逆行したジューゴさんの後日談
ハジメを呼び掛けたのはまずかったのではないかと、今更ながらジューゴは後悔していた。
ザクロを睨みつけるように見下ろしているハジメと、そんなハジメの睨みつきを睨み返すように目を細めているザクロ。
二人の間には火花を散らしているのではないかと錯覚が見えてしまうほどであり、二人の間に立っていたジューゴは半分涙目になっていた。
(二人の殺気がこえーよ!)
そう思いながらジューゴは後ろに居るメンバーへ視線を向けるが、ウノとニコは明後日の方角へと視線を向けて下手な口笛を吹いており、キジと仁志は「がんばっ!」と言いたそうな視線で親指を立てており、猿鬼は両腕を組みながらジューゴを睨んでいた。
猿鬼の視線はきっと(助けを求めるほど、お前は貧弱になったのか?)という意味も込められているのだろうと、察したジューゴはため息をついた。
誰も助けてくれないことに覚悟を決めたジューゴは一歩前へ踏み出し、視線をハジメへ右手はザクロの方へと向けた。
「ハジメ、俺が前に実験で保護していたザクロだ」
「………………」
ザクロを紹介しても無言で威嚇しているハジメにジューゴはため息をつき、今度は視線をザクロへ変えて右手をハジメへと向けた。
「んで、ザクロ。コイツがハジメ、俺の恋人」
「ふーん」
興味がない抜けた声を出すザクロに、ジューゴは胃に穴が開くと思いながらキリキリする腹部をさすった。
もう紹介が終わったのだから解放してほしいと思っていると、後ろから首についている枷を掴まれて引き寄せられる。
後ろに立っていたのはハジメだったので、ジューゴはハジメに掴まられたのかと察していたが、急に引っ張られた事で「ぐえっ」と潰れたカエルの鳴き声のような音をジューゴの口から出ていた。
引き寄せられたジューゴはハジメの方へと視線を向けると、少しだけ屈んでジューゴの耳元まで顔を近づけてくるハジメにドキッと心臓が鳴った。
(えっ!?なになに!?顔ちかっ!)
視界いっぱいになるほどのハジメのドアップな顔に、ジューゴは顔を赤くしながら焦った。
昔はよく作戦会議とかケンカとかで顔を近づけさせたりしたことはあったが、今の世界ではあまりなかった分、免疫ができていないジューゴはうるさく高鳴る心臓の鼓動に全身が熱くなっていくのを感じた。
全身の血液が早くめぐっていき、手も背中も顔も足も徐々に熱くなっていく。
頬も熱くなっていくのを感じたジューゴは、きっと顔が赤くなっていると思いながら両手で頬に触れながらハジメの顔を眺める。
無言で見つめているハジメは何を言ってくるのだろうかとジューゴは無言で待っていたら、ようやくハジメの口が動いた。
「前の世界では、どういう関係性だったんだ」
ハジメの問いに、ジューゴは先程までの緊張感が静かに落ち着ていった。
ジューゴは小さく息を吐き捨て、答えようとハジメの耳元に顔を近づかせる。
「俺と同じ、枷を付けられたんだよ。んで、俺を助けようと南波刑務所まで来たすげー奴」
小さな声でザクロとの関係性を伝えると、ハジメの眉が一瞬小さく動いているのが見えた。
そして、ハジメの視線はザクロの方へと向けてた後にジューゴの方へと視線を戻して目を細めている。
きっと「同じ枷なんてついてないじゃないか」と言いたいのだろうと、ジューゴはなんとなくハジメの気持ちを察して話を続けた。
「その恩もあるから、枷を付けられる前に保護したんだよ」
「なるほどな」
ジューゴの説明に納得したのか、ハジメは掴んでいた手を離してジューゴを床へと落とした。
突然の事で着地を失敗したジューゴは尻餅をし、痛みによって涙目になりながらハジメを睨んだ。
睨まれていても気にしないハジメは鼻で笑い、その態度が気に食わなかったのかジューゴはジド目で睨み上げていた。
だがハジメの性格上、謝る気もないだろうなとジューゴはため息をつき、お尻を叩きながら立ち上がっていると急に腕を掴まれる。
「お母さんから離れろ!」
ザクロの声と同時に引っ張られたジューゴは、ハジメから引き離されてザクロの背後へと移動されていた。
背を向けているザクロの表情は見えないが、きっと眉間に皺を寄せ怒っているのはジューゴでも何となく察していた。
完全にザクロにとってハジメは、敵対象として認定したのだろう。
ジューゴはこの後どういう展開になるのかと思いながら眺めていると、ザクロは右腕を上げてハジメに向けて指差した。
「お母さんが認めていたとしても、息子のボクは認めてないからね!」
そうはっきり言うザクロに、ジューゴは頭が痛くなった。
ザクロの性格上、一度決めたら何があっても意地でも曲げないところがある。
それはプラス部分でもあるが、時と場合によってはマイナス部分でもあり、ジューゴの言葉でもなかなか折れない。
(どうしたものかなぁ)
ため息をついたジューゴは眉間に指を当て、もみほぐすように指先を動かしながら考えた。
どうにかザクロを説得し、ハジメを受け入れてくれるのか。
色々と考えてみるが、いい案が思い浮かばないことにジューゴは内心舌打ちをした。
(そもそも、なんで猿鬼が連れて来たんだよ!こうなるって……わかってるから連れて来たんだよな!あぁそうだったな!)
ハジメとの交際を良しと思っていなかった猿鬼は、ザクロを会わせることで妨害させようと考えたのかもしれない。
そこまでして、ハジメとの交際を認めたくないのか、それとも認めさせる為の試練として用意したのか。
どちらなのかわからないが、ジューゴにとっては本当に面倒臭いと思っていた。
「それで、なんで母さん呼びなんだ」
もう一つの疑問であったことをハジメはジューゴに問い掛けた。
ジューゴはれっきとした男子であり、母と呼ばれるようなことはない。
まれにジューゴの作る料理の味は母の味だと、南波刑務所では言われていることはあるが。
問い掛けられたジューゴは少し言いにくそうな表情をし、最終的にため息をついて口を開く。
「保護して面倒見てたら、母さん呼びになったんだよ」
「だってボクを育てたんだから、お母さんに決まってるじゃないか!」
「いや、そこは父さんじゃないのかよ。しかも育てたって言っても半月くらいだろ」
嬉しそうに引っ付いてそう言うザクロに、ジューゴはザクロの頬に手を当てて引き離す。
ジューゴがザクロを研究所から連れ出し、共に過ごしていた日々は短かった。
その時はエルフ達が近づいているのを察したジューゴが、ザクロを避難させるために猿鬼がいる場所へ強制的に送ったのだ。
だからこそ、ジューゴは何故自分のことを親として呼ぶのかわからなかった。
「そっから猿鬼達に預けたんだから、むしろ猿鬼達が親になるもんだろーが」
「お母さん、一緒にいる時間は関係ないと思うんだ」
すぐにそう答えるザクロに、ジューゴはますます意味がわからなく首を傾げることしか出来なかった。
家族は一緒にいる時間があったほうがいいじゃないか。と、思っていたがジューゴはそれを言ったら高確率でザクロが同居するフラグが見えた。
その言葉を発さないようにぐっと飲み込んだジューゴは黙り込んでいると、ザクロは何かを察したのか満面な笑みを浮かべた。
「短くても、ボクにとってお母さんはお母さんなんだよ!」
そうはっきり言うザクロに、ジューゴは少しだけ涙が出そうになった。
形はどうであれ、ザクロがこうしていい子に育ったことに嬉しさを感じたのだ。
きっとそれを聞いたハジメは性格は難ありと言っていた可能性はあるが、ジューゴは一人で感動に浸っていた。
この後、ザクロの爆弾発言を聞くまでは
「ほら!初めてお母さんと会った時、女装してたから女性だと勘違いしてもおかしくないと思うよ?」
「ばっ!それを言うな!」
ザクロの言葉にジューゴは慌てて止めようとしたが、すでに遅しであった。
誰もが「はっ?」と言いたげな表情をし(ただし、キジは除く)、ジューゴは自身の闇歴史を暴露されたことで顔は真っ赤になっていた。
だが、ザクロはそれを気に留めずに話を続ける。
「白衣姿のお母さん綺麗だったよ!綺麗でサラッとした長い黒髪に、歩く度になびく白い白衣!」
両手を合わせて神を拝めるようなポーズをしながらザクロは、過去のことを思い出しながら語った。
真っ暗闇の牢屋の中。自分はいつになったら外へ出られるのかと、ザクロは両足を抱えて座り込んでいた。
その時、廊下が警報のサイレンや人々の悲鳴でうるさく、何が起きたのかザクロは顔を上げるとその先の光景に目を大きく見開いたのはよく覚えていた。
「戦う姿もかっこよかったし!あの時みんな言ってたよ!ブラッドエンジェルって!」
「血の天使って物騒だな!?」
まさかあの時の人々にそういう名称で呼ばれていたとは思っていなかったジューゴは、驚いた表情をしながらツッコミをする。
だが、ザクロは興奮状態でジューゴのツッコミにツッコミを入れる。
「だって、天使の羽が生えているかのように身軽で、華麗に敵の血を撒き散らしていたんだから!」
少しだけ鼻息荒く語るザクロに、よほどジューゴの姿は魅入ったのだろう。
それを聞いてしまえば、ジューゴの女装がどんなものなのか気になる輩も増えてくる。
ジッとジューゴを見つめている複数人の視線を感じたジューゴは、それどれに向かって指をさした。
「俺はぜってーにやらねぇからな!」
「えー」
ウノとニコは残念な声を上げ、キジはメイク道具を出そうかという仕草をしており、仁志もまた目を輝かせながら見つめていた。
唯一、興味なさそうなハジメと猿鬼はいつこれが終わるのかと眺めていた。
ジューゴはハジメと猿鬼が止めに入ってくれないことに苛立ち、どうにか自分の力でこの話題を逸らそうと口を開く。
「むしろ、野郎の女装見て楽しいかよ」
「潤いがほしい!」
「それはお前だけだウノ」
ウノにツッコミを入れたジューゴは、そのままどうにか女装をしない案を出そうと話を続ける。
「だいたい、女装してたのはエルフ達から逃れるためにやっていただけだし」
「それでも、美容関連は俺より知識高いよな」
「前にコスメのおすすめとか、アドバイスをもらったの忘れてないからな」とウノにツッコミ入れられ、ジューゴは少しだけ目を泳がす。
これがダメならば、次の案を言うしかないと人差し指を立てる。
「それに、エルフ達を捕まえたから、それする必要はなくなったし」
「あら、私的には三舎の為に、美容関連の講師をしてほしいわよ♪」
「貴方、前に手伝ってくれたじゃない」とキジにそう言われ、つい先日手伝っていたことを思い出したジューゴは頭を抱えた。
このままじゃ完全に逃げ道を失うと思いながらも、ジューゴはめげずに次の案を言う。
「あ、あと、道具はないし。ブランクもあるし」
「道具なら僕とキジさんのを貸してあげる!」
「ブランクって言ったわね。なら、もう一度教え込ませた方がいいかしら?」
万事休すとはもうこのことを言うのだろう。
ジューゴが言った言葉は全て論破されてしまい、最終的にはジューゴは呻き声を上げて全員に向けて指差した。
「なんでそんなに見たがるんだよ!」
「好奇心の方が強いから!」
「ジューゴくんの女の子姿見てみたい~♪」
「僕もどんな感じなのか見てみたいよ!」
「私も弟子の腕が訛っていないか見てみたいしね❤」
「ボクもお母さんの見たい!」
全員手を上げながらそう言い、完全に逃げ場を失った。
ならばもういっそのこと、さっさと女装姿を見せて終わらせた方が楽なのではないかとジューゴはそう考え、深く息を吐き捨てる。
「はぁ……わかったよ。仁志、道具使わせてもらうな。今度、新しいのを買って返すから」
「いいよ!いいよ!代わりに後で一緒にお茶しよ!」
仁志が出した化粧道具を受け取り、ジューゴはそのままキジの方へと視線を向ける。
「先生、ちょっと服とか借りてもいいか?」
「全然いいわよ〜❤」
嬉しそうな声を出しながらキジはそう言い、すぐさま3舎にある洋服を持ってくるようにと部下に連絡を入れていた。
ここまで話が大きくなった以上、半端なことは出来ないと思ったジューゴはキジから教わった技術を開放しようと思った。
(なるようになれだ!)
そう心の中で叫び、ジューゴは化粧道具を広げてメイクを始めた。
このメイクと服装によって、南波刑務所内では色々と騒ぎになるということは、まだ全員知らないことであった。
続くっ!
2021/12/31
ザクロを睨みつけるように見下ろしているハジメと、そんなハジメの睨みつきを睨み返すように目を細めているザクロ。
二人の間には火花を散らしているのではないかと錯覚が見えてしまうほどであり、二人の間に立っていたジューゴは半分涙目になっていた。
(二人の殺気がこえーよ!)
そう思いながらジューゴは後ろに居るメンバーへ視線を向けるが、ウノとニコは明後日の方角へと視線を向けて下手な口笛を吹いており、キジと仁志は「がんばっ!」と言いたそうな視線で親指を立てており、猿鬼は両腕を組みながらジューゴを睨んでいた。
猿鬼の視線はきっと(助けを求めるほど、お前は貧弱になったのか?)という意味も込められているのだろうと、察したジューゴはため息をついた。
誰も助けてくれないことに覚悟を決めたジューゴは一歩前へ踏み出し、視線をハジメへ右手はザクロの方へと向けた。
「ハジメ、俺が前に実験で保護していたザクロだ」
「………………」
ザクロを紹介しても無言で威嚇しているハジメにジューゴはため息をつき、今度は視線をザクロへ変えて右手をハジメへと向けた。
「んで、ザクロ。コイツがハジメ、俺の恋人」
「ふーん」
興味がない抜けた声を出すザクロに、ジューゴは胃に穴が開くと思いながらキリキリする腹部をさすった。
もう紹介が終わったのだから解放してほしいと思っていると、後ろから首についている枷を掴まれて引き寄せられる。
後ろに立っていたのはハジメだったので、ジューゴはハジメに掴まられたのかと察していたが、急に引っ張られた事で「ぐえっ」と潰れたカエルの鳴き声のような音をジューゴの口から出ていた。
引き寄せられたジューゴはハジメの方へと視線を向けると、少しだけ屈んでジューゴの耳元まで顔を近づけてくるハジメにドキッと心臓が鳴った。
(えっ!?なになに!?顔ちかっ!)
視界いっぱいになるほどのハジメのドアップな顔に、ジューゴは顔を赤くしながら焦った。
昔はよく作戦会議とかケンカとかで顔を近づけさせたりしたことはあったが、今の世界ではあまりなかった分、免疫ができていないジューゴはうるさく高鳴る心臓の鼓動に全身が熱くなっていくのを感じた。
全身の血液が早くめぐっていき、手も背中も顔も足も徐々に熱くなっていく。
頬も熱くなっていくのを感じたジューゴは、きっと顔が赤くなっていると思いながら両手で頬に触れながらハジメの顔を眺める。
無言で見つめているハジメは何を言ってくるのだろうかとジューゴは無言で待っていたら、ようやくハジメの口が動いた。
「前の世界では、どういう関係性だったんだ」
ハジメの問いに、ジューゴは先程までの緊張感が静かに落ち着ていった。
ジューゴは小さく息を吐き捨て、答えようとハジメの耳元に顔を近づかせる。
「俺と同じ、枷を付けられたんだよ。んで、俺を助けようと南波刑務所まで来たすげー奴」
小さな声でザクロとの関係性を伝えると、ハジメの眉が一瞬小さく動いているのが見えた。
そして、ハジメの視線はザクロの方へと向けてた後にジューゴの方へと視線を戻して目を細めている。
きっと「同じ枷なんてついてないじゃないか」と言いたいのだろうと、ジューゴはなんとなくハジメの気持ちを察して話を続けた。
「その恩もあるから、枷を付けられる前に保護したんだよ」
「なるほどな」
ジューゴの説明に納得したのか、ハジメは掴んでいた手を離してジューゴを床へと落とした。
突然の事で着地を失敗したジューゴは尻餅をし、痛みによって涙目になりながらハジメを睨んだ。
睨まれていても気にしないハジメは鼻で笑い、その態度が気に食わなかったのかジューゴはジド目で睨み上げていた。
だがハジメの性格上、謝る気もないだろうなとジューゴはため息をつき、お尻を叩きながら立ち上がっていると急に腕を掴まれる。
「お母さんから離れろ!」
ザクロの声と同時に引っ張られたジューゴは、ハジメから引き離されてザクロの背後へと移動されていた。
背を向けているザクロの表情は見えないが、きっと眉間に皺を寄せ怒っているのはジューゴでも何となく察していた。
完全にザクロにとってハジメは、敵対象として認定したのだろう。
ジューゴはこの後どういう展開になるのかと思いながら眺めていると、ザクロは右腕を上げてハジメに向けて指差した。
「お母さんが認めていたとしても、息子のボクは認めてないからね!」
そうはっきり言うザクロに、ジューゴは頭が痛くなった。
ザクロの性格上、一度決めたら何があっても意地でも曲げないところがある。
それはプラス部分でもあるが、時と場合によってはマイナス部分でもあり、ジューゴの言葉でもなかなか折れない。
(どうしたものかなぁ)
ため息をついたジューゴは眉間に指を当て、もみほぐすように指先を動かしながら考えた。
どうにかザクロを説得し、ハジメを受け入れてくれるのか。
色々と考えてみるが、いい案が思い浮かばないことにジューゴは内心舌打ちをした。
(そもそも、なんで猿鬼が連れて来たんだよ!こうなるって……わかってるから連れて来たんだよな!あぁそうだったな!)
ハジメとの交際を良しと思っていなかった猿鬼は、ザクロを会わせることで妨害させようと考えたのかもしれない。
そこまでして、ハジメとの交際を認めたくないのか、それとも認めさせる為の試練として用意したのか。
どちらなのかわからないが、ジューゴにとっては本当に面倒臭いと思っていた。
「それで、なんで母さん呼びなんだ」
もう一つの疑問であったことをハジメはジューゴに問い掛けた。
ジューゴはれっきとした男子であり、母と呼ばれるようなことはない。
まれにジューゴの作る料理の味は母の味だと、南波刑務所では言われていることはあるが。
問い掛けられたジューゴは少し言いにくそうな表情をし、最終的にため息をついて口を開く。
「保護して面倒見てたら、母さん呼びになったんだよ」
「だってボクを育てたんだから、お母さんに決まってるじゃないか!」
「いや、そこは父さんじゃないのかよ。しかも育てたって言っても半月くらいだろ」
嬉しそうに引っ付いてそう言うザクロに、ジューゴはザクロの頬に手を当てて引き離す。
ジューゴがザクロを研究所から連れ出し、共に過ごしていた日々は短かった。
その時はエルフ達が近づいているのを察したジューゴが、ザクロを避難させるために猿鬼がいる場所へ強制的に送ったのだ。
だからこそ、ジューゴは何故自分のことを親として呼ぶのかわからなかった。
「そっから猿鬼達に預けたんだから、むしろ猿鬼達が親になるもんだろーが」
「お母さん、一緒にいる時間は関係ないと思うんだ」
すぐにそう答えるザクロに、ジューゴはますます意味がわからなく首を傾げることしか出来なかった。
家族は一緒にいる時間があったほうがいいじゃないか。と、思っていたがジューゴはそれを言ったら高確率でザクロが同居するフラグが見えた。
その言葉を発さないようにぐっと飲み込んだジューゴは黙り込んでいると、ザクロは何かを察したのか満面な笑みを浮かべた。
「短くても、ボクにとってお母さんはお母さんなんだよ!」
そうはっきり言うザクロに、ジューゴは少しだけ涙が出そうになった。
形はどうであれ、ザクロがこうしていい子に育ったことに嬉しさを感じたのだ。
きっとそれを聞いたハジメは性格は難ありと言っていた可能性はあるが、ジューゴは一人で感動に浸っていた。
この後、ザクロの爆弾発言を聞くまでは
「ほら!初めてお母さんと会った時、女装してたから女性だと勘違いしてもおかしくないと思うよ?」
「ばっ!それを言うな!」
ザクロの言葉にジューゴは慌てて止めようとしたが、すでに遅しであった。
誰もが「はっ?」と言いたげな表情をし(ただし、キジは除く)、ジューゴは自身の闇歴史を暴露されたことで顔は真っ赤になっていた。
だが、ザクロはそれを気に留めずに話を続ける。
「白衣姿のお母さん綺麗だったよ!綺麗でサラッとした長い黒髪に、歩く度になびく白い白衣!」
両手を合わせて神を拝めるようなポーズをしながらザクロは、過去のことを思い出しながら語った。
真っ暗闇の牢屋の中。自分はいつになったら外へ出られるのかと、ザクロは両足を抱えて座り込んでいた。
その時、廊下が警報のサイレンや人々の悲鳴でうるさく、何が起きたのかザクロは顔を上げるとその先の光景に目を大きく見開いたのはよく覚えていた。
「戦う姿もかっこよかったし!あの時みんな言ってたよ!ブラッドエンジェルって!」
「血の天使って物騒だな!?」
まさかあの時の人々にそういう名称で呼ばれていたとは思っていなかったジューゴは、驚いた表情をしながらツッコミをする。
だが、ザクロは興奮状態でジューゴのツッコミにツッコミを入れる。
「だって、天使の羽が生えているかのように身軽で、華麗に敵の血を撒き散らしていたんだから!」
少しだけ鼻息荒く語るザクロに、よほどジューゴの姿は魅入ったのだろう。
それを聞いてしまえば、ジューゴの女装がどんなものなのか気になる輩も増えてくる。
ジッとジューゴを見つめている複数人の視線を感じたジューゴは、それどれに向かって指をさした。
「俺はぜってーにやらねぇからな!」
「えー」
ウノとニコは残念な声を上げ、キジはメイク道具を出そうかという仕草をしており、仁志もまた目を輝かせながら見つめていた。
唯一、興味なさそうなハジメと猿鬼はいつこれが終わるのかと眺めていた。
ジューゴはハジメと猿鬼が止めに入ってくれないことに苛立ち、どうにか自分の力でこの話題を逸らそうと口を開く。
「むしろ、野郎の女装見て楽しいかよ」
「潤いがほしい!」
「それはお前だけだウノ」
ウノにツッコミを入れたジューゴは、そのままどうにか女装をしない案を出そうと話を続ける。
「だいたい、女装してたのはエルフ達から逃れるためにやっていただけだし」
「それでも、美容関連は俺より知識高いよな」
「前にコスメのおすすめとか、アドバイスをもらったの忘れてないからな」とウノにツッコミ入れられ、ジューゴは少しだけ目を泳がす。
これがダメならば、次の案を言うしかないと人差し指を立てる。
「それに、エルフ達を捕まえたから、それする必要はなくなったし」
「あら、私的には三舎の為に、美容関連の講師をしてほしいわよ♪」
「貴方、前に手伝ってくれたじゃない」とキジにそう言われ、つい先日手伝っていたことを思い出したジューゴは頭を抱えた。
このままじゃ完全に逃げ道を失うと思いながらも、ジューゴはめげずに次の案を言う。
「あ、あと、道具はないし。ブランクもあるし」
「道具なら僕とキジさんのを貸してあげる!」
「ブランクって言ったわね。なら、もう一度教え込ませた方がいいかしら?」
万事休すとはもうこのことを言うのだろう。
ジューゴが言った言葉は全て論破されてしまい、最終的にはジューゴは呻き声を上げて全員に向けて指差した。
「なんでそんなに見たがるんだよ!」
「好奇心の方が強いから!」
「ジューゴくんの女の子姿見てみたい~♪」
「僕もどんな感じなのか見てみたいよ!」
「私も弟子の腕が訛っていないか見てみたいしね❤」
「ボクもお母さんの見たい!」
全員手を上げながらそう言い、完全に逃げ場を失った。
ならばもういっそのこと、さっさと女装姿を見せて終わらせた方が楽なのではないかとジューゴはそう考え、深く息を吐き捨てる。
「はぁ……わかったよ。仁志、道具使わせてもらうな。今度、新しいのを買って返すから」
「いいよ!いいよ!代わりに後で一緒にお茶しよ!」
仁志が出した化粧道具を受け取り、ジューゴはそのままキジの方へと視線を向ける。
「先生、ちょっと服とか借りてもいいか?」
「全然いいわよ〜❤」
嬉しそうな声を出しながらキジはそう言い、すぐさま3舎にある洋服を持ってくるようにと部下に連絡を入れていた。
ここまで話が大きくなった以上、半端なことは出来ないと思ったジューゴはキジから教わった技術を開放しようと思った。
(なるようになれだ!)
そう心の中で叫び、ジューゴは化粧道具を広げてメイクを始めた。
このメイクと服装によって、南波刑務所内では色々と騒ぎになるということは、まだ全員知らないことであった。
続くっ!
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