冬の寒さが身を刺す頃私は、沖田さんと一緒にお出かけをしていた
特に理由もなくこの寒空の下で川端を歩いているのが寂しかった
普段と変わらない様子の沖田さんが何かを演じているように思えてならなかったからだ
沖田さんと炭を買ったりご飯を買ったりなどしながら歩く京の町を見回していた
特に殺気だった様子もなければ人気もいつもより少ない
それが余計私の心を不安させた
買い物は済んだというのに川端でのんびりと歩く
あの沖田さんが菓子屋まで奢ってくれたりして
私は沖田さんの言葉にぎこちなく微笑むしかなかった
『こんな機会なかなかないから大事に食べなよ』
そう言葉に影を含み、いよいよこの寒空の下で切り捨てられるのではと味がわからぬ甘味を鈍臭く食べた
此方は所作をいちいち気にしているのに対して興味がないのがわかっているけど緊張せざるおえない
そうして茶を飲んでからずっと空白の時間が続き寒さも相まって何時間もいたような気さえする
ぼーっと長椅子から川の流れを見ていたら突然沖田さんが帰るよと私が荷物を持つのも待たずに先に歩き出してしまった

私は沖田さんのよほどこの時間が退屈だったのだという仮面が少し見えたようでその背を駆け足で追いかけた
沖田さんは私を気にせず、足早と屯所に帰って行く
今までの時間稼ぎのような歩き方ではない
息を切らして張っている足をなんとか前に出す
私は沖田さんに待ってくださいが言えない
だからこんな重い荷物を無理して運ぶしかなかった
久しぶりに歩いた足がズキズキと痛む
草鞋はやはり辛い
もう少しで着くと何度も頭で唱えながら全く後ろを見ない沖田さんの単調な足音を聞いていた
漸くついたと思ったら沖田さんが持っていた荷物を預けられ後はよろしくと部屋に戻っていってしまった
気が抜けた私は痛みを我慢してよろよろと倒れかけながら、屯所に荷物を置いて決まった場所に整理していった
やっとの思いで部屋に戻り足袋を脱ぐと足の付け根あたりが少し血で濡れていたのを目にして冷や汗をかき、慌てて畳を見ると血で濡れていなくてホッとした
私は頭があまりよろしくないから、かすかな血の匂いが自分の足のものであると勘違いしていた
部屋から出て山崎さんを見つけようとしたら角からつまらなそうな顔で見てくる沖田さんがいた
思わずびくりとして後ずさりして道を開けるがズイズイと寄ってくるものだから壁とぴったりくっつきながら心臓が鼓動を立てた
『変な歩き方して、柔い足なんだね』
しゃがまれて足を見られて慌てて私もしゃがんで隠した
『すっすいません』
『謝らなくていいよ別に』
おいでと手を引かれて、薬特有の匂いが混ざった部屋に連れていかれた
『待ってぐらいいいなよ、薬もタダじゃないんだから』
そう文句を言いつつ慣れてない手つきで薬を探し、適当なものを塗ってくれた
私がしますとも言えずにがっしりと足を捕まえられるとじっとみては乱暴に塗られた
思わず痛みに強張る体をよそにもう片方の足にも塗ってゆく
ついでにグニグニと此方の体制を考えずに足を触られる
『随分と綺麗な足だね…』
と皮肉を込めて笑っているのが目に入る
苦労知らずと言いたいのだろう
私はそれでもありがとうございますというと笑顔を崩さず、痛みを堪えて立ち上がった
出されたものの位置を確認していたのでそのまま戻すと沖田さんは用が済んだように部屋を出て行った

私が怪我で落ち込んでいたせいだろうかまだ日が浅いからだろうか皆の雰囲気が異様なのに気づけなかった

そして誰かがいなくなったことなど知らないまま屯所で過ごすのだった