<テルゆひ> 惑星の花嫁
「―っ! ――っ!!」
耳元から聞こえる誰かの声。抱き寄せられているから、絶対に聞こえるのに。
それなのに、何故かとても遠く聞こえる。とても切なく、泣きそうな声。
まるで、迷子の子供が親を探すかの様なすすり泣く声。
その声を聞いていると、俺も何故か悲しく感じた。
なんでだろう。だって、俺を抱き締めている相手の姿は見えないのに。
それでも、この人にはこれ以上、泣いてほしくないと思った。
動かせられているかわからないけど、俺は右腕を動かして見えない相手に触れてみようと伸ばしてみる。
そしたら、相手はその手を掴んでくれた。
俺は「泣かないで。そんな悲しくしないで」と、相手に伝わっているかわからないか細い声で話した。
ちゃんと伝わっているだろうか。そんな不安を抱えながら俺は、相手の反応を待っていると掴んでいる手が強く握り締められた。
「君が消えても、私は見つけてみせる。何年だろうと、何百年だろうと……」
聞こえなかった声が、突然俺の耳に届いた。
その言葉を聞いて、俺の心は嬉しそうに感じている。
自分の意志じゃないのに、俺の口元が上がっていて笑っているのがわかる。
どういう状況なのかわからないでいると、俺の唇に柔らかい何かが重なった。
その感触は一瞬で離れていき、俺はいまキスされたんだってようやく理解した。
いやちょっと待って。相手の声は男だから、いま男にキスされたの?と俺は思っている間に、相手がそのまま話しかけ続けていた。
「君は私の花嫁なのだから」
最後に言った相手の言葉を聞き、俺は「んっ!?」と驚きの声を上げそうになった。
いや、むしろ上げたかったのに上げられなかった。
先程の雰囲気がぶち壊れたと思うけど、爆弾発言的な言葉に俺はテンパりながら必死に相手へ向けて叫んだ。
(待って!君は一体誰なの?花嫁ってどういう意味!?というか、俺男なのに花嫁って!俺、そんな趣味はないんだけどぉ!)
俺は色々と叫んでいたけど、やっぱり相手の耳には届いていなかったみたいで、そのまま何かに引っ張られるかのように俺の意識は遠くなっていった。
◇◇◇
「んっ……」
ゆっくり瞼を上げ、天井を眺めていた遊飛は何秒か見つめ続けた。
いつもと変わらない天井の色。カーテンの隙間から入り込む朝日も眺め、いつもと変わらない光景を見ているはずなのに、なぜか今日は違うような気がした。
もしかしたら、最近仲間になったユウディアスとの出会いによって、いつもの生活が変わっていったからなのだろうか。
軽く首を傾げながら遊飛は、いつもと違うこの感覚がなんなのか考え込んだ。
そして、遊飛の指先は自然と自身の唇に当てて優しくなぞった。何か、ここに触れられたような感触がしたが、結局わからないまま腹の虫だけが静かな部屋全体に鳴り響き、遊飛はすぐに考えるのを止めた。
「腹が減ってはなんとかって言うしね!」
そう言い、遊飛はベッドから飛び降りて部屋から出ていく。
駆け足で廊下を走り、足音を鳴り響かせていると、背後から田崎の怒られる声が聞こえた。
だが、遊飛は気にせずに走っていた原因でこの後、クリーニングに出していた洋服を取りに行くように言われるのが、数十分後の話であった。
「まさか、ユウディアスが洗濯機を壊すなんてなぁ」
遊飛は両腕を組みながら、近所にあるクリーニング【カッパ天国クリーニング】へ向かって歩いていた。
最初はユウディアスと一緒に行こうと声を掛けようとしたが、遊歩が先手を取っていて新しい洗濯機を運ぶ担当として連れて行かれた後だった。
ユウディアスもバリベルギャーも遊歩も居ない。
久しぶりの一人であることに、遊飛は少しだけ寂しさも感じていた。
だからその分、早く受け取って帰ろうと、店舗内へと入っていった。
これで帰れると思った遊飛だが、ふとあることに気がつく。
クリーニングされている衣服が脱水もかけられてない、ずぶ濡れ状態であることを。
「びっしょびしょじゃねーか!」
店員のお姉さんに濡れている洋服を出しながら、遊飛は一緒に濡れてしまっているデュエルディスクにも悲鳴を上げた。
しかも遊歩のお気に入り勝負服もずぶ濡れ状態。
とにかくちゃんと業務をこなしていない担当に文句言うべきだと、遊飛は責任者が誰なのか問い掛け、作業場の所へと向かって歩いていく。
デュエルディスクを出してしまったのは、一緒に入れてしまった自分の責任でもあることは遊飛もわかっている。
だが、それでも一言文句を言わなければ気が済まなかった。
責任者がいる作業場へと向かって行き、遊飛はドアを突き飛ばす様に開ける。
「アイツか!」
アイロンをかけては濡らすという繰り返しをしている緑髪の彼を見た遊飛は、その横顔を見て思い出す。
「あー!見つけた!」
業務妨害するのではないくらいの大声で叫んだ遊飛に、作業の手を止めた彼は遊飛の方へと振り返る。
綺麗な黄色の瞳と目が合い、遊飛の心が一瞬だけドキッとした。ユウディアスの瞳も綺麗だったが、目の前の相手の瞳も負けてないくらいの綺麗さ。
その瞳に惹き込まれそうになったが、遊飛はすぐに首を横に振って気持ちを切り替えた。
「お前があん時の宇宙人だな!」
「あの時の地球人」
冷静な声で返す相手に、遊飛は足踏みしながら近づき前に立って指差す。
「お前にアースダマー盗られてから、俺のラッシュデュエルはダメダメになったんだ!」
今まで貯めていたうっぷんを晴らすかのように、遊飛は彼に向けて色々と言い続ける。
ノンブレスの様にラッシュデュエルを申し込んでいる途中に、足元が急に地面を失い重力のままに下へと遊飛は落ちていった。
悲鳴を上げながら、真っ逆さまに落ちていく感覚に遊飛はなれなかった。絶叫系のジェットコースターとは違う分、どう受け身を取ればいいのか分からない。
しかも底は暗闇であり、いつこの落ちている感覚が終わるのか。遊飛はそう思っていると、急に目の前が明るくなり、そのまま地面へと落ちた。
「へぶっ!」
顔面が地面に叩きつけられ、強打して痛み走る鼻をさすりながら起き上がった遊飛はまわりを見渡してみる。
栽培しているキュウリがあれば、綺麗な池もある。そして、湿度を上げるには少しやりすぎなのではないかと思うくらいの、じめっとした湿気を感じた。
「ここは……」
どこなのか遊飛は言おうとした時、背後からドアが開く音が聞こえた。そこから感じる人の気配に振り返ると、目の前に居る人物は先程まで会話していた宇宙人だった。
近づいてくる宇宙人に、遊飛は少し警戒の眼差しで相手を睨みつける。そうしていると、遊飛の前に立った宇宙人は見下ろしながら口を開く。
「ちょうど私も君に会いたいと、思っていたんですよ」
そう言う宇宙人の声を聞いた遊飛は、何故か胸あたりがとくんっと小さく鳴った。
(あれ?なんで、懐かしい声って感じてるんだ?)
全身に感じる懐かしさ、高鳴る胸に遊飛は不思議に感じた。
確かに一時的に記憶は無くなっていたが、それでもこんなにも心の奥底から喜びに満ち溢れるのが理解できなかったのだ。
じわっと目の奥が熱くなり、涙が出そうになるほど。
(きっと、ようやく宿敵を見つけたから、そんな気持ちなんだ!)
今にも泣きそうな感情を押さえ込み、遊飛は気持ちを切り替える。
アースダマーを取り返すことだけに集中し、そして遊飛は合羽井テルへラッシュデュエルを申し込んだ。
勝敗によってどちらかの願いを叶える賭けをし、遊飛はアースダマーの返却を、テルから聞かされる内容はとんでもないものであった。
「この檻の中で一生飼育させてもらいます」
監禁部屋を見せられ、遊飛は責めるようにテルへ叫ぶが、何かに飢えているのか、テルは瞳孔を見開いた状態で叫び返された。
ビジョビジョに濡れていくテルの姿に、遊飛は少しだけ引いていく。
(だからなんで、こんな気持ちになってるんだよ……なんで、その口癖、変わってないなぁって思ってるんだ?)
それでも内心では懐かしさを感じてることに、遊飛は自分の感情がわからなくなっていく。
折角、気持ちを切り替えてもこの有様では、ラッシュデュエルも難しくなるのではないかと思うほどである。
(大丈夫。ちゃんとデュエルに集中すればっ!)
相手の声や姿を見なければいい、カードを見たりデュエルの流れをイメージしようと遊飛はそう思いながらテルと共に外へと出た。
◇◇◇
テルとのラッシュデュエルは見事逆転し、勝ち取った遊飛は約束通り奪われたアース・ダマーを返してもらった。
だが、ずっと探し続けていたものは直視出来ないほどの色味であり、それを飲むことに遊飛は拒絶していた。
そうしている隙に、アースダマーはかつてユウディアスの仲間であり上官でもあったズウィージョウに奪われてしまった。
マナブから話を聞きたいとのことで、ユウディアスと遊歩と共に遊飛も帰ろうとした。
だが、遊飛は途中で歩みを止め、先に歩いてる二人に向けて声を掛ける。
「あっ」
何かに気がついたような声を出す遊飛に、二人は振り返った。
そして、先に声を掛けるのはユウディアスであった。
「どうかしたのか?遊飛」
「実はクリーニングの洋服を、受け取り忘れててさ!」
遊飛はそう伝え、「あはは〜」と苦笑いをこぼしながら後頭部に手を当てる。
その後に両手を合わせて謝る仕草を見せ、軽くお辞儀をする。
「だから、先に行ってて二人とも!」
「そう?」
「ソレガシも一緒について行くが?」
そう言うユウディアスに、遊飛は両手を振っていく。
「大丈夫!そんなに量は多いわけじゃないし!それに……」
「それに?」
遊飛は先に居るマナブの方へと視線をやったあと、ユウディアスに向けて手招きをする。
それに気がついたユウディアスは少しかがみ、耳を遊飛へと向けた。遊飛も背伸びし、内緒話をするようにユウディアスの耳元に声を掛ける。
「マナブを待たせるわけには、いかないだろ?」
「確かに」
納得したユウディアスは右手に拳を作り、自身の胸元へと当てた。
「UTS!ソレガシ達は先に戻っている!」
「うん、また後でな。バリベルギャーもユウディアス達と一緒に帰ってて」
『ユウヒ!ユウヒ!』
先に帰っていくみんなを見送り、一人残った遊飛は振っていた手を下ろす。
「はぁ……」
誰も居なくなったことを確認し、遊飛は大きく息を吐き捨てる。
そして、先程まで元気にしていた表情から、一気に顔色が青紫へと変色していった。
「気持ち悪い……」
襲われる吐き気に遊飛は口元を手で覆いかぶせ、必死に押さえ込んだ。
気分が悪くなったのは、アースダマーを見た時からであった。
あの形、そしてあの声と言っていいか分からない音を聞いてから、遊飛の胸あたりからムカムカしかような気持ち悪さを感じたのだ。
「少し休んだら、気分も良くなるよな……」
近くにあるドラム缶に横たわろうと遊飛は歩くが、すぐに視界がグラッと揺れ動く。
「あっ……」
その原因で身体が傾き、足もうまく力が入らないまま地面へと一直線へと倒れかけた。
すぐに来るだろう衝撃に、遊飛は目を瞑っていたが、いつまで経っても痛みが来なかった。
むしろ、身体が傾いたまま誰かの手が支えてくれていることに気がつく。
肩から感じる大きな手。遊飛はうっすらと瞼を上げ、まだ視界がぼやけており相手の顔がよく見えなかった。
(もしかして、ユウディアスが戻ってきちゃったのかな……)
まずい所を見せちゃったな。っと思いながら、遊飛は遊歩にも怒られると考えていたが、まわりは特にザワつくような声は聞こえなかった。
むしろ、いつもならユウディアスが大声で声を掛けてくるはずなのに、それもすらもない。
無口になるほど怒らせてしまったのかと、遊飛は吐き気を押さえ込みながら唇を震わせながら声を出す。
「ゆう……でぃあす?」
か細い声で名前を呼んでみると、肩に触れている指がピクッの動いた。
反応を返すということは、ユウディアスなのかと遊飛はそう思っていると、上から溜息つくような音が聞こえた。
「……アースダマーと共鳴している原因ですね」
ユウディアスではない声に、遊飛は驚きを隠せられなかった。
間違えた恥ずかしさと、誰に助けられたのか遊飛は離れて謝罪したかったが、何故か意識が酷く遠のいていきそうな感覚が襲い掛かる。
(え、なんで急に意識が……)
何かに引き寄せられ、遊飛はこのまま眠ってしまったらどうなるのかと思った。
暗い暗い闇の中、一生目覚めないのではないかという不安。
全身に何か巻きついてくるような、黒い何かに身動きが取れなくなっていく。
遊飛は誰かわからない相手に助けを求めようと声を発したいが、喉に何か引っ掛かってるかのように、うまく声を出せなかった。
(イヤだ……こわいよ……誰か、助けて……)
その思っている言葉すら、声として出せずに遊飛は一粒の涙をこぼす。
必死に助けを求めていると、急に身体がふわっと浮かび上がった。
身体に巻きついていた黒い物体が消えていき、楽になっていくのを感じる。
「意識をしっかり持つんです」
暗闇の中から聞こえる声に、遊飛はぴくっと耳を動かす。
「君が帰る場所を、君がその世界に留まる理由を考えてみてください」
さっきまでの恐怖心が嘘のように消えていき、遊飛は言われた通りに考える。
帰る場所を。みんなのことを。声を掛けてくれている相手のことを。
「そう。その調子です」
優しく導いてくれる声に、遊飛は自然と口角が上がって笑みを浮かべる。
嬉しい気持ちもだが、その声がとても愛おしく感じていたのだ。
早く戻らなければ。声の主の元へと。
そして、目の前が明るくなり、遊飛は暗い視界からの突然の光で一瞬瞼を閉じる。
「んっ……」
眩しかった光は徐々に消え、遊飛はゆっくり瞼をあげる。
少しボヤけてる視界の中、微かに見える綺麗な緑色。ボヤけていた視界もクリアになり、その緑色の正体がテルということに遊飛は気がついた。
「気分はどうですか?王道遊飛」
「ビジョガッパ……?」
至近距離で見下ろしているテルの顔に、つい遊飛は「わっ!」と驚きの声を上げてしまう。
そうなっても致し方なかった。お互いの鼻先が触れ合うのでわないかと思うくらい、彼の顔が近くあったのだから。
(近い!近い!なんでそんなに近くにあるんだよ!というか、やっぱり綺麗だな……って違う!というか、なんでビジョガッパがここに!?ってかなんで俺、抱き締められてるの!?)
横抱きにされていることに気がついた遊飛は、頬が熱くなっていくのを感じた。
男が男に抱き抱えられている恥ずかしさもあるが、テルの顔が近くにあることに何故か照れる気持ちが湧き出ているのだ。
遊飛が起きた事を確認したテルは、顔を離していきまわりを見渡していく。
(あっ……)
離れたテルの顔に、遊飛は名残惜しさを感じた。
先程までは恥ずかしかったのに、今は離れていった寂しさの方が強く出ている。
(どうして、寂しく思ってるんだろ)
遊歩やユウディアス、バリベルギャーやUTSの仲間なら納得する。
それなのに、まだ出会ってそこまで長く一緒いた相手ではないのに、どうして寂しく感じたのか。
「あの二人はどうしたんです」
「っ!先に帰ってもらった……」
「なぜ?」
「……二人の前で倒れる訳にはいかないって、なんかそう思ったんだよ」
「なるほど」
短調に返すテルに、遊飛は軽く彼の腕を叩く。
下ろして欲しいという合図を送ると、伝わったのかテルはゆっくり地面へと遊飛を下ろしてくれた。
地面に足をつけ、立ち上がった遊飛は顔を上げるとテルの目が合った。
「あまり、無理はしないでください。私が偶然、戻ってきたからよかったものを」
「それは、ごめんなさい……」
心配した。と言いたげな眼差しを受け、遊飛は申し訳ない気持ちになり謝罪した。
そして、遊飛はじっとテルを見つめながら内心思う。
(実は良い奴なのか……?)
最初はヤバい奴と遊飛の中でそう思っていたが、こうして助けてくれたり介抱してくれた事に警戒心が薄れていた。
ちゃんとお礼を言おうと、遊飛が口を開きかけた時、先にテルが話し掛けた。
「できれば、あのベルギャー星人の傍に居てほしいんですが」
そう言うテルに遊飛は内心ムッとした。
それが顔にも出ていたのか、テルが軽く首を傾げ眉間にシワを寄せている。
「なんですか、その表情は」
「星人名で呼ぶなよ。ちゃんと「ユウディアス」っていう名前があるんだからさ」
あまり星人名で呼び合う事が、遊飛は好きではなかった。まるで差別化されているかのように感じ、遊飛にとっては、みんな同じ生きてるヒトだと思っていたからだ。
遊飛がそう言うと、少しだけテルの瞳が揺れ動いていることに気がつく。
「そうでしたね」
あっさりとした言葉で返すテルに、遊飛は先程の瞳は気のせいだったのかと悩んだ。
だが、その前にテルが言っていた話題へ戻すべきだと考え、問い掛けようと口を開く。
「それで、なんでユウディアスの傍に居てほしいんだよ?」
「君を守れるのが、彼くらいかと思っただけです」
テルの回答を聞き、ますます意味がわからなくなった遊飛。
「はぁ?」と本当に意味がわからないと言いたげな仕草をし、遊飛は呆れた表情をしながら両腕を組んで首を傾げた。
「俺を守るって……別に俺、狙われることなんてしてないけど?」
「君はまだ知らないだけなんだ」
知らないっとは、どういうことなのだろうか。
宇宙人の方では指名手配される程、自分は何か仕出かしたのか等、遊飛は色々と考え込んでしまう。
確かにテルを見るける為に、色々と宇宙人問題を引き受け、仕事としてやってきた。
(でも、指名手配されるほどの迷惑行為はしてないと……思いたいっ!)
自分がそうであっても、相手はそうじゃない可能性もある。そう考えれば考えるほど、遊飛は思い悩んで唸り続けた。
眉間に皺を寄せ、「むむむ……」と唸っていると、いつの間にかテルの手が遊飛の髪の毛に触れていた。
それに気がついた遊飛は顔を上げると、目を細め優しい笑みを向けているようなテルと目が合う。
「王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁」
「は、花嫁っ!?」
突然そんなことを言われ、遊飛は上擦った声を上げた。
そして、何歩か後ろへと下がった後にテルへ向けて指を指す。
「お、お前!そっちの趣味があったのか!?」
「別に宇宙人は性別とかは、あまり気にしないですからね」
「へ、へ~そうなんだ……」
意外な情報を聞き、遊飛は口端を引き攣らせていた。別に同性愛とかは遊飛は気にしていない。
ただ、突然の告白のようなことを受けた方の驚きが強かったのだ。
(付き合ってないのに、いきなり花嫁とかいう奴があるかよっ!て、なんで俺いま付き合ってからが普通だとか思ってんの!?)
まるで、告白は受けるような感じに遊飛はますます意味がわからず、脳内はテンパっていた。
このままじゃよくないと判断し、遊飛はキッと強気な眼差しでテルを睨みつける。
「でも、俺はお前の花嫁になるつもりはないから!」
そうはっきり断る言葉を伝えると同時に、テルの全身がずぶ濡れ状態へとなっていく。
頭のてっぺんからバケツ一杯分の水をかけられたかの様であり、遊飛はつい「ひっ!」と驚いた声を上げながらまた一歩後ろへと下がった。
「なんで、びっちょびちょになるんだよ!」
「乾いたから」
「意味わかんねぇ~!」
告白を断られたのがショックだったのか、それとも別の意味があったのか。遊飛はどんなに考えても、テルの考えには理解できずにいた。
むしろ、このまま再度告白されては困ると思い、遊飛は大事なことなので同じことを伝えようと口を開く。
「とにかく!何度も言うけど、俺はお前の花嫁とか、そんなんになるつもりねーから!」
「いえ、もう君は私の花嫁だというのは決まっているので」
「なんでだよ!」
確定事項だと言うかのように伝えるテルに、遊飛はついツッコミを入れてしまった。
これでは埒が明かないと、遊飛は逃げるが勝ちだと思い、テルを睨んだまま後ろへと下がっていきタイミング計っていく。
(いまだっ!)
隙を狙って遊飛は駆け出し、テルから逃げようとしたがある事を思い出し、一旦足を止めてテルの方へと振り返る。
テルの方も急に足が止まった遊飛に「えっ?」と言いたげな表情をしていた。
そんなテルのことを置いといて、遊飛は少し息を吸って吐き出すように声を発する。
「でも助けてくれたことは、お礼言うな!ありがとう!」
そう、遊飛が足を止めた理由は、テルにお礼を言っていなかったからだ。
言えたことに満足し、遊飛はそのまま逃げるようにテルから離れていった。
その時、彼は知らない。テルの口元が笑みを浮かべながら、「変わってないな。君は」と呟いていたことを。
つづく…?
2023/05/05
耳元から聞こえる誰かの声。抱き寄せられているから、絶対に聞こえるのに。
それなのに、何故かとても遠く聞こえる。とても切なく、泣きそうな声。
まるで、迷子の子供が親を探すかの様なすすり泣く声。
その声を聞いていると、俺も何故か悲しく感じた。
なんでだろう。だって、俺を抱き締めている相手の姿は見えないのに。
それでも、この人にはこれ以上、泣いてほしくないと思った。
動かせられているかわからないけど、俺は右腕を動かして見えない相手に触れてみようと伸ばしてみる。
そしたら、相手はその手を掴んでくれた。
俺は「泣かないで。そんな悲しくしないで」と、相手に伝わっているかわからないか細い声で話した。
ちゃんと伝わっているだろうか。そんな不安を抱えながら俺は、相手の反応を待っていると掴んでいる手が強く握り締められた。
「君が消えても、私は見つけてみせる。何年だろうと、何百年だろうと……」
聞こえなかった声が、突然俺の耳に届いた。
その言葉を聞いて、俺の心は嬉しそうに感じている。
自分の意志じゃないのに、俺の口元が上がっていて笑っているのがわかる。
どういう状況なのかわからないでいると、俺の唇に柔らかい何かが重なった。
その感触は一瞬で離れていき、俺はいまキスされたんだってようやく理解した。
いやちょっと待って。相手の声は男だから、いま男にキスされたの?と俺は思っている間に、相手がそのまま話しかけ続けていた。
「君は私の花嫁なのだから」
最後に言った相手の言葉を聞き、俺は「んっ!?」と驚きの声を上げそうになった。
いや、むしろ上げたかったのに上げられなかった。
先程の雰囲気がぶち壊れたと思うけど、爆弾発言的な言葉に俺はテンパりながら必死に相手へ向けて叫んだ。
(待って!君は一体誰なの?花嫁ってどういう意味!?というか、俺男なのに花嫁って!俺、そんな趣味はないんだけどぉ!)
俺は色々と叫んでいたけど、やっぱり相手の耳には届いていなかったみたいで、そのまま何かに引っ張られるかのように俺の意識は遠くなっていった。
◇◇◇
「んっ……」
ゆっくり瞼を上げ、天井を眺めていた遊飛は何秒か見つめ続けた。
いつもと変わらない天井の色。カーテンの隙間から入り込む朝日も眺め、いつもと変わらない光景を見ているはずなのに、なぜか今日は違うような気がした。
もしかしたら、最近仲間になったユウディアスとの出会いによって、いつもの生活が変わっていったからなのだろうか。
軽く首を傾げながら遊飛は、いつもと違うこの感覚がなんなのか考え込んだ。
そして、遊飛の指先は自然と自身の唇に当てて優しくなぞった。何か、ここに触れられたような感触がしたが、結局わからないまま腹の虫だけが静かな部屋全体に鳴り響き、遊飛はすぐに考えるのを止めた。
「腹が減ってはなんとかって言うしね!」
そう言い、遊飛はベッドから飛び降りて部屋から出ていく。
駆け足で廊下を走り、足音を鳴り響かせていると、背後から田崎の怒られる声が聞こえた。
だが、遊飛は気にせずに走っていた原因でこの後、クリーニングに出していた洋服を取りに行くように言われるのが、数十分後の話であった。
「まさか、ユウディアスが洗濯機を壊すなんてなぁ」
遊飛は両腕を組みながら、近所にあるクリーニング【カッパ天国クリーニング】へ向かって歩いていた。
最初はユウディアスと一緒に行こうと声を掛けようとしたが、遊歩が先手を取っていて新しい洗濯機を運ぶ担当として連れて行かれた後だった。
ユウディアスもバリベルギャーも遊歩も居ない。
久しぶりの一人であることに、遊飛は少しだけ寂しさも感じていた。
だからその分、早く受け取って帰ろうと、店舗内へと入っていった。
これで帰れると思った遊飛だが、ふとあることに気がつく。
クリーニングされている衣服が脱水もかけられてない、ずぶ濡れ状態であることを。
「びっしょびしょじゃねーか!」
店員のお姉さんに濡れている洋服を出しながら、遊飛は一緒に濡れてしまっているデュエルディスクにも悲鳴を上げた。
しかも遊歩のお気に入り勝負服もずぶ濡れ状態。
とにかくちゃんと業務をこなしていない担当に文句言うべきだと、遊飛は責任者が誰なのか問い掛け、作業場の所へと向かって歩いていく。
デュエルディスクを出してしまったのは、一緒に入れてしまった自分の責任でもあることは遊飛もわかっている。
だが、それでも一言文句を言わなければ気が済まなかった。
責任者がいる作業場へと向かって行き、遊飛はドアを突き飛ばす様に開ける。
「アイツか!」
アイロンをかけては濡らすという繰り返しをしている緑髪の彼を見た遊飛は、その横顔を見て思い出す。
「あー!見つけた!」
業務妨害するのではないくらいの大声で叫んだ遊飛に、作業の手を止めた彼は遊飛の方へと振り返る。
綺麗な黄色の瞳と目が合い、遊飛の心が一瞬だけドキッとした。ユウディアスの瞳も綺麗だったが、目の前の相手の瞳も負けてないくらいの綺麗さ。
その瞳に惹き込まれそうになったが、遊飛はすぐに首を横に振って気持ちを切り替えた。
「お前があん時の宇宙人だな!」
「あの時の地球人」
冷静な声で返す相手に、遊飛は足踏みしながら近づき前に立って指差す。
「お前にアースダマー盗られてから、俺のラッシュデュエルはダメダメになったんだ!」
今まで貯めていたうっぷんを晴らすかのように、遊飛は彼に向けて色々と言い続ける。
ノンブレスの様にラッシュデュエルを申し込んでいる途中に、足元が急に地面を失い重力のままに下へと遊飛は落ちていった。
悲鳴を上げながら、真っ逆さまに落ちていく感覚に遊飛はなれなかった。絶叫系のジェットコースターとは違う分、どう受け身を取ればいいのか分からない。
しかも底は暗闇であり、いつこの落ちている感覚が終わるのか。遊飛はそう思っていると、急に目の前が明るくなり、そのまま地面へと落ちた。
「へぶっ!」
顔面が地面に叩きつけられ、強打して痛み走る鼻をさすりながら起き上がった遊飛はまわりを見渡してみる。
栽培しているキュウリがあれば、綺麗な池もある。そして、湿度を上げるには少しやりすぎなのではないかと思うくらいの、じめっとした湿気を感じた。
「ここは……」
どこなのか遊飛は言おうとした時、背後からドアが開く音が聞こえた。そこから感じる人の気配に振り返ると、目の前に居る人物は先程まで会話していた宇宙人だった。
近づいてくる宇宙人に、遊飛は少し警戒の眼差しで相手を睨みつける。そうしていると、遊飛の前に立った宇宙人は見下ろしながら口を開く。
「ちょうど私も君に会いたいと、思っていたんですよ」
そう言う宇宙人の声を聞いた遊飛は、何故か胸あたりがとくんっと小さく鳴った。
(あれ?なんで、懐かしい声って感じてるんだ?)
全身に感じる懐かしさ、高鳴る胸に遊飛は不思議に感じた。
確かに一時的に記憶は無くなっていたが、それでもこんなにも心の奥底から喜びに満ち溢れるのが理解できなかったのだ。
じわっと目の奥が熱くなり、涙が出そうになるほど。
(きっと、ようやく宿敵を見つけたから、そんな気持ちなんだ!)
今にも泣きそうな感情を押さえ込み、遊飛は気持ちを切り替える。
アースダマーを取り返すことだけに集中し、そして遊飛は合羽井テルへラッシュデュエルを申し込んだ。
勝敗によってどちらかの願いを叶える賭けをし、遊飛はアースダマーの返却を、テルから聞かされる内容はとんでもないものであった。
「この檻の中で一生飼育させてもらいます」
監禁部屋を見せられ、遊飛は責めるようにテルへ叫ぶが、何かに飢えているのか、テルは瞳孔を見開いた状態で叫び返された。
ビジョビジョに濡れていくテルの姿に、遊飛は少しだけ引いていく。
(だからなんで、こんな気持ちになってるんだよ……なんで、その口癖、変わってないなぁって思ってるんだ?)
それでも内心では懐かしさを感じてることに、遊飛は自分の感情がわからなくなっていく。
折角、気持ちを切り替えてもこの有様では、ラッシュデュエルも難しくなるのではないかと思うほどである。
(大丈夫。ちゃんとデュエルに集中すればっ!)
相手の声や姿を見なければいい、カードを見たりデュエルの流れをイメージしようと遊飛はそう思いながらテルと共に外へと出た。
◇◇◇
テルとのラッシュデュエルは見事逆転し、勝ち取った遊飛は約束通り奪われたアース・ダマーを返してもらった。
だが、ずっと探し続けていたものは直視出来ないほどの色味であり、それを飲むことに遊飛は拒絶していた。
そうしている隙に、アースダマーはかつてユウディアスの仲間であり上官でもあったズウィージョウに奪われてしまった。
マナブから話を聞きたいとのことで、ユウディアスと遊歩と共に遊飛も帰ろうとした。
だが、遊飛は途中で歩みを止め、先に歩いてる二人に向けて声を掛ける。
「あっ」
何かに気がついたような声を出す遊飛に、二人は振り返った。
そして、先に声を掛けるのはユウディアスであった。
「どうかしたのか?遊飛」
「実はクリーニングの洋服を、受け取り忘れててさ!」
遊飛はそう伝え、「あはは〜」と苦笑いをこぼしながら後頭部に手を当てる。
その後に両手を合わせて謝る仕草を見せ、軽くお辞儀をする。
「だから、先に行ってて二人とも!」
「そう?」
「ソレガシも一緒について行くが?」
そう言うユウディアスに、遊飛は両手を振っていく。
「大丈夫!そんなに量は多いわけじゃないし!それに……」
「それに?」
遊飛は先に居るマナブの方へと視線をやったあと、ユウディアスに向けて手招きをする。
それに気がついたユウディアスは少しかがみ、耳を遊飛へと向けた。遊飛も背伸びし、内緒話をするようにユウディアスの耳元に声を掛ける。
「マナブを待たせるわけには、いかないだろ?」
「確かに」
納得したユウディアスは右手に拳を作り、自身の胸元へと当てた。
「UTS!ソレガシ達は先に戻っている!」
「うん、また後でな。バリベルギャーもユウディアス達と一緒に帰ってて」
『ユウヒ!ユウヒ!』
先に帰っていくみんなを見送り、一人残った遊飛は振っていた手を下ろす。
「はぁ……」
誰も居なくなったことを確認し、遊飛は大きく息を吐き捨てる。
そして、先程まで元気にしていた表情から、一気に顔色が青紫へと変色していった。
「気持ち悪い……」
襲われる吐き気に遊飛は口元を手で覆いかぶせ、必死に押さえ込んだ。
気分が悪くなったのは、アースダマーを見た時からであった。
あの形、そしてあの声と言っていいか分からない音を聞いてから、遊飛の胸あたりからムカムカしかような気持ち悪さを感じたのだ。
「少し休んだら、気分も良くなるよな……」
近くにあるドラム缶に横たわろうと遊飛は歩くが、すぐに視界がグラッと揺れ動く。
「あっ……」
その原因で身体が傾き、足もうまく力が入らないまま地面へと一直線へと倒れかけた。
すぐに来るだろう衝撃に、遊飛は目を瞑っていたが、いつまで経っても痛みが来なかった。
むしろ、身体が傾いたまま誰かの手が支えてくれていることに気がつく。
肩から感じる大きな手。遊飛はうっすらと瞼を上げ、まだ視界がぼやけており相手の顔がよく見えなかった。
(もしかして、ユウディアスが戻ってきちゃったのかな……)
まずい所を見せちゃったな。っと思いながら、遊飛は遊歩にも怒られると考えていたが、まわりは特にザワつくような声は聞こえなかった。
むしろ、いつもならユウディアスが大声で声を掛けてくるはずなのに、それもすらもない。
無口になるほど怒らせてしまったのかと、遊飛は吐き気を押さえ込みながら唇を震わせながら声を出す。
「ゆう……でぃあす?」
か細い声で名前を呼んでみると、肩に触れている指がピクッの動いた。
反応を返すということは、ユウディアスなのかと遊飛はそう思っていると、上から溜息つくような音が聞こえた。
「……アースダマーと共鳴している原因ですね」
ユウディアスではない声に、遊飛は驚きを隠せられなかった。
間違えた恥ずかしさと、誰に助けられたのか遊飛は離れて謝罪したかったが、何故か意識が酷く遠のいていきそうな感覚が襲い掛かる。
(え、なんで急に意識が……)
何かに引き寄せられ、遊飛はこのまま眠ってしまったらどうなるのかと思った。
暗い暗い闇の中、一生目覚めないのではないかという不安。
全身に何か巻きついてくるような、黒い何かに身動きが取れなくなっていく。
遊飛は誰かわからない相手に助けを求めようと声を発したいが、喉に何か引っ掛かってるかのように、うまく声を出せなかった。
(イヤだ……こわいよ……誰か、助けて……)
その思っている言葉すら、声として出せずに遊飛は一粒の涙をこぼす。
必死に助けを求めていると、急に身体がふわっと浮かび上がった。
身体に巻きついていた黒い物体が消えていき、楽になっていくのを感じる。
「意識をしっかり持つんです」
暗闇の中から聞こえる声に、遊飛はぴくっと耳を動かす。
「君が帰る場所を、君がその世界に留まる理由を考えてみてください」
さっきまでの恐怖心が嘘のように消えていき、遊飛は言われた通りに考える。
帰る場所を。みんなのことを。声を掛けてくれている相手のことを。
「そう。その調子です」
優しく導いてくれる声に、遊飛は自然と口角が上がって笑みを浮かべる。
嬉しい気持ちもだが、その声がとても愛おしく感じていたのだ。
早く戻らなければ。声の主の元へと。
そして、目の前が明るくなり、遊飛は暗い視界からの突然の光で一瞬瞼を閉じる。
「んっ……」
眩しかった光は徐々に消え、遊飛はゆっくり瞼をあげる。
少しボヤけてる視界の中、微かに見える綺麗な緑色。ボヤけていた視界もクリアになり、その緑色の正体がテルということに遊飛は気がついた。
「気分はどうですか?王道遊飛」
「ビジョガッパ……?」
至近距離で見下ろしているテルの顔に、つい遊飛は「わっ!」と驚きの声を上げてしまう。
そうなっても致し方なかった。お互いの鼻先が触れ合うのでわないかと思うくらい、彼の顔が近くあったのだから。
(近い!近い!なんでそんなに近くにあるんだよ!というか、やっぱり綺麗だな……って違う!というか、なんでビジョガッパがここに!?ってかなんで俺、抱き締められてるの!?)
横抱きにされていることに気がついた遊飛は、頬が熱くなっていくのを感じた。
男が男に抱き抱えられている恥ずかしさもあるが、テルの顔が近くにあることに何故か照れる気持ちが湧き出ているのだ。
遊飛が起きた事を確認したテルは、顔を離していきまわりを見渡していく。
(あっ……)
離れたテルの顔に、遊飛は名残惜しさを感じた。
先程までは恥ずかしかったのに、今は離れていった寂しさの方が強く出ている。
(どうして、寂しく思ってるんだろ)
遊歩やユウディアス、バリベルギャーやUTSの仲間なら納得する。
それなのに、まだ出会ってそこまで長く一緒いた相手ではないのに、どうして寂しく感じたのか。
「あの二人はどうしたんです」
「っ!先に帰ってもらった……」
「なぜ?」
「……二人の前で倒れる訳にはいかないって、なんかそう思ったんだよ」
「なるほど」
短調に返すテルに、遊飛は軽く彼の腕を叩く。
下ろして欲しいという合図を送ると、伝わったのかテルはゆっくり地面へと遊飛を下ろしてくれた。
地面に足をつけ、立ち上がった遊飛は顔を上げるとテルの目が合った。
「あまり、無理はしないでください。私が偶然、戻ってきたからよかったものを」
「それは、ごめんなさい……」
心配した。と言いたげな眼差しを受け、遊飛は申し訳ない気持ちになり謝罪した。
そして、遊飛はじっとテルを見つめながら内心思う。
(実は良い奴なのか……?)
最初はヤバい奴と遊飛の中でそう思っていたが、こうして助けてくれたり介抱してくれた事に警戒心が薄れていた。
ちゃんとお礼を言おうと、遊飛が口を開きかけた時、先にテルが話し掛けた。
「できれば、あのベルギャー星人の傍に居てほしいんですが」
そう言うテルに遊飛は内心ムッとした。
それが顔にも出ていたのか、テルが軽く首を傾げ眉間にシワを寄せている。
「なんですか、その表情は」
「星人名で呼ぶなよ。ちゃんと「ユウディアス」っていう名前があるんだからさ」
あまり星人名で呼び合う事が、遊飛は好きではなかった。まるで差別化されているかのように感じ、遊飛にとっては、みんな同じ生きてるヒトだと思っていたからだ。
遊飛がそう言うと、少しだけテルの瞳が揺れ動いていることに気がつく。
「そうでしたね」
あっさりとした言葉で返すテルに、遊飛は先程の瞳は気のせいだったのかと悩んだ。
だが、その前にテルが言っていた話題へ戻すべきだと考え、問い掛けようと口を開く。
「それで、なんでユウディアスの傍に居てほしいんだよ?」
「君を守れるのが、彼くらいかと思っただけです」
テルの回答を聞き、ますます意味がわからなくなった遊飛。
「はぁ?」と本当に意味がわからないと言いたげな仕草をし、遊飛は呆れた表情をしながら両腕を組んで首を傾げた。
「俺を守るって……別に俺、狙われることなんてしてないけど?」
「君はまだ知らないだけなんだ」
知らないっとは、どういうことなのだろうか。
宇宙人の方では指名手配される程、自分は何か仕出かしたのか等、遊飛は色々と考え込んでしまう。
確かにテルを見るける為に、色々と宇宙人問題を引き受け、仕事としてやってきた。
(でも、指名手配されるほどの迷惑行為はしてないと……思いたいっ!)
自分がそうであっても、相手はそうじゃない可能性もある。そう考えれば考えるほど、遊飛は思い悩んで唸り続けた。
眉間に皺を寄せ、「むむむ……」と唸っていると、いつの間にかテルの手が遊飛の髪の毛に触れていた。
それに気がついた遊飛は顔を上げると、目を細め優しい笑みを向けているようなテルと目が合う。
「王道遊飛、私の探求心を満たしてくれる存在よ。そして、私の花嫁」
「は、花嫁っ!?」
突然そんなことを言われ、遊飛は上擦った声を上げた。
そして、何歩か後ろへと下がった後にテルへ向けて指を指す。
「お、お前!そっちの趣味があったのか!?」
「別に宇宙人は性別とかは、あまり気にしないですからね」
「へ、へ~そうなんだ……」
意外な情報を聞き、遊飛は口端を引き攣らせていた。別に同性愛とかは遊飛は気にしていない。
ただ、突然の告白のようなことを受けた方の驚きが強かったのだ。
(付き合ってないのに、いきなり花嫁とかいう奴があるかよっ!て、なんで俺いま付き合ってからが普通だとか思ってんの!?)
まるで、告白は受けるような感じに遊飛はますます意味がわからず、脳内はテンパっていた。
このままじゃよくないと判断し、遊飛はキッと強気な眼差しでテルを睨みつける。
「でも、俺はお前の花嫁になるつもりはないから!」
そうはっきり断る言葉を伝えると同時に、テルの全身がずぶ濡れ状態へとなっていく。
頭のてっぺんからバケツ一杯分の水をかけられたかの様であり、遊飛はつい「ひっ!」と驚いた声を上げながらまた一歩後ろへと下がった。
「なんで、びっちょびちょになるんだよ!」
「乾いたから」
「意味わかんねぇ~!」
告白を断られたのがショックだったのか、それとも別の意味があったのか。遊飛はどんなに考えても、テルの考えには理解できずにいた。
むしろ、このまま再度告白されては困ると思い、遊飛は大事なことなので同じことを伝えようと口を開く。
「とにかく!何度も言うけど、俺はお前の花嫁とか、そんなんになるつもりねーから!」
「いえ、もう君は私の花嫁だというのは決まっているので」
「なんでだよ!」
確定事項だと言うかのように伝えるテルに、遊飛はついツッコミを入れてしまった。
これでは埒が明かないと、遊飛は逃げるが勝ちだと思い、テルを睨んだまま後ろへと下がっていきタイミング計っていく。
(いまだっ!)
隙を狙って遊飛は駆け出し、テルから逃げようとしたがある事を思い出し、一旦足を止めてテルの方へと振り返る。
テルの方も急に足が止まった遊飛に「えっ?」と言いたげな表情をしていた。
そんなテルのことを置いといて、遊飛は少し息を吸って吐き出すように声を発する。
「でも助けてくれたことは、お礼言うな!ありがとう!」
そう、遊飛が足を止めた理由は、テルにお礼を言っていなかったからだ。
言えたことに満足し、遊飛はそのまま逃げるようにテルから離れていった。
その時、彼は知らない。テルの口元が笑みを浮かべながら、「変わってないな。君は」と呟いていたことを。
つづく…?
2023/05/05
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