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おはなし



*くっついてる時空





最近、ここ数日、弁当が俺のことを避ける。
例えば昼。ご飯食べよーって学食行って、伏見がいたり小野寺がいたり、他のやつがいる時には、距離を置かれる。隣に座っても、半身引かれたり。前に座ったら、絶対視線が合わなかったり。斜めに座ったら、もう会話すら通らないと思った方がいい。しかもそれらは、他のやつが一緒にいる前提なだけで、二人の時はそもそも一緒に飯に行ってくれない。前までは、そんなことなかった。
例えば夕方。もしくは夜。授業終わって、帰ろっかーってなって、家まで行かない時にも駅までは一緒に帰ってたはずなんだけど、弁当がマッハでいなくなってしまうせいで俺は一人残される。マジで、置いていかれる、って単語ががっちり当てはまる感じ。それじゃあまた明日、が聞こえれば良い方で、振り返ったら大概いないし、弁当は俺に追いかけられると捕まることをよく分かっているので、念入りに撒かれる。逃げられている感がものすごい。
家に遊びになんてもちろん行かせてもらえないし、二人きりにならないように巧妙に避けられ続ける。なんなら、授業受ける時に席が隣同士にならないように間に誰か挟まれたりする。なにがすごいって、鈍感な小野寺はともかく、そういう人間関係の変化に超絶敏感な伏見になにも突っ込まれないことだ。いつもなら絶対気づくのに。ちょっと弁当がぷんすかして俺のこと突き放しただけで、なんかあった?とか、喧嘩したの?って聞かれたこと、何度もあるのに。むしろ「弁当なんか怒ってるんだけど有馬なんかしただろ」って先読みしてキレられたことあるぐらいなのに。それを踏まえてバレないように俺を避け続ける弁当がすごい。どういう執念だよ。
あれ?俺って弁当に嫌われてたっけ?そんなまさか、むしろ好きなはず。多分。そうだったよな?もしかして俺の記憶違い?怪しくなってきたんだけど、俺って弁当と付き合ってたよな?そう誰かに確認しようにも、俺と弁当が付き合っていることは誰にも言っていないので、弁当に確認するしかない。でも、ここ最近避けられ続けている。どういうことだよ。
「俺、なんかしたかなー」
「……………」
「なあ。なんかしたかなあって。心当たりないんだけど」
「……………」
「聞いてる?」
「……俺今何してる?」
「レポート作ってる」
「このレポート明日までに出さないと単位終わるんだけど」
「俺なんかしたっけなあ」
「お願いだからどっか行って」
「なあ!」
「お願い」
と、いうわけで。小野寺は使い物にならなかった。時たま本当にやばい時だけ出す伏見禁止令を自分に課してまでレポートを片付けようとしてるので、しょうがない。しょうがないよな、ついこないだの追試落ちてたし。俺はギリセーフだった。マジでめっちゃギリ。三択問題であてずっぽしたやつの運が良かっただけ。
しかしながら、じゃあ伏見にでも聞くかと思ったけど、面倒だからと知らんぷりされるか、なにかを知ってる上で誤魔化されるか、変な風に首を突っ込まれて引っ掻き回されるか、どれにしろあまり問題が前進する気はしない。最後のに落ち着いちゃった場合が一番最悪だ。伏見は基本的には弁当の味方しかしないので。さて、困った。けどまあ、そうなってしまえば俺に出来ることなんてとても限られているのだ。
「……ぁ、え?」
「お。おかえりー」
「……ただいま……」
例えば、弁当の家の前でもう直接本人を待ってるとか。
弁当が五限まであって、俺が昼までの日がちょうどあったから、その日をわざと狙った。逃さないようにって家の前でしばらく待ってなきゃいけなかったけれど、それは特に苦ではない。踵を返して逃げられたら走って追おうと思っていたけれど、そんなこともなく。ぎょっとした感じで固まったのから数秒で蘇生した弁当は、どうしたの、と訝しげに鍵を取り出した。うーん?避けられてたよな?その割には、態度が普通なんだけど。てっきり俺、自分がなんかしちゃって、怒らせてるとか悲しませてるとかで、避けられてるもんだとばっかり。
家主に続いて家に入る。靴を脱ぎ散らかすと呆れた顔をされるので、ちゃんと揃えた。手洗いうがいをして、何か飲む?と言われて、お互いにコップと飲み物を用意して。途中、前回この家に来た時に買っておいた期間限定のポテトチップスを発見してしまって、うっかりここに来た理由を忘れるところだった。危ない。食べないで取っといてくれたのが嬉しくて。
「弁当さあ、なんか俺、やなことした?」
「……え?なんで?」
「んー……マジで違うっぽいな……」
「別に何も……俺になんかしたの?有馬」
「してないと思う……」
単刀直入に聞いたものの、やっぱりどうも違うみたいだった。間があったのは、「は?」っていう感情がたっぷり含まれた訝しげな表情のせいだ。流石にそこまで演技じゃない、と思うんだけど、多分。じゃあどうして最近ずっと避けてたの、と聞けば、そっちには心当たりがあるらしく、ぐっと唇を閉じられた。
「正直に言いなさい」
「……別に避けてない」
「嘘つくたびにこの家から帰らない日を増やすぞ」
「……………」
そんな嫌そうな顔する?いや、嫌がられるだろうから言ったんだけど、傷つくんだけど。深く溜息をついた弁当が、話し出した。



「あ、の。伏見くん、たちって、有馬くんと、仲良いよね」
おずおずと、恐る恐る言い澱みながらそう言われて、とりあえず頭の中で彼女のことを検索した。肩より下の黒髪。大人しそうな服装。顔は見たことある。ええと、伏見と一緒の授業で一緒だった、はずの人。被ってたのは去年だし、それ以外の授業では見たことがない。必修じゃなくて選択だったから、学科違いなのかも。人を思い出すことにかけては俺よりも数倍頭の回転が速い伏見が、そうかなー、と苦笑っている。たち、って言うぐらいだし、多分この子は俺の名前とか知らないし、俺もこの子の名前知らないし、用事があるのは伏見の方なんだろうな、と思って黙っている。真っ直ぐな黒髪を揺らして、おろおろした彼女が、口を開く。
「あの、……ええと……」
「有馬になんか用?呼ぼうか?」
「あっやっ、そ、っそういうことじゃ……あのこれ、この前忘れ物してたの、見つけて、渡したくて……」
「うん」
「……あの……」
差し出された紙袋を受け取りかけた伏見が、手を止めた。えー、やっぱめんどくさいなー、俺この後バイトだし。なんて白々しいことこの上なく零した伏見が、スマホを取り出した。
「自分で連絡する?」
「えっ」
連絡先教えてあげるから、そっちの連絡先をまず俺に教えてくれる?とやりとりし始めた彼女と伏見から目を外して、なんとはなしに自分の膝を見下ろした。連絡先を教えて。忘れ物を渡したくて。「届けておいてほしい」とは彼女は決して口にしなかった。自分で届けたいから。きっかけが欲しいから。妬みとか僻みとかじゃなく、ただなんとなく、足元に泥が蟠ったような気分になった。歩きにくい、みたいな。
その後。伏見とお昼ご飯を食べに行って、さっきの子、なんて話になった。白崎さん、というらしい。忘れ物、教科書だったって。袋の中が見えて、と伏見が教えてくれた。ていうか、教科書忘れてなんで気がつかないんだ。有馬も有馬だ。端の方に野菜を退けながら、ハンバーグにフォークを刺した伏見が口を開く。
「わっかりやすいの。好きなんだろうね」
「……んー……」
「え?そうでしょ?どう見ても」
「……本人がそう言ったわけじゃないし……」
「……………」
「……な、なに」
「……なんでもない」
なんでもない顔じゃなかったけど。はあ?とでも言いたげな表情を俺に向けた伏見が、まあいいんだけど、とスマホに目を落とす。
「教えていいの?」
「なんで俺に聞くの……」
「有馬の連絡先、白崎さんに教えていいの?」
「……だから、なんで」
「もういいでーす」
ぷい、とあからさまに拗ねた伏見がそっぽを向いた。皿の上は空になったけれど、物を食べた気がしなかった。おいしくないとか食欲がないとかじゃなくて、あまりにも味がしなかったものだから。
次の日、有馬の顔を見た時に、もう連絡もらったのかな、と思った。だって教科書返してもらわないと、困るし。有馬のことを好きかもしれない彼女は、連絡をして忘れ物を渡して、それで終わりにするだろうか。ただ届けたいだけなら、あの時あの場で「仲良いよね」と問いかけた伏見に紙袋を渡せば良かっただけであって、わざわざ自分で届けようとするのには、そりゃあ理由が。



「だから避けてたの」
「……避けては……」
「俺、連絡なんてもらってない」
「……はっ?」
「なくしたと思ってた教科書、昨日の授業で教授から渡された。落ちてたって拾ってくれた人がいたって」
「……………」
おお。弁当が固まっている。脳内フル回転で考えているらしい、うろうろと目線が彷徨った挙句に、ふっと力が抜けて、肩が落ちた。落ち着きましたかね。だはー、と溜息をつけば、目があった。
「なーんだ、そんなことかー、もー」
「そんなことって……」
「びびったー。弁当に嫌われたかと思った」
「……なんもしてないのに」
「相手がなんもしてなくても、嫌いになる時は嫌いになっちゃうもんだろ」
「……んー……」
「まあないけど。弁当は俺のこと嫌いにならないけど」
「なんで」
「え?なるの?」
「……………」
「なんないじゃん。俺のこと超好きじゃん。どうせまた、あの子と有馬がくっついた方が自分といるよりは普通で幸せかな〜とかしょーもないこと思ってたんだろ」
「しょっ……」
「しょーもな。バカ」
「ば……」
「しかも、俺そのナントカさんに告られても、好きな子いるんでーっつって断るし。残念でした」
「……………」
「ん?」
「……や……」
俺のことを窺った弁当が、ふるふると首を横に振って、目を落とした。まだなんか隠してる、とかではなさそうだけど。ていうか伏見はなんでそこまで知ってて、弁当が避けてんのに気付かなかったわけないのに、わざわざ乗っかってたんだろうな。そこまでは、それこそ本人に聞かないと分からない。弁当が口を噤んだままなので、俺が喋らない限りは無言の時間が続く。しばらく静かな間が空いて、やっと気づいた。
「あ。弁当、今俺が怒ってると思ってる」
「え、っ」
「ムカついたと思ってんでしょ。あー、あは、もー」
「うわ、わ、っちょっ、と」
「おいで」
なんだかんだ言ってぐだぐだ悩むくせに怒らせたくないとか嫌われたくないとかしっかり思ってるとこほんとかわいーなあ、と声に出すと多分怒られるから、内心で思うだけにしておく。引っ張り寄せた体は、ほんの少し前よりも、軽くなった気がした。軽く、というか、細く。流石にグラム単位の違いまで分からない。元々細っこいけれど、食欲をあまり重要視しない弁当は、気を抜くとすぐ骨が浮くのだ。太れない上にすぐ痩せる。女子からしたら羨ましい限りなのだろう、それ聞いたかなたがきーきー言ってたし。しかしながら弁当の痩せ方は不健康なので、あんまり細くなって欲しくはないわけで。今回に至っては、うじうじ考えてた期間、あんまり食べてないから痩せたんだろうなあ、と。
「嘘をついたら泊まります」
「……………」
「ちゃんとご飯食べた人!」
「……はい」
「さっきのと合わせて二泊三日が決定したわけだけど」
「ご飯は食べてた」
「ちゃんと?」
「……………」
嘘をつかない代わりに黙っていいということではない。飯は抜かなかった、だけどちゃんとは食べてない、ってどういうことだ。まともな食事はとってないけど腹に物は入っているからいいだろう、ぐらいの感じなんだろうか。こいつおにぎり一つで「もう食べた」とか普通に言うからなあ。倒れちゃうよ。
「なんか食べに行くぞ」
「え……いいよ、お腹空いてない……」
「焼肉」
「無理」
「無理とかはない。吐くまで食べろ」
「吐いたら意味ないんじゃ」
「うるっさい!ほねほねのくせして!にくにくになってから文句言え!」
「にくにく……」



「おわったー!」
「単位が?」
「課題がだよ!単位は取れた!」
「なあんだ」
「おつかれさま」
「はー、肩の荷が降りたよー。もう二度とこんなぎりぎりにはならないようにする。絶対」
「小野寺それ去年も言ってなかった?」
「う」
俺の指摘は図星だったらしい。ぐう、と黙った小野寺が、机に突っ伏した。だって、伏見がいると邪魔されて進まないし自分も一緒になってサボっちゃうから伏見禁止令を出したんだ…と息も絶え絶えの小野寺に聞いたのは、去年のことだ。全く同じことを今年もやっているのだから、次回もそうなるに違いない。絶対そう。
そういえばその件の伏見は?と小野寺に聞いたものの、伏見禁止令を出してたんだから連絡なんか取れるわけないだろ!と威張られた。なぜ威張る。その禁止令には伏見の買収も必要らしく、一週間デザートを貢ぎ続けてようやく「わかった、こっちからも連絡はしない」「突然家にも行かない」「どこにも寄らず、自分の家にまっすぐ帰る」との確約を得たらしい。嫌な買収だ。伏見の求めるデザート、コンビニスイーツとかで到底収まらないじゃん。金かかるよ。いつだか買収を怠った結果、伏見がノンストップでうちに来続けてなにもかもが無駄になったんだ、と小野寺が思い出し嘆いている。
「うちの家族、めっちゃ伏見に優しくするんだよ。俺にはしないのに」
「人の家の子だからじゃ……」
「伏見が来る日は飯が豪華なんだ」
「……ん?それはいいことなんじゃない?」
「うん。ありがたい」
どっちだ。弁当も微妙そうな顔をしている。良かったと言えばいいのやら、それはひどいといえばいいのやら。弁当のところにも連絡は来ていないらしい。それじゃ、ただゆっくり来てるだけかな。もうすぐ授業始まっちゃうけど。
必修科目の全体授業なので、一番大きい教室だし、人が多い。真ん中の後ろ寄りをちゃんと陣取ったんだから、一席無駄にならないように、しっかり来て欲しいものだけど。遅刻したら問答無用で前だぞ、この教授。飲み物買ってくるの忘れたんだけど授業始まるまでに下の自販機まで行って帰ってこれると思う?いやそれは無理でしょ、階段走れば大丈夫なんじゃあ、ここ5階なんだけど、なんて話していたら、肩を叩かれた。
「ん?」
「あっ、あの、あの……」
「……?」
「あっ」
あのう、と口ごもる女の子と、声が漏れてしまったらしい弁当。うっかりだったらしく、ぱっとそっぽを向いた。誰、知り合い、俺は知らない人、と小声で問い掛ければ、しばらくもにゃもにゃした後に、白崎さん、と低く小さく返された。ほう。この子が。全く知らない顔だ。
「お断りします」
「へっ」
「何言ってんだ馬鹿っ」
「いって!なんで殴るんだよ!こないだ言ったろ!」
「あ、あの……なにを……」
「なんでも、なんでもありません、なんでも」
俺の頭を叩いた弁当が、机の下で足をがつがつ踏んでくる。なんでだよ!お前は俺が今この場で告白されてもいいっていうのか!だから先にお断りしたっていうのに!おろおろしている彼女に、俺にはもう好きな人がいるのでお断りします、とはっきり告げようとして、
「あの、あっ、ふしみくん、いませんか……」
「……へ?」
「えっ?」
「伏見まだいないよー」
唖然とした俺と、同じく疑問符を漏らした弁当を飛び越して、小野寺が返事をした。なんか用ー?と間延びした声で聞いた小野寺に、なんでもないです、すみません、と頭を下げたナントカさんは、ぱたぱたと去っていった。
「なんだったんだろ」
「……今あの子伏見って言った?」
「うん。伏見いませんかーって」
「伏見?」
「えっ、うん」
「俺じゃなくて!?」
「……有馬ここにいるじゃん」
「そうだった……」
「なに言ってんの?変なの」
「……弁当!話が違うぞ!」
「……?」
あっ駄目だ、弁当も思考が宇宙になってる。険しい顔で、はてなマークが周囲に飛んでるのが見える。あの子だれ?と小野寺が聞いてくるのに、俺も知らない、名前は知ってる、とぼそぼそ答える。なんで伏見なんだ。俺じゃなくて?なんで?
「おはよ」
「あっ、おはよ!伏見!ねえ俺課題終わったよっ」
「おー。飯は」
「今日はシチュー!と母が!」
「いえー。ブロッコリーいらない」
「全部食べてあげる!」
「あっ伏見!」
「うるさ。青馬鹿」
「お前!なんだったんだ!あの、伏見いませんかって!こっちは大変だったんだぞ!」
「は?意味わかんない」
「意味わかんないのはこっちだー!」
伏見が来て、小野寺が超元気になって、弁当はまだ思考回路が宇宙のままだ。ちゃんと説明してほしい。多分全部を知ってるのは伏見だけど思うから。

昼食。さっきの話を蒸し返したら、フォークを止めた伏見が顔を上げた。
「ああ、白崎さん」
「伏見いませんかの子?」
「んー。こないだ服貸したから、それかも」
「……服?」
「うん。うち来て」
「うち!?」
「返しに来たんじゃない?預かった?」
「……そのまま行っちゃったけど」
「なーんだ。でも今日いるんだ?連絡しよ」
「……………」
「小野寺。おーい、小野寺。小野寺が石になっちゃった」
「……ほっといてあげたら」
うち来たって。服って。清純な理由がひとつ足りとも感じられない。素っ頓狂な声を上げたきり硬直してしまった小野寺の前で手を振ってみたものの、弁当に下ろされた。伏見に彼女できんのが、そんなにショックだったんだろうか。しょっちゅう彼女みたいな人いるじゃん。今更だよ。スマホを耳に当てていた伏見が、口を開いた。
「あ、もしもし?千帆?うん俺、ごめん今日ぎりぎりで。うん。んー、じゃあ後で」
「ちほ」
「は?」
「……名前呼びすか……」
「んー。仲良しだから」
「……………」
「小野寺?小野寺泣いてない?」
「ほっといてあげな」
「えー、仲良しなだけだよ。付き合ったりとかしてないよ」
「……………」
「……………」
「なに、二人してすごい顔で見ないでよ。嘘じゃないし、まだ」
「……まだ……」
「まだ」
食べ終わって、店を出る。ずっと無言だった小野寺が、今日来るの?シチュー食べに?と伏見に確認している。確かに、彼女できたなら別に、小野寺んちで飯食わなくてもいいよな。
「行くけど。シチュー」
「……話があります」
「はあ。自分の頭の出来の悪さと不甲斐なさを悔いてください」
「……はい……」
「なんであそこお通夜みたいになってんの?」
「見ないであげて」
「うん」
弁当に頭をごきってやられた。無理やり顔を逸らされたとも言う。俺じゃなくて良かったね、と小さく告げれば、なにも返ってこなかった。まあ、弁当だし。恥ずかしがり屋さんだし。まだわあわあ言ってる後ろを無視して大学に戻る道を歩き出すと、弁当が小さくつぶやいた。
「……伏見にただうまく使われただけなんじゃない?」
「なにが?」
「……なんでもない……」
「そー?あ、今日晩飯どうする?」
「げ、え、ほんとに泊まるの」
「げって言うなよ」
「……うん……」
「俺餃子の気分。餃子を死ぬほど食べたい」
「昨日お腹いっぱい肉食べたからもういい……」
「餃子とチャーハン。ラーメン」
「無理……吐く……」
「酢豚!かに玉!回鍋肉!」
「うるさい」



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