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<テルゆひ> 惑星の花嫁

 家の一部が壊された事で、その地鳴りと雑音がまわりの住人達には届いているのは当たり前であった。UTSへと人々は集まり、何か事故があったのか、と言う者も居れば、ソリッドビジョンであるモンスターが家を壊した等と、いろんな話題が飛び交っていた。
 そんな中、室内に居るユウディアスは眉間に皺を寄せ、怒りを露わにしながら左手には雑巾が入っているポリバケツ、右手にはラバーカップを持って廊下を歩いていく。
 廊下の床からドンドンとユウディアスの足音が鳴り響く中、後を追っている遊歩とテルは、ユウディアスの姿を眺めながら困った表情をしていた。

「なんて格好してるんですか」
「同士である遊飛が連れ去られた!これは宣戦布告でもある!」
『ユウヒ!ユウヒ!』

 ユウディアスの言葉に賛同する様に、隣に並んでいたバリベルギャーも両腕を振り回しながら遊飛の名前を呼び続ける。
 背後に闘志の炎を燃え上がってるかの様に見えるが、両手にある道具によって残念さも出ているが。それでも、ユウディアスの気持ちは本気であり、少しでも目を離したら飛び出して行く程だ。ラバーカップを強く握り締めてるのか、取っ手部分からミシッと嫌な音が鳴り響く。

「ソレガシは、友である遊飛を助けに行く!」

 すっかりヒートアップしているユウディアス。その気持ちになるのも、遊歩とテルは理解していた。目の前で大切な仲間を連れ去れれば、誰だって気持ちはそうなる。
 テルも同じだ。目の前で二度も失った喪失感。遊飛の手を取れなかった悔しさの反面、別の感覚もあった。胸あたりから感じるモヤモヤ感。コレが何かはなんとなく理解しているテルは、暴走しているユウディアスと落ち着かせようとしてる遊歩を交差しながら眺める。

「落ち着いて、ユウディアス」
「だが!」
「そもそも奴が何処へ向かったか、分かっているのか?」

 テルの問い掛けによって冷静さが出たのか、ユウディアスは「あっ」と声を漏らし、両手に持っていたバケツとラバーカップを床へと落とした。
 バケツに汚水が入っていたのか、落とした事で床の一部が汚水によって汚れていき、遊歩がつい「きゃっ!」と声を漏らしてしまう。この光景を眺めていたテルは、この中身をズウィージョウにどうしようとしていたのだろうか。とそう考えいたが、それを止めて軽く首を横に振った。
 今は遊飛についてが重要であり、人差し指を口元に当てたテルは考え込む。

「ズウィージョウが何故、王道遊飛を連れ去ったのか。それはアースダマーが関係している」
「そうだね。そもそも、ズウィージョウはアースダマーを使って何をするのか」
「ズウィージョウはソレガシと同じ、戦争を止めさせたい気持ちはある!」
「では何故、ベルギャー星人は戦争している?」

 ユウディアスの言葉に、引っ掛かりを感じたテルは質問を投げた。

「私もそれなりに調べてはいたが、戦争となったきっかけは知らない」
「戦争となったきっかけ……」
「ユウディアス?」

 テルの問い掛けにユウディアスの顔つきが変わり、遊歩は心配に声を掛ける。眉間に皺を寄せ、何か不信な表情でユウディアスはゆっくり唇を動かす。

「……ソレガシが生まれた時から戦争は続いていた。だが、どうして戦争になったのか教えられていない……」
「怪しいですね。戦争している理由を伏せられているのは」

 戦争の為に教育された戦士ならば、戦争する目的と理由を教えられるはず。なのに、ユウディアスの口から出されたのは戦争をする理由を知らない。という答えだ。
 不可思議であり、テルは理由も知らないまま戦争をしていた事に対し、誰も疑問を抱かなかったのかと思った。いや、ベルギャー星人は戦闘に特化した種族。我が星の為と言われてしまえば、その血に流れる本能によって、動かされてしまってるのかもしれない。
 これ以上の考察は時間も足りないと思い、テルは本題へと戻して考えついている部分を二人に伝えようとした。

「とにかく、ズウィージョウはアースダマーの力を見せつけ、戦争を止めさせるのが目的だと私は考えてます」
「そうなると、ベルギャー星へ帰ったって事?」
「いいえ」

 遊歩の質問に、テルは軽く首を横に振る。そして、バリベルギャーと目線を合わせ、手招きしてこちら側へ来るように指示を出す。
 バリベルギャーはゆっくりテルの元へと近づくと、指示を出される。それを聞いたバリベルギャーは言われた通り、ある映像をユウディアスと遊歩へ見せるように映し始めた。

「奴が向かった場所はココだ」

 テルがそう言う場所は、真っ白で真珠の様な美しい輝きを放っている惑星。月の輝きとはまた違う美しさに、遊歩はつい見惚れてしまい、ハッとすぐ我に返った後に問い掛ける。

「ココは?」
「昔、私とユーヒが目指していた場所です。アースダマーの力を発揮させる遺跡があります」

 遊歩の質問を返答し、テルは映されてる惑星を眺めて目を細める。

「ズウィージョウはきっと、そこでアースダマーの力を解き放ち、強力な力で圧倒させるのかと」
「ねぇ、その力を使った時、遊飛は?どうなるの?」

 アースダマーの力に引き込まれ、遊飛は一度意識を持っていかれてしまったことがある。遊歩の質問はきっと本来の使い方をした場合、遊飛の身に何が起こるのか不安になったのだろう。
 テルは過去にあった出来事を思い出し、目を伏せて重たい言葉を口にする。

「ユーヒは耐えきれず、消滅しました……」

 この言葉の意味だけで、遊歩とユウディアスには十分に伝わるであろう。それぞれの眼差しが変わっていく。
 テルは奥歯をギリッと食いしばり、右手の拳を強く握り締める。目の前で消えていくユーヒの姿は、何度思い出しても心苦しくて辛いものだ。
 あの時の光景を思い出している時、ユーヒの姿に何かノイズの様な砂嵐が被さっている。何が起きてるのか、テルはそう思っているとノイズが消えていき、そこに居るのがユーヒではなく遊飛の姿があった。自分が着ていたマントを羽織り、眉を八の字にして瞳には涙を零している姿。
 何故、遊飛が過去の記憶として姿を現しているのだろうか。テルはこの記憶に何かあるのか、疑問を抱きながら記憶の後を追おうとしたが記憶の映像は、ブラン管テレビの電源が落ちるように消えた。

「ならば、急いで向かおう!」

 ユウディアスの声に我に返るテル。今の記憶はなんだったのか。自分の記憶に何が起きているのか。その答えはすぐに出ず、それに苛立ちも感じたが、すぐにでも飛び出そうとしているユウディアスを止めようと思考を切り替える。

「いや、向かうとしても問題がある。バリベルギャーのエネルギーだけでは、あそこへ向かうのは難しい」
「ソレガシとバリベルギャーなら、問題ない!」
「ワープするのにこれぐらいのエネルギーが必要なんだぞ」

 そう言い、テルはバリベルギャーに必要なエネルギー数字を表示するよう指示し、ユウディアスへと見せる。それを見たユウディアスは理解したのか「ぬぅ……」と、苦虫を噛み潰したような表情と声を出す事しか出来なかった。
 目的地までは分かったとしても、ここまで向かうのにどうすればいいのか、テルも悩み始めた。今から探すとしても、どれぐらいの時間が掛かるだろうか。その間に、遊飛の身に何か起きてしまうのも問題だ。
 悩むテルの姿を眺めていた遊歩は頷き、口を開く。

「なら、アレは使えるかな?」
「何か策があるのか遊歩!」
「二人共、着いてきて」

 遊歩は背を向け、廊下のある壁に手で触れる。グッと力を入れると、壁に四角形の線が入り奥へと押し込まれた。すると床の一部が外されていき、そこには地下へ向かう階段があった。
 テルとユウディアスが驚いている中、遊歩は先に中へ入っていき降り始めていく。その後をテルとユウディアスは追い、テルはまわりを見渡しながら遊歩に問い掛ける。

「地下室なんてあったのですね」
「まぁ、ここに入れるのは王道家の後継者だけだからね」

 「だから遊飛も知らないんだ」と言いながら遊歩は、ある方角へと視線を向ける。その視線の先に何があるのか、テルとユウディアスの目に入ったのは一台の小型宇宙船であった。
 その宇宙船を眺めているユウディアスは、それを指差して遊歩に問い掛ける。

「遊歩、この宇宙船は?」
「王道家代々、引き継がれていた宇宙船ダヨ」

 そう返す遊歩に、テルは宇宙船へと近づく。それなりに年季で所々に塗装が少し剥げていたり、へこみやかすり傷などがあった。だが、それでもしっかりメンテナンスはされている事は伝わってくる。

「よくここまで綺麗に保管されてましたね」
「御先祖様々ダヨ」

 少し胸を張りながら、「私も頑張ったけどね」と一言付け足す遊歩。
 確かに遊歩の代までしっかり維持してなければ、ここまで綺麗に残る訳が無い。テルはそう思い、宇宙船の機能も確認する。いくつかのデータを開いて内容を目に通していき、軽く頷き画面を閉じた。
 全ての確認を終えたテルに、ユウディアスはソワソワと身体を揺らして問い掛ける。

「どうなのだ?この宇宙船なら行けるのか?」
「エネルギー量的にも問題ない。あのワープ次元も耐久出来そうだ」
「ならば!早速、行こう!」
「待て」

 宇宙船へと乗ろうと駆け出すユウディアス。それをすぐにユウディアスの服を掴み、止めに入ったのはテルであった。
 首根っこを掴んだ事で首元の服が喉仏に当たったのか、「ぐっ!」と潰れたカエルの様な声をユウディアスはあげる。

「なにをするのだ!」
「この宇宙船は二人乗りだ。ユウディアスは確定として、残り一人は誰にするのか決めなきゃならない」

 そう言いながらテルは遊歩と視線を合わせる。この場合、ユウディアスと共に行くならば、妹である遊歩が向かった方がいいかもしれない。
 テルは遊歩に向けて言おうとしたが、当の本人は軽く首を横に振った。

「なら、君がユウディアスと一緒に行ってきて」
「私がですか?」

 まさか指名されるとは思わなかったテルは驚いていると、遊歩は選んだ理由を伝えようと口を開く。

「その惑星をよく知ってるのは君だからってのもあるけど、遊飛は君を待ってると思うんだ」
「そうである!遊飛はきっと待っている!何故なら「はーいユウディアス、それ以上は言っちゃ駄目ダヨ」

 ユウディアスが話途中で、遊歩は止めに入った。止められた事にユウディアスは「遊歩」と声を掛けるが、遊歩は首を軽く横に振る。

「これは遊飛とカッパくんの問題なんだから」

 そう言うと、ユウディアスは「むぅ……」と少し唇を尖らせる。それでも遊歩の言う事は納得しており、ユウディアスはこの先何も言わず口を閉ざした。
 二人のやり取りを眺めた後、テルは少しだけ視線を床へと移して右手を強く握り締めた。

「私が行っていいものでしょうか」
「遊飛に会うのが怖い?」
「いえ、むしろ……腹立たしいんですよ」
「はら、だたしい?」

 予想外な返答に遊歩とユウディアスは、鳩が豆鉄砲を食らったかのような仕草をする。
 それを気にせず、軽く肩を揺らしているテルは、連れ去られる時の遊飛を思い出していく。

「なんですか、あの表情は。何か全てを受け入れて、諦めていたんですよ?王道遊飛らしくもない」

 ますます苛立っていき、テルは興奮し始めて喋るスピードも早くなっていく。

「彼はどんな状況であっても、諦めない心がありました。私はそんな彼に惹かれ、愛おしいと思っています」

 全てを言い切り、テルは深く息を吐き捨てた。その熱弁を聞いていたユウディアスは拍手を贈っており、遊歩は「ふふっ」と優しく笑った。
 そんな光景にテルは不思議に思い、軽く首を傾げる。

「何故、笑うんですか?」
「いやいや、気分を害したならごめんね。ただ、嬉しいって思ったからダヨ」
「嬉しい?」

 よけいに意味が分からないと、テルの眉間に皺が寄っていく。それを見ても遊歩は気にせず、手を伸ばしてテルの肩へ優しく触れる。

「そこまで分かってるなら、本人に向けて言いなヨ」

 ポンポンと軽く叩き、手を離した遊歩は笑顔で手を振った。

「私は此処でみんなが帰ってくるのを待っているから」

 そう言う遊歩に、テルの表情は覚悟へと変わっていく。そしてユウディアスに向けて視線を送った後、すぐに歩き始める。

「行きますよ。今頃、あっちは到着してる可能性がある」
「うむ!行くのである!」

 小型宇宙船へ乗りに向かうテルとユウディアスの背中、その後を追うバリベルギャーを遊歩は見つめ、振っていた手を下ろして笑顔を止めて真顔になる。
 そして両手を合わせて握り締め、目を瞑って祈りを送った。どうか、三人とも無事に帰ってくる事を願って。


 ◇◇◇


 変わらずの天井を眺め続け、どれぐらいの時間が経ったのだろうか。大の字で床に寝そべっていた遊飛は、少し眉をひそめながら目を細めて唇を尖らす。

「……暇だ」

 まさかこんなに時間が掛かるなんて思わなかった遊飛は起き上がり、小さく息を吐いて「よしっ」と呟き立ち上がる。
 そのままドアへと向かい、カギは掛かっているだろうと思いながら手を伸ばしてみた。するとドアは自動で開き、少し驚いた遊飛は、その先にはズウィージョウの背中を見る。

「なんだ。大人しく中に居ろと言ったはずだ」
「景色も見れないから暇なんだもん」

 振り返らずに声を掛けてきたズウィージョウに、遊飛は軽く息を吐きながら文句を言って近づき隣に並んだ。そして、ズウィージョウの前に映っている画面を見つめ、遊飛は広がる宇宙の景色に目を輝かして気持ちが上がっていった。

「これが宇宙の光景なんだな。ズウィージョウやユウディアスは、この中で地球にやって来たんだ」
「ワレはアースダマーの力が必要で来ただけだ」

 ズウィージョウは、遊飛の会話を低い声で冷たく突き返す。
 まるで一線を超えてくるなと言ってるかのようであり、それを感じ取っていた遊飛は恐れずにズウィージョウを見つめていた。
 真っ直ぐな瞳で見つめてくる遊飛に、ズウィージョウは目を細めて睨みつけていく。

「アースダマーの力を使い、その強力な力を見せつければ戦争は止まる」
「力で捩じ伏せても、結局は虚しくなるだけだぞ」

 遊飛の言葉に、ズウィージョウの中で何かが切れる音が聞こえた。ギリッと右手を強く握り締め、気がつけば空いてる片手は遊飛の肩を強く掴んだ。
 右肩から来る痛みに遊飛の表情は少し歪んでいたが、ズウィージョウは気にとめず、心から溢れ出る感情を声に乗せて叫び始める。

「貴様に何が分かる!戦争によってワレらがどんな思いをしているか!同胞を目の前で失う喪失感!耳に残る程の悲鳴!手に残る生温い感触!」
「あぁ、分からないね!だって俺はズウィージョウじゃないし!お前の感情を全て理解出来るって思うなよ!エスパーじゃねぇんだから!」

 そう叫び、掴まれているズウィージョウの手を振り解き、遊飛は数歩後ろへ下がった。対するズウィージョウは予想外な返答だったのか、突っ立ったまま振り解かれた手を見つめていた。
 遊飛はそれを気にせず、もう一つ思っていた気持ちを伝えようと口を開く。

「だけど、これだけは分かる。お前、ずっと頑張っていたんだな」

 優しい声で遊飛はそう言い、優しく微笑みをズウィージョウへ向けた。この言葉を聞いただけで相手が癒される訳では無い、ただの自己満足と言われても致し方ない。それでも遊飛はどうしてもこの言葉を、ズウィージョウに伝えたかったのだ。
 伝えたい事を言えた後、遊飛は自分自身の胸元に手を当てる。

「あと、アースダマーは力で捩じ伏せる為の道具じゃない。こいつもちゃんと生きてるんだ」
「生きているだと?」

 ユーヒのおかげでアースダマーと向き合い、遊飛が知り得た事はアースダマーにも感情があり、自分達と同じ生きている存在であること。そして、いろんなエネルギーを吸収して力を増幅させ、その力を発散する事が出来ないこと。
 その結果、アースダマーは上手く吐き出せない力を、上手くコントロールしてくれる相手が必要だったのだ。心と身体を癒してくれて、自分を見てくれる存在を。

「それに、俺達がやろうとしてる事はーーーー」

 だから遊飛はこの先するべき事を、ズウィージョウに説明した。アースダマーと遊飛の目的を。
 その内容を聞いたズウィージョウは目を大きく見開き、息を呑むかのように喉仏を動かした後、声を発する。

「本気で言ってるのか」
「うん。だから、俺は別の形で平和にするつもりだ」

 両手に腰を当てて遊飛は胸を張りながらそう言うと、着陸の案内音声が流れ始める。

「着いたな」

 すぐに反応した遊飛は降りれるように動き出し、ズウィージョウもその後を追った。
 外に出た遊飛は両腕を伸ばして深呼吸をし、すぐに息を吐いて腕を下ろす。数時間ぶりの惑星に懐かしさを感じないはずなのに、全身にそわつく感覚があった。きっとユーヒとアースダマーが反応しているんだろう。
 遺跡の方を眺めながら遊飛はそう思い、ズウィージョウが下りて来たのを確認して手招きする。

「道案内するから着いてきなよ」

 そう言ったが、ズウィージョウは特に気に止めず勝手に歩き出す。残された遊飛は小さく溜息をつき、ズウィージョウの隣へと駆け寄った。
 遺跡の中へと入り、前と変わらず薄暗い空間に遊飛はまわりを見渡していると、ズウィージョウが進もうとしている道を見てすかさずに声を掛ける。

「ズウィージョウ、そっちだと遠回りになるぜ」

 ズウィージョウの手を取った遊飛は、前に自分が通った道へ案内しようと引っ張る。だが、互いの身長や筋肉の違いもあるからか、立ち止まっているズウィージョウを遊飛の力では動かす事が出来なかった。
 どうして足を止めているのか、遊飛は疑問に思っていると繋がっている手を強く握り締められる。ツキッと手から痛みが走り、「いたっ」と遊飛は声を漏らすが、ズウィージョウは気にせずにいた。

「何故、ワレよりも知っている」
「まぁ、一度来たことあるからな」

 ズウィージョウの問いに、あっさりと返答する遊飛。その態度が気に食わなかったのか、ズウィージョウの眉間に深く皺が寄せていく。
 掴まれている手がギリッとさらに締め付けられ、遊飛はその痛みに耐えていると、突然掴まれていた手を離された。ツキツキと痛む手首を遊飛はさすり、顔を上げると剣を構えたズウィージョウが刃先を向けてきた。

「貴様、何者だ」

 剣を向けて脅せば喋ると思っているのだろうか。遊飛は冷静な気持ちで軽く首を横に振った。

「やめときな、後悔するのそっちなんだからさ」
「いいから話せ」

 刃先を喉仏へ押し当てられ、少しでもズウィージョウの手に力を入れた瞬間、遊飛の首からは血が溢れ出る。だが、遊飛はズウィージョウの瞳をジッと見つめ、ある事を指摘しようと口を開いた。

「瞳孔が揺れてる。ズウィージョウは優しいな」
「っ!」

 遊飛の言葉に動揺したのか、ズウィージョウは剣を下ろして一歩後ろへと下がっていく。「何を言って」と言いたげで戸惑うズウィージョウの表情を見つめながら、遊飛は一歩前に進んで覗き込む仕草をする。

「それに仲間の身の安全を考えて、ワザと別任務を任せてるんだろ」
「……なんのことだ?」

 ズウィージョウの瞳がさらに揺れ動き、図星である事を遊飛は理解する。戦士であるなら、これくらいの事で動揺する事はないだろう。
 心に余裕が無いのか、それとも別の理由があるのか。ズウィージョウを見つめながら遊飛は軽く首を傾げた。

「ズウィージョウがどうしてユウディアスと敵対してるのか分からないけどさ、ユウディアスには本心を話してもいいんじゃないか?」
「何故、ユウディアスに話すべきなんだ」
「ユウディアスは、どんなお前でも受け入れてくれるよ」

 微笑みながらハッキリ伝える遊飛。
 ユウディアスは心が広く、どんな相手でも真正面で受け止め、真っ直ぐな瞳で手を伸ばしてくれる。遊飛は短い間であるが、ユウディアスの人柄の良さを知っていた。
 それは長い付き合いをしているズウィージョウも知っているはずだと、遊飛は言葉に出さずに見つめていると、ズウィージョウの口角がフッと少し上がる。

「奴に似ているな」
「ユウディアスのこと?」
「そういうお人好しのところがな」
「そっか」

 ズウィージョウの気持ちが少しだけ分かった事に、遊飛は嬉しく感じた。自然と笑みを浮かべ、照れながら喜びを噛み締めていると、視線を感じて顔を上げるとズウィージョウと目が合った。

「貴様もいいのか」
「なにが?」
「今から行う事、分かっているのだろう」

 その言葉に、遊飛は優しく微笑む。まるで、全ての種族に愛を与える聖母の様なものであった。

「覚悟がなきゃ来てねーよ」
「そうか」

 遊飛の言葉にズウィージョウは、これ以上何も聞かなかった。そして、軽く目を閉じて軽く笑う。

「ユウディアスが惹かれる理由も分かる」

 遊飛の耳には届かない程の声で呟き、ズウィージョウは何か覚悟を決めた眼差しをする。そして剣を地面に突き刺し、遊飛の前に座り込んだ。

「えっ?なになに!?なんで膝まづくんだよ!?」
「黙っていろ」

 突然の事でテンパっている遊飛を無視し、ズウィージョウは深く息を吸った後に声を発する。

「ズウィージョウ・ズィル・ベルギャー、これより、王道遊飛を主と認め、忠誠を誓い、騎士とならん」

 誓いの言葉を終えるズウィージョウ。その言葉を聞いた遊飛は、肩を竦めながら鼻で息を吐き捨てる。
 まさかこんな事になるなんて、思ってもいなかったからだ。

「俺の騎士にならなくてもいいんだけど」
「ワレが決めた覚悟だ」
「俺は友達になってくれれば、それでいいよ」

 遊飛はそう言い、片手をズウィージョウへ向けて差し出す。握手するつもりであったが、ズウィージョウは軽く首を横に振り立ち上がった。
 突き刺していた剣を抜き、先へ歩き出すズウィージョウに、遊飛は軽く息を吐き捨て、差し出していた片手を後頭部へと当てる。

「本当に頭固い奴」

 小さく呟きながら、遊飛はズウィージョウの後を追って目的地へと向かっていく。
 あの時はユーヒが何処にいるのか無我夢中で走った結果、たどり着いた場所であったが、今は何となくそっちの方角だと教えられているような感覚があった。
 きっと遺跡から波長を送られ、それを感じ取っているんだと遊飛はそう思いながら歩き続けていると、ある場所へとたどり着き足を止めた。

「ここがそうなのか?」
「あぁ、ここで合ってる」

 ズウィージョウの問い掛けに答え、遊飛は儀式をする場所へと向かっていく。そして、まわりをぐるりを見渡し、いくつかひび割れやほころびが見え、あの時の旅から時間が経っているというのが分かる。
 遊飛は後ろにいるズウィージョウへと振り返り、笑顔を向けながら口を開く。

「ズウィージョウ、ありがとう」

 お礼の言葉を伝えた後、遊飛は魔法陣へと乗った。すると、文字がオレンジ色へと光り輝く。前の時と色味が違う事に、遊飛はなんとなく察した。きっと、あの時の禍々しい紫色は、ネガティブエネルギーの原因なのだろう。
 遊飛の目の前に表示されるいくつもの画面を眺め、それに触れながら目を細めた。

「初めて見るのに、なんだろう……やり方を知ってる気がする」

 画面を指でスライドしていき、自然と操作を進めていく。まるで身体が覚えているかのようで、遊飛はそれが何かすぐに分かり、自身の胸元に手を当てて微笑む。

「そっか。お前が教えてくれるんだな、アースダマー」

 とくんとくんっと手から伝わる鼓動に、遊飛はアースダマーからの返答だと感じ取った。全ての惑星が画面で表示されていく中、遊飛の前にある選択画面が表示される。

《ギヴプロジェクトを開始しますか?》

 その文字を見て、遊飛は目を細めた。このボタンを押せば、もう後に引けくなる。
 遊飛の脳裏に過ぎっていく数々の思い出を感じながら、目を閉じて一筋の涙を零していく。

「出来るか?」
「うん、大丈夫」

 ズウィージョウに声掛けられ、涙を拭い取り返事をした遊飛は深呼吸をして気持ちを整える。ゆっくり鼻で息を吸い、一秒息を止めた後、ゆっくり息を口から吐いていく。
 気持ちが落ち着いた遊飛は、「よし」と心の中で呟き覚悟の目をする。

「さぁ、呪縛を解こう。俺達がこの連鎖を断ち切る!」

 そう言い、遊飛は「YES」ボタンを押し、プログラムは起動し大量の魔法陣が一気に展開していく。光り輝く中、遊飛は両手を画面へと向け、最後の作業へ入るのであった。

つづく

2024/09/23
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