このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

只今開店中




本日の構成。カウンター、俺、はっちゃん。台所、父、うめさん。母はお友達のところに泊まりで遊びに行った。長野だっけ。市場仕入れ組が台所に立つと、自由なのでなかなか料理が出てこなかったり、注文とずれたものが出て来たりが多々ある。なので、今日は看板に「本日の台所責任者はちゃらんぽらんです」と書いておいた。はっちゃんも深く、深く深く頷いてくれたので、この看板は必要だ。
昼は夜より暇だ。はっちゃんが黙々とお皿をぴかぴかにしてくれているので、俺はすることがない。引っ込んでてもいい?と聞いたら、人見知りで男性が怖い彼女は、なにもしなくていいからそこにいろ、いつ客が入ってくるか分からないだろう、といった旨のことをとても小さい声でぽそぽそ言っていたので、ここにいた方が良さそうだ。はっちゃん、もっと向いてる職業とかあったと思うよ。別にうちに永久就職しなくてもいいのに。
「……うちから出てやっていける自信ないし」
「大丈夫だよお」
「たーちゃんも外出たことないじゃん……」
「ゔ」
痛いところを突かれた。ごめんねお兄ちゃん、とせせら笑われて、人見知りでパーソナルスペースめっちゃ広くて壁が高いのに、性格があまり素直でなく捻じ曲がっているのは、確かにここから出れそうにない、と内心で思う。口に出したら多分目を潰される。チョキで。
からからと扉が開いて入って来たのは一般普遍的な顔の代表として名高い彼女いないマンだった。固有名詞で言うと瀧川時満という。はっちゃんが、ヒッ、と短い悲鳴をあげてカウンターの陰に俊敏に隠れた。おい。
「いらっしゃーい」
「飯」
「はい」
「誰が炊いてない白米を食うんだよ!嫌がらせの天才か!?」
「飯、って言って席に着くとか亭主関白みたいなことするからじゃん。だからいつまでもモテないんだよ」
「ぐ」
「ね、はっちゃん」
「……………」
俺の友達の中でも瀧川と航介がかなり駄目な方に入るはっちゃんは、話を振られたことに動揺して、びゅんびゅん首を横に振っていた。首が千切れ飛んでしまう。航介の方がまだ、目は合わせずに超早口で必要事項だけ述べることができるが、瀧川はそれすら無理なのか。それを重々承知の瀧川は、都築妹やっほー、と声だけで挨拶して、日替わり定食セットください、とはきはき注文して、ぱかりと口を開けたアホ面でテレビを見始めた。適当なチャンネルを付けといたんだけど、興味があるんだろうか。多分ない。
「はっちゃん、ご飯よそったげてよ」
「無理」
「無理くない。なんなら瀧川のことはお兄が羽交い締めにしとくから」
「無理。臭い」
「ファブリーズかけるから!」
「つめってえ!なんだよ!」
「ほら!今だよ!ご飯!」
「痛え!都築てめえなにすんだよ!」
「無理……暴れてる……そんな獰猛な生き物に近づきたくない……殺される」
はっちゃんに瀧川のご飯を出してもらう計画、失敗。八つ裂きにされて殺される、と頭を抱えて小さくなってしまったはっちゃんを跨いでお水を出すと、俺そんな野獣に見えるの?野生的な男って素敵じゃない?と無いあごヒゲをさすりだしたので、水をかけてやろうかと思った。
「注文なんだっけ。シャーベットだっけ」
「日替わり定食だ難聴男」
「品切れです」
「もう二度と食いに来ねえ」
「それもう324回目」
「マジで?足繁く通いすぎかよ」
「ほんとよ」
はっちゃんが息も絶え絶えに台所の方へ逃げていった。かわいそうに。男がたくさんいる場所に押し込めたら彼女は呼吸困難になるんじゃないだろうか。いや、男っつっても、イケメンじゃない男ばっかりのとこね。はっちゃん超面食いだから、伏見くんには目がハートになってたし、割と整ってる朔太郎とはまあ一応は普通に話せるし、有馬くんの写真見せた時なんて携帯返してくれなかった。だから、瀧川が100人集まった部屋に押し込めたら多分死んでしまう。そんなこと兄として許さないぞ!
「だから瀧川早く整形しな」
「なにが?全然話についていけねえんだけど」


3/7ページ