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<テルゆひ> 惑星の懐古録

 いくつもの席に様々な種族が座りながら、中心に立っているある人物へと視線を向けている。その眼差しは敵対視もなく、皆穏やかな表情であり、沢山の視線を浴びていたユウディアスは両腕を広げて演説を始めた。

「いま、全ての惑星はアースダマーのエネルギーにより、豊かな環境へと整ったのである!」

 その言葉に各種族は頷く者も居れば、賛同する声を出す者も居た。会場内は活気溢れる声へと満たされ、ユウディアスは力強く拳を作り、天高く振り上げる。

「よって、全ての種族は争う理由もない!ソレガシらは、この時を持って終戦を宣言するのである!」

 パチパチと拍手の喝采が上がり、ユウディアスの表情は目を輝かせて強くうなづいていた。
 そんな光景を遠くから眺めていたズウィージョウも静かに拍手をし、まわりの人々の表情を見渡してみる。誰もが嬉しそうに笑いあっており、不満な者は居ない事が分かり、幸せである事が十分に伝わる。
 この形へと出来たのは、ユウディアスが真っ直ぐに対話を続けていった結果だ。そして、そのきっかけを作り、背中を押してくれた遊飛のおかげでもある。
 ズウィージョウはふっと細く笑った後、背を向けてその場から離れていく。コツコツとヒールの音が廊下へと響き渡らせ、ズウィージョウは一枚の報告書を懐から取り出す。
 これはユウディアスの演説が始まる前、部下から受け取ったものである。その内容を目に通し、全てを読み終えたのか目を細めて睨みつく。

「やはり、簡単にしっぽを掴ませないか」

 そう言い、報告書を握り締めるズウィージョウ。紙からミシッと本来そんな音が鳴らないのが聞こえ、ズウィージョウは我に返る。
 感情的になってしまった事に気が付き、怒りを沈める為に軽く呼吸をして精神を落ち着かせた。こうして目先の方へと気持ちが先走ってしまうのは良くない点でもある事を、自分自身へ言い聞かせていく。

「焦っては目の前にある事も気が付かなくなる」

 しわくちゃにしてしまった報告書を眺め、歩き進めていくズウィージョウは宇宙船を停めているルームへと入った。
 そこには宇宙船として巨大化しているバリベルギャーと、最後のメンテナンスとして確認しているユウディアスの姿がある。
 あの演説が終わった後、すぐにここへ駆け込んで来たのだろう。彼らしいと思いながらズウィージョウは近づき、声を掛けた。

「行くのか、ユウディアス」
「ズウィージョウ!ソレガシは地球へ戻るである!」

 目を輝かせながらそう言うユウディアス。その姿が輝かしく、その真っ直ぐで純粋な部分が、自分の心を動かすきっかけを与えてくれた遊飛と重なる。

(彼らが居なければ、ワレはきっと取り戻しをつかないところまで堕ちていたんだろう)

 ズウィージョウはそう思っていると、何も返事をしない事に首を傾げているユウディアス。その姿を見たズウィージョウは、軽く首輪を横に振った。

「ワレらの永き戦いも終戦を迎える事が出来た」
「遊飛のおかげで、全宇宙は救われたのだ!それを早く遊飛にも伝えたいのである!」
「そうか。ワレはここに残り、調査を続ける」

 その言葉を聞いたユウディアスは、ピクッと肩を揺らす。きっと一緒に来てくれると思っていたのだろうか。
 それは嬉しい限りだとズウィージョウはそう思いながら、残る理由を伝え様と話し始める。

「ベルギャー星人がなぜ戦争を始めたかを解明しない限り、この謎をそのままにする訳にはいかない」

 そう言いズウィージョウは、ユウディアスへ向けて手を差し出す。その手を見たユウディアスはすぐに手を繋いでくれて、ズウィージョウも握ってくれた手を握り締める。

「それが分かり次第、ワレも地球へ戻ろう」
「うむ!遊飛も喜ぶ!」

 軽く握手をした後、手を離したユウディアスは背後にいる同胞達の方へと振り返り両腕を広げて胸を張る。

「行こう!888万人の同胞達よ!」
「ユウディアス!ユウディアス!ユウディアス!」

 ユウディアスの掛け声に合わせて同胞達も声を上げ、バリベルギャーの中へと入っていく。最後にユウディアスが中へ入り、船長席に立ったと同時に画面へ向けて指差す。

「目指すは地球!六葉町である!」

 ユウディアスの宣言と共に、888万人の同胞達は歓声を上げそれぞれの役割作業を始めた。バリベルギャーのエンジンは稼働し、外へ向かって発進する。

「気をつけて行ってこい」

 飛び立っていくバリベルギャーを見送った後、ズウィージョウはへ向かい中へと入っていく。
 ピコピコと機械音が聞こえる中、ある通知画面が目に入った。その画面前へと立ったズウィージョウは指先でタップし、内容を確認する。
 読んでいくうちにズウィージョウの瞳は大きく見開いて驚いた表情をした後、すぐに口角を上げて笑みを浮かべた。

「そうか。ワレも更に動く理由が出来た」

 そう言いズウィージョウは画面から離れ歩き出す。その時のズウィージョウの表情は、水を得た魚の様ないや、獣が獲物を見つけた時のものであった。

 ◇ ◇ ◇

 目的地である地球へと辿り着き、長い時間に待ちに待っていたユウディアスは駆け出す。外に出れば遊飛と遊歩、UTSのメンバーがきっと出迎えてくれる。
 久しぶりに会うみんなに胸が高鳴り、早く会いたい気持ちも先走りしていき、出入口の光が見えた事にユウディアスは瞳を大きくして歓喜の声を上げる。

「ソレガシは再び舞い戻ったのである!」

 外に出て元気よく叫ぶユウディアスであったが、目の前に見えるのは緑が沢山ある森林ばかり。さらに空は暗く、夜に到着した事が目に見える。
 流石のユウディアスもここまで目的地からズレが出るとは思わなく、苦笑いしながら小さくなったバリベルギャーに元気つけようと声を掛けた。

「六葉町であるのは確かだ!歩けばUTS事務所に着くであろう!」

 そうポジティブに考え、ユウディアスは歩き出す。人の気配は無く、虫達のせせらぎが聞こえてくる。
 月の光が足りず薄暗いが、ユウディアスにとって戦場で慣れた部分もあり特に困らず、むしろこの後どうするか考える余裕もあった。

「遊飛と遊歩は元気であろうか?何か手土産を持ってくるべきであっただろうか?」

 「うーむ」と考えながら歩き続けていると、横からパキッと枝が折れる音が聞こえた。先程まで無かった人の気配を感じ取り、誰かが歩いているのかと、足を止めたユウディアスは聞こえた方へと視線を向ける。
 すると、一人の影がユウディアス達の所へと近づいてくる。暗すぎて相手の顔が見えず、ユウディアスは誰なのか見つめていると、月の光が入ってる場所へとその人影が入った。
 黒の軍服っぽい服装に紫色のショートヘアーの少年が、ユウディアスの前に立ち止まる。

「ユウディアス・ベルギャーとバリベルギャーだね」
「いかにも!」

 少年の問い掛けに、何も疑問を持たず素直に答えるユウディアス。そんな彼に「まさかあっさり白状するなんてね」と少年は小馬鹿にする様に笑い、ユウディアスへ向けて指刺した。

「危険種族として、捕縛させてもらうよ!」
「さすまた!さすまた!」

 少年の声と同時に草むらから黒服の人々が現れ、さすまたを持ってユウディアス達を囲ってくる。突然の事にユウディアスは何が起きたのか理解出来ず、少年の言っていた言葉に引っ掛かり否定の言葉を放つ。

「な、なんなのであるか!ソレガシらは危険種族ではない!」
「ベルギャー星人は戦闘特化型の種族だ。危険以外に何があるっていうんだい?」

 少年はそう言い、片手を上げて部下達に合図を送る。戦闘態勢に入る黒服の人達に、ユウディアスはどうにか免れる方法はないかと考える。だが、そんな考える時間は無いと言われるかの様にジリジリと近づいてくる。

「戦うしかないのか」

 ユウディアスは小さく呟き、ギリッと歯を食いしばった。その時、黒服たちの足元に黒いボールが何個か転がって来た。
 ユウディアスもそれに気が付き、何かと見ていると黒いボールから白い煙が瞬く間に吹き出し、まわりの視界を白くさせていく。

「今度はなんなのだ!」
「こっちだヨ!ユウディアス!」

 聞き覚えのある少女の声に、ユウディアスは聞こえた方角へと向かって走り出す。まわりは煙で見えなかったり、咳き込んでいてユウディアスを見つける事が出来ない中を走り抜けていき、煙から出てその先にいる遊歩と目が合った。
 久しぶりに会う遊歩に、ユウディアスは声を掛け様としたが、遊歩が人差し指を立てて自身の口へと当て、「しーっ!」と言われて声を出す事を止められてしまう。

「っ!」

 声を出してしまえば黒服の人達に居場所がバレてしまうと察したユウディアスは慌てて両手で口を塞ぎ、全力でうなづいて遊歩へ意志を伝える。
 それを確認した遊歩は手招きをして走り出し、ユウディアスもその後を急いで追った。少しずつ離れていき、それでも油断せず、出来る限りの距離を離していこうと遊歩とユウディアスの足は止まることはなかった。

 ◇ ◇ ◇

「ここまで離れれば大丈夫かナ」

 商店街の裏道に隠れた遊歩は後をつかれてない事を確認し、長く走り続けていたからか壁に寄り掛かり、大きく息を吸った。額から流れ落ちてくる汗を手で拭い、呼吸を繰り返していくうちに遊歩は落ち着いていく。
 そして寄り掛っていた壁から離れ、遊歩はユウディアスへ顔を合わせてニッコリと笑顔を向ける。

「久しぶりだネ、ユウディアス」
「遊歩、久しぶりである!こんなに大きくなって!」
「まぁ、二年も経ってれば私も成長するヨ」

 遊歩の姿はUTSの服装ではなく、赤色のスカートに黒の半袖タイプのシャツに赤のトップスを重ね着をしている。そして少しだけ身長が伸びている事に、ユウディアスは最後に会った時の身長を伝える仕草を見せる。
 いつも通りのユウディアスに対して遊歩は軽く笑う。

「ユウディアスは相変わらず元気だネ」
「ソレガシは元気そのものである!遊歩が成長してるなら、遊飛も変わっているのだろう!遊飛は何処にいるのであるか?」

 ユウディアスはワクワクしながら遊飛を探してみる。だが、どこを見渡してみても待ってみても、遊飛はなかなか姿を見せてくれない。もしかするとUTSに待っているのだろうか、ユウディアスはそう質問を投げようとした時、遊歩の表情が暗いものへと歪んでいることに気がつく。
 一体、彼女の中でなにかあったのか。まさか怪我をしていたのだろうか。ユウディアスは心配になり声を掛けようとしたら、遊歩はゆっくり口を開いた。

「遊飛は……居ないんだヨ」
「どういう意味であるか?」

 居ないというのは今この場に居ない意味なのかとユウディアスは思ったが、遊歩の言葉はそういう事ではないのだろう。深刻そうな表情である遊歩に緊張しながら返答を待っていると、遊歩の口が開いた。

「遊飛はMIKに永久保護扱いとして連れて行かれたんだヨ」
「なんだって!」
「ユウディアスも初めて地球に来た後、MIKの人間が来たの覚えてる?」
「うむ!確か迷惑異星人監視機構であったな!」
「さっきの人達もそうなノ」

 遊歩はユウディアスにこの二年間の出来事を説明する。まずは二年前、地球へ戻ってきた遊飛とテルを遊歩は嬉し涙で迎え入れていた。
 無事に帰ってきてくれたこと。アースダマーがどうなったかのこと。ユウディアスが終戦しにズウィージョウと共に故郷へ帰ったこと。そして、遊飛とテルが恋人同士になったこと。その時MIKが現れ、遊飛を保護という名の捕縛に動いたこと。
 一部の話を聞いていたユウディアスは疑問を抱き、軽く首を傾げて遊歩に問い掛ける。

「遊飛のアースダマーは全ての惑星へとエネルギーを回し、無くなっている事を知らないのか?」
「あの時、カッパくんも説明してたんだけど」
「だけど?」
「MIK総帥である竜宮フェイザーが聞く耳持たなくてネ」
「竜宮フェイザーとな?」

 知らない名前が出てきた事に、首をさらに傾げるユウディアス。総帥という事は位的には、上位に立つ存在だというのは分かる。
 それに気がついた遊歩は、竜宮フェイザーがどんな存在かを説明する。あの時、テルは遊飛の状態を話してもフェイザーはまるでテルの話を聞いてない状態で遊飛の前に立ち、着いてくるよう手を差し伸べてきた。

「その時、フェイザーは言ったんだヨ。「アースダマーの器だからこそ、また力が戻る可能性もある」って」

 その言葉に、当時のテルと遊歩は片隅に置いていた考察を突かれるとは思わなかった。確かに遊飛の代でアースダマーの力を全て使い切った後の例は少なく、遊飛の身に今後何が起こるのか想像は出来なかった。フェイザーの言う通り、もしかするとアースダマーの力が新たに生まれる可能性もあれば、今後もそれが起きないまま終わるかもしれない。

「その為の検査も含めているって言われてネ」
「では、検査して問題なければ!」
「検査しても、あっちの考えは変わらないんだヨ」
「そんなの!あちらの都合ではないか!」

 フェイザーの無理な言い分にユウディアスは怒り、遊歩に向けてつい叫んでしまう。その言葉を聞いた遊歩は「ユウディアスの気持ちわかるよ」と返しながら目を細め、遠くの景色を眺めながら話し続ける。

「もちろん私も怒ったけど、カッパくんの方が数倍に怒ってね」
「それはそうであるな」

 ユウディアスが現地に居なくても、テルの怒りは想像出来る。愛する者が連れ去られる。そして、遊飛を危険人種にした事が許せない事も。
 テルは遊飛を守る為に怒り、MIKと敵対視したのだろう。

「そこからラッシュデュエルになってネ……実はモンスターが実体化したんだヨ」
「実体化しただと?」
「アースダマーのエネルギーが無ければ出来ないはずなのにだヨ」
「もしや、ズウィージョウの様にアースダマーの残り汁を使った可能性もあるのではないか?」

 「それもあると思う」と遊歩は言いながら腕を組み、考え込む仕草をする。あの時の出来事で何か疑問を抱いてる様であり、そんな遊歩を見つめるユウディアス。

「初めて彼を見た時、まるで遊飛をずっと探していたかのような雰囲気だったんだよネ」
「つまり遊飛と知人という事なのだろうか?」
「いや、そんな感じじゃないんだヨ」

 フェイザーの瞳から感じる何か慈愛満ちたもの。遊飛にだけ向けるソレが何の意味を示しているのか、二年間考えていたが、遊歩もその答えを導き出せない状態なのだろう。

「これ以上、カッパくんを怪我させない為に遊飛はフェイザーの元へ」
「そうであったのか……合羽井は?」
「彼は表に出られない状態だヨ」
「もしや、動けないほどの大怪我を!?」
「ううん。違うノ」

 首を横に振りながら返答する遊歩に、どういう意味なのか理解出来ず、ユウディアスは首を傾げる。それに気がついた遊歩は、ある壁へと指差した。その先に何があるのか、ユウディアスは視線を向けると一枚の張り紙がある。
 その紙に書かれてる内容、載せられている人物がテルである事にユウディアスの表情は驚きへと変わっていく。

「いま、彼は指名手配されてるんだヨ」
「なんだって!」
「彼だけすぐに危険宇宙人として決められてネ。UTSが匿ってるんじゃないかって容疑をかけられてさ」

 遊飛が去った後。遊歩はテルを手当し、怪我が治るまで面倒を見ようとしていた。だが、翌朝にはテルが寝ていた布団の中はもの抜けになっており、目覚めて直ぐに遊飛を探しに出ていったのだと理解した。
 その同時にMIKが押し寄せ、テルの逮捕状を見せられた時は遊歩らは異議を唱えたが、話を聞いてくれないまま「変に庇うと、どうなるか分かっているの?」と言われてしまい、遊歩は何も出来なくされてしまった。

「まぁ、あんなにも目立っちゃったから、おかげで依頼件数が減っちゃったヨ」

 「でも、私は後悔してないけどネ」と呟く遊歩の姿は凛としているが、今にも泣きそうな雰囲気もある。この二年間、きっと遊飛を行かせてしまった後悔や、テルを引き止められなかった罪悪感でいっぱいになっているのだろう。
 自身の腕を握り締め、遊歩は目を細めながら俯く。

「だから、今の彼の行方はわからないノ」
「そんな」
「でも連絡は取れるんだよネ。一方的な連絡だけど」

 きっとMIKに逆探知させない為なのだろう。テルの対応によってUTSは潰されてない。だが、その状況をこのままにしていいのだろうか。
 ユウディアスはその気持ちへとなり、両手に拳を作り胸を張った。

「ならば、遊飛を取り戻しに行くのである!」
「ユウディアスならそう言うと思ってたヨ。でもね、遊飛を取り戻した後、どうするノ?」

 遊歩の問いに、ユウディアスは首を傾げる。てっきり遊歩も賛同してくれるかと思ったからである。
 「どうするとは?」と、ユウディアスは問いを問いで返し、遊歩はこの先の起こりえるかもしれない事態を説明する。

「遊飛を取り戻したとして、事態は悪化する可能性は高いノ。きっと、地球にいる全ての宇宙人をフェイザーは排除してしまうかもしれない」
「ならば、ラッシュデュエルで!竜宮フェイザーを理解してもらうまでやるのである!」
「それがずっと繰り返す事になっても?」
「うむ!ソレガシは争いではなく、ラッシュデュエルで和解してみせる!」

 力強く頷き、熱弁するユウディアス。瞳も闘志を燃やすかのように熱く、その視線を遊歩へと向けて見つめる。この思いが伝わってほしい気持ちでいると、何度か遊歩の唇が動き最後に口角が上がって微笑んだ。

「なら、私達も動くべきだネ!みんな、おいでヨ!」

 そう遊歩が声を出すと、ビルのそれぞれのドアが開いて多数の人影が現れた。その人影はUTSのメンバーであり、その中から田崎がユウディアスの前に立って笑顔を向ける。

「お久しぶりですな、ユウディアス」
「田崎!久しぶりである!」

 嬉しい声を上げたユウディアスは、田崎の元へと駆け寄り力強く握手を交わす。他にもユウディアスに声を掛けながら集まり、二年越しの再会に挨拶を交わしていく。
 すると、遊歩が軽く手を叩いて交流を一旦止めさせ、右手を空へ向けて突き上げた。

「これより!遊飛奪還作戦を開始するヨ!」
「おーっ!」

 みんなで掛け声をしながら右腕を強く上げ、気持ちを一つにする。その光景はまるで遠足へ向かう様であるが、彼らは真剣そのものである。

「きっと私達の行動もカッパくんは知ってそうだネ」
「合羽井は何処にいるか、分かればいいのであるが」
「まぁ、そこはタイミングによりけりだヨ」

 こちら側からの連絡が取れない以上、テルが情報を得ている事を願い、遊歩は顔を上げてユウディアスと目を合わせる。

「まず先に遊飛が居る所へ向かおっか」
「遊飛の居場所が分かるのであるか!」

 驚くユウディアスに遊歩は軽く頷き、そしてMIK本部であるビルへと指差した。

「場所はMIK本部の最上階、フェイザーしか入れないシークレットルームだヨ」

 ◇ ◇ ◇

 壁全体には星々が描かれた夜空の空間しており、淡色のライトの光が雰囲気を醸し出している。その真ん中にあるベッドの上に一つの人影があった。
 半袖型の白いワンピースを身にまとい、両手をお腹の上で繋いで目を瞑っている遊飛の姿。後ろ髪は腰あたりまで伸びており、シーツの上に広がっている。呼吸で胸元が上下と動かし、遊飛は閉じていた瞼をゆっくり上げて星々の煌めく天井を眺めた。

「これで全部なのか?」

 誰かに問い掛けるような言葉を発した後、遊飛は両手で顔を覆い被せ、唸り声を上げてジタバタと両足をばたつかせる。
 「う〜あ〜」と言う度に髪もパサパサと揺れ動き、最後は大の字になって深く息を吐く。

「そっかぁ……そうなのかぁ……あぁ〜〜」

 また一つ唸り声を上げる遊飛。何をそこまでに彼を唸らせるのだろうか。
 眉間に皺を寄せて苦虫を噛み潰したような表情をし、遊飛の前髪もその感情を反映するかの様に激しく動いていた。
 その行動を数分繰り返していき、やっと落ち着いた遊飛はまた大の字になって天井を見つめる。

「二年間……時間掛かったけどコレが本当だったら九割、テルが原因じゃね?」

 そう言い上半身を起こした遊飛は、あぐらをかいて両腕を組む。色々と考え込んでいきながら、遊飛の中でなにか納得いかない部分があるようだ。

「うーん……でもなぁ……だとしてもなぁ……なんか、モヤモヤする……」

 あれこれと思う部分を呟いていると、ドアが開く音が聞こえる。この部屋に入ってくる人物が誰なのか分かっている遊飛は、視線をドアの方へと向けるとトレイを持ったフェイザーが立っていた。

「お食事をお持ち致しました」
「もうそんな時間か」

 身体を動かし、ベッドから下りようとする遊飛。その動きを見たフェイザーは、慌てた表情に変えて止めに入った。

「いけません。私がお運びしますので」
「少しでも運動しないと俺、立てなくなるんだけど?」
「ですが、貴方様はお身体弱い身、無理して動かれましたら」

 心配そうに言うフェイザーに対し、遊飛はため息つきながら後頭部に手を当てて掻き回す。そして、顔を上げた遊飛はフェイザーを見つめて問いを投げる。

「フェイザー、俺の名前を呼んでみろ」

 そう質問すると同時にフェイザーはキョトンとしたがすぐに微笑んだ後、口を開き答えを述べる。

「ユーヒ・エルピス様です」

 はっきり言うフェイザーに、遊飛はまた一つため息をつく。このやり取りも何度目になるのか、いつも言ってる言葉を伝えようと遊飛は口を開く。

「あのなぁ、何度も言ってるけど、俺の名は王道遊飛だ」
「いいえ、貴方様はユーヒ・エルピス様です」

 頑なにユーヒの名前を呼ぶフェイザーに、眉間に指先を当てて遊飛は唸りあげる。

「頭が痛い……」
「大丈夫ですか!」

 遊飛の言葉に慌てて近づき、膝をついて顔色を伺うように覗き込んでくるフェイザー。そんな彼の表情は本気で心配している眼差しであり、それを見つめていた遊飛は内心ため息をつく。

「大丈夫。だから運んでくれないか」

 今はフェイザーが満足するまで付き合おうと決め、遊飛は両腕を広げた。本当はちゃんと床に足をつけ、歩きたい気持ちだし、正直男が男に運ばれる事も恥ずかしさを感じる。ただ、フェイザーを不機嫌にさせてしまったら、まわりに迷惑を掛けてしまう可能性がある。
 なので今は我慢するしかないと言い聞かせていると、遊飛の指示にフェイザーは嬉しかったのか、表情は明るくなっていくのがわかる。

「仰せのままに」

 そう言い、フェイザーは遊飛を横抱きにして持ち上げ、テーブルへと向かって歩き出す。
 フェイザーの腕の中でゆらゆらと揺れるのを感じながら、遊飛はこれまでの事を思い出してた。
 二年前。初めて出会った時、フェイザーから何か懐かしさや嬉しさが込み上がる感情が出ていた。それは自分の感情ではなく、ユーヒのものである事は、遊飛もすぐに理解出来た。
 その謎を解明するのと、テル達をこれ以上傷つけさせない為にも、彼の元へと向かう事を遊飛は覚悟を決めていた。

(その日からずっと、この部屋でしか生活出来てないんだよな)

 外に出れないままこの生活が始まり、よくメンタルが壊れなかった自分の強さに感心があった。そして、フェイザーと出会ってから遊飛の身に変化が起きる。

 それは夢の中でユーヒの記憶が見え始めたことだ。

 (何故、このタイミングで?)と当時の遊飛はそう思っていたが、何か理由があるのかもしれないと、この二年間、夢の中でユーヒの記憶をアルバムの様に見ていった。それを全部見てから逃げるなり、何か行動をしていこうという安直な考えではあるが、どうしても遊飛の中では待ったをかけていたのだ。
 そして今日、全ての記憶を見終わった遊飛はフェイザーの事を理解した。遊飛の目の前に居るフェイザーは、ユーヒの傍に居た側近の生まれ変わり。


テルの原因でユーヒの番になれなかった者。


「たく、とんでもない置き土産していったよな」

 帰れない理由がもう一つ増えてしまい、遊飛は胸元に手を置き、今は居ないユーヒに向けて愚痴をこぼすのであった。


つづく


2025/02/12
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