〈了遊:年齢操作設定〉成人したよ
大きな会場の出入口から、ぞろぞろと二十代の男女が出てくる。それぞれスーツ姿の人も居れば、羽衣姿や振袖姿も居る。
その中から一緒に出てきたダークスーツ姿の遊作は眩しい日差しに目を細めた。空は綺麗な青空に晴れて、梅の枝にある蕾が開き始めかけているが、冷たい空気を感じながらまだ冬の名残が残っている。そんな景色を眺めていた遊作は、隣に並んでいるスリーピーススーツ姿の仁から腕を引かれた。
「遊作、兄さんが呼んでるよ!」
「あぁ、わかった」
仁に誘導されながら遊作も小走りでついて行き、その先には方手を振っている暗めな焦げ茶スーツを着ている草薙が立っていた。
「遊作、仁、成人おめでとう!」
近づて来る二人に草薙は、満面な笑顔で祝いの言葉を伝える。その言葉に仁は嬉しそうに笑い、遊作は少し照れ臭そうな仕草で視線を下へと向けた。
「ありがとう兄さん」
「草薙さん、ありがとう」
それぞれの反応を見ている草薙の瞳から、ポロッと涙がこぼれ始める。突然の事で遊作と仁は驚いている中、草薙は鼻をすすりながら号泣していく。
「こうしてお前達の成人姿が見れて……俺……俺ぇ……」
「ちょっと、泣くの早いよ兄さん!」
慌ててハンカチをポケットから取り出した仁は草薙へ手渡し、笑顔を向けて優しく背中を撫でている。自分達の成長を心から喜んでいる草薙の気持ちが伝わっている遊作は、くすぐったいと思いながら二人を眺めていると、背後から人の気配を感じた。
「藤木くん」
女性の声に、遊作は振り返る。そこに立っていたのは、ウェーブがかかっている栗色のセミロングに、薄水色から薄紫色のグラデーションになっている布に綺麗な百合の花柄が繊細に入れられ、薄ピンク色の帯を付けている同じ成人式を迎えた財前葵の姿があった。
だが遊作は無言のまま彼女を見つめる。少し首を傾げながら数秒見つめた後、やっと相手が誰なのか分かり、瞳が大きく動きハッとした表情へと変わる。
「財前か」
名前を呼ばれた葵はキョトンと瞬きした後、遊作の反応の意味が分かったのかクスッと笑う。
「相変わらず気がつくの遅いわね」
「……すまない」
「いいわよ。私も髪とか伸ばしたりしたから」
そう言いながら葵は毛先に触れる。会わないうちに伸ばしていた事に対して、遊作は時の流れの早さを感じていた。
そうしていると、弄っていた毛先から手を離した葵は微笑み、軽く首を傾げる。
「久しぶりね。最後に会ったのはいつだったかしら?」
「あぁ、リアルで会ったのは半年前だな」
「そんなに経っていたのね」
LINK VRAINSでは何度か会ったりはしているが、葵の卒論や就活でリアルで会うのは減り、連絡のやり取りだけは続けていた。そんなやり取りをしていると、パタパタと草履の足音と女性の声が聞こえてくる。
「葵ちゃん、こんな所に居たんだ……って、藤木くん!久しぶりね!」
明るい声で掛けてきた彼女の姿は白の布に色とりどりの花が散りばめられており、黒の帯には金色の刺繍が綺麗に輝いている。
葵と共に来ているという事は、相手が誰なのかは遊作もすぐに理解する。
「杉咲も一緒だったのか」
「えぇ、行こうって美優ちゃんと約束してたの」
「そうなの!藤木くんは草薙くんと一緒に?」
「あぁ」
そう返答した遊作は草薙と仁の方に声を掛ける。仁は二人の姿を見てパァ!と明るい表情へと変わり、遊作達の元へと近寄る。
「財前さん!杉咲さん!わー!久しぶりだね!」
両手広げながら挨拶する仁に挨拶を交わしあっていると、草薙も葵と美優の姿を眺め、ニコッと笑顔を向けた。
「葵ちゃんもちゃんも成人おめでとう。振袖姿、すごく似合っているよ」
「草薙さん、ありがとうございます」
「今度、ホットドッグ食べに行きますね!」
それぞれのお礼を笑顔で受け取った草薙は、ふと何かに気がつき周りを見渡し始める。誰かを探しているのか、そんな草薙を眺める遊作と仁は不思議に思っていると、草薙は葵に向けて問い掛ける。
「そういえば、葵ちゃんのお兄さんは?」
「お兄様は今、挨拶回りをしているんです」
「そうなんだね」
「それに、今日一番楽しみにしていたのはお兄様なので、すぐに戻ってくるかと思います」
「あ〜、同じ兄としてその気持ち凄くわかる」
しみじみしながら草薙は頷き、またホロリと涙を流し始める。仁は「も〜兄さんったら」と慰め始め、そんな光景を優しく眺めてる葵と美優に遊作は目を細める。
「いいな、家族というのは」
「あら、藤木くんにも沢山いるでしょ」
微笑みながら言う葵に、遊作は草薙と仁の方へと視線を向ける。こうして自分の成長を祝い、喜んでくれる存在がいる事に嬉しさを感じ優しい眼差しで口角を少し上げる。
「そうだな」
そんな遊作の表情を見つめている葵の表情も嬉しそうにしていると、ピロンッ!と遊作のズボンから通知音が鳴る。遊作はポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージの内容を確認する。
少し目を細め、笑みを浮かべるかの様な眼差しでいる遊作に、葵はメールの相手が誰なのかを悟り問い掛ける。
「Aiから?」
「そうだな。行く時に写真撮って来てほしいと言ってたから、忘れてないかの連絡だ」
写真を撮るとして、どうするべきか遊作は顎の下に指を当てて考える。一人で撮ってもいいが、Aiはきっと「いくらなんでもそりゃないだろ!」と言われる可能性もあった。
悩んでいる遊作を見つめていた葵は、カバンからスマートフォンを取り出してニコッと笑顔を向ける。
「エマさんにも写真を送るから、良かったら一緒にどう?」
「いいね!尊にも写真送る予定だし!」
仁は賛成の声を出しながら手を挙げてスマートフォンを取り出すと、そこから通知音が響く。画面には「尊」という名前が載っている。
「噂をすれば尊からだ」
そう言い、メッセージを開くと画面には姿の尊と姿のが仲良く並んでいる。画像を見た仁は目を輝かせており、草薙は「いいね」と呟き、葵と美優は「お〜」と言いたそうな眼差しでいた。
赤から黒へとグラデーションが掛かり、桜の花びらが舞っている羽織、黒の着物にグレーの袴を身につけオールバックの髪型で満面な笑みでピースしている尊と、綺麗な椿の刺繍に黒の振袖、金色の帯に羽根ショールを肩に掛けている上白河綺久の姿があった。
「凄い羽衣!尊、カッコイイ!」
「きっと尊のおじいさん達も気合い入れたんだろうな」
「綺久ちゃんも可愛いわね」
遊作も尊と綺久の画像を眺め、元気でいる姿に嬉しく感じた。尊ともリアルではあまり会っておらず、顔つきがさらに大人へとなっている。
きっと直接会った時も同じことを思うに違いないと考えていると、仁はスマートフォンを少し握り締めて呟く。
「また会いたいな」
仁の何気ない一言に、なにか思いついたのか葵は両手を叩いて言葉を発する。
「なら、同窓会するのはどうかしら?」
「いいわね!」
美優も賛成し、気がつけば仁、葵、美優の三人で同窓会のプランを話し始めた。
「鬼塚さんも呼ぶのもいいかもね!」
「きっと彼なら予定を合わせてくれるわ。あとはエマさんにお願いして道順さんを呼んでもらうのも手の一つね」
「あとは日程よね。何日がいいかしら?」
すっかり話が弾んでる三人に、残された遊作と草薙は肩を竦めながら微笑ましく見守っている。そして、遊作は脳裏に何人かの人物を思い浮かべ、小さな声でボソッと呟く。
「同窓会か……」
「遊作?」
聞き取れなかった草薙は遊作の名前を呼ぶと、遊作は軽く首を横に振り目を瞑る。
「いや、了見達も呼べたらなっと」
元敵同士だったとしても、今は同じ為に動いている同志でもある。それに、スペクターも成人を迎えたのだからこそ、一応祝いの言葉を伝えたいとも思っている。
ただ、相手側はどうなのだろうか。と、遊作は思い悩んでいたら、草薙が優しく遊作の肩に手を置いた。
「誘ってみたらどうだ。彼らも喜ぶと思うぞ」
「だといいんだが」
そう思っていると、スマートフォンから再び通知音が鳴る。またAiから連絡なのだろうかと、遊作は画面を見た瞬間、瞳が大きく見開く。
「っ!」
すぐにメッセージを開き、内容を黙って読むように視線を動かす。読んでいくうちに遊作の表情は明るくなっていき、軽く頷いて草薙へ声を掛ける。
「すまない。電話してもいいか」
「わかった。ここで待っているよ」
軽く手を振って見送る草薙に軽くお辞儀し、遊作は人混みの少ない場所へと移動する。足の動きが無意識に早くなっている事も気がつかず、遊作はスマートフォンからAiの連絡先を表示し、通話ボタンを押した。
数秒コール音が受話器から出ていると、Aiの声が聞こえ始める。
『どうしたん?遊作』
「悪いが帰り遅くなる」
即完結系な言葉で伝える遊作。なぜ遅くなるかの理由を伝えてなければ、聞いた相手側にとっては不思議に思うだろう。
だが、長い付き合いしているAiは遊作の伝えたい事を理解しているのだろう。『ふーん』と、ニヤニヤと笑っていそうな声を出している。
『当ててやろうか?リボルバー先生だろ』
Aiの言葉にピクッと指先が動き、少し眉間に皺を寄せる。言い当てられた事、タイミングがあまりにも合いすぎている事に、遊作は低い声で問い掛ける。
「俺のスマホをジャックしたか」
遊作の質問の後、受話器からはAiの大笑いが大音量で耳にダイレクトアタックされる。
突然の笑い声に遊作は少しスマートフォンを耳から離したが、キーンッ!と耳の中が響いていた。数秒笑い声が続いた後、落ち着いたのかAiは「ひーひー」と言いながら一呼吸し、理由を説明し始める。
『そんな事しなくたって声色で分かるし。だって遊作、顔が見なくてもわかるくらい嬉しそうだからな』
「……そうか」
電話越しでもバレるほど、自分の感情が表に出ていた事に対し、遊作は自身の頬に触れて小っ恥ずかしく感じる。そう思っていると『遊作?』とAiに声を掛けられ、我に返って返事をする。
「なんだ」
『22時になったら迎えに行くから』
「一人で帰れる」
『泊まりになったら困るし』
「何故、泊まり前提の話をしてるんだ」
『だってリボルバー先生から呼び出しだろ!そりゃお泊まりとかさせる気満々じゃん!成人して早々に大人の階段登らせたくありませーん!』
とんでもない爆弾発言するAiに、意味を理解した遊作は顔が熱くなる。その熱は全身へと駆け巡り、身体が震えていたが深呼吸して気持ちを落ち着かせた遊作は溜息混じりな息を吐き捨てた。
「誰がするか。そもそも、俺達は付き合ってない」
『え、付き合ってなかったの!?1年くらい前に遊作が告白したのに!?』
Aiの言葉に遊作は目を細める。確かに遊作は1年前、了見にずっと想っていた気持ちを伝えた。
そう、伝えただけであり、了見から答えを聞いていない。
別に答えがなくても遊作は良かった。自分の気持ちを伝えるだけで、それからは特に変わらずの日々を過ごしていた。
了見の態度も変わることなく、普通に接してくれることに対しも、遊作は気にしていなかった。
意外な答えを知ったAiはどう思ったのか、信じられない声を漏らしながら話し始める。
『うそ〜、リボルバー先生とあんなに距離近く話したり、ほぼ毎日連絡取り合ってるのに?』
「連絡取り合ってる内容はAIとネット関連についてだ」
そう返してやると、Aiの声はしなくなり、まわりの人々の声が遊作の耳に入ってくる。無音は数秒続き、遊作は要件は伝えたから通話を切ろうとした時、やっとAiが声を漏らした。
『なぁ、遊作』
「なんだ」
『やっぱり行くのダメ。俺が許さない』
Aiの声は本気である事は十分伝わる。遊作は何か言おうと少し口を開けた後、言ってもなかなか聞かないだろうと判断し、通話を切る事に決めた。
「悪い。草薙さんに呼ばれたから切るな」
『ちょっ!遊作!嘘おっしゃい!俺、絶対に邪魔するからな!今すぐ迎えに行くからそこで待ってなさい!』
叫び続けるAiを無視し、遊作は通話を切った。軽く息を吐き捨て、顔を上げて青空の光景を眺めながら呟く。
「とりあえず、逃げるか」
面倒な事には巻き込まれたくない気持ちが勝った遊作は、とりあえず草薙達に事情を話に行こうと彼らの元へと戻っていくのであった。
◇ ◇ ◇
草薙達と別れ、遊作は一人で夜道を歩いていた。もちろん、スマートフォンの電源は落としている。だが、電源を落としてしていたりしても、結局は居場所はバレているのは分かっているが、こうして未だに来ていないという事は、Aiも理解して貰えているのだろうと判断している。
いつもの帰り道とは別の人気のない坂道を登り、柵の方からは小波の音が聞こえてくる。途中の休憩所でもある広場に着いた遊作はベンチに座り、ぐっと足を伸ばし、ある言葉が頭の中で思い浮かぶ。
今日はとてもいい気分だ。
この言葉が今日一番当てはまると、紺色のコートを身につけ、ダークスーツのズボンとローファーを眺め、白い息を吐きながら遊作は思っていた。
自身の吐息で白かった空気は溶けるように消え、まだ冬の空気と潮の香りを感じながら、星々の光を反射しているスターダストを眺める。
波の音と合わせて冷たい風が吹き込まれ、ピンク色の前髪と青色の髪が交差に揺れ動く。頬から感じる風の冷たさが心地よく感じ、ゆっくり目を細める。
「その格好で寒くないのか」
背後から聞こえる声に、遊作の心臓がとくんっと鳴り響く。
近づいてくる足音。遊作はその音を聞きながら静かに座って待っていると、横から一本の缶コーヒーが覗き込んでくる。
遊作は手渡してきた相手、了見へと視線を向ける。紅色のマフラーに、ブラウン色のコートを身に付けている。外に出てかなり時間が経っているのか、了見の鼻先が少し赤くなっている。
そんな彼の姿を眺めた後、遊作は缶コーヒーを受け取った。指先からじんわりと温かさを感じ、握り締めながらお礼を伝える。
「ありがとう」
「礼を言うならスペクターに伝えるんだ」
そう言い、了見は遊作の隣に座って缶コーヒーを開ける。
缶コーヒーの差し入れはスペクターだと知った遊作は、大体イメージが浮かび上がり了見に問い掛ける。
「寒い時間に了見を外に出すなと、言っていただろ?」
「わかっているじゃないか」
笑みを浮かべ、缶コーヒーに口付ける了見を見つめる。当たっていた事に遊作は軽く笑い、缶コーヒーを開けると飲み口から白い湯気がコーヒーの香りを乗せて漂わせた。
くいっとコーヒーを飲み込み、口内から喉へと暖かくなっていくのを感じる。ほぉっと息を吐き、遊作は気持ちが落ち着いていくのを感じていると、了見が声を掛けてきた。
「成人か」
「あぁ、俺も二十歳になった」
そう返答し、また一口コーヒーを遊作は飲み込む。そして、はぁっと白い息を吐いた後、了見の目を合わせて見つめる。
最後にリアルで会ったのは二年くらい前であり、告白した時はお互いアバターの姿の時だ。了見の顔つきはさらに綺麗になっていて、声も前よりかは低くなっており耳に残るくらいハスキーボイスになっている事に、遊作は息を飲んだ後に言葉を発する。
「二十歳になったんだ、了見」
もう一度、似たような言葉を伝える。自分が大人になった事。心も身体も成長しているという事。その全てを伝えるかの様に言葉を発し、了見の反応を伺う。
静かな空気の中、小波の音だけが聞こえてくる。そうしていると、了見は缶コーヒーを握り締めて目を細めていた。
「そうだな。ならば、私も答えなければならない」
「答え?」
「この前の返事だ」
その単語に遊作はピクッと反応する。「この前の返事」というは、告白したあの時の事を指しているのだろう。
何故、今になってその話題を出してきたのか。遊作は疑問を抱きながら了見を見つめた。
「今更、掘り返すのか」
「掘り返す?私は前に言ったはずだが」
どういう意味なのか、遊作は理解出来ない。そう思っていると了見が近づき、自身の手を遊作の手の甲へと乗せられる。
了見の手のひらから感じる体温。了見の指先は遊作の指の間へと差し込んでいき、持ち上げられて絡ませる様に手を握ってきた。
「りょうけ……「遊作、君が二十歳になった時、君の気持ちが変わってなければ、私は手放すつもりはないと」
「……それはいつ言った事だ?」
本当に身に覚えがない事に、遊作は眉間に皺を寄せて質問を投げた。了見も了見で「どういう事だ?」と言いたげな表情をしており、ますます遊作は疑問が渦巻いていく。
「遊作が告白した後、私はメッセージを送ったのだが」
「そのメッセージは見た事ないな」
「そんなはずは……っ!」
了見は慌ててスマートフォンを取り出し、過去の連絡を取りあっている履歴を調べ始める。遊作も念の為、確認して見ていくと、「あっ」と了見が何かに気がついた声が漏れていた。
遊作は了見へ視線を向けると、冷や汗をかきながら顔色が真っ白になっている。寒さで顔色が悪くなっている訳ではなさそうであり、遊作は軽く首を傾げながら声を掛ける。
「了見?」
「送信エラーが出ている」
「つまり、俺に届いてないのは当たり前だな」
了見にしてはとても珍しいミスであり、遊作は軽く息を吐き捨てる。
「どうして気がつかなかったんだ」
「緊張していたんだ……このメッセージを送った時、どのような反応を返されるのか」
「だとしても、ちゃんと相手に届いているかは確認しなければダメだろう」
「ごもっともです」
敬語で返事をし、よほど恥ずかしいと思っているのか俯いている了見の姿に遊作は内心クスッと笑う。いつも完璧にしている了見が、自分の事で気にしてくれた事でミスをしたという事に可愛らしさを感じたのだ。
「了見。俺は何年経っても気持ちは変わるつもりはない。俺はずっと了見の事が好きだ」
「遊作」
改めてもう一度、遊作は了見に向けて告白をする。握られている手に力を入れ、今度は遊作が覗き込むそうに了見の顔に自身の顔を近づかせて見つめた。
互いの鼻先が当たりそうなくらいの至近距離に、了見の瞳が揺れ動いているのが見える。
「私は基本、表に出ないし会えるとしてもLINKVRAINSが中心になるんだぞ」
「俺は別に構わない」
「私が言うのもだが、遊作を一生手放さないつもりだ。別れたいと言っても、私は拒否するし囲う可能性もある」
「問題ない。俺ももう二十歳だ。自分の言った言葉は責任を持つ」
そう言い顔をさらに近づかせ、唇同士が重なりかける寸前で止め、遊作は息を吹掛けるかの様に唇を動かす。
「だから了見、答えを教えてくれないか?」
舐めるように視線を送ると、了見の瞳が変わった。狩りをする獣の様な強い眼差しに、遊作の背筋が痺れ渡って口角が上がる。
「どこで知ったんだ。そんな煽り方」
「さぁな」
そう返すと、唇から柔らかい感触がする。一瞬で触れて離した後、もう一度唇を重ね合わせ互いの熱を分けていく。
遊作は目を瞑り、了見の熱を感じ取りながら指に力が入る。それを応える様に了見の指が動き握り返される。
絶対に手放さない。と言われてるかの様であり、その告白を受け取った遊作は心が満たされていくのを感じたのだった。
END
2025/01/13
その中から一緒に出てきたダークスーツ姿の遊作は眩しい日差しに目を細めた。空は綺麗な青空に晴れて、梅の枝にある蕾が開き始めかけているが、冷たい空気を感じながらまだ冬の名残が残っている。そんな景色を眺めていた遊作は、隣に並んでいるスリーピーススーツ姿の仁から腕を引かれた。
「遊作、兄さんが呼んでるよ!」
「あぁ、わかった」
仁に誘導されながら遊作も小走りでついて行き、その先には方手を振っている暗めな焦げ茶スーツを着ている草薙が立っていた。
「遊作、仁、成人おめでとう!」
近づて来る二人に草薙は、満面な笑顔で祝いの言葉を伝える。その言葉に仁は嬉しそうに笑い、遊作は少し照れ臭そうな仕草で視線を下へと向けた。
「ありがとう兄さん」
「草薙さん、ありがとう」
それぞれの反応を見ている草薙の瞳から、ポロッと涙がこぼれ始める。突然の事で遊作と仁は驚いている中、草薙は鼻をすすりながら号泣していく。
「こうしてお前達の成人姿が見れて……俺……俺ぇ……」
「ちょっと、泣くの早いよ兄さん!」
慌ててハンカチをポケットから取り出した仁は草薙へ手渡し、笑顔を向けて優しく背中を撫でている。自分達の成長を心から喜んでいる草薙の気持ちが伝わっている遊作は、くすぐったいと思いながら二人を眺めていると、背後から人の気配を感じた。
「藤木くん」
女性の声に、遊作は振り返る。そこに立っていたのは、ウェーブがかかっている栗色のセミロングに、薄水色から薄紫色のグラデーションになっている布に綺麗な百合の花柄が繊細に入れられ、薄ピンク色の帯を付けている同じ成人式を迎えた財前葵の姿があった。
だが遊作は無言のまま彼女を見つめる。少し首を傾げながら数秒見つめた後、やっと相手が誰なのか分かり、瞳が大きく動きハッとした表情へと変わる。
「財前か」
名前を呼ばれた葵はキョトンと瞬きした後、遊作の反応の意味が分かったのかクスッと笑う。
「相変わらず気がつくの遅いわね」
「……すまない」
「いいわよ。私も髪とか伸ばしたりしたから」
そう言いながら葵は毛先に触れる。会わないうちに伸ばしていた事に対して、遊作は時の流れの早さを感じていた。
そうしていると、弄っていた毛先から手を離した葵は微笑み、軽く首を傾げる。
「久しぶりね。最後に会ったのはいつだったかしら?」
「あぁ、リアルで会ったのは半年前だな」
「そんなに経っていたのね」
LINK VRAINSでは何度か会ったりはしているが、葵の卒論や就活でリアルで会うのは減り、連絡のやり取りだけは続けていた。そんなやり取りをしていると、パタパタと草履の足音と女性の声が聞こえてくる。
「葵ちゃん、こんな所に居たんだ……って、藤木くん!久しぶりね!」
明るい声で掛けてきた彼女の姿は白の布に色とりどりの花が散りばめられており、黒の帯には金色の刺繍が綺麗に輝いている。
葵と共に来ているという事は、相手が誰なのかは遊作もすぐに理解する。
「杉咲も一緒だったのか」
「えぇ、行こうって美優ちゃんと約束してたの」
「そうなの!藤木くんは草薙くんと一緒に?」
「あぁ」
そう返答した遊作は草薙と仁の方に声を掛ける。仁は二人の姿を見てパァ!と明るい表情へと変わり、遊作達の元へと近寄る。
「財前さん!杉咲さん!わー!久しぶりだね!」
両手広げながら挨拶する仁に挨拶を交わしあっていると、草薙も葵と美優の姿を眺め、ニコッと笑顔を向けた。
「葵ちゃんもちゃんも成人おめでとう。振袖姿、すごく似合っているよ」
「草薙さん、ありがとうございます」
「今度、ホットドッグ食べに行きますね!」
それぞれのお礼を笑顔で受け取った草薙は、ふと何かに気がつき周りを見渡し始める。誰かを探しているのか、そんな草薙を眺める遊作と仁は不思議に思っていると、草薙は葵に向けて問い掛ける。
「そういえば、葵ちゃんのお兄さんは?」
「お兄様は今、挨拶回りをしているんです」
「そうなんだね」
「それに、今日一番楽しみにしていたのはお兄様なので、すぐに戻ってくるかと思います」
「あ〜、同じ兄としてその気持ち凄くわかる」
しみじみしながら草薙は頷き、またホロリと涙を流し始める。仁は「も〜兄さんったら」と慰め始め、そんな光景を優しく眺めてる葵と美優に遊作は目を細める。
「いいな、家族というのは」
「あら、藤木くんにも沢山いるでしょ」
微笑みながら言う葵に、遊作は草薙と仁の方へと視線を向ける。こうして自分の成長を祝い、喜んでくれる存在がいる事に嬉しさを感じ優しい眼差しで口角を少し上げる。
「そうだな」
そんな遊作の表情を見つめている葵の表情も嬉しそうにしていると、ピロンッ!と遊作のズボンから通知音が鳴る。遊作はポケットからスマートフォンを取り出し、メッセージの内容を確認する。
少し目を細め、笑みを浮かべるかの様な眼差しでいる遊作に、葵はメールの相手が誰なのかを悟り問い掛ける。
「Aiから?」
「そうだな。行く時に写真撮って来てほしいと言ってたから、忘れてないかの連絡だ」
写真を撮るとして、どうするべきか遊作は顎の下に指を当てて考える。一人で撮ってもいいが、Aiはきっと「いくらなんでもそりゃないだろ!」と言われる可能性もあった。
悩んでいる遊作を見つめていた葵は、カバンからスマートフォンを取り出してニコッと笑顔を向ける。
「エマさんにも写真を送るから、良かったら一緒にどう?」
「いいね!尊にも写真送る予定だし!」
仁は賛成の声を出しながら手を挙げてスマートフォンを取り出すと、そこから通知音が響く。画面には「尊」という名前が載っている。
「噂をすれば尊からだ」
そう言い、メッセージを開くと画面には姿の尊と姿のが仲良く並んでいる。画像を見た仁は目を輝かせており、草薙は「いいね」と呟き、葵と美優は「お〜」と言いたそうな眼差しでいた。
赤から黒へとグラデーションが掛かり、桜の花びらが舞っている羽織、黒の着物にグレーの袴を身につけオールバックの髪型で満面な笑みでピースしている尊と、綺麗な椿の刺繍に黒の振袖、金色の帯に羽根ショールを肩に掛けている上白河綺久の姿があった。
「凄い羽衣!尊、カッコイイ!」
「きっと尊のおじいさん達も気合い入れたんだろうな」
「綺久ちゃんも可愛いわね」
遊作も尊と綺久の画像を眺め、元気でいる姿に嬉しく感じた。尊ともリアルではあまり会っておらず、顔つきがさらに大人へとなっている。
きっと直接会った時も同じことを思うに違いないと考えていると、仁はスマートフォンを少し握り締めて呟く。
「また会いたいな」
仁の何気ない一言に、なにか思いついたのか葵は両手を叩いて言葉を発する。
「なら、同窓会するのはどうかしら?」
「いいわね!」
美優も賛成し、気がつけば仁、葵、美優の三人で同窓会のプランを話し始めた。
「鬼塚さんも呼ぶのもいいかもね!」
「きっと彼なら予定を合わせてくれるわ。あとはエマさんにお願いして道順さんを呼んでもらうのも手の一つね」
「あとは日程よね。何日がいいかしら?」
すっかり話が弾んでる三人に、残された遊作と草薙は肩を竦めながら微笑ましく見守っている。そして、遊作は脳裏に何人かの人物を思い浮かべ、小さな声でボソッと呟く。
「同窓会か……」
「遊作?」
聞き取れなかった草薙は遊作の名前を呼ぶと、遊作は軽く首を横に振り目を瞑る。
「いや、了見達も呼べたらなっと」
元敵同士だったとしても、今は同じ為に動いている同志でもある。それに、スペクターも成人を迎えたのだからこそ、一応祝いの言葉を伝えたいとも思っている。
ただ、相手側はどうなのだろうか。と、遊作は思い悩んでいたら、草薙が優しく遊作の肩に手を置いた。
「誘ってみたらどうだ。彼らも喜ぶと思うぞ」
「だといいんだが」
そう思っていると、スマートフォンから再び通知音が鳴る。またAiから連絡なのだろうかと、遊作は画面を見た瞬間、瞳が大きく見開く。
「っ!」
すぐにメッセージを開き、内容を黙って読むように視線を動かす。読んでいくうちに遊作の表情は明るくなっていき、軽く頷いて草薙へ声を掛ける。
「すまない。電話してもいいか」
「わかった。ここで待っているよ」
軽く手を振って見送る草薙に軽くお辞儀し、遊作は人混みの少ない場所へと移動する。足の動きが無意識に早くなっている事も気がつかず、遊作はスマートフォンからAiの連絡先を表示し、通話ボタンを押した。
数秒コール音が受話器から出ていると、Aiの声が聞こえ始める。
『どうしたん?遊作』
「悪いが帰り遅くなる」
即完結系な言葉で伝える遊作。なぜ遅くなるかの理由を伝えてなければ、聞いた相手側にとっては不思議に思うだろう。
だが、長い付き合いしているAiは遊作の伝えたい事を理解しているのだろう。『ふーん』と、ニヤニヤと笑っていそうな声を出している。
『当ててやろうか?リボルバー先生だろ』
Aiの言葉にピクッと指先が動き、少し眉間に皺を寄せる。言い当てられた事、タイミングがあまりにも合いすぎている事に、遊作は低い声で問い掛ける。
「俺のスマホをジャックしたか」
遊作の質問の後、受話器からはAiの大笑いが大音量で耳にダイレクトアタックされる。
突然の笑い声に遊作は少しスマートフォンを耳から離したが、キーンッ!と耳の中が響いていた。数秒笑い声が続いた後、落ち着いたのかAiは「ひーひー」と言いながら一呼吸し、理由を説明し始める。
『そんな事しなくたって声色で分かるし。だって遊作、顔が見なくてもわかるくらい嬉しそうだからな』
「……そうか」
電話越しでもバレるほど、自分の感情が表に出ていた事に対し、遊作は自身の頬に触れて小っ恥ずかしく感じる。そう思っていると『遊作?』とAiに声を掛けられ、我に返って返事をする。
「なんだ」
『22時になったら迎えに行くから』
「一人で帰れる」
『泊まりになったら困るし』
「何故、泊まり前提の話をしてるんだ」
『だってリボルバー先生から呼び出しだろ!そりゃお泊まりとかさせる気満々じゃん!成人して早々に大人の階段登らせたくありませーん!』
とんでもない爆弾発言するAiに、意味を理解した遊作は顔が熱くなる。その熱は全身へと駆け巡り、身体が震えていたが深呼吸して気持ちを落ち着かせた遊作は溜息混じりな息を吐き捨てた。
「誰がするか。そもそも、俺達は付き合ってない」
『え、付き合ってなかったの!?1年くらい前に遊作が告白したのに!?』
Aiの言葉に遊作は目を細める。確かに遊作は1年前、了見にずっと想っていた気持ちを伝えた。
そう、伝えただけであり、了見から答えを聞いていない。
別に答えがなくても遊作は良かった。自分の気持ちを伝えるだけで、それからは特に変わらずの日々を過ごしていた。
了見の態度も変わることなく、普通に接してくれることに対しも、遊作は気にしていなかった。
意外な答えを知ったAiはどう思ったのか、信じられない声を漏らしながら話し始める。
『うそ〜、リボルバー先生とあんなに距離近く話したり、ほぼ毎日連絡取り合ってるのに?』
「連絡取り合ってる内容はAIとネット関連についてだ」
そう返してやると、Aiの声はしなくなり、まわりの人々の声が遊作の耳に入ってくる。無音は数秒続き、遊作は要件は伝えたから通話を切ろうとした時、やっとAiが声を漏らした。
『なぁ、遊作』
「なんだ」
『やっぱり行くのダメ。俺が許さない』
Aiの声は本気である事は十分伝わる。遊作は何か言おうと少し口を開けた後、言ってもなかなか聞かないだろうと判断し、通話を切る事に決めた。
「悪い。草薙さんに呼ばれたから切るな」
『ちょっ!遊作!嘘おっしゃい!俺、絶対に邪魔するからな!今すぐ迎えに行くからそこで待ってなさい!』
叫び続けるAiを無視し、遊作は通話を切った。軽く息を吐き捨て、顔を上げて青空の光景を眺めながら呟く。
「とりあえず、逃げるか」
面倒な事には巻き込まれたくない気持ちが勝った遊作は、とりあえず草薙達に事情を話に行こうと彼らの元へと戻っていくのであった。
◇ ◇ ◇
草薙達と別れ、遊作は一人で夜道を歩いていた。もちろん、スマートフォンの電源は落としている。だが、電源を落としてしていたりしても、結局は居場所はバレているのは分かっているが、こうして未だに来ていないという事は、Aiも理解して貰えているのだろうと判断している。
いつもの帰り道とは別の人気のない坂道を登り、柵の方からは小波の音が聞こえてくる。途中の休憩所でもある広場に着いた遊作はベンチに座り、ぐっと足を伸ばし、ある言葉が頭の中で思い浮かぶ。
今日はとてもいい気分だ。
この言葉が今日一番当てはまると、紺色のコートを身につけ、ダークスーツのズボンとローファーを眺め、白い息を吐きながら遊作は思っていた。
自身の吐息で白かった空気は溶けるように消え、まだ冬の空気と潮の香りを感じながら、星々の光を反射しているスターダストを眺める。
波の音と合わせて冷たい風が吹き込まれ、ピンク色の前髪と青色の髪が交差に揺れ動く。頬から感じる風の冷たさが心地よく感じ、ゆっくり目を細める。
「その格好で寒くないのか」
背後から聞こえる声に、遊作の心臓がとくんっと鳴り響く。
近づいてくる足音。遊作はその音を聞きながら静かに座って待っていると、横から一本の缶コーヒーが覗き込んでくる。
遊作は手渡してきた相手、了見へと視線を向ける。紅色のマフラーに、ブラウン色のコートを身に付けている。外に出てかなり時間が経っているのか、了見の鼻先が少し赤くなっている。
そんな彼の姿を眺めた後、遊作は缶コーヒーを受け取った。指先からじんわりと温かさを感じ、握り締めながらお礼を伝える。
「ありがとう」
「礼を言うならスペクターに伝えるんだ」
そう言い、了見は遊作の隣に座って缶コーヒーを開ける。
缶コーヒーの差し入れはスペクターだと知った遊作は、大体イメージが浮かび上がり了見に問い掛ける。
「寒い時間に了見を外に出すなと、言っていただろ?」
「わかっているじゃないか」
笑みを浮かべ、缶コーヒーに口付ける了見を見つめる。当たっていた事に遊作は軽く笑い、缶コーヒーを開けると飲み口から白い湯気がコーヒーの香りを乗せて漂わせた。
くいっとコーヒーを飲み込み、口内から喉へと暖かくなっていくのを感じる。ほぉっと息を吐き、遊作は気持ちが落ち着いていくのを感じていると、了見が声を掛けてきた。
「成人か」
「あぁ、俺も二十歳になった」
そう返答し、また一口コーヒーを遊作は飲み込む。そして、はぁっと白い息を吐いた後、了見の目を合わせて見つめる。
最後にリアルで会ったのは二年くらい前であり、告白した時はお互いアバターの姿の時だ。了見の顔つきはさらに綺麗になっていて、声も前よりかは低くなっており耳に残るくらいハスキーボイスになっている事に、遊作は息を飲んだ後に言葉を発する。
「二十歳になったんだ、了見」
もう一度、似たような言葉を伝える。自分が大人になった事。心も身体も成長しているという事。その全てを伝えるかの様に言葉を発し、了見の反応を伺う。
静かな空気の中、小波の音だけが聞こえてくる。そうしていると、了見は缶コーヒーを握り締めて目を細めていた。
「そうだな。ならば、私も答えなければならない」
「答え?」
「この前の返事だ」
その単語に遊作はピクッと反応する。「この前の返事」というは、告白したあの時の事を指しているのだろう。
何故、今になってその話題を出してきたのか。遊作は疑問を抱きながら了見を見つめた。
「今更、掘り返すのか」
「掘り返す?私は前に言ったはずだが」
どういう意味なのか、遊作は理解出来ない。そう思っていると了見が近づき、自身の手を遊作の手の甲へと乗せられる。
了見の手のひらから感じる体温。了見の指先は遊作の指の間へと差し込んでいき、持ち上げられて絡ませる様に手を握ってきた。
「りょうけ……「遊作、君が二十歳になった時、君の気持ちが変わってなければ、私は手放すつもりはないと」
「……それはいつ言った事だ?」
本当に身に覚えがない事に、遊作は眉間に皺を寄せて質問を投げた。了見も了見で「どういう事だ?」と言いたげな表情をしており、ますます遊作は疑問が渦巻いていく。
「遊作が告白した後、私はメッセージを送ったのだが」
「そのメッセージは見た事ないな」
「そんなはずは……っ!」
了見は慌ててスマートフォンを取り出し、過去の連絡を取りあっている履歴を調べ始める。遊作も念の為、確認して見ていくと、「あっ」と了見が何かに気がついた声が漏れていた。
遊作は了見へ視線を向けると、冷や汗をかきながら顔色が真っ白になっている。寒さで顔色が悪くなっている訳ではなさそうであり、遊作は軽く首を傾げながら声を掛ける。
「了見?」
「送信エラーが出ている」
「つまり、俺に届いてないのは当たり前だな」
了見にしてはとても珍しいミスであり、遊作は軽く息を吐き捨てる。
「どうして気がつかなかったんだ」
「緊張していたんだ……このメッセージを送った時、どのような反応を返されるのか」
「だとしても、ちゃんと相手に届いているかは確認しなければダメだろう」
「ごもっともです」
敬語で返事をし、よほど恥ずかしいと思っているのか俯いている了見の姿に遊作は内心クスッと笑う。いつも完璧にしている了見が、自分の事で気にしてくれた事でミスをしたという事に可愛らしさを感じたのだ。
「了見。俺は何年経っても気持ちは変わるつもりはない。俺はずっと了見の事が好きだ」
「遊作」
改めてもう一度、遊作は了見に向けて告白をする。握られている手に力を入れ、今度は遊作が覗き込むそうに了見の顔に自身の顔を近づかせて見つめた。
互いの鼻先が当たりそうなくらいの至近距離に、了見の瞳が揺れ動いているのが見える。
「私は基本、表に出ないし会えるとしてもLINKVRAINSが中心になるんだぞ」
「俺は別に構わない」
「私が言うのもだが、遊作を一生手放さないつもりだ。別れたいと言っても、私は拒否するし囲う可能性もある」
「問題ない。俺ももう二十歳だ。自分の言った言葉は責任を持つ」
そう言い顔をさらに近づかせ、唇同士が重なりかける寸前で止め、遊作は息を吹掛けるかの様に唇を動かす。
「だから了見、答えを教えてくれないか?」
舐めるように視線を送ると、了見の瞳が変わった。狩りをする獣の様な強い眼差しに、遊作の背筋が痺れ渡って口角が上がる。
「どこで知ったんだ。そんな煽り方」
「さぁな」
そう返すと、唇から柔らかい感触がする。一瞬で触れて離した後、もう一度唇を重ね合わせ互いの熱を分けていく。
遊作は目を瞑り、了見の熱を感じ取りながら指に力が入る。それを応える様に了見の指が動き握り返される。
絶対に手放さない。と言われてるかの様であり、その告白を受け取った遊作は心が満たされていくのを感じたのだった。
END
2025/01/13
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