逆行したジューゴさんの後日談
今日の天気は晴れ。
世間の主婦・主夫にとっては、最高の洗濯日和でもある。
ぽかぽかと暖かい日差しを感じながら、洗濯仕立ての洋服を干す時に香る洗剤と柔軟剤、干した洗濯達の間から吹き込む心地よい風。
洗濯干し終えたら、それを感じながらお昼寝するのも最高であると思った。
そんな雲一つない晴天なのだが、その太陽の日差しを浴びながらジューゴは感じていた。
何故かもの凄く背筋から寒気が走ると。
(この寒気……何かが起こるんじゃ無いか?)
こういう時の自分の勘は大当たりすると思っていたが、すでにここに居る時点で嫌な予感は当たっているのだが、ジューゴはそれを気にせずに晴天の空をもう一度見上げる。
この世界へとやってきてどれぐらいの年が経ったか、ジューゴはその時の出来事を一つ一つ思い出していた。
前の世界で死に、若い頃の猿鬼や猿門や法子と出会い、自分が生まれていない時代へと飛ばされたジューゴは前の世界では出来なかったことをしようと動いていた。
前の世界では恋人同士であったハジメとは再会するのに時間がかかり、その分別の行動を起こして前の世界では救えられなかった人々を救っていき未来を変えていった。
そしてエルフたちを捕まえて地下牢獄へと監獄され、ジューゴは彼ら教育担当として看守長とは違う立場として南波刑務所へと滞在することになった。
いまは懲役は終了して外に出られるのだが、まだ自分がやるべきことがある事をハジメに伝え、現在はハジメと同棲し暮らしている。
これが決まった時の南波刑務所では、かなりの悲鳴や怒声が響き渡っていたのが懐かしいとジューゴはそう思った。
特に猿門とキジと犬士郎の反対派の声が凄く、それを聞いたムサシも参戦して大変な日々が続き、流石のハジメもキレて大戦争的なことが起きたのが言うまでない。それはのちにゴリラ大戦争と言われていたとかなんとか。
「このまま平和になるといいんだけどな……」
深く息を吐いたジューゴは片手を上げて太陽へとかざし、指の隙間から差し込む日差しに目を細めた。
手首にまだある黒い枷は外れておらず、これがまだあるという事は自分はまだバケモノであるのだと思い知らされる。
兎万兎にも力を借りて外せる方法を探しているが、それでもまだデータが足りずに外せられる方法は見つかっていない状態である。
手を伸ばしていた腕を床へと下ろし、ジューゴは両腕を組んで後頭部へと置いて足を組んだ。
「ま、悪い事が起きたらハジメに押しつければいいか……」
そう言ってのんきにあくびをこぼし、今日もハジメの怒声を聞きながら南波刑務所の屋上で日向ぼっこを楽しむのであった。
◇◇◇
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「痛い……」
結局、居場所がバレてしまい、ハジメからゲンコツを貰ったジューゴは痛む頭を擦りながら歩いていた。
ブツブツと文句を言っていると、隣に並んで歩いているハジメから大きな舌打ちが聞こえた。
「お前が勝手に居なくなるからだろ。ちったー反省しろ」
「これが俺のルーティンだから文句言われたくねーよ」
そう文句を言うと、また頭から強い衝撃と痛みが走った。
ジューゴは両手で頭を抱えてしゃがみこみ、言葉にならない声を上げる。
まだ舌を噛んでいなくて良かった方ではあるが、それでもこの隣にいるハジメは加減というものを知らない。
しかも殴ってる相手は恋人だというのに。ジューゴは顔を上げ、キッとハジメを睨みつく。
「普通、恋人を殴るか?!」
「恋人だろうがひいきはしねぇ」
「いや、まぁ、ひいきして欲しいとは思ってねーけど」
そう言いながらジューゴは思った。
「相変わらずの仕事人間」だと。
そういう所がカッコイイと、ジューゴは前の世界から何度も思い続けていた。
(頭硬い野郎だけど……それでも、優しい部分もあるんだよなぁ)
これを第三者が聞いていたら、きっと「なんでそんな奴、好きなんだよ」とツッコミが入っているかもしれない。
ジューゴはそれすらも想像出来てしまうのだから、溜息を吐いてしまう。
溜息を吐いた後、ジューゴはハジメに案内してもらっている道を歩きながら心の内に思っている言葉を語り出す。
「だけど、なーんか嫌な予感がするんだよなぁ……だって、猿鬼からの連絡だぜ?絶対に何かが起こる……」
これまでの経験上、猿鬼からの呼び出しはいい事はなかったのを思い出しながら、ジューゴはげっそりしていた。
今すぐに逃げたいし、できれば今からでも逃げていいんではないかと思ってしまうくらいである。
だが、もしここで逃げてしまえば隣にいるハジメとのデッド鬼ごっこが始まるのだから、結局はどちらも地獄の選択になるんだという事をジューゴはわかっていた。
(それにまた五舎へ来いとか言われるのめんどくさいし……)
ため息つきながら「行きたくない〜行きたくない〜」と、うだうだ言っているジューゴを見つめていたハジメも、苛立たせながらも重いため息をつくしかなかった。
ハジメ的にも猿鬼から話がきた時に、物凄く嫌な予感しかしなかったのだから。
大抵、ジューゴ関連の話になると仕事が出来なくなるか増えるかのどちらかになるか、その両方になるかによってハジメの胃痛も増える。
「「はぁ……」」
お互い溜息を吐きながら、キリキリ痛む胃あたりを手でさすって待ち合わせ場所へと向かって行った。
◇◇◇
ハジメに連れて行かれ、ジューゴは目的地である部屋の前に立ちながら扉を眺める。
待ち合わせ場所は前に猿鬼からは聞いていたが、それでも思っていたことを口に出したいと思い、ジューゴは閉じていた口を開いた。
「んで、なんでウノの娯楽部屋での待ち合わせなんだろーな」
「さあな。聞きたかったら大猿に聞け」
めんどくさいと言いたげな雰囲気を出しながら舌打ちをしているハジメに、隣で聞いていたジューゴはなんとなくどうして苛立っているのかはわかっていた。
半分は巻き込まれたくないのと、仕事をさせろと思っているのだろう。そして残りの半分はタバコを吸いたいと思っているのだろう。
ヘビースモーカーなのはわかっているからこそ、ジューゴはなんとなくハジメの心境を察することは出来た。
それをツッコミしたら、高確率で殴られることも大体察していたジューゴは軽くハジメの腕を叩きながら声を掛ける。
「ハジメ、大猿って言ったら失礼だろ。大猿に」
そう言って少しでも場を和ませようとしてみるが、ハジメの態度は変わっておらずジューゴの頭を軽く叩いてドアを開けて入っていった。
叩かれて残されたジューゴは殴られた頭を手でさすりながらも、先程のげんこつとは威力が違う事は気がついており、少しだけ笑みを浮かべてハジメの後を追って室内へと入っていった。
中へ入れば相変わらずウノの趣味に合わせて増えている遊具や家具などが置いてあり、数日くらい見ていなかっただけでここまで増えるものなのかとジューゴはそう思っていた。
少しだけから笑いしながら歩いていると、ジューゴの姿を見つけたウノとニコはジューゴへ向けて手を振って声を掛けた。
「おっ!ジューゴじゃん!」
「ジューゴくん、久しぶり~!」
二人の声が聞こえたジューゴも聞こえた方へと視線を向け、ウノとニコの姿を見たジューゴは片手を上げて軽く振りながら二人の元へと近づいた。
ウノとニコも数日ぶりにジューゴに会えて嬉しいのか、笑顔でジューゴを出迎えてくれることにジューゴも嬉しくなり笑みを浮かべた。
だが、この二人がいるのに肝心のもう一人の姿がない事に気がついたジューゴは周りを見渡しながら問い掛ける。
「そういや、ロックはどうしたんだよ?」
「ロックはいまシロの所に行ってるぜ」
そう受け答えるウノの話を聞いたジューゴは納得していたが、シロが新作の料理でも出したのだろうかと考えていた。
そうなると今日はロックには会えないで終わるのかと考えていると、ニコが元気よく手を上げた。
「なんでも、ジューゴくんに食べさせたいものがあるって言ってたよ!」
「俺に?」
まさか自分が関わっていたことにジューゴは驚いたが、それでもロックらしいと思い自然と口角を上げていた。
そしてジューゴは後頭部に腕を回して腕を組み、ニッと歯を見せる様に笑った。
「んなら、用事が終わっても待ってないといけないな」
ジューゴはウノとニコに向けてそう言うと、二人もジューゴの笑顔につられて笑っていた。
軽い雑談的な感じで話しをしているジューゴの後姿を眺めていたハジメは、軽く舌打ちをしてジューゴの元へと近づき肩を掴んで後ろへと引っ張った。
「おい、道草してねぇで行くぞ」
そう言うハジメに、ジューゴはいきなり引っ張られた事で驚いた表情をしているが、近くで見ていたウノは何となく察してニヒルな笑みへと変えた。
「なんだよハジメ~。お前、毎日ジューゴと一緒にいるんだから嫉妬すんなよ」
「あっ?毎日一緒にいるわけねーだろ」
ドス低い声でウノへと反感するハジメに、ウノとニコは「へっ?」と間の抜けた声を出した。
ジューゴとハジメが付き合い始めたことは、南波刑務所全員知っている。
もちろん同棲していることも。その時は、新年会以上の大戦争が起きていたことを知っているが。
だから毎日のように一緒に過ごしているものだとウノとニコはそう思っていたのだが、ハジメはジューゴに指差してさらに追い打ちをかけるように言い放つ。
「そもそも俺もコイツと会ったのは二週間ぶりだ」
「「えええええっ!?」」
さらなる爆弾発言に、流石のウノとニコも驚きの声を上げた。
まさかそんなに会っていなということにウノは「うわぁ」と引いた声を出しているが、身体も若干引きながら口元に手を当てていた。
「いや、ないわ~。付き合っている相手を二週間も会わないなんてないわ~」
「ジューゴくん、いつも一人で過ごしていたの?」
「いや、俺も兎万兎の研究に付き合わされたり、先生のアシスタントに行ったりしていて一人じゃなかったな」
お互いスケジュールがうまく合っていなという事を告げると、ウノとニコは哀れな眼差しでハジメへと向ける。
いくら恋人同士になっているとしても、まさかここまで妨害されて二人っきりになれていないのは流石に可哀想すぎると思ったのだろう。
そんな二人の視線をなんとなく察したハジメは右手に拳を作り、ウノとニコの頭へ向けて思いっ切り殴った。
「「いったーい!」」
殴られた頭を手を当てて泣き叫ぶウノとニコに、ジューゴはどうしようかと悩んでいるとハジメに手首を掴まれて無理矢理引っ張られてしまう。
「ちょっ!ハジメ!」
「さっさと終わらせて俺は仕事に戻りてーんだよ」
そう言ってぐいぐい引っ張っていくハジメに、ジューゴはウノとニコがいる方へと視点を向けて「わりぃ!」とだけ言い残しその場から離れていき、猿鬼が居る場所へと向かって行ったのだった。
◇◇◇
あれからずっとハジメに手を掴まれたまま歩いているジューゴは、歩みを止めずにハジメの背中をジッと眺めた。
いつもならばすぐに手を離すのに、離す様子がないことにジューゴは笑いそうになるがハジメにはバレないように内心クスッと笑った。
(本当に素直じゃねーんだからな)
そう内心思いながらジューゴは手から感じる温もりを味わい、歩き続けていると急にハジメの足が止まり、繋がれていた手が離された。
離れていく温もりにジューゴは少し寂しさを感じていたが、ハジメが手を離した理由は大体わかっており、前から来る気の気配にジューゴはハジメの背中から顔を出した。
「よっ、猿鬼」
「ジューゴ」
待ち合わせの時間が若干過ぎていたのか、猿鬼の表情が少し不機嫌になっていることに気がついた。
ジューゴは「あちゃ~」と怒られる可能性が高いと思いながら、どう言い訳をしようかと考えていると猿鬼は軽く溜息をついている。
これは怒られるかとジューゴは両腕を上げて少し構えようとしたが、猿鬼は特に怒る様子を出しておりジューゴは不思議に思って構えていた腕を下ろした。
叱る時間も惜しいのか猿鬼はジッとジューゴを見下ろしながら口を開いた。
「ジューゴ。実は会わせたい奴らがいるんだが」
そう言ってくる猿鬼の言葉に、ジューゴはもの凄く嫌な予感がした。
そして、聞こえてくる足音。しかもかなり早いものであり、さらに背後から感じた気の気配にジューゴは後ろへと身体を向けてみたらーーーー
「おかーさーん!!」
「っ!」
白い作業着の服装で、白いショートヘアーの青年が両腕を広げて猪のように突っ込んできていた。
ジューゴはそれを見て瞬時に避け、男子はそのまま壁へと激突し、その衝撃で強い揺れが起きた。
地震のように揺れ動く床に、ジューゴや猿鬼達は上手くバランスを取って倒れずに済んだ。
そして、ジューゴは激突した方の壁へと視線を向け引きつった顔をしていた。
「あっぶね〜。モロに食らってたら骨何本かイッてた……」
激突した壁には大きな穴と、崩れ落ちている壁の破片を眺めながらジューゴは冷汗を垂れ流している。
その音と地震の原因で少し離れて居たウノとニコも「なんだなんだ」と騒ぎながら、ジューゴ達がいるところへと走って向かってきた。
ジューゴに怪我はないかや、何が起きたのかと質問攻めしているときに、ジューゴの先にある瓦礫が動き出しそこから顔を出した。
「お母さん!」
「「わーーーーっ!」」
突然出てきた男子にウノとニコは驚きの声を上げているが、ジューゴは特に驚きもせずに瓦礫から降りてきた青年は両腕を広げてジューゴの元へと駆け寄って来た。
「お母さん!お母さん!」
青年はジューゴに向かってそう言い、ジューゴの頬と自身の頬を当てて擦り上げてながらぴょんぴょんと跳ねていた。
それを近くで聞いていたハジメもウノもニコも驚いた表情をして固まったままであり、ようやく我に返ったウノが肩を震わせながらジューゴに向けて指を指した。
「ジューゴ、おまっ!女だったのかよ!?」
「ちげーよ!俺は立派な男だ!」
猫のようにごろにゃんと懐いている青年を少し引き離したジューゴは否定の声を上げていると、無視されていることに不満を感じたのか青年はジューゴの服を掴んで軽く引っ張った。
「お母さん、ボクのこと無視しないでよ」
「お、おう。随分と大きくなったな……ザクロ」
ジューゴがやっとこちらへ向いてくれたことに嬉しく感じたのか、ザクロと呼ばれた青年は満足そうな笑みを浮かべてジューゴを抱き締めた。
「やっとお母さんに会えて嬉しいよ!」
「俺も、お前に会えて嬉しいぜ」
少しから笑いしながらもジューゴは、抱き着いているザクロの姿をもう一度見てみる。
最後に会ったのは五年くらいだった為、こうして大きく成長しているのは喜ばしい事だとジューゴはそう思った。
前の世界でも怪力だったが、それがさらに強化されてしまっているような感じはしたが、そこはあえて考えないでおこうと現実逃避をするジューゴであった。
ニコニコ笑顔を向け続けていたザクロは急に冷たい笑顔へと変わり、そして腕に力を入れてジューゴを離さない様にした。
「んで、お母さんを無理矢理襲ったクソゴリラって誰?」
そう言うザクロにジューゴは背筋がゾッと寒気が走った。
これはまずい展開が起きた。と、ジューゴはそう思っていると、ザクロは気にせずに首を傾げながらジューゴの返答を待っている。
しかもザクロの瞳孔が見開いていて、光もなくて殺気立っていた。
この眠れる獅子をどう起こさずにすむのかと、ジューゴは言葉を選びながらも説得に試みた。
「ザクロ、落ち着け。俺は襲われてないし、俺はちゃんと好きだから付き合っているんだ」
「でも、法子さんと猿鬼さんが、お母さんの意思も聞かずに付き合い始めたって言ってたよ?」
「いや、ちゃんと俺の意思も尊重して付き合ってるから」
「ボクにも紹介してないって事は、そういう事なんでしょ?」
「いや、だから伝えるのが遅くなっただけだって」
ジューゴがあれこれ言っても、ザクロは「違うよね?」と瞳孔を開いたまま首を傾げたまま問い続ける。
このままじゃただのイタチごっこだと思いながらも、どう説明して納得させるべきなのかとジューゴは考え込んでいると、突然ザクロに両肩を掴まれた。
「それにボク的には、お母さんは法子さんか猿鬼さんと結婚してほしいんだけど!それかボク!ボクと結婚しよう!」
「なんでそうなるんだよ!」
何故ここで法子と猿鬼の名前を出され、さらに自分を結婚候補として名乗り上げるのかジューゴは頭が痛くなりながらもツッコミをした。
このままでは埒が明かないと考えたジューゴはため息を吐き、ザクロの両肩を掴んで引き離す。
「まぁ、お前に紹介が遅れたのは悪かった。今から会わせてやるから落ち着け。瞳孔がこれでもかって見開いてるから」
そう言い、ジューゴは少し遠くでいつの間に居たのかキジと仁志に捕まっているハジメに向けて手招きをしながら声を掛けて呼びかける。
このきっかけが、ジューゴにとってさらなる地獄へと化していくき、数分前の自分を呪うかのように頭を痛めていくのは知る由もない。
続くっ!
2021/08/27
世間の主婦・主夫にとっては、最高の洗濯日和でもある。
ぽかぽかと暖かい日差しを感じながら、洗濯仕立ての洋服を干す時に香る洗剤と柔軟剤、干した洗濯達の間から吹き込む心地よい風。
洗濯干し終えたら、それを感じながらお昼寝するのも最高であると思った。
そんな雲一つない晴天なのだが、その太陽の日差しを浴びながらジューゴは感じていた。
何故かもの凄く背筋から寒気が走ると。
(この寒気……何かが起こるんじゃ無いか?)
こういう時の自分の勘は大当たりすると思っていたが、すでにここに居る時点で嫌な予感は当たっているのだが、ジューゴはそれを気にせずに晴天の空をもう一度見上げる。
この世界へとやってきてどれぐらいの年が経ったか、ジューゴはその時の出来事を一つ一つ思い出していた。
前の世界で死に、若い頃の猿鬼や猿門や法子と出会い、自分が生まれていない時代へと飛ばされたジューゴは前の世界では出来なかったことをしようと動いていた。
前の世界では恋人同士であったハジメとは再会するのに時間がかかり、その分別の行動を起こして前の世界では救えられなかった人々を救っていき未来を変えていった。
そしてエルフたちを捕まえて地下牢獄へと監獄され、ジューゴは彼ら教育担当として看守長とは違う立場として南波刑務所へと滞在することになった。
いまは懲役は終了して外に出られるのだが、まだ自分がやるべきことがある事をハジメに伝え、現在はハジメと同棲し暮らしている。
これが決まった時の南波刑務所では、かなりの悲鳴や怒声が響き渡っていたのが懐かしいとジューゴはそう思った。
特に猿門とキジと犬士郎の反対派の声が凄く、それを聞いたムサシも参戦して大変な日々が続き、流石のハジメもキレて大戦争的なことが起きたのが言うまでない。それはのちにゴリラ大戦争と言われていたとかなんとか。
「このまま平和になるといいんだけどな……」
深く息を吐いたジューゴは片手を上げて太陽へとかざし、指の隙間から差し込む日差しに目を細めた。
手首にまだある黒い枷は外れておらず、これがまだあるという事は自分はまだバケモノであるのだと思い知らされる。
兎万兎にも力を借りて外せる方法を探しているが、それでもまだデータが足りずに外せられる方法は見つかっていない状態である。
手を伸ばしていた腕を床へと下ろし、ジューゴは両腕を組んで後頭部へと置いて足を組んだ。
「ま、悪い事が起きたらハジメに押しつければいいか……」
そう言ってのんきにあくびをこぼし、今日もハジメの怒声を聞きながら南波刑務所の屋上で日向ぼっこを楽しむのであった。
◇◇◇
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「痛い……」
結局、居場所がバレてしまい、ハジメからゲンコツを貰ったジューゴは痛む頭を擦りながら歩いていた。
ブツブツと文句を言っていると、隣に並んで歩いているハジメから大きな舌打ちが聞こえた。
「お前が勝手に居なくなるからだろ。ちったー反省しろ」
「これが俺のルーティンだから文句言われたくねーよ」
そう文句を言うと、また頭から強い衝撃と痛みが走った。
ジューゴは両手で頭を抱えてしゃがみこみ、言葉にならない声を上げる。
まだ舌を噛んでいなくて良かった方ではあるが、それでもこの隣にいるハジメは加減というものを知らない。
しかも殴ってる相手は恋人だというのに。ジューゴは顔を上げ、キッとハジメを睨みつく。
「普通、恋人を殴るか?!」
「恋人だろうがひいきはしねぇ」
「いや、まぁ、ひいきして欲しいとは思ってねーけど」
そう言いながらジューゴは思った。
「相変わらずの仕事人間」だと。
そういう所がカッコイイと、ジューゴは前の世界から何度も思い続けていた。
(頭硬い野郎だけど……それでも、優しい部分もあるんだよなぁ)
これを第三者が聞いていたら、きっと「なんでそんな奴、好きなんだよ」とツッコミが入っているかもしれない。
ジューゴはそれすらも想像出来てしまうのだから、溜息を吐いてしまう。
溜息を吐いた後、ジューゴはハジメに案内してもらっている道を歩きながら心の内に思っている言葉を語り出す。
「だけど、なーんか嫌な予感がするんだよなぁ……だって、猿鬼からの連絡だぜ?絶対に何かが起こる……」
これまでの経験上、猿鬼からの呼び出しはいい事はなかったのを思い出しながら、ジューゴはげっそりしていた。
今すぐに逃げたいし、できれば今からでも逃げていいんではないかと思ってしまうくらいである。
だが、もしここで逃げてしまえば隣にいるハジメとのデッド鬼ごっこが始まるのだから、結局はどちらも地獄の選択になるんだという事をジューゴはわかっていた。
(それにまた五舎へ来いとか言われるのめんどくさいし……)
ため息つきながら「行きたくない〜行きたくない〜」と、うだうだ言っているジューゴを見つめていたハジメも、苛立たせながらも重いため息をつくしかなかった。
ハジメ的にも猿鬼から話がきた時に、物凄く嫌な予感しかしなかったのだから。
大抵、ジューゴ関連の話になると仕事が出来なくなるか増えるかのどちらかになるか、その両方になるかによってハジメの胃痛も増える。
「「はぁ……」」
お互い溜息を吐きながら、キリキリ痛む胃あたりを手でさすって待ち合わせ場所へと向かって行った。
◇◇◇
ハジメに連れて行かれ、ジューゴは目的地である部屋の前に立ちながら扉を眺める。
待ち合わせ場所は前に猿鬼からは聞いていたが、それでも思っていたことを口に出したいと思い、ジューゴは閉じていた口を開いた。
「んで、なんでウノの娯楽部屋での待ち合わせなんだろーな」
「さあな。聞きたかったら大猿に聞け」
めんどくさいと言いたげな雰囲気を出しながら舌打ちをしているハジメに、隣で聞いていたジューゴはなんとなくどうして苛立っているのかはわかっていた。
半分は巻き込まれたくないのと、仕事をさせろと思っているのだろう。そして残りの半分はタバコを吸いたいと思っているのだろう。
ヘビースモーカーなのはわかっているからこそ、ジューゴはなんとなくハジメの心境を察することは出来た。
それをツッコミしたら、高確率で殴られることも大体察していたジューゴは軽くハジメの腕を叩きながら声を掛ける。
「ハジメ、大猿って言ったら失礼だろ。大猿に」
そう言って少しでも場を和ませようとしてみるが、ハジメの態度は変わっておらずジューゴの頭を軽く叩いてドアを開けて入っていった。
叩かれて残されたジューゴは殴られた頭を手でさすりながらも、先程のげんこつとは威力が違う事は気がついており、少しだけ笑みを浮かべてハジメの後を追って室内へと入っていった。
中へ入れば相変わらずウノの趣味に合わせて増えている遊具や家具などが置いてあり、数日くらい見ていなかっただけでここまで増えるものなのかとジューゴはそう思っていた。
少しだけから笑いしながら歩いていると、ジューゴの姿を見つけたウノとニコはジューゴへ向けて手を振って声を掛けた。
「おっ!ジューゴじゃん!」
「ジューゴくん、久しぶり~!」
二人の声が聞こえたジューゴも聞こえた方へと視線を向け、ウノとニコの姿を見たジューゴは片手を上げて軽く振りながら二人の元へと近づいた。
ウノとニコも数日ぶりにジューゴに会えて嬉しいのか、笑顔でジューゴを出迎えてくれることにジューゴも嬉しくなり笑みを浮かべた。
だが、この二人がいるのに肝心のもう一人の姿がない事に気がついたジューゴは周りを見渡しながら問い掛ける。
「そういや、ロックはどうしたんだよ?」
「ロックはいまシロの所に行ってるぜ」
そう受け答えるウノの話を聞いたジューゴは納得していたが、シロが新作の料理でも出したのだろうかと考えていた。
そうなると今日はロックには会えないで終わるのかと考えていると、ニコが元気よく手を上げた。
「なんでも、ジューゴくんに食べさせたいものがあるって言ってたよ!」
「俺に?」
まさか自分が関わっていたことにジューゴは驚いたが、それでもロックらしいと思い自然と口角を上げていた。
そしてジューゴは後頭部に腕を回して腕を組み、ニッと歯を見せる様に笑った。
「んなら、用事が終わっても待ってないといけないな」
ジューゴはウノとニコに向けてそう言うと、二人もジューゴの笑顔につられて笑っていた。
軽い雑談的な感じで話しをしているジューゴの後姿を眺めていたハジメは、軽く舌打ちをしてジューゴの元へと近づき肩を掴んで後ろへと引っ張った。
「おい、道草してねぇで行くぞ」
そう言うハジメに、ジューゴはいきなり引っ張られた事で驚いた表情をしているが、近くで見ていたウノは何となく察してニヒルな笑みへと変えた。
「なんだよハジメ~。お前、毎日ジューゴと一緒にいるんだから嫉妬すんなよ」
「あっ?毎日一緒にいるわけねーだろ」
ドス低い声でウノへと反感するハジメに、ウノとニコは「へっ?」と間の抜けた声を出した。
ジューゴとハジメが付き合い始めたことは、南波刑務所全員知っている。
もちろん同棲していることも。その時は、新年会以上の大戦争が起きていたことを知っているが。
だから毎日のように一緒に過ごしているものだとウノとニコはそう思っていたのだが、ハジメはジューゴに指差してさらに追い打ちをかけるように言い放つ。
「そもそも俺もコイツと会ったのは二週間ぶりだ」
「「えええええっ!?」」
さらなる爆弾発言に、流石のウノとニコも驚きの声を上げた。
まさかそんなに会っていなということにウノは「うわぁ」と引いた声を出しているが、身体も若干引きながら口元に手を当てていた。
「いや、ないわ~。付き合っている相手を二週間も会わないなんてないわ~」
「ジューゴくん、いつも一人で過ごしていたの?」
「いや、俺も兎万兎の研究に付き合わされたり、先生のアシスタントに行ったりしていて一人じゃなかったな」
お互いスケジュールがうまく合っていなという事を告げると、ウノとニコは哀れな眼差しでハジメへと向ける。
いくら恋人同士になっているとしても、まさかここまで妨害されて二人っきりになれていないのは流石に可哀想すぎると思ったのだろう。
そんな二人の視線をなんとなく察したハジメは右手に拳を作り、ウノとニコの頭へ向けて思いっ切り殴った。
「「いったーい!」」
殴られた頭を手を当てて泣き叫ぶウノとニコに、ジューゴはどうしようかと悩んでいるとハジメに手首を掴まれて無理矢理引っ張られてしまう。
「ちょっ!ハジメ!」
「さっさと終わらせて俺は仕事に戻りてーんだよ」
そう言ってぐいぐい引っ張っていくハジメに、ジューゴはウノとニコがいる方へと視点を向けて「わりぃ!」とだけ言い残しその場から離れていき、猿鬼が居る場所へと向かって行ったのだった。
◇◇◇
あれからずっとハジメに手を掴まれたまま歩いているジューゴは、歩みを止めずにハジメの背中をジッと眺めた。
いつもならばすぐに手を離すのに、離す様子がないことにジューゴは笑いそうになるがハジメにはバレないように内心クスッと笑った。
(本当に素直じゃねーんだからな)
そう内心思いながらジューゴは手から感じる温もりを味わい、歩き続けていると急にハジメの足が止まり、繋がれていた手が離された。
離れていく温もりにジューゴは少し寂しさを感じていたが、ハジメが手を離した理由は大体わかっており、前から来る気の気配にジューゴはハジメの背中から顔を出した。
「よっ、猿鬼」
「ジューゴ」
待ち合わせの時間が若干過ぎていたのか、猿鬼の表情が少し不機嫌になっていることに気がついた。
ジューゴは「あちゃ~」と怒られる可能性が高いと思いながら、どう言い訳をしようかと考えていると猿鬼は軽く溜息をついている。
これは怒られるかとジューゴは両腕を上げて少し構えようとしたが、猿鬼は特に怒る様子を出しておりジューゴは不思議に思って構えていた腕を下ろした。
叱る時間も惜しいのか猿鬼はジッとジューゴを見下ろしながら口を開いた。
「ジューゴ。実は会わせたい奴らがいるんだが」
そう言ってくる猿鬼の言葉に、ジューゴはもの凄く嫌な予感がした。
そして、聞こえてくる足音。しかもかなり早いものであり、さらに背後から感じた気の気配にジューゴは後ろへと身体を向けてみたらーーーー
「おかーさーん!!」
「っ!」
白い作業着の服装で、白いショートヘアーの青年が両腕を広げて猪のように突っ込んできていた。
ジューゴはそれを見て瞬時に避け、男子はそのまま壁へと激突し、その衝撃で強い揺れが起きた。
地震のように揺れ動く床に、ジューゴや猿鬼達は上手くバランスを取って倒れずに済んだ。
そして、ジューゴは激突した方の壁へと視線を向け引きつった顔をしていた。
「あっぶね〜。モロに食らってたら骨何本かイッてた……」
激突した壁には大きな穴と、崩れ落ちている壁の破片を眺めながらジューゴは冷汗を垂れ流している。
その音と地震の原因で少し離れて居たウノとニコも「なんだなんだ」と騒ぎながら、ジューゴ達がいるところへと走って向かってきた。
ジューゴに怪我はないかや、何が起きたのかと質問攻めしているときに、ジューゴの先にある瓦礫が動き出しそこから顔を出した。
「お母さん!」
「「わーーーーっ!」」
突然出てきた男子にウノとニコは驚きの声を上げているが、ジューゴは特に驚きもせずに瓦礫から降りてきた青年は両腕を広げてジューゴの元へと駆け寄って来た。
「お母さん!お母さん!」
青年はジューゴに向かってそう言い、ジューゴの頬と自身の頬を当てて擦り上げてながらぴょんぴょんと跳ねていた。
それを近くで聞いていたハジメもウノもニコも驚いた表情をして固まったままであり、ようやく我に返ったウノが肩を震わせながらジューゴに向けて指を指した。
「ジューゴ、おまっ!女だったのかよ!?」
「ちげーよ!俺は立派な男だ!」
猫のようにごろにゃんと懐いている青年を少し引き離したジューゴは否定の声を上げていると、無視されていることに不満を感じたのか青年はジューゴの服を掴んで軽く引っ張った。
「お母さん、ボクのこと無視しないでよ」
「お、おう。随分と大きくなったな……ザクロ」
ジューゴがやっとこちらへ向いてくれたことに嬉しく感じたのか、ザクロと呼ばれた青年は満足そうな笑みを浮かべてジューゴを抱き締めた。
「やっとお母さんに会えて嬉しいよ!」
「俺も、お前に会えて嬉しいぜ」
少しから笑いしながらもジューゴは、抱き着いているザクロの姿をもう一度見てみる。
最後に会ったのは五年くらいだった為、こうして大きく成長しているのは喜ばしい事だとジューゴはそう思った。
前の世界でも怪力だったが、それがさらに強化されてしまっているような感じはしたが、そこはあえて考えないでおこうと現実逃避をするジューゴであった。
ニコニコ笑顔を向け続けていたザクロは急に冷たい笑顔へと変わり、そして腕に力を入れてジューゴを離さない様にした。
「んで、お母さんを無理矢理襲ったクソゴリラって誰?」
そう言うザクロにジューゴは背筋がゾッと寒気が走った。
これはまずい展開が起きた。と、ジューゴはそう思っていると、ザクロは気にせずに首を傾げながらジューゴの返答を待っている。
しかもザクロの瞳孔が見開いていて、光もなくて殺気立っていた。
この眠れる獅子をどう起こさずにすむのかと、ジューゴは言葉を選びながらも説得に試みた。
「ザクロ、落ち着け。俺は襲われてないし、俺はちゃんと好きだから付き合っているんだ」
「でも、法子さんと猿鬼さんが、お母さんの意思も聞かずに付き合い始めたって言ってたよ?」
「いや、ちゃんと俺の意思も尊重して付き合ってるから」
「ボクにも紹介してないって事は、そういう事なんでしょ?」
「いや、だから伝えるのが遅くなっただけだって」
ジューゴがあれこれ言っても、ザクロは「違うよね?」と瞳孔を開いたまま首を傾げたまま問い続ける。
このままじゃただのイタチごっこだと思いながらも、どう説明して納得させるべきなのかとジューゴは考え込んでいると、突然ザクロに両肩を掴まれた。
「それにボク的には、お母さんは法子さんか猿鬼さんと結婚してほしいんだけど!それかボク!ボクと結婚しよう!」
「なんでそうなるんだよ!」
何故ここで法子と猿鬼の名前を出され、さらに自分を結婚候補として名乗り上げるのかジューゴは頭が痛くなりながらもツッコミをした。
このままでは埒が明かないと考えたジューゴはため息を吐き、ザクロの両肩を掴んで引き離す。
「まぁ、お前に紹介が遅れたのは悪かった。今から会わせてやるから落ち着け。瞳孔がこれでもかって見開いてるから」
そう言い、ジューゴは少し遠くでいつの間に居たのかキジと仁志に捕まっているハジメに向けて手招きをしながら声を掛けて呼びかける。
このきっかけが、ジューゴにとってさらなる地獄へと化していくき、数分前の自分を呪うかのように頭を痛めていくのは知る由もない。
続くっ!
2021/08/27
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