プロローグ
シェール家はガストラ帝国の中でもそこそこ名のしれた名家であった。
セリスはそんな家に長女として生まれ、彼女が2つになるとき弟が生まれた。
両親は軍人で、彼女が6つの時に魔物討伐の任務に出て、帰らぬ人となった。
両親の親…つまりセリスにとっての祖父母にあたる人物も早くに亡くなっており、それ以降、セリスにとっての家族は小さな弟だけで、彼女にとってはこのたった一人の弟が、自分の全てと言っても過言ではなかった。
何故なら、幼かったセリスにとって常に多忙で家を留守にしていた両親との思い出は、想像以上に少なかったのだ。
孤児になってしまったセリスと弟だったが、両親が帝国軍の中でも指折りの実力者であり地位もあったためなのか、驚くことに皇帝であるガストラ自らが後見人になろうと声を上げた。
しかしガストラ皇帝は、セリス達に自らが後見人になることを条件に、彼女らに魔導実験に参加するよう要求した。
それは幻獣と呼ばれる生物から取り出した魔力と呼ばれるものを人間の体に注入し、幻獣のみが使うことのできる魔導の力を、人間もまた使えるようにするという内容のものである。
責任者のシド博士によれば、この研究はセリス達が生まれる以前から続けられていたらしい。
魔導注入にはリスクが伴い、精神にダメージ受け人格が崩壊することもあるという。
そのせいで、実験を初めたばかりの頃は被験者が次々に精神崩壊を起こし、次第に死んでいったのだそうだ。
実験当初に被験体となり、精神が壊れつつも生きながらえているのは、ガストラの傍に遣えるケフカという男のみである。
セリスはそれを聞くと、弟の参加だけは拒否した。
恐ろしい実験を受けるのは自分だけでいいと。
そうなればガストラの後見を弟は受けられなくなるが、それならば自分が弟の後見人になればいい。自分が強くなり、帝国に貢献すれば問題はないとガストラに訴えた。
ガストラはそれを了承し、セリスは魔導実験を受け…見事、精神崩壊を起こすことなく、魔導の力をその身に宿すことに成功する。
セリスは精神面と肉体面の両方を踏まえ、実験に成功した第二例となった。
第一例はセリスより年上の少年で、本人が志願したのだという。
そしてセリスはガストラが用意した家庭教師の元で文字の読み書き等を学び、14になる頃にはガストラの命令で士官学校に入学することになるのだが、それは彼女にとって願ってもいないことだった。
何故ならセリスが軍の士官学校に入学し兵士を目指すということは、ただ一人の家族である弟を守るために強くなるため、地位を得るために必ず通らなくてはならない道なのだから。
彼女は弛まぬ努力を重ね、戦術の知識を瞬く間に身に着け、剣術の才能を見事に発揮し、いつしか幾多の男達を退け、士官学校の主席になるまで至った。
そして、普通ならば士官学校の卒業まで軍への入隊は認められていないのだが、セリスは特例で16になった暁月には軍へ入隊する事が決まった。(士官学校は4年制であるため、本来ならばセリスの卒業は2年後である。)
今年で15の誕生日を迎えたセリスが軍に入るのは、約1年後だ。
中にはセリスの待遇に嫉妬する者、異を唱える者もいたが、彼女の成績や実力をその目で見てしまえば、誰もが黙って納得するしかなかった。
そんなセリスがガストラ皇帝から呼び出されたのは、学校がなく彼女が家で弟に勉強を教えている時だった。
誰よりも何よりも大切な弟との時間であったが、皇帝からの呼び出しを無視することはできない。
寂しそうに自分を見送る弟に胸を痛めながら、セリスは登城した。
そこで、一人の青年と顔を合わせることになる。
竜胆色の髪に氷のような緑がかった青の瞳。
驚くことに傍らに魔物であるトンベリを従え、皇帝の傍らに悠然と佇み此方を見下ろしていた。
セリスが跪くと、ガストラが口を開いた。
「セリスよ、紹介しよう。スサヤ家の次期当主であり我が帝国軍の歩兵部隊を指揮するクサラメ・スサヤだ」
ガストラが目配せすると、クラサメは目を伏せセリスに向けて軽く一礼した。
彼の足元にいるトンベリもまた、彼の仕草を真似して頭を下げていた。
「…クラサメと申します。お噂は、かねがね」
驚いたことに、クラサメはセリスの事を知っていた。
しかし無理もないだろう。
士官学校にて、少女でありながら主席を取り、卒業を待たずして軍への入隊が確定している…セリスの名が知れ渡っていても、無理はない。
しかしあまり周囲に関心のないセリスは、自分がいかに有名で注目されているのか、全く知らなかった。
その後、セリスはクラサメと婚約関係を結ぶことになることをガストラから言い渡され、目を見開くことになるのだった。
ーーーーーーーーー
クラサメは、セリスと8つほど年の差があった。
スサヤ家の長男で、30になると当主の座を受け継ぐのだという。(現在、クラサメは23である。)
幼い頃に魔導注入を受け魔法を身に着け、士官学校は主席で卒業し、剣術に長け…など、セリスとの共通点が多かった。
いつまでも結婚相手を見つけてこず、20代半ばに差し迫ろうとしているクラサメに痺れを切らした両親がガストラに申し出た所、ガストラがセリスの名を挙げたというわけだ。
シェール家は名家の一つで、孤児であるものの実質その現当主であるセリスは士官学校の主席、さらに軍に入ることを約束され、ガストラが後見人である。
彼女が成人すればシェール家の再興もすぐに成されるだろう。
クラサメの両親はガストラの一声もあってか、快くセリスと息子を婚約させることを承諾したらしい。
セリス自身もまた、ガストラの言葉には逆らえない。この話を受けるしかなかった。
しかし大きな問題が一つあった。
……弟は、大事な弟はこれをどう思うだろう、と。
ガストラの手引きで顔を合わせたその後は、二人でベクタ内を歩きつつ会話を交わした。
クラサメ自身は、とてもいい人物だった。
氷剣の死神と恐れられ、トンベリを引き連れていたりする変わった面もあるが、彼自身は口下手であるものの優しく誠実そうな印象を受けた。
トンベリと出会ったのは任務先でのことだったという。
負傷していたらしいトンベリを拾い、介抱してやったのだそうだ。
しかしその理由については本人もわかっていないようだった。
「トンベリが怪我をしているのは何故か見るに耐えなくてな。体が勝手に動いてしまっていた」
言いながらクラサメはトンベリを見下ろした。
トンベリはそれに気づくと手に持った包丁を掲げ何度も頷いている。
クラサメの行動は正しいものだ、と言わんばかりだ。
セリスはその光景に笑みを溢さずにはいられなかった。トンベリは、小さい体であるものの、実は魔物の中ではトップクラスの強さを持ち、人からは恐れられ、出会ったのなら速やかに逃走するべき存在である。
そんなトンベリが一人の人間に懐き、こうして行動をともにしている。
驚くべき光景であるのは間違いないが、心を通わせれば人と魔物は共存できると思い知らされるものだった。
クラサメを見ていて、セリスは感じた。
彼なら自分と同じように弟のことも大切に扱っめてくれるのではないか、と。
セリスの弟は、セリスが大切に育ててきた、ただ一人の家族であり肉親だ。
過保護に育てすきだおかげで人見知りが激しく、セリスの判断でほとんど家を出さず人にも会わせていない。つまり完全な箱入りである。
…にも関わらず素直で優しく、繊細な性格の持ち主に成長した。
更に容姿を説明すると、弟は絹糸のように手触りのよく美しい金の髪を持ち、藍色の瞳は宝石のように大きくぱっちりとしてして、少年とは思えないほどに少女のような面持ちをしており、体も華奢でか細く、その姿を見たら守りたいと思わずにはいられない。
まさにセリスの宝物そのものだ。(セリスもまた容姿には優れていたが、それは母親がベクタ内でも1位2位を争うほどの美女だったために、その遺伝子を受け継いだのだろう。)
クラサメにもまた、自分が大切に育ててきたこれからも守るべき宝である弟を宝のように扱ってほしいと思うのは厚かましいだろうか。
しかしそれほどにセリスにとっては大切なのである。
まずクラサメと会わせ、弟が彼を拒絶したら…例えガストラの命に背くことになったとしてもこの婚約は破棄しよう。
セリスは心の中で決心した。
やはり、彼女の中では弟が第一で最優先である。
逆に弟がクラサメを受け入れたのならば、自分もまた彼を受け入れることとしよう、とも。
そう思えてしまうほどに何故かクラサメの隣は、想像よりずっと居心地がよかった。
「クラサメ殿、今度私の家に招いても良いだろうか?」
「構わない。今度邪魔しにいこう。確か…君には弟がいたな?」
「ああ、2つ下の」
「そうか……なら……」
クラサメは前を見据えたまま黙り込んでしまった。
セリスは何事かと彼を見上げるものの、次にクラサメが何を考えてているのか、なんとなく把握することができた。
彼は恐らく、自分の弟への手土産を考えているのだ。
セリスは小さく笑う。
「あの子はチョコボが大好きだ。あとは、本を読んだり…」
「…チョコボか。あまりここ周辺では見ないが」
「一度ツェンに出掛けた帰りに、チョコボに乗ってからな…それから夢中らしい」
「なるほど」
何か思いついたのだろうか、クラサメは納得した様子で一人頷いていた。
さて、自分は彼と弟を会わせるための、スケジュールを考えなければならない。
まずは婚約者ができたことから話すべきだろう。
…心優しい弟のことだ。もしかしたらクラサメを拒絶したくとも、自分のことを思い無理矢理にでも受け入れるかもしれない。
そうならないように、弟が自分の気持ちを抑えてしまわないように、ちゃんと弟の事を見ていてやらなければならない。
セリスもまたクラサメと同じように一人頷くと、目の前に広がるベクタの街を見つめた。
ーーーそして、クラサメと弟を引き合わせたことにより、セリスの運命も弟の運命も、いいやクラサメの運命まで、大きく回り始めるのである。
セリスはそんな家に長女として生まれ、彼女が2つになるとき弟が生まれた。
両親は軍人で、彼女が6つの時に魔物討伐の任務に出て、帰らぬ人となった。
両親の親…つまりセリスにとっての祖父母にあたる人物も早くに亡くなっており、それ以降、セリスにとっての家族は小さな弟だけで、彼女にとってはこのたった一人の弟が、自分の全てと言っても過言ではなかった。
何故なら、幼かったセリスにとって常に多忙で家を留守にしていた両親との思い出は、想像以上に少なかったのだ。
孤児になってしまったセリスと弟だったが、両親が帝国軍の中でも指折りの実力者であり地位もあったためなのか、驚くことに皇帝であるガストラ自らが後見人になろうと声を上げた。
しかしガストラ皇帝は、セリス達に自らが後見人になることを条件に、彼女らに魔導実験に参加するよう要求した。
それは幻獣と呼ばれる生物から取り出した魔力と呼ばれるものを人間の体に注入し、幻獣のみが使うことのできる魔導の力を、人間もまた使えるようにするという内容のものである。
責任者のシド博士によれば、この研究はセリス達が生まれる以前から続けられていたらしい。
魔導注入にはリスクが伴い、精神にダメージ受け人格が崩壊することもあるという。
そのせいで、実験を初めたばかりの頃は被験者が次々に精神崩壊を起こし、次第に死んでいったのだそうだ。
実験当初に被験体となり、精神が壊れつつも生きながらえているのは、ガストラの傍に遣えるケフカという男のみである。
セリスはそれを聞くと、弟の参加だけは拒否した。
恐ろしい実験を受けるのは自分だけでいいと。
そうなればガストラの後見を弟は受けられなくなるが、それならば自分が弟の後見人になればいい。自分が強くなり、帝国に貢献すれば問題はないとガストラに訴えた。
ガストラはそれを了承し、セリスは魔導実験を受け…見事、精神崩壊を起こすことなく、魔導の力をその身に宿すことに成功する。
セリスは精神面と肉体面の両方を踏まえ、実験に成功した第二例となった。
第一例はセリスより年上の少年で、本人が志願したのだという。
そしてセリスはガストラが用意した家庭教師の元で文字の読み書き等を学び、14になる頃にはガストラの命令で士官学校に入学することになるのだが、それは彼女にとって願ってもいないことだった。
何故ならセリスが軍の士官学校に入学し兵士を目指すということは、ただ一人の家族である弟を守るために強くなるため、地位を得るために必ず通らなくてはならない道なのだから。
彼女は弛まぬ努力を重ね、戦術の知識を瞬く間に身に着け、剣術の才能を見事に発揮し、いつしか幾多の男達を退け、士官学校の主席になるまで至った。
そして、普通ならば士官学校の卒業まで軍への入隊は認められていないのだが、セリスは特例で16になった暁月には軍へ入隊する事が決まった。(士官学校は4年制であるため、本来ならばセリスの卒業は2年後である。)
今年で15の誕生日を迎えたセリスが軍に入るのは、約1年後だ。
中にはセリスの待遇に嫉妬する者、異を唱える者もいたが、彼女の成績や実力をその目で見てしまえば、誰もが黙って納得するしかなかった。
そんなセリスがガストラ皇帝から呼び出されたのは、学校がなく彼女が家で弟に勉強を教えている時だった。
誰よりも何よりも大切な弟との時間であったが、皇帝からの呼び出しを無視することはできない。
寂しそうに自分を見送る弟に胸を痛めながら、セリスは登城した。
そこで、一人の青年と顔を合わせることになる。
竜胆色の髪に氷のような緑がかった青の瞳。
驚くことに傍らに魔物であるトンベリを従え、皇帝の傍らに悠然と佇み此方を見下ろしていた。
セリスが跪くと、ガストラが口を開いた。
「セリスよ、紹介しよう。スサヤ家の次期当主であり我が帝国軍の歩兵部隊を指揮するクサラメ・スサヤだ」
ガストラが目配せすると、クラサメは目を伏せセリスに向けて軽く一礼した。
彼の足元にいるトンベリもまた、彼の仕草を真似して頭を下げていた。
「…クラサメと申します。お噂は、かねがね」
驚いたことに、クラサメはセリスの事を知っていた。
しかし無理もないだろう。
士官学校にて、少女でありながら主席を取り、卒業を待たずして軍への入隊が確定している…セリスの名が知れ渡っていても、無理はない。
しかしあまり周囲に関心のないセリスは、自分がいかに有名で注目されているのか、全く知らなかった。
その後、セリスはクラサメと婚約関係を結ぶことになることをガストラから言い渡され、目を見開くことになるのだった。
ーーーーーーーーー
クラサメは、セリスと8つほど年の差があった。
スサヤ家の長男で、30になると当主の座を受け継ぐのだという。(現在、クラサメは23である。)
幼い頃に魔導注入を受け魔法を身に着け、士官学校は主席で卒業し、剣術に長け…など、セリスとの共通点が多かった。
いつまでも結婚相手を見つけてこず、20代半ばに差し迫ろうとしているクラサメに痺れを切らした両親がガストラに申し出た所、ガストラがセリスの名を挙げたというわけだ。
シェール家は名家の一つで、孤児であるものの実質その現当主であるセリスは士官学校の主席、さらに軍に入ることを約束され、ガストラが後見人である。
彼女が成人すればシェール家の再興もすぐに成されるだろう。
クラサメの両親はガストラの一声もあってか、快くセリスと息子を婚約させることを承諾したらしい。
セリス自身もまた、ガストラの言葉には逆らえない。この話を受けるしかなかった。
しかし大きな問題が一つあった。
……弟は、大事な弟はこれをどう思うだろう、と。
ガストラの手引きで顔を合わせたその後は、二人でベクタ内を歩きつつ会話を交わした。
クラサメ自身は、とてもいい人物だった。
氷剣の死神と恐れられ、トンベリを引き連れていたりする変わった面もあるが、彼自身は口下手であるものの優しく誠実そうな印象を受けた。
トンベリと出会ったのは任務先でのことだったという。
負傷していたらしいトンベリを拾い、介抱してやったのだそうだ。
しかしその理由については本人もわかっていないようだった。
「トンベリが怪我をしているのは何故か見るに耐えなくてな。体が勝手に動いてしまっていた」
言いながらクラサメはトンベリを見下ろした。
トンベリはそれに気づくと手に持った包丁を掲げ何度も頷いている。
クラサメの行動は正しいものだ、と言わんばかりだ。
セリスはその光景に笑みを溢さずにはいられなかった。トンベリは、小さい体であるものの、実は魔物の中ではトップクラスの強さを持ち、人からは恐れられ、出会ったのなら速やかに逃走するべき存在である。
そんなトンベリが一人の人間に懐き、こうして行動をともにしている。
驚くべき光景であるのは間違いないが、心を通わせれば人と魔物は共存できると思い知らされるものだった。
クラサメを見ていて、セリスは感じた。
彼なら自分と同じように弟のことも大切に扱っめてくれるのではないか、と。
セリスの弟は、セリスが大切に育ててきた、ただ一人の家族であり肉親だ。
過保護に育てすきだおかげで人見知りが激しく、セリスの判断でほとんど家を出さず人にも会わせていない。つまり完全な箱入りである。
…にも関わらず素直で優しく、繊細な性格の持ち主に成長した。
更に容姿を説明すると、弟は絹糸のように手触りのよく美しい金の髪を持ち、藍色の瞳は宝石のように大きくぱっちりとしてして、少年とは思えないほどに少女のような面持ちをしており、体も華奢でか細く、その姿を見たら守りたいと思わずにはいられない。
まさにセリスの宝物そのものだ。(セリスもまた容姿には優れていたが、それは母親がベクタ内でも1位2位を争うほどの美女だったために、その遺伝子を受け継いだのだろう。)
クラサメにもまた、自分が大切に育ててきたこれからも守るべき宝である弟を宝のように扱ってほしいと思うのは厚かましいだろうか。
しかしそれほどにセリスにとっては大切なのである。
まずクラサメと会わせ、弟が彼を拒絶したら…例えガストラの命に背くことになったとしてもこの婚約は破棄しよう。
セリスは心の中で決心した。
やはり、彼女の中では弟が第一で最優先である。
逆に弟がクラサメを受け入れたのならば、自分もまた彼を受け入れることとしよう、とも。
そう思えてしまうほどに何故かクラサメの隣は、想像よりずっと居心地がよかった。
「クラサメ殿、今度私の家に招いても良いだろうか?」
「構わない。今度邪魔しにいこう。確か…君には弟がいたな?」
「ああ、2つ下の」
「そうか……なら……」
クラサメは前を見据えたまま黙り込んでしまった。
セリスは何事かと彼を見上げるものの、次にクラサメが何を考えてているのか、なんとなく把握することができた。
彼は恐らく、自分の弟への手土産を考えているのだ。
セリスは小さく笑う。
「あの子はチョコボが大好きだ。あとは、本を読んだり…」
「…チョコボか。あまりここ周辺では見ないが」
「一度ツェンに出掛けた帰りに、チョコボに乗ってからな…それから夢中らしい」
「なるほど」
何か思いついたのだろうか、クラサメは納得した様子で一人頷いていた。
さて、自分は彼と弟を会わせるための、スケジュールを考えなければならない。
まずは婚約者ができたことから話すべきだろう。
…心優しい弟のことだ。もしかしたらクラサメを拒絶したくとも、自分のことを思い無理矢理にでも受け入れるかもしれない。
そうならないように、弟が自分の気持ちを抑えてしまわないように、ちゃんと弟の事を見ていてやらなければならない。
セリスもまたクラサメと同じように一人頷くと、目の前に広がるベクタの街を見つめた。
ーーーそして、クラサメと弟を引き合わせたことにより、セリスの運命も弟の運命も、いいやクラサメの運命まで、大きく回り始めるのである。