このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

<テルゆひ> 惑星の花嫁

 閉じていた瞼を遊飛はゆっくり上げると、ボヤける視界の中、目の前にいるユーヒの姿が見えてきた。
 優しく微笑むユーヒに、遊飛の目の奥が熱くなっていく。

「おかえり、遊飛」
「ユー、ヒ……」

 名前を呼んだと同時に、遊飛の瞳からボロッと涙がこぼれ落ちる。一度溢れた涙を止めることが出来ず、鼻をすすっている遊飛。
 そんな遊飛の姿を見ていたユーヒは笑顔を向け、ハンカチを出して遊飛の頬へと当てる。

「あぁ、もう。折角の可愛い顔が台無しだよ」

 優しく涙を拭いてあげるユーヒに、遊飛は先程あった出来事を思い出し、唇を震わせる。言葉を発しようとしても、いろんな気持ちが出てきて、上手く声を出せずにいた。
 遊飛は何度かしゃくりを上げた後、少しだけ気持ちが落ち着きユーヒと目線を合わせて口を開く。

「だって……あんな別れ方……ユーヒもテルも……いっぱい傷ついて……」

 遊飛の言葉を聞いていたユーヒは、目を細めて微笑む。自分が一番傷ついていたはずなのに、まわりの人々の傷の方を気にし、まわりの人々の為に泣いている。
 ユーヒはハンカチを落とし、遊飛を強く抱き締める。

「やっぱり君は優しい子だね」
「ユーヒだって、優しいじゃん!俺、短い間だったけどユーヒのいい所、沢山見てきた!」
「そういう所なんだよ。僕には出来なかったことを、君は出来るんだ」

 遊飛をあやしながら、ユーヒはそう言う。自分が死んだ後、遊飛の中でずっと世界を眺めていた。
 ヤンチャで、危なっかしい所もあり、常にヒヤヒヤしていたが、それでも遊飛のまわりには人が集まっていて、笑顔が絶えない生活。自分では見れなかった世界。温かくって、そんな居心地のいい空間に、ユーヒはずっとここに居ていいものなのかと申し訳なさも感じていた。
 だからこそ、ユーヒは理解していたのだ。どうして、アースダマーは自分じゃ封じられなかったことを。遊飛から少し離れ、ユーヒは微笑みながら首を傾げる。

「あのね、遊飛にお願いがあるんだ」
「お願い?」
「彼も受け入れてほしいんだ」

 そう言い、ユーヒは後ろへと振り返る。自分の精神世界に誰かいるのかと、遊飛も視線を向けて瞳を大きく見開く。
 遊飛の視界に入ったのは、禍々しい紫色のオーラを纏った自分自身であった。その存在は誰なのか、遊飛はすぐに理解する。アースダマーだ。
 自分達を狙ってるのかと思い、遊飛はすぐに前に出てユーヒを守ろうとする。今度こそ絶対にアースダマーの思い通りにさせないようにしようと、遊飛は身構えた。
 だが、ユーヒに止められてしまう。

「彼は君を消そうとも、奪おうとも思ってない。ただ、君に気づいて欲しかっただけなんだ」
「気づいて?」

 ユーヒはアースダマーの方へと視線を向ける。「よく見て」と言いたいのだろう。遊飛はアースダマーを見つめる。
 眉を八の字にし、手は腹部の服をシワになるまで握り締め、悲しそうな表情をしている。まるで寂しく不安がっている、迷子のようにも見える。
 何故、アースダマーがそんな表情をしているのだろうか。遊飛は疑問を抱いていると、ユーヒが遊飛の両肩に手を置いて語り始める。

「君から引き離されたアースダマーは、直ぐに外で学んだ事は、強い悲しみと痛みと憎しみだ」
「悲しみと痛みと憎しみ……」
「傷ついた彼は、君に助けてほしくって求めていただけなんだ」

 ユーヒにそう言われ、遊飛はもう一度アースダマーと目を合わせる。揺れ動いているアースダマーの瞳。
 「ボクを愛して」「ボクを見捨てないで」「ボクを消さないで」と言っているようであり、遊飛はアースダマーの元へと歩き出す。ユーヒはそんな遊飛の背中を見守り、見つめる。
 アースダマーの前に立った遊飛は手を伸ばし、アースダマーの頭上に手を置いた。

「ごめん。俺、お前を見て気持ち悪いって言ったりして」

 優しく頭を撫でながら謝罪する遊飛。その優しい撫で方と声に、アースダマーの瞳から一粒の涙が流れ落ちた。
 そして遊飛に向けて笑顔になり、口パクで五文字の言葉、「ありがとう」と伝えてアースダマーの身体は光り輝く。それは禍々しい紫色ではない、温かい太陽のようなオレンジ色の光。

「そっか、お前ってこんなにも温かくって、すっごい綺麗な色だったんだな」

 目を輝かせながら遊飛はそう言い、両手を伸ばしてアースダマーの光へ触れる。優しく包み込み、自身の胸元へと引き寄せていくと、アースダマーの光は遊飛の中へと帰っていく。
 その光景を眺めていたユーヒは微笑み、遊飛を囲っていた壁にヒビが入っていくのを眺めていると、その壁は砕け落ちていった。

 ◇◇◇

 急に壁が砕け始め、テルは驚いた表情をしながら目の前に現れた遊飛を見つめる。無事なのか、気分は大丈夫なのか、テルはいろんな気持ちが出てきていたが、とにかく声を掛けようと口を開く。

「王道遊飛」

 ゆっくり名前を呼んでみると、テルの声に反応するかのように遊飛の両肩が少し動いたのが見える。テルは手を伸ばして遊飛へ触れようとしたが、俯いていた遊飛の顔が上がり動いていた手を止められてしまう。遊飛の表情を見て、テルの瞳は大きく見開く。

「ありがとう」

 優しく微笑み、テルにお礼を伝える遊飛。
 突然のお礼の言葉に、テルはどう返事をするべきか言葉に悩んでいると、その微笑みはすぐに眉を八の字にして苦笑いへと変えていく。
 その表情を見て、テルの中では何か嫌な予感がする。胸あたりがざわつき、ここで止めなければ取返しがつかなくなるのではないかと思うくらいである。

「あと、ごめんな」

 何故、遊飛は謝罪をするのか分からなかった。テルはどういう意味なのか聞こうとした同時に、急に視界が眩しくなり目の前が真っ白へ塗りつぶされる。

「っ!」

 意識が戻ったテルは上半身を起こし、すぐにまわりの状況を確認を始めた。テルが目覚めたことに驚く遊歩と、擦り傷や衣服にいくつか傷があり、髪の毛が乱れているユウディアスの姿。
 ユウディアスがある方角を眺めながら戸惑っている表情を見て、テルはその先にいるであろう遊飛の方へと視線を向けようと動かす。
 俯いて無言のまま突っ立っている遊飛の姿。その光景に、自分が戻ってくる間に何があったのか遊歩へ問い掛けようと、ほんの少しだけ身体を動かして口を開いた。

「どういう状況なんですか」
「アースダマーが急に止まったんダヨ」
「さっきまでは攻撃的であったのだが、どうしたというのだ」
「なるほど」

 遊飛が動き出したことで、アースダマーにも何か変化が起きたのだろう。この先、どういったことになるのかテルは考えていると、白衣の袖を遊歩に引っ張られる。

「遊飛は?無事なんだよね?」
「目覚めたのは見ています。なので、あとは彼次第になるかと」

 心配している遊歩へ向けて返答できる言葉は、それしか出せなかった。あの時の胸騒ぎが、今でも続いているのだから。テルは無言でいる遊飛を見続けていると、少しだけ遊飛の身体が動き始めた。

「俺はもう目を逸らさない」

 俯いていた顔を上げた遊飛の口から発する言葉に、テル以外の誰もが戻ってきた遊飛に喜びが湧き出る。遊歩が声をかけようとした瞬間、遊飛の身体から眩いオレンジ色の光が溢れ出てきた。
 心が温かくなるような光に、ユウディアスは瞬きしながら眺める。

「なんなのだ、あの光は」
「アースダマーだ」
「あれが?全然色が違うヨ?」

 テルの返答に首を傾げながら遊歩はそう言うと、身体が急にアースダマーと同じ色の光に包み込まれる。最初は罠かと思っていたが、すぐにそれは違うと感じ取る。
 遊歩がそう思いながら二人へ視線を向けると、ユウディアスも同じことを感じていたのか、両手を握り締めて強く頷いた。

「凄い、力が溢れてくる!」
「まるで陽だまりにいるような暖かさダヨ」
「これが、覚醒したアースダマーの力だ」

 本来の力を目の当たりにしても、テルの警戒は解かずに観察し続ける。いつ遊飛の身に何か起きても、今度こそ対処ができるようにと。
 そうしていると、遊飛の瞳の色が濁ったものへと変わっていく。

「やだっ!違う!ボクはこんなの望んでない!」

 拒絶する悲痛な声を上げ、両手で髪の毛を掻き毟るかの様に乱らせていく。
 アースダマーのネガティブの感情が残っていることを確認したテルは、目を細めて軽く舌打ちをする。

「まだネガティブの力が働いているのか」
「遊飛ならきっと、アースダマーをポジティブの方へ変えてくれるはずだ!」
「そうだね、いまの遊飛なら大丈夫ダヨ」

 ユウディアスの力強い言葉に、遊歩も頷きながら賛同する。二人は遊飛を応援しようと声を掛け、その声が鬱陶しく思っているのかアースダマーはギリッと歯を食いしばった。

「お前なんか消えちゃえ!ボクが本物になるんだ!」
「大丈夫。俺はお前でお前は俺だ」

 苦しみながらアースダマーは遊飛を消そうとするが、遊飛は自分自身を抱き締めてアースダマーに向けて優しい言葉を伝えようと口開く。

「もう、ひとりじゃないよ」
「やめろ……ボクを優しくするな……」

 遊飛の言葉に、アースダマーの声が徐々に小さくなっていく。片目からは涙を零し、唇を震わせ、遊飛を消そうとしていた感情は、無くなっていくのを感じ取る。遊飛の優しさに触れてしまい、独りではないことを知ってしまい、冷たかった気持ちが温かいものへと変化があった。

「ボクは……」

 アースダマーは最後の言葉を呟き、濁っていた遊飛の瞳が元の色へと戻っていく。アースダマーが遊飛と同化したことをテルは確認していると、遊飛の身体がぐらついて床へと倒れそうになる。

「遊飛!」

 すぐに動いたのはユウディアスであった。遊飛へ向けて両手を差し出し、どうにか受け止めようとした瞬間、ベランダの方から一本の手がガラスと壁を突き破って入ってきた。
 激しく揺れる床、部屋全体に吹き荒れる砂埃に、咄嗟に遊歩を庇っていたテルは遊飛の方へと視線を向けて名前を呼ぼうとする。

「王道ゆ……っ!」

 無事であるか確認しようとしたが、その場に遊飛の姿はなかった。部屋に入ってきた腕もなくなっており、テルはすぐに壊されたベランダの方へと駆け込む、その先の光景を目の当たりする。
 テルの視界に入ったのはヴォイドヴェルグ・レクイエムと、その肩の上に立っているズウィージョウであり、ヴォイドヴェルグ・レクイエムの手の中には遊飛の姿があった。

「アースダマーの残り汁で、実体化させているのか」
「流石、アースダマーを研究していな」

 瞬時に理解をしたテルは、ズウィージョウを睨みつけた後、遊飛の方へと視線を変える。抵抗している仕草はなく、気絶しているのかと思ったが、遊飛はしっかり意識はあった。
 ならば、自分の力でヴォイドヴェルグ・レクイエムの実体化を解除することは出来るはずだ。それなのに、遊飛はそれをする仕草もなければ、まるでそれを受け入れているかのようにも見えた。

「何故、そんな表情をしてるんだ」

 精神世界と同じ、申し訳なさそうな笑みを浮かべている遊飛に、テルはギリッと拳を握り締める。爪を立て、手のひらから痛みがあったとしても、今は遊飛が何を考えているのかが分からない事に苛立ちすらも感じていた。
 テルの後ろに立ったユウディアスも、ズウィージョウの姿を見て驚きのあまりに瞳を大きくする。

「ズウィージョウ!」
「アースダマーはワレが貰っていく」

 そう言いズウィージョウは、ヴォイドヴェルグ・レクイエムに向けて手を上げ指示を送る。
 目を光らせたヴォイドヴェルグ・レクイエムは上空へ飛行しようとする動きを見せ、テルはすぐにそれを止めようと腰にある隠しナイフを取り出した。それをズウィージョウへ向けて投げたが、ヴォイドヴェルグ・レクイエムが遊飛を掴んでいる腕で弾き飛ばす。
 遊飛を人質の様に見せつけられ、テルは何も出来なくなってしまい内心舌打ちをしていると、ズウィージョウは「行け」とヴォイドヴェルグ・レクイエムに一声掛けて空高く飛び立っていった。

 ◇◇◇

 青い空と白い雲の中、遊飛はズウィージョウが何をしようとしているのか察しがついていた。見えてくるザイダベルギャーに、遊飛は瞼を閉じて軽く頷く。

「ズウィージョウ、頼みがある」
「ワレが聞くと思っているのか?」

 冷たい声で返答するズウィージョウに、遊飛は乾いた声で笑った。なんとなく、すぐにそういった言葉が出されると分かっていたからだ。
 ズウィージョウの返答を無視し、遊飛は本題を伝えようと話を続ける。

「俺を惑星イニティウムへ連れて行ってくれないか?」

 そう言うと、ズウィージョウの表情が驚きの方へと変わっていく。そうなるのも当たり前だと、遊飛は苦笑いしながら思っていた。
 その惑星の名前は、ユーヒとテルと共に過ごしていた場所なのだから。
 齢十年くらいしか生きていない地球人が、その名前を知っているのかズウィージョウは遊飛を睨みつける。

「何故、貴様が知っている」
「いいから。早くしないと、地球やベルギャー星……いや、宇宙すべてが無くなるかもしれない」

 真剣な眼差しで遊飛はズウィージョウを見つめると、その意思は伝わったのか、溜息をつくように吐き捨てられる。

「いいだろう」
「ありがとな」
「貴様の為ではない」
「わかってる。けど、お礼は言わせてくれよ」

 ニコッと笑いながらそう言うと、ヴォイドヴェルグ・レクイエムの実体化を解除され、遊飛はそのままザイダベルギャーの床へとお尻を強打する。
 高さがあった為、じーんっとお尻から痛みが響き渡り、遊飛は涙目になりながらズウィージョウへと睨みついた。

「おまっ、何すんだよ!」
「貴様が余計な一言を言ったからだ」

 ズウィージョウは遊飛の首根っこを掴み、操縦席の後ろにある部屋へと連れて込まれてしまう。ドアが開いたと同時に遊飛を部屋の中へと投げ飛ばし、床への叩きつけられる。

「大人しく貴様はここに居ろ。着いた時、呼びに来る」

 それだけ言い残し、ドアが閉まった。一人になった遊飛は大の字になって床へと寝っ転がる。

「照れ隠しだとしても、素直じゃねー!」

 ジタバタと両手両足を暴れさせ、頬を風船のように膨らませて「ブーブー」と文句を垂れ流した。大体の事を言い切り、遊飛は軽く息を吐き捨てて起き上がる。
 ほんの少しだけ床が揺れ動いているのを感じ取り、ザイダベルギャーが宇宙へ向かっているのだと。

「行こうユーヒ、アースダマー……皆の世界を救う為に」

 自分の心の中に居る二人に声を掛け、遊飛は胸元に手を当てて握り締める。

つづく

2024/08/07
14/17ページ