<テルゆひ> 惑星の花嫁
眩い光に遊飛はゆっくり瞼を上げる。真っ暗闇であった森林の中は、太陽の日差しで明るくなっていた。
朝であることを告げられているのだと、身体を起こした遊飛は両腕を伸ばす。固い地面で寝たからか、いたる箇所からポキポキと関節が鳴り響く。
少し身体から気だるさも感じるが、遊飛は息を吐きながら伸ばしていた両腕を下ろす。すると、ユーヒが笑顔で声を掛けてきた。
「おはよう、ユウ」
「おはよう……ユーヒ」
まだ眠気があり、あくびを一つこぼしながら遊飛は返事をする。目を擦り、いい加減に起きようと立ち上がった。
何か手伝えられないかと、遊飛はユーヒに聞こうとしたと同時に、背後からなにか気配を感じた。
「おい」
「な……わぷっ!」
テルに声を掛けられ、遊飛は振り返ると同時に顔に何か被され視界が真っ暗になる。遊飛は何を掛けられたのか、それを手に取って離すと灰色のフード付きマントであった。
「マント?」
「その目立つ服を隠せ」
指差しながらそう言うテル。遊飛は今の服装を見て、納得した。テルとユーヒの服装は、旅人としてのあまり目立たなく、そして動きやすいものだ。
逆に遊飛は未来から来た分、この時代に合った色味やデザインではなく、逆に目立ってしまうのものである。
(しかもこれって……テルが使ってるマントじゃん)
よく見てみると、テルの姿はマントを着用しておらず、深緑色のコートに胸元の両脇にガンホルダー、右足太ももにはサバイバルナイフのケースが見え、肩からポニーテールが掛かっている。
武器が見えてしまうのもどうかと思いながらも、気遣ってくれた事に遊飛はマントを握り締める。頬が少しだけ熱くなって来るのを感じ、照れながらテルへお礼を言おうと口を開く。
「あ、ありがとう」
「ただでさえ、地球人だと知られたら面倒だ。いいか、お前は、私達の迷惑をかけないよう、何も行動を起こすな」
念入りに押してくるテルに、一瞬だけ好感度が上がっていた遊飛は、一気にマイナスへと落としていく。
何か言おうとするが、すぐにその場から離れていくテル。わなわなと肩を震わせながら彼の背中を眺め、遊飛は舌を出してやる。
「やっぱり、やな奴だ!」
遊飛はそう言っても無視するテルに、頬を膨らませて唇を尖らせる。そんな遊飛を隣で見ていたユーヒは優しく微笑み、遊飛の肩に手を置いた。
「君の事を心配してるんだよ」
「そんな訳ない」
「僕以外にこうして優しくしてるのって、とても珍しいことなんだよ」
「それはユーヒがお願いしたんだろ?」
遊飛はそう言うと、ユーヒの表情が険しくなる。何故、その様な表情をするのか、遊飛はわからずにいた。
数秒の間が空いたが、ユーヒは深く溜息をつきながら、テルの方へと視線を向ける。
「これは面倒な事になったな」
「?」
ユーヒの言葉に、ますます意味がわからない遊飛。ユーヒはテルに対して憐れむような眼差しでいるのか、遊飛は首を傾げることしか出来なかった。
◇◇◇
身支度が終わり、昨日と変わらずユーヒは遊飛の隣に並んでいた。さらには遊飛の腕に自身の腕を巻き付け、ピッタリと引っ付いている。
それがとても歩くには動きづらく、遊飛はチラッとユーヒへと視線を向けた。
「ユーヒ、そんなにくっつかなくても大丈夫なんだけど」
「それはわからないじゃん!」
「わからないって……」
どうして、そうハッキリ言えるのか。むしろ先程の森林とは違い、こんな岩石に囲われけわしい道の中である。
もし崖の上を歩くなら、落ちないようにくっつく理由も分かる。だが、そういう訳でもないのに、ユーヒがここまで密着するのか分からなかった。
「ユウが迷子になったらどうするの?」
「え、俺ってそんなに頼りない」
ぎゅうっと遊飛の腕を握り締め、何を言ってもユーヒは離さない。これは何を言っても無理だと悟った遊飛は溜息をつき、先に歩いてるテルの方へと視線を向ける。
先へ先へと歩き進むテルに、遊飛はその動きが少し苛立っているのではないかと感じた。ユーヒがこんなにもベッタリとくっついてれば、嫉妬もするに決まっている。
「別に嫉妬させる為に、来たわけじゃないと思うんだよな」
そう呟きながらもう一つ溜息をつき、遊飛は目を細めていく。ユーヒに引っ付かれて少し歩きにくいが、それでも遊飛はある事を考えていた。
(多分、俺がここに来た理由。きっとこの先、ユーヒの身に何かが起きたんだ)
この過去へと行かせたユーヒは「君の意思で進むんだ」と言っていた。それならば、自分の意思で進む理由は一つしかない。
(俺がユーヒを守っていけば、テルは独りにならずにすむんだ)
ユーヒを生かすこと。それが遊飛の中で決めたものである。過去を変えてしまった場合、自分がどうなってしまうかはわからない。
それでも遊飛は構わないと思った。少しでもテルが、愛してる人の傍に長くいられるなら。自分の命は惜しくないと思うほど。
「遊歩に叱られるな」
苦笑いこぼしながら、遊飛は小さく零す。助け出そうと動いてくれている遊歩に、申し訳ない気持ちになっていた。
だが、それでもテルが幸せになれるなら、遊飛は自分がどうなろうと構わなかった。
そう思いながらテルの背中を見つめ続けていると、テルが急に手を挙げた。無言のまま、こちらへ来るようにと手の動きだけで指示するテル。
その動きを見た遊飛はどういう意味なのか聞こうとした時、ユーヒが遊飛の腕を引いた。
「何か見つけたみたいだね」
さっきまでの明るい声ではなく、少し低音で喋るユーヒに緊張感が走った。テルが近くの岩陰に隠れ、遊飛とユーヒもその後に続いて隠れる。
テルがある方角へ指を向け、そちらの方へと視線を向けた。そこには金色の髪、頭のてっぺんには二本のうさ耳の様に立っており、白のロングコートを羽織った五歳児くらいの子供が立っている。
「ベルギャー星人の子供です」
「ほんとだ、珍しいね」
テルとユーヒはまわりを見渡してみるが、子供以外にベルギャー星人が居ないか確認していた。その中、遊飛だけその子供をジッと見つめている。
「ユウディアスに似てるな、あの子」
蒼穹の様な綺麗な髪色だったら、ユウディアスの幼少期なのかと錯覚するくらいである。小さな声で呟きながら、遊飛は考える。あの子は、ユウディアスの御先祖様になるのだろうか。
遊飛はまさか過去へ飛んで、ユウディアスとの繋がりがあるかもしれない存在と出会うとは思わなかった。
そして、遊飛はある疑問を抱き、テルとユーヒに問い掛けた。
「なぁ、どうして隠れる必要があるんだよ?」
「むしろ何故、隠れなくていいっていう思考になるんだ」
呆れた眼差しで見下ろすテルに、遊飛は内心ムッとした。遊飛にとって、ユウディアスやバリベルギャーとの交流によって大切な友人であり仲間でもある。
だからこそ、いま目の前にいるベルギャー星人とも仲良くなれるのではないか。と思っていたのだ。それなのに、テル達からは「本気で言ってるのか?」という眼差しである。
「ユウ、ベルギャー星人は戦闘に特化された種族なんだよ」
「子供だとしてと、力は私達より上。危険も高い」
「だから、見つからない方がいいんだ」
テルとユーヒの説明を受けながら、遊飛はユウディアスとズウィージョウのことを思い出す。確かに二人は戦士として、それぞれの意思で戦っている姿を見てきた。
その分、彼らの優しさも遊飛は知っている。その種族だからという差別的な発言に、遊飛は眉間に皺を寄せた。
「危険だからと言って、全員そうとは限らないじゃんか」
そう言う遊飛にテルとユーヒはそれぞれ表情が変わった。ユーヒは少し目を大きくし、揺らしながら遊飛を見つめており、テルは目を細めて眉間に皺を寄せている。
そんな二人の表情に気がついてない遊飛は、子供を見つめ続けていると、ふと何か違和感を感じた。
(あれ?なんか嫌な予感がする)
胸騒ぎがし、遊飛は子供のまわりを見渡してみる。そして、遊飛は気がつく。子供が立っている崖の上にある大岩が、今にも落ちかけていることに。
「危ない!」
グラッと崖から落ち始めた大岩を合図に、遊飛は駆け出した。間に合うか分からない。それでも、遊飛は目の前で失うかもしれない命を放っておけなかった。
地面を蹴り飛ばし、両腕を振りながらスピードを上げ、一気に息を吸うことで肺が痛くなるのを感じる。遊飛は手を伸ばし、子供の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
そして、強く抱き締めてから飛び、地面へと転がっていく。その後から地面が揺れる振動と、爆発音の様な音が鳴り響いた。転がったことで全身が痛く感じながらも、遊飛は起き上がって子供の方へと声を掛けた。
「大丈夫か?」
子供は少し身体を起こし、エメラルドグリーンの綺麗な瞳を遊飛へと向ける。何秒か黙り込んだ後、子供は首を縦に頷く。
怪我が無いことに遊飛は「よかった」と呟いていると、急に腕を強く掴まれ立ち上げさせられた。急な事で遊飛は驚いき、誰が起こしたのかと視線を向ける。
そこには息を切らし、怒りの眼差しで睨んでいるテルの姿があった。どう見ても怒ってる事は伝わっている遊飛は、何か言わなくてはとしたが遅かった。
「アンタ、馬鹿なのか!」
「ば、馬鹿ってなんだよ!」
「一歩間違えたら、大怪我だけですむレベルじゃなかったんだぞ!」
テルの言葉に、遊飛は砕け散っている大岩の方へ視線を向ける。人一人潰せる程の大きさだ。もし自分と子供が逃げ遅れていたらと考えた瞬間、ゾッと背筋が冷えきったのを感じた。
ようやく状況を理解した遊飛は、眉を八の字にして俯く。
「それは、ごめん……」
素直に謝罪の言葉を伝えると、テルは深く息を吐き捨て掴んでいた手を離した。そのまま黙り込むテルに、遊飛はどうしたものかと思っているとクンッとマントを引っ張られる。
遊飛は下へ視線を向けると、子供が両腕を広げていた。抱っこして欲しいのか、遊飛は少し屈んで子供を抱き上げる。すると、子供はある方角へと指さした。
「あっちに何かあるのか?」
遊飛の問いに頷く子供。その先に仲間が居るのかもしれないが、遊飛は隣にいるテルの方へと視線を向ける。
テルの視線は「行くつもりか?」と言いたげであり、遊飛はどうしたものかと悩んだ。子供は早くこっちへ向かうよう必死に訴えかけ、テルは行くなとでも言いたげな眼差しで睨んでくる。
(なんで板挟みされなきゃいけないんだよ!)
内心そう叫び、遊飛はユーヒに助けを求めようとしたが、肝心の彼はゆっくり歩いている。走れないのか、走ることが出来ないのか、ペンギンの子供のように、テチテチと歩いてる姿が可愛らしい。
それを眺めていたテルは先程より重たいため息をつき、ユーヒの方へと振り返る。
「彼の迎えに行ってきます」
「うん」
「いいか、絶対に勝手に動くなよ」
念を押す様にそれだけ言い残し、テルは遊飛達から離れていく。そのタイミングを待っていたのか、子供は遊飛のマントを引っ張り出した。
「ぐえっ」と遊飛は声を上げるが、首あたりの布を掴んでいる為、子供は気にせずに引っ張っていき遊飛の首を少しずつ絞めつけていく。
「わかった、わかった!行くから落ち着けって!」
遊飛の言葉に満足したのか、子供は引っ張るのをやめて満面な笑みを浮かべる。そんな子供を叱ることが出来ず、遊飛は溜息をつきながら歩き出した。
子供が指さした先には何があるのだろうか。遊飛は少し好奇心を感じながら歩いていると、一つの人影が遊飛達に向かって走ってきているのが見える。
「迎えに来てくれたのかな?」
遊飛はそう言い、近づいてくる人を見て目を大きく見開いた。
少女は遊飛が驚いている事には気がつかず、笑顔で遊飛の元へと近寄り片手を上げる。
「君のおかげで助かったヨ」
そう言う少女に遊飛は返事をしなかった。ただ黙ってジッと少女を見つめていると、テルとユーヒが近づいて来る。
「お前、また勝手な行動して!」
遊飛の肩を掴み、無理矢理後ろへ振り替えさせると、テルの瞳は大きく開く。遊飛の瞳から一筋の涙が、流れ落ちていたのだから。
遊飛の涙にテルは言葉を失っている中、遊飛はゆっくり唇を動かす。
「遊歩」
そう、遊飛の目の前に立っていたのは白銀と毛先に青色で、グラデーション掛かっている髪。
頭に後ろに大きな黄色のリボンを付け、同じく黄色のメガネを付け、オレンジ色のワンピースを着ている遊歩にソックリな少女がいたのだから。
2023/12/10
朝であることを告げられているのだと、身体を起こした遊飛は両腕を伸ばす。固い地面で寝たからか、いたる箇所からポキポキと関節が鳴り響く。
少し身体から気だるさも感じるが、遊飛は息を吐きながら伸ばしていた両腕を下ろす。すると、ユーヒが笑顔で声を掛けてきた。
「おはよう、ユウ」
「おはよう……ユーヒ」
まだ眠気があり、あくびを一つこぼしながら遊飛は返事をする。目を擦り、いい加減に起きようと立ち上がった。
何か手伝えられないかと、遊飛はユーヒに聞こうとしたと同時に、背後からなにか気配を感じた。
「おい」
「な……わぷっ!」
テルに声を掛けられ、遊飛は振り返ると同時に顔に何か被され視界が真っ暗になる。遊飛は何を掛けられたのか、それを手に取って離すと灰色のフード付きマントであった。
「マント?」
「その目立つ服を隠せ」
指差しながらそう言うテル。遊飛は今の服装を見て、納得した。テルとユーヒの服装は、旅人としてのあまり目立たなく、そして動きやすいものだ。
逆に遊飛は未来から来た分、この時代に合った色味やデザインではなく、逆に目立ってしまうのものである。
(しかもこれって……テルが使ってるマントじゃん)
よく見てみると、テルの姿はマントを着用しておらず、深緑色のコートに胸元の両脇にガンホルダー、右足太ももにはサバイバルナイフのケースが見え、肩からポニーテールが掛かっている。
武器が見えてしまうのもどうかと思いながらも、気遣ってくれた事に遊飛はマントを握り締める。頬が少しだけ熱くなって来るのを感じ、照れながらテルへお礼を言おうと口を開く。
「あ、ありがとう」
「ただでさえ、地球人だと知られたら面倒だ。いいか、お前は、私達の迷惑をかけないよう、何も行動を起こすな」
念入りに押してくるテルに、一瞬だけ好感度が上がっていた遊飛は、一気にマイナスへと落としていく。
何か言おうとするが、すぐにその場から離れていくテル。わなわなと肩を震わせながら彼の背中を眺め、遊飛は舌を出してやる。
「やっぱり、やな奴だ!」
遊飛はそう言っても無視するテルに、頬を膨らませて唇を尖らせる。そんな遊飛を隣で見ていたユーヒは優しく微笑み、遊飛の肩に手を置いた。
「君の事を心配してるんだよ」
「そんな訳ない」
「僕以外にこうして優しくしてるのって、とても珍しいことなんだよ」
「それはユーヒがお願いしたんだろ?」
遊飛はそう言うと、ユーヒの表情が険しくなる。何故、その様な表情をするのか、遊飛はわからずにいた。
数秒の間が空いたが、ユーヒは深く溜息をつきながら、テルの方へと視線を向ける。
「これは面倒な事になったな」
「?」
ユーヒの言葉に、ますます意味がわからない遊飛。ユーヒはテルに対して憐れむような眼差しでいるのか、遊飛は首を傾げることしか出来なかった。
◇◇◇
身支度が終わり、昨日と変わらずユーヒは遊飛の隣に並んでいた。さらには遊飛の腕に自身の腕を巻き付け、ピッタリと引っ付いている。
それがとても歩くには動きづらく、遊飛はチラッとユーヒへと視線を向けた。
「ユーヒ、そんなにくっつかなくても大丈夫なんだけど」
「それはわからないじゃん!」
「わからないって……」
どうして、そうハッキリ言えるのか。むしろ先程の森林とは違い、こんな岩石に囲われけわしい道の中である。
もし崖の上を歩くなら、落ちないようにくっつく理由も分かる。だが、そういう訳でもないのに、ユーヒがここまで密着するのか分からなかった。
「ユウが迷子になったらどうするの?」
「え、俺ってそんなに頼りない」
ぎゅうっと遊飛の腕を握り締め、何を言ってもユーヒは離さない。これは何を言っても無理だと悟った遊飛は溜息をつき、先に歩いてるテルの方へと視線を向ける。
先へ先へと歩き進むテルに、遊飛はその動きが少し苛立っているのではないかと感じた。ユーヒがこんなにもベッタリとくっついてれば、嫉妬もするに決まっている。
「別に嫉妬させる為に、来たわけじゃないと思うんだよな」
そう呟きながらもう一つ溜息をつき、遊飛は目を細めていく。ユーヒに引っ付かれて少し歩きにくいが、それでも遊飛はある事を考えていた。
(多分、俺がここに来た理由。きっとこの先、ユーヒの身に何かが起きたんだ)
この過去へと行かせたユーヒは「君の意思で進むんだ」と言っていた。それならば、自分の意思で進む理由は一つしかない。
(俺がユーヒを守っていけば、テルは独りにならずにすむんだ)
ユーヒを生かすこと。それが遊飛の中で決めたものである。過去を変えてしまった場合、自分がどうなってしまうかはわからない。
それでも遊飛は構わないと思った。少しでもテルが、愛してる人の傍に長くいられるなら。自分の命は惜しくないと思うほど。
「遊歩に叱られるな」
苦笑いこぼしながら、遊飛は小さく零す。助け出そうと動いてくれている遊歩に、申し訳ない気持ちになっていた。
だが、それでもテルが幸せになれるなら、遊飛は自分がどうなろうと構わなかった。
そう思いながらテルの背中を見つめ続けていると、テルが急に手を挙げた。無言のまま、こちらへ来るようにと手の動きだけで指示するテル。
その動きを見た遊飛はどういう意味なのか聞こうとした時、ユーヒが遊飛の腕を引いた。
「何か見つけたみたいだね」
さっきまでの明るい声ではなく、少し低音で喋るユーヒに緊張感が走った。テルが近くの岩陰に隠れ、遊飛とユーヒもその後に続いて隠れる。
テルがある方角へ指を向け、そちらの方へと視線を向けた。そこには金色の髪、頭のてっぺんには二本のうさ耳の様に立っており、白のロングコートを羽織った五歳児くらいの子供が立っている。
「ベルギャー星人の子供です」
「ほんとだ、珍しいね」
テルとユーヒはまわりを見渡してみるが、子供以外にベルギャー星人が居ないか確認していた。その中、遊飛だけその子供をジッと見つめている。
「ユウディアスに似てるな、あの子」
蒼穹の様な綺麗な髪色だったら、ユウディアスの幼少期なのかと錯覚するくらいである。小さな声で呟きながら、遊飛は考える。あの子は、ユウディアスの御先祖様になるのだろうか。
遊飛はまさか過去へ飛んで、ユウディアスとの繋がりがあるかもしれない存在と出会うとは思わなかった。
そして、遊飛はある疑問を抱き、テルとユーヒに問い掛けた。
「なぁ、どうして隠れる必要があるんだよ?」
「むしろ何故、隠れなくていいっていう思考になるんだ」
呆れた眼差しで見下ろすテルに、遊飛は内心ムッとした。遊飛にとって、ユウディアスやバリベルギャーとの交流によって大切な友人であり仲間でもある。
だからこそ、いま目の前にいるベルギャー星人とも仲良くなれるのではないか。と思っていたのだ。それなのに、テル達からは「本気で言ってるのか?」という眼差しである。
「ユウ、ベルギャー星人は戦闘に特化された種族なんだよ」
「子供だとしてと、力は私達より上。危険も高い」
「だから、見つからない方がいいんだ」
テルとユーヒの説明を受けながら、遊飛はユウディアスとズウィージョウのことを思い出す。確かに二人は戦士として、それぞれの意思で戦っている姿を見てきた。
その分、彼らの優しさも遊飛は知っている。その種族だからという差別的な発言に、遊飛は眉間に皺を寄せた。
「危険だからと言って、全員そうとは限らないじゃんか」
そう言う遊飛にテルとユーヒはそれぞれ表情が変わった。ユーヒは少し目を大きくし、揺らしながら遊飛を見つめており、テルは目を細めて眉間に皺を寄せている。
そんな二人の表情に気がついてない遊飛は、子供を見つめ続けていると、ふと何か違和感を感じた。
(あれ?なんか嫌な予感がする)
胸騒ぎがし、遊飛は子供のまわりを見渡してみる。そして、遊飛は気がつく。子供が立っている崖の上にある大岩が、今にも落ちかけていることに。
「危ない!」
グラッと崖から落ち始めた大岩を合図に、遊飛は駆け出した。間に合うか分からない。それでも、遊飛は目の前で失うかもしれない命を放っておけなかった。
地面を蹴り飛ばし、両腕を振りながらスピードを上げ、一気に息を吸うことで肺が痛くなるのを感じる。遊飛は手を伸ばし、子供の腕を掴んで自分の方へと引き寄せた。
そして、強く抱き締めてから飛び、地面へと転がっていく。その後から地面が揺れる振動と、爆発音の様な音が鳴り響いた。転がったことで全身が痛く感じながらも、遊飛は起き上がって子供の方へと声を掛けた。
「大丈夫か?」
子供は少し身体を起こし、エメラルドグリーンの綺麗な瞳を遊飛へと向ける。何秒か黙り込んだ後、子供は首を縦に頷く。
怪我が無いことに遊飛は「よかった」と呟いていると、急に腕を強く掴まれ立ち上げさせられた。急な事で遊飛は驚いき、誰が起こしたのかと視線を向ける。
そこには息を切らし、怒りの眼差しで睨んでいるテルの姿があった。どう見ても怒ってる事は伝わっている遊飛は、何か言わなくてはとしたが遅かった。
「アンタ、馬鹿なのか!」
「ば、馬鹿ってなんだよ!」
「一歩間違えたら、大怪我だけですむレベルじゃなかったんだぞ!」
テルの言葉に、遊飛は砕け散っている大岩の方へ視線を向ける。人一人潰せる程の大きさだ。もし自分と子供が逃げ遅れていたらと考えた瞬間、ゾッと背筋が冷えきったのを感じた。
ようやく状況を理解した遊飛は、眉を八の字にして俯く。
「それは、ごめん……」
素直に謝罪の言葉を伝えると、テルは深く息を吐き捨て掴んでいた手を離した。そのまま黙り込むテルに、遊飛はどうしたものかと思っているとクンッとマントを引っ張られる。
遊飛は下へ視線を向けると、子供が両腕を広げていた。抱っこして欲しいのか、遊飛は少し屈んで子供を抱き上げる。すると、子供はある方角へと指さした。
「あっちに何かあるのか?」
遊飛の問いに頷く子供。その先に仲間が居るのかもしれないが、遊飛は隣にいるテルの方へと視線を向ける。
テルの視線は「行くつもりか?」と言いたげであり、遊飛はどうしたものかと悩んだ。子供は早くこっちへ向かうよう必死に訴えかけ、テルは行くなとでも言いたげな眼差しで睨んでくる。
(なんで板挟みされなきゃいけないんだよ!)
内心そう叫び、遊飛はユーヒに助けを求めようとしたが、肝心の彼はゆっくり歩いている。走れないのか、走ることが出来ないのか、ペンギンの子供のように、テチテチと歩いてる姿が可愛らしい。
それを眺めていたテルは先程より重たいため息をつき、ユーヒの方へと振り返る。
「彼の迎えに行ってきます」
「うん」
「いいか、絶対に勝手に動くなよ」
念を押す様にそれだけ言い残し、テルは遊飛達から離れていく。そのタイミングを待っていたのか、子供は遊飛のマントを引っ張り出した。
「ぐえっ」と遊飛は声を上げるが、首あたりの布を掴んでいる為、子供は気にせずに引っ張っていき遊飛の首を少しずつ絞めつけていく。
「わかった、わかった!行くから落ち着けって!」
遊飛の言葉に満足したのか、子供は引っ張るのをやめて満面な笑みを浮かべる。そんな子供を叱ることが出来ず、遊飛は溜息をつきながら歩き出した。
子供が指さした先には何があるのだろうか。遊飛は少し好奇心を感じながら歩いていると、一つの人影が遊飛達に向かって走ってきているのが見える。
「迎えに来てくれたのかな?」
遊飛はそう言い、近づいてくる人を見て目を大きく見開いた。
少女は遊飛が驚いている事には気がつかず、笑顔で遊飛の元へと近寄り片手を上げる。
「君のおかげで助かったヨ」
そう言う少女に遊飛は返事をしなかった。ただ黙ってジッと少女を見つめていると、テルとユーヒが近づいて来る。
「お前、また勝手な行動して!」
遊飛の肩を掴み、無理矢理後ろへ振り替えさせると、テルの瞳は大きく開く。遊飛の瞳から一筋の涙が、流れ落ちていたのだから。
遊飛の涙にテルは言葉を失っている中、遊飛はゆっくり唇を動かす。
「遊歩」
そう、遊飛の目の前に立っていたのは白銀と毛先に青色で、グラデーション掛かっている髪。
頭に後ろに大きな黄色のリボンを付け、同じく黄色のメガネを付け、オレンジ色のワンピースを着ている遊歩にソックリな少女がいたのだから。
2023/12/10