り返ったユウディアスは困った表情をしながら声を出す。

「どっちに向かえばいいのだ?」

 そう答えるユウディアスに、テルはため息をつく。過去の記憶を頼り、変わっていなければとユウディアスの前に立ち誘導するように視線を向ける。

「こっちです」

 先に歩くテルの後を追い、ユウディアスは遊飛の名前を呼び始める。少しでも返事を貰える事を願いながら、どうか無事であることを願いながら。
 そう気持ちを落ち着かせようとしても、足に力を入れてしまい、少しでも歩くスピードを上げていくのが分かってしまう。

「大丈夫なのである」

 背後から聞こえるユウディアスの声に、早歩きしていた足を止めた。突然何を言い出すんだと思ったテルは振り返ると、ユウディアスは確信があるような自信に満ちた表情で口を開く。

「遊飛は無事でいるのだ」
「何故、そう思うんですか?」

 さっきまであんなにも落ち着きがなく、暴走状態であったユウディアスに、なんの心の変化があったのだろうか。それがどうしても疑問になったテルは問い掛けると、ユウディアスは少し苦笑いをこぼす。

「慌てていたソレガシが言っても、フォローになるか不安なのだが……」

 しっかり自覚してたのか。と、テルは内心思いながら話を聞き続ける姿勢を取る。

「ズウィージョウは、人の命を無下にしないのである」

 真っ直ぐで信頼な眼差しで告げるユウディアスに、何故そんなに信頼しているのかテルの中では不思議に思った。だが、二人は長く一緒にいた関係もあり、自分では見えない何かがあるのだろう。

「だからソレガシは、ズウィージョウを知りたい。本当の目的を」

 ユウディアスの目的を聞き、テルは軽くため息をつく。そこまで言うのであれば、信じてみようと考えていきテルは再び歩き出すのであった。

 ◇ ◇ ◇

 静まる遺跡の中、遊飛はいくつもの画面を眺めながら指でスライドしていき、各自に指示を送っていく。

「そう、その力はあっちへ回して。ここは逆に力が溜まりすぎてるな。そっちの惑星へ回してくれるか?」

 遊飛の指示に反応を示し、100%を超えた数字を出している惑星の画面は少しずつ数値が下がっていき、代わりに100%満たしてない惑星の数値が上がっている。
 その作業を静かに眺めていたズウィージョウは、何かが聞こえて通路の方へと視線を向けた。そして、それが何か分かり、視線を遊飛へと戻して声を掛ける。

「どうだ」
「まだ時間が掛かるな。なんせ、何百年もやらなかった事だぜ?」
「そうか。だが、急がなければ時間が足りなくなる」

 ズウィージョウの言葉に遊飛はどういう意味なのかと思っていると、通路の方から「遊飛ぃ!」とユウディアスの声が聞こえてくる。
 それに対して遊飛は少し苦笑いし、「ははっ」と乾いた声で笑った。

「やっぱ来るよなぁ」
「知れたことを」

 軽く笑いながらズウィージョウは剣を抜き、入口の前で戦闘態勢し、いつでもユウディアスを対処する姿勢を取る。本当は止めに入りたい遊飛だったが、ズウィージョウはズウィージョウの考えがあるのかもしれない。
 その背中を眺め、遊飛は急ごうと指を動かす。今やる事をユウディアスに知られれば、絶対に止めに入ってくるのは予想が出来るからだ。

「遊飛!」

 叫びながら姿を現したユウディアス。その背後に立っているテルの姿を見た遊飛は、目を大きく見開き動かしていた手を止めてしまった。彼だってやって来る事は分かっていた。それでも来てくれた事に対して、心の奥底から喜びが溢れ出て目の奥が熱くなってくるのを感じた。
 だが、今は自分のすべき事を優先しようと首を横に振り、遊飛は気持ちを切り替えていく。止めていた手を再び動かし、操作を進めて行った。

「まさか、短時間でここまで進んでいるなんて」

 遊飛が操作しているものを見て、テルは驚きが隠せられなかった。この機械の操作方法を知るはずもない遊飛なら、そこまで進んではいないと思っていたからだ。そして、現状は最悪なところまで来てしまっている。
 早く止めに入らなければ、取り返しのつかない事が起きてしまう。それだけは避けたい気持ちもあり、テルは止める方法はないか周りを見渡す。

「どういう事なのだ?遊飛は何をしているというのだ!」

 その中、唯一状況が分からないユウディアスは、説明して欲しく問いを投げる。それはそうだろう。本当にユウディアスは知らないのだから。
 それを答えようとズウィージョウは遊飛を隠すように前に立ち、立ち塞がった。

「遊飛はアースダマーの力を使い、全ての惑星へ生命を流し込んでいる」
「全ての惑星に生命を流し込んでいる?」
「代々、アースダマーの器として選ばれた者は、ここで儀式をしていくんです」

 そう言い、テルは語り始める。アースダマーというものがどういうものか。
 アースダマーは惑星一つ生み出す程のエネルギーがあり、既にある惑星へエネルギーを分け与えることも出来る。惑星の寿命も永遠ではない。必ずエネルギーは枯渇し、滅びを迎える。

「それが自然の摂理でありますが、唯一それを覆すのがアースダマーです」
「アースダマーを持つ者はこう呼ばれていた。惑星の花嫁と」
「惑星の花嫁……」
「ですが、その儀式が上手くいかなかった場合、その力は器を失う事に引き継がれていき、増幅されていきます」

 アースダマーのエネルギーを液体で例えれば、保持している遊飛達はそれを受け止めるコップである。コップにヒビが入って溢れる寸前に、アースダマーは新たなコップを求め、その量のまま移動する。
 そして、また新しいコップで更に量を増やしていくのを繰り返す。そんなことを長年続けてしまえば、いずれ新しいコップでも入り切れないほどの量となる。

「王道遊飛の前世、ユーヒの代で限界寸前だったんですよ」
「なるほどな。遊飛のアースダマーが、ここまで強い理由に納得する」

 だとしても、まだ幼い子供の身体にどれだけの負荷かが掛かっているのだろうか。むしろ何故、遊飛は壊れずに済んでいるのだろうか。それの答えは遊飛しか分からないだろう。
 ただ、今分かることは、その増えたエネルギーを一気に吐き出した時、その衝撃は遊飛の身体が耐えられるわけないという事だけだ。
 その説明を全て聞いたユウディアスはギリッと歯を強く噛み締め、眉間に皺を寄せキッとズウィージョウを睨みつける。

「ズウィージョウ、貴方はそれを知っていたのか!」
「遊飛が決めた事だ」

 表情を変えず返答するズウィージョウに、ユウディアスの眉間のシワがさらに深くなる。そして、ユウディアスは駆け出す。

「止めるのだ、遊飛っ!クッ!」

 止めに入ろうと遊飛の元へ向かったが、ユウディアスは何か強い壁によって弾き飛ばされてしまう。強い衝撃であったが、どうにか踏み止まったユウディアスはもう一度、遊飛の元へと走り出す。
 だが、やはり壁によってユウディアスは止められてしまい、テルはユウディアスへ向けて指示を出そうと口を開く。

「壊すには、かなりの力が必要です!」
「ならば、フルパワーで壊すまで!」

 両腕に力を入れて殴る体制をするユウディアスに、遊飛はズウィージョウへと視線を向ける。二人の目は合い、ズウィージョウは黙って遊飛を見つめ返すと、遊飛は苦笑いしながら口を開く。

「ズウィージョウ、悪ぃけど二人を押さえといてくれないか?」
「……それは命令か?」

 そう問い掛けてくるズウィージョウに、目を瞬きをした遊飛は軽く溜息をつく。ズウィージョウの眼差しは完全に主の命を待っているものであり、時間もまだ足りない事に致し方ないと言い聞かせる。
 はぁ、とまた一つ軽く息を吐いた後に、遊飛はズウィージョウへ視線を向けた。

「お前だとそっちの方がいいよな……ズウィージョウ、俺の作業が終わるまで二人の足止めを頼む」
「いいだろう」

 満足そうな声色で返事をするズウィージョウに、遊飛は肩を竦めながら「任せたぞ」と言い作業へと集中していく。
 遊飛からの言葉に信頼されてる事を感じ取ったのか、ズウィージョウは剣を持ち上げ、刃先をユウディアスへと向けた。

「ワレの名はズウィージョウ・ズィル・ベルギャー!主である王道遊飛の騎士であり、主の命により貴様らを倒す!」

 そう言いズウィージョウは駆け出し、ユウディアスへ向けて剣を振り下ろす。近づく刃にユウディアスは咄嗟に自身の剣を抜き、ズウィージョウの剣を受け止めた。
 ガキンッと剣同士のぶつかる音と同時に、手首から痺れが来たユウディアスは少しだけ眉間に皺を寄せる。そして全身に力を入れて押していき、ズウィージョウをどうにか距離を置くようにした。
 だが直ぐに詰め寄って剣を振るズウィージョウに、身動きがうまく取れず、遊飛から引き離されていくユウディアスはギリッと奥歯を噛み締める。

「退くのだ!ズウィージョウ!」
「断る!遊飛の覚悟を無駄にはさせん!」

 素早く剣同士をぶつけ合わせていくユウディアスとズウィージョウ。その光景を見ても、遊飛は特に表情を変えず、操作を続けている。
 そんな彼の姿に、動かなければ。とテルは思った。早く傍に寄り添い、止めに入らなければ、また同じ事が繰り返してしまう。

「ソレガシがズウィージョウを相手している間に、遊飛を頼む!」

 ユウディアスの声と合図にテルは駆け出した。走る事で乾燥してしまうが、そんな事はどうでもいい。全速力で遊飛の元へ向かっていくテルに、ズウィージョウはテルの方へと矛先を変えた。

「行かせるか!」
「させないのである!」

 テルへ向けて剣を振り下ろしたズウィージョウだが、今度はユウディアスが止めに入り、遊飛の元へと近づかせないようにした。
 さらにユウディアスは片足を上げて回し蹴りをし、ズウィージョウは咄嗟に空いているもう片方の腕でガードすると、互いの骨からミシッと嫌な音が響く。
 攻撃が通らなかった事で、ユウディアスは次の攻撃をしようと回し蹴りした足を下ろそうとすると、足首をズウィージョウの手で掴まれてしまい身動きが取れなくなってしまう。

「しまっ!」

 振りほどこうとしたが、フワッとユウディアスの身体は宙に浮いた。まるでぬいぐるみを持ち上げる様にし、ズウィージョウは勢いよく地面へと振り落とし、ユウディアスの身体は埋め込まれる。

「かはっ!」

 地面は盛り上がって亀裂が走り、背中からくる激しい痛みにユウディアスは息が詰まった様な咳をした。せめて頭だけでもガードしようと両手で後頭部を守ったが、あまりの衝撃にユウディアスの視界はブレてしまい、思考もぐちゃぐちゃにされてしまう。
 早く視点を合わせなければ。と、ユウディアスは起き上がろうとしたが、それを許さないようにズウィージョウの足がユウディアスの左肩へ乗せ、踏みつけるように再び地面へと押し込まれる。ヒール部分が肩をめり込み、痛みが指先まで痺れ渡り、苦痛な声を上げた。

「ユウディアス!」
「ソレガシの事は……気にするな!」

 叫ぶテルにユウディアスは苦しい声で返事をした後、肩の上に置かれているズウィージョウの足を掴んでゆっくり起き上がった。まだ痺れる左腕をどうにか動かせるまでに、右腕で反撃をするしかない。
 そして自分が止めなければ、ズウィージョウは直ぐに合羽井へと攻撃を仕掛けてくるだろう。それだけは避けなければならない。荒い息を整え、ユウディアスはバリベルギャーへ視線を向けた。

「バリベルギャー!合羽井のサポートを頼む!」
『ユウディアス!ユウディアス!』

 急いでテルの元へと駆け寄るバリベルギャーを見届けたユウディアスは、口角を上げて一気に全身の筋肉を奮い立たせる。ズウィージョウの足を振りほどくと、何歩か後ろへとズウィージョウは動く。
 少しの間が空いた事で、その僅かな時間を無駄にしないよう、ユウディアスは右手にある剣を仕舞う。

「なんの真似だ」
「ソレガシは知りたい。ズウィージョウが何を考えているのかを。剣だけではなく、ラッシュデュエルで!」

 デュエルディスクを取り出し、左手首に装着していく。先程の叫びで肺や腹部あたりに痛みが走ったが、耐えながらもユウディアスは息を大きく吸って声を出す。

「ソレガシの名はユウディアス・ベルギャー!友の遊飛と仲間のズウィージョウを救う為に来た戦士である!」

 そう覚悟の言葉を吐き、デュエルディスクを構えるユウディアス。ソリッドビジョンは展開し、ズウィージョウは閉じ込められてしまう。
 最初は剣でソリッドビジョンを壊そうかと構えるが、ある言葉がズウィージョウの脳裏に響き渡る。

『ユウディアスは、どんなお前でも受け入れてくれるよ』

 遊飛の言葉を思い出し、ズウィージョウは構えていた剣を下ろした。動きが止まった事に、ユウディアスは顔色を伺うかのような仕草をしており、そんな彼の仕草を見ていたズウィージョウは小さく口角を上げる。

「そうだな。ヤツ相手だと、コレが一番いいのかもしれないな」

 納得する言葉を小さく呟き、ズウィージョウは剣を仕舞った後にデュエルディスクを取り出す。
 それを見たユウディアスの表情は明るくなり、このキッカケでズウィージョウの本心を知れると思い、身体が震えるのを感じる。

「いくのである!ズウィージョウ!」
「来い!ユウディアス!」
「「ゴーラッシュ!」」

 互いの声によって始まったラッシュデュエル。このデュエルによって、ズウィージョウの本心を知れればと思いながらユウディアスはデッキからカードを引くのであった。

 ◇ ◇ ◇

 ぶつかり合う音、地面に痛みの声が響く地鳴り、ユウディアスの悲痛な声、テルの叫び声やズウィージョウの声が響き渡る中、遊飛はそれらを聞かないように遮断し、操作に専念できるようにしていた。
 汗が額から垂れ落ち、袖で汗をぬぐい取って動かし続けると全ての操作を完了し、画面に映っている内容を確認して目を細める。

「繋がった。これで全部の惑星に送れる」
「王道遊飛!」

 辿り着いたテルは声を掛けるが、遊飛は顔も上げることも無く、手を止めずに動かし続けている。早く止めなければと、テルはバリベルギャーへと声をかけようとした。

「出力最大でぶつけられますか!」

 テルの言葉にバリベルギャーは両腕を回していき、バチバチと電気の火花を振り撒く。そして、放電している両腕をバリベルギャーは思いっきり遊飛を囲っている結界へ振り下ろした。
 ガンッ!とぶつかる音とバチバチと電流の音が鳴り響き、眩しい光にテルは目を細める。眩い光は消えていき、キズ一つもない結界を見たテルは内心舌打ちをする。
 作業を止めていた遊飛はこうなると分かっており、軽く首を横に振った後、テルに向けて視線を合わせた。

「無駄だ。この結界は一度発動したら破壊する事は出来ない」
「君が今やってる事、分かっているんですか!」
「分かってる。だから、ごめんな」

 申し訳なさそうな笑顔をテルへ向ける遊飛は、目を合わせていた視線を外し、画面の方へと移す。全ての作業が終わり、あとはアースダマーと一緒に力を使って全惑星へと行き届かせていけば全てが終わる。

そして、自分の身がどうなることもーー

 小さく深呼吸をし、遊飛は最後にやるべき事をしようとすると、ダンッ!と結界から振動と殴る音が聞こえた。その音に驚いた事でついテルの方へ目が移り、遊飛は彼の表情を見て目を大きく開く。
 真剣な眼差しに殺気が含まれ、歯を食いしばりながら遊飛を睨んでいるテルの姿が、過去に出会った彼と似ていたからだ。

「馬鹿か!今すぐ止めるんだ!」

 あの時と同じ素を出してるテルの姿に、遊飛は自然と笑みを浮かべ、くすくすと笑ってしまう。

「何笑っているんだ」
「ごめん。お前の敬語外れたの、なんだか懐かしく感じてさ」

 相手を不快にさせた事に対して謝り、遊飛は笑うのを止めて過去の事を思い出す。あの頃は敵視され、警戒されてキツイ言葉を当てられ、それでも根は優しくそれを上手く表に出せなかった不器用な人。
 テルに対してのいくつもの部分を感じながら、遊飛は自身の喉仏あたりに手を当て、軽く摩って目を細める。

「まぁ、そんなお前にも俺は気になってたんだよな」
「何を言って?」

 遊飛が言っている話が理解出来ず、戸惑っているテル。その表情を眺めていた遊飛は、最後なのだから伝えてもいいかもしれないと思った。

「あれから何年経ってるのか分からないけど。俺はお前とユーヒとの旅、すごく楽しかったんだぜ」

 遊飛の言葉に、ガチャリと、何かドアが開くような音がテルの頭の中に響く。まるで、思い出すなら今だと言われているかのように、テルの視界はあの時の風景が見えた。

 ◇ ◇ ◇

 遊飛が消え、テルの手元に残ったのは自身のマント。ついさっきまで遊飛がここに居たと分かるように、マントからは微かに人の温もりを感じる。

「ユウ……ユウ……」

 悲痛な声で名前を呼びながら、必死にマントを握り締めて縮込むテル。歯を食いしばり、目の奥が熱くなり、零れそうな涙を流さないようギュッと強く目を瞑る。
 そんな彼の姿を見つめていたユーヒはゆっくり立ち上がり、テルの元へと近づいて座り込み、優しくテルを抱き寄せた。

「テル、愛しい人が消えると苦しいよね、痛いよね」

 泣いている子供をあやす様に、ユーヒはテルの頭を優しく撫でる。肩を震わせているテルに、何度も何度も撫で続けていくユーヒの指先が透け始め、それを見たユーヒは目を細めた。
 もうすぐ自分の時間も無くなると悟り、それでもコレだけは伝えておかないと思ったユーヒは、重大な言葉をテルへ向けて言う。

「でもね、ユウは生きてるよ」
「っ!」

 それを聞き、テルは顔を上げた。瞳を大きく開き、「本当なのか?」と言いたげな眼差しをユーヒに向ける。また彼に会えるかもしれない。微かな希望を感じながら、微笑んでいるユーヒの唇が動く。

「あの子は未来から来た子だから」
「未来から来た……だと?」
「うん。僕のアースダマーは、すぐにユウの元へ向かうよ」
「まさか、ユーヒとユウは」

 ユーヒの言葉を理解したテルは、そんな事が有り得るのか。と思ったが、それでも希望があるのならばとユーヒの肩を掴み掛る。

「彼は何年後に生まれてくるんですか!」
「それは僕もわからないや」

 「あはは〜」とあっけらかんとユーヒは笑った。その態度があまり良くなかったのか、眉間に皺を寄せて今にも舌打ちしそうなテルの表情を見て肩をすくみながら苦笑いをこぼす。
 そういった感情を表に出せるようになっているならば、遊飛にも早く気持ちを伝えれば良かったのに。と、内心ため息をついていた。

「まぁ、知ってても教えるつもりはないよ」
「何故ですか」
「君って、時々執着心が強いからね」

 困った表情をしながら思っていた部分を伝えると、肩からギュッとテルの指先が食い込まれる。「痛い痛い」と軽く言い、掴まれていた手を退かしたユーヒは、顔つきを変えてキッとテルを睨みつけて指を指した。

「あと今更になって気がつくのも遅すぎ」
「それは……そうですけど……」
「見つけたら、記憶ないユウをすぐに監禁しそうだもん」

 そう指摘され、図星だったのかテルは何も言えなくなってしまう。黙り込んでいると、ユーヒは肩をすくめて軽く息を吐き、次の話を進める為に話題を変えようと両手を叩いた。

「とりあえず、僕はもうすぐ消える。だから、番解消はしておかないとね」

 ユーヒは小声で呪文を口ずさむと、互いの左手の薬指にリングの様な印が光り輝く。それを見つめ、最後の言葉を呟くと印はチリチリと焼けるように消えていった。

「はい、完了」

 あっさりと終わった事に、番契約する時もこんな感じであったかと、テルは自身の手を眺めながら思っていた。すると、その手を包み込むようにユーヒは握り締めて微笑んだ。

「ありがとう。僕の大切な友人。君と出会えて、僕は外の世界を知れた」

 その手から体温や感触はなく、本当にユーヒはもうじき消えていくのだと理解したテルは軽く頭を下げた。

「こちらこそ、ありがとうございました」
「うん……あ、もう一つあった」

 「一番大事な事」と言うユーヒに、テルは顔を上げると同時に額に指先が当てられる。そこから小さな光が輝き、テルは何が起きてるのかと思っていると、ユーヒは軽く首を傾げた。

「アースダマーの力で君の記憶を少しイジるね」
「……そんなに信用出来ないんですか」
「うん、ユウの事が心配し過ぎて化けて出ちゃうかも」

 満面な笑みで答えるユーヒに、テルは苦笑いをこぼしてジッとする。遊飛との記憶が別のものへと書き変わっていくのを感じ、テルの意識も徐々に遠くなっていく。
 ユーヒの顔も見えにくくなっている中、ユーヒは仕上げとして口付さむ。

「記憶を戻すキッカケはそうだなぁ……」

 指先を口元に当て、少し考えた後にユーヒは軽く頷く。コレが一番良いキッカケだろうと。納得した表情をし、ニコッと笑った。

「ユウが君の事を完全に意識した時かな」

 ユーヒの言葉と遊飛の顔を見つめ、全て思い出したテルは唇を震わせ、あの時 呼んでいた名前を口ずさむ。

「まさか……ユウ?」
「思い出すの遅せぇよ」

 から笑いをし、遊飛は最後のコードを入力すると同時に鐘の音が鳴り響く。まるで全ての儀式が終わり、花嫁が新たな場所へと向かう門出の様に。
 遊飛の足元にある魔法陣はさらに光り輝き、この光景を見たテルは何度も結界を叩いた。手からくる痛みがあっても関係ない。また目の前で愛しき存在が失われるなら、彼はこの手が使えなくなっても叩き続けるだろう。

「止めろ、止めてくれ、また私の前から消えるつもりなのか!」
「……二度も傷つけて、最低だよな俺」

 眉を八の字にし、同じ事を繰り返している事に罪悪感を感じながら遊飛は言葉をこぼした。ツキツキと胸からくる痛みに耐え、遊飛は息を大きく吸って気持ちを切り替えていき、じっとテルを見つめた。

「でも、これは俺達が決めたことなんだ」

 そう言う遊飛の背後に、ある人物が現れる。テルは現れた相手の姿を見て、目を大きく見開いた。

「ユーヒ……」

 名前を呼ばれたユーヒは無言のまま優しく微笑み、遊飛の背後から腕を回して優しく抱き締める。遊飛とユーヒの身体から、綺麗なオレンジ色の光が溢れ出し始めた。それがアースダマーの力である事を察したテルは、何が起きるのか大体察した。

「俺、テルと出会えて本当に良かった」

 笑顔を向け、身体が透け始めていく遊飛の姿。このままでは遊飛はアースダマーの力を使い切り、存在を消してしまうだろう。

「やめろ、ユーヒ!彼を連れて行こうとするな!私はやっと!」

 何度も殴り続け、テルの手には赤い血が滲み出ていく。飛び散る血。そうしている内に、遊飛の身体は透明からほぼ見えなくなる。心臓がうるさく鳴り響き、テルは目を大きく見開いて両手の拳を強く握り締めて奥歯を噛み締めた。

(また失うのか。自分の無力によって、守れないまま。目の前で君を……っ!)

 そう思ったが、それでも諦めたくない気持ちと、世界よりも遊飛を選ぶ覚悟を決める。全ての力を両手に込め、高く両腕を上げたテルは思いっきり振り下ろす。

「行くなっ!遊飛っ!」

 テルの叫び声と同時に、ガシャンッ!と割れる音が鳴り響く。結界が壊れたのだ。

「えっ……?」

 驚いている遊飛と崩れ落ちる破片の中、テルはこの好機を逃す訳にはいかないと、手を伸ばして遊飛の手首を掴む。すると眩い光と強い風が吹き荒れる。
 まるで爆発したかの様な衝動であり、ユウディアスとズウィージョウとバリベルギャーは吹き飛ばされていく中、テルは爆風の中、目を細めて手に力を込める。絶対にこの手を離さないと、強い想いで握り締め、目の前が真っ白へと見えなくなっていくのだった。

つづく

2024/12/30
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