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おはなし



幼かった日の思い出、と言われてぱっと思い浮かぶのは、あたしがまだ小学生とかで、ユウが小学生になったかどうかぐらい小さい頃のことだ。みんなでディズニー行ったこととか、ミヤコちゃんに買ってもらったクレープを二秒で落としたユウが今まで見たことないぐらい大泣きしたこととか、日曜朝の魔法で戦う女の子に憧れてブランコから飛び降りたら足の骨を折ったこととか、他にもたくさん思い出はあったはずなのだけれど、なんか印象深いから。
ミヤコちゃんが熱出して、病院行ったらインフルエンザだった、とかだったと思う。とにかくあたしはミヤコちゃんの面倒を見なければならないと思って、ユウを家に残していくわけにもいかなかったから、二人で買い物に行った。ミヤコちゃんの財布を持って、多分食料品とかを買いに行った、はず。そこはよく覚えてない。けど、買い物したものが詰まったビニール袋は重たくて、かといってユウに持たすわけにもいかなくて、自分のことで必死だったあたしは、もうへとへとだった。だから気がつかなかったのだ。昔からぽやぽやしている弟が、下りの階段で余所見をしていたことに。
「あ、」
「あっ」
ごろごろごろ、という効果音が相応しい転がり落ち方だった。見事に足を踏み外したユウは、細い石段を落っこちてって、べちん、って痛そうな音と共に地面に叩きつけられた。咄嗟にその場に荷物を全部放り出して手を伸ばしたけれど、届くわけもなく。人通りの少ない細道で、自分も転がるようにしながら駆け下りた。引っ張り起こしたユウは擦り傷だらけになって、いたいいたい、とおでこを押さえていて、途端にだらりと垂れてきた鼻血にざっと血の気が引いた。買い物した袋を掻き集めて、近くの小さい公園に向かう。家に帰るよりそっちのが近い。ユウは泣いていなくって、それがまた怖かったのだ。頭ぶつけておかしくなっちゃったんじゃないかと。
鼻血はすぐに止まったし、擦り傷もたくさんあったけれど小さいものばっかりだった。公園の水道でユウをびちゃびちゃにしながら傷口をきれいにして、どちらかというと泣きそうなのはこっちだった。あたしはダメなやつだ、と本気で落ち込んだ。ミヤコちゃんの面倒を見たかったのに、連れ出したユウに怪我をさせて。ひどいお姉ちゃんだ。もしかしたらもうその時点で泣いていたのかもしれない。自己嫌悪に苛まれながら、もうダメだ、あたしみたいなやつはお姉ちゃん失格だ、と思いながらユウの顔を服の袖で拭って。
「あっ、サヤ、みて」
「な、なに、ユウ」
「ひこうきー」
……身体中の力が一気に抜けた。こいつ、こっちがこれだけ心配してるのに、ひこうき、だって。おーい、と空に向かってふにゃふにゃ手を振るユウに、もう言葉は出なかった。
そんな弟なので、脱力させられたことは今までに数知れず。そういうところはとにかくミヤコちゃんに似ている。あたしは自分でも、ミヤコちゃんのおかげで嫌ってぐらいしゃきしゃきしたと思ってるけど、ユウはその真逆なのだ。昔っからとにかくぽやぽやしている。ちゃんとやることはできるし、しっかりしなきゃいけないところもきちんと分かってるんだけど、学生の頃は今に輪をかけて地に足がついてなかった。別の時空を生きているのではないかと思ったことが何度かある。
例えば、ユウが小学校低学年の時。なんだったか、保護者が迎えに行かないと下校してはいけない日があったのだ。夜から仕事があるミヤコちゃんが、忙しい出勤前の夕方に行けるはずもなく、担任の先生にも事情をわかってもらって、当時中学生だったあたしが迎えに行くことになった。こっちも学校が終わってそのまま行く形である。なので恐らく、お迎えは遅い方だったと思う。教室の中にはちらほらとしか残っていなくて、先生に挨拶をしてお迎えに来た旨を伝える。こっちを見て、にまーって笑ったユウが、ランドセルを背負って。
「お前んとこ母ちゃん来ないのかよ!やーいビンボー!」
「あて」
「あっ」
「浜岡くん何してるの!」
同じく残っていた、見るからにガキ大将的な男の子が、ユウの後ろからロッカーにかかっていたボールを投げた。避けるとか取るとかそんな機敏なこと、人よりすっとろいユウにできるわけもなく、ばいん、と音を立ててゴムのボールは頭に当たった。担任の先生の声ににやりとしたガキ大将の浜岡くんは、ふんぞりかえってユウの方を見る。怒られるのなんて慣れっこなのだろう。ていうか、ビンボーって。悪口がストレートにそのまんますぎる。のんびりきょろきょろしていたユウが、頭に当たって転がっていったボールを発見し、拾いに行った。いや、あんたも怒りなさいよ。言葉もなく見ていると、机の隙間を縫ってボールを手に取ったユウが、顔を上げて。
「てりゃ」
「おう!?」
「ユウ!?」
「よ、横峯くん!?」
投げ返した。しかも、足元に当たるように。大層驚いたらしいガキ大将くんも目を白黒させていたし、先生の声なんて裏返っていた。ぐっ、とガッツポーズを決めたユウは、満足げにこっち側を指差した。
「ハマオカくんは外野。おれは頭だからセーフ」
「……………」
一人で突然ドッヂボールを始めやがった、こいつ。思わず天を仰いでしまった。そりゃ怒らないわけだ。だからわざわざボールを拾いに行った場所から投げたのか。そもそも、どこからが外野でどこまでが内野だ。ていうかいつからそのドッヂボールは始まっていたんだ。突っ込みどころが多すぎたけれど、あっちからしたら反抗してきたユウに怒るかと思いきや何故か乗り気になったらしいガキ大将くんが、再びユウにボールを当てようとして、ユウが咄嗟に、といってものろのろと机の下に隠れたので、当たらなかったボールが窓からすっ飛んでいった。そして外から聞こえる驚きの悲鳴。そりゃ教室の中から突然ボールが飛んできたらびっくりもする。もう半分ぐらい笑ってるあたしの横で、やめなさい!と止めに入る先生。次の日ユウから聞いたところによれば、「今日昼休みにハマオカくんたちがやってるサッカーに入れてもらった」「たのしかったー」だそうで。ちゃっかり仲間に入れてもらっている。ちなみにボールは一度も蹴れていないらしい。一体なにが楽しかったんだ。
それが低学年の時の脱力事件だとしたら、高学年の時の脱力事件もある。ある日突然、ユウがものすごく落ち込んでいたのだ。あたしの方が帰宅は遅いので、先に家にいたユウのお帰りがギリ聞こえるかどうかって感じだった。あからさまに様子のおかしい弟は、静かにしょぼくれたまま粛々と宿題をこなしていて、しかしあまり勉強が得意ではないので、ここが分からなくてさっきから進まない、教えてください、とプリントを持ってきた。その「ここ」がかなりの序盤だったので、こなしていたように見えた宿題はほぼ進んでいないことが判明したけれど、まあそれはいつものことなのでどうでもいい。勉強があまりできない上にのんびりしているので、毎度亀の歩みに近いスピードでしか進まないが、やる気はあるのだ。途中で投げ出したりはしない。ちゃんと最後までやって提出している、先生にはそこを評価してもらいたい。じゃなくて、別に宿題が難しくてしょぼくれているわけではないだろう。何度も言うようだが、いつものことなわけだし。じゃあ要するに、何かあったということだ。運動会の紅白リレーで自分のチームが僅差で負けてしまい、仲間がみんなものすごく悔しがっている中で一人だけ「あの雲は焼きそばパンに見える」と清々しいほど全く違うことを考えていた程のユウが、落ち込むだけの何かがあった、と。
「ユウ?」
「……ん?」
「……夜ご飯なに食べたい?」
「……なんでもいー……」
おかしい。絶対におかしい。直接なにがあったか聞くのが憚られて、咄嗟に質問を変えたのだけれど、夜ご飯何でもいいって。あのユウが。風邪引いた時ぐらいしか、食欲に関してはバグらないのに。
しばらく様子を窺ったものの、宿題はなんとか終わらせたようだが、特になにをするでもなくぼおっとしている。それ自体はあまり普段と大差ない。ユウはよく、窓の外とか空とかを見ながら、無限にぼおっとしているので。作るには遅い時間になってしまったし、夜ご飯を買うのにいつもお世話になっているお弁当屋さんがそろそろ値引きされる時間なので、一緒に買いに行くかと一応声をかけたものの、断られた。これはまた珍しい。いつもならついてくる。徒歩五分のお弁当屋さんで、ユウが好きなハンバーグ弁当に、特別サービスで唐揚げをつけてあげるか否かで悩んだ。お腹が空いて電池切れになってるだけなら食べれば直るかもしれない、とか思ったりして。
「ユウ、お味噌汁いる?」
「うん」
「お湯のやつでいい?」
「うん。サヤどれ?」
帰った頃には、普通に会話は成立するぐらいにはなっていた。さっきまでは変な間があったから。からあげも買ってきた。温めたお弁当を見せれば、ぱあっと目が輝いて、どんよりする。何故。お腹でも痛いんだろうか。無理して食べなくてもいいよ、と告げれば、首を横に振られた。
「……明日で転校しちゃうクラスメイトがいるんだ」
「さみしいね」
「うん……ハラダくんっていうんだけど……」
曰く。ハラダくんは明日を最後に茨城へ引っ越してしまうらしい。クラスの中でも人気者寄りだった彼を、最後に笑顔で送り出そうと、みんなでいろいろ考えているそうだ。ハラダくんはからあげが好きで、しかも明日の給食は運の良いことにからあげの日。これはもう、いつもならじゃんけんで争奪戦になるからあげのおかわりを、ハラダくんにだけは優先的に譲ってあげても良いのではないかと一人の女子が言い出した、と。それに一度は賛成意見が多く出たが、ユウは思った。あのじゃんけんに勝ち抜いて食べるからこそ、からあげのおかわりは格段に美味しいのであって、優先的にもらえるのは確かに嬉しいかもしれないが、ワクワク感に欠けるのではないか。その旨を男の子の友人に相談したところ、確かにそれもそうだ、と納得してくれる人がちらほら出てきたそうだ。しかし発案者の女子は、そもそもおかわりじゃんけんに参加しないタイプなので「じゃんけんしないで食べれるならそれが良くない?」と疑問に思われてしまい、双方の意見のすり合わせが出来ずに困っている。しかも期日は明日。給食の時間までに、ハラダくんがどっちを望むのかを知る必要がある。なるほど。
「サヤだったらじゃんけんしたほうが良いと思う?」
「……ど……いや……うーん……」
「それがむずかしいところなんだ……」
どっちでもいい、の、ど、が口から出かけた。あぶねー。めっちゃしょうもないことで悩んでいる。もう聞けばいいじゃん、そのハラダくんとやらに。今日だけはじゃんけんスルーしてからあげもらえる権利あるけど、いつも通りにじゃんけんしてもいいよ、どうする?って。そんなことで、と思いかけたけれど、ユウにとっては「そんなこと」ではないのだろう。本人に直接聞く、という明確な解決手段が見えているにも関わらず、あんなに悩んでいるのだから。いや、もしかしたら、サプライズにしたいから秘密にしていたいとか、そういう理由で直接は聞けないのかもしれない。ダメだよそんなん!と言われるの覚悟で、聞いてみた。
「ハラダくんにどっちがいいか聞いたら?」
「……………」
「……えっ?なに、びっくりしてんの」
「……サヤは天才なの……?」
「……いや……」
前言撤回。直接聞くという方法を思いついていないだけだった。じゃあもう多分、他のクラスメイトも家に帰ってからちょっと冷静になって考えたら「本人に聞く」を思いついてると思うよ。あたしの目の付け所が違うとかそういう話ではない。予防接種受けた時ぐらい目を丸くして固まっているユウに、とりあえずお味噌汁が冷めるから飲んだらどうかと勧めておいた。
次の日。クラスのみんなは、ハラダくんをちゃんと笑顔で送り出せたらしい。昨日あれだけ悩んでいたからあげ問題は、直接本人に聞けばいい、と思いついた人がやっぱりたくさんいたらしく、給食の時間の前に聞いたそうだ。人気者の彼らしく、じゃんけん無しで譲ってくれようとした女子の気持ちも汲んでフォローしつつ、しかし筋は通そうとじゃんけんに参加し、過去最大におかわりじゃんけんを盛り上げ、しかもちゃんと勝ってからあげを取っていく主人公っぷり。さすがだった、かっこいかった、とうんうんしながら報告してくれるユウ。それはよかった。珍しくあれだけ悩んでいたのは、うっかり自分がじゃんけんをしない案を言い出してしまったことと、それで多少なりとも他人が揉めるのが嫌だったのと、あとは単純に転校してしまう友達が一番喜ぶ方法を選びたかったのと、入り混じっていたのだろう。自分のことでは基本的にあっけらかんとしているくせに、変なところで天秤を揺らしてばっかり。
ユウは昔からそうだ。優しいんだか冷たいんだか、お人好しなようでいて特別扱いも依怙贔屓も滅多にしない。高校生の時に、バレンタインデーにチョコをもらってたのを見たことはあるし、彼女がいたことがあるのも知っているけれど、なんか、言っちゃ悪いがなんというか、身内から見てあんまり好意を抱いているようには見えなかった。好きなものに対しての傾け方を知っているだけに、そう思ったのかもしれないけれど。
だからというか、今付き合っている10も年上の彼女のことは、真っ向からちゃんと好きになれているのだろうなとは、思う。

「こんにちは」
「おじゃましまーす。ミヤコちゃんは?」
「買い物に行ってます。醤油が少ないって言ったら、自分が買いに行くと聞かなくて」
「はー。ちゃんと買ってこれるといいね」
「この前ポン酢と間違えたので今度は平気だと思います」
実家に帰ったら、新しいお父さんがいた。新しいお父さん、というとあまりしっくり来ない。だって歳近すぎるし。お父さんっていうかお兄ちゃんだし。まあ、コナツくんである。基本笑わない、クソ真面目なエリートサラリーマン。なんでこの人がミヤコちゃんと結婚したのか、詳しいことは本人からは決して語ろうとしないけれど、ミヤコちゃんは全部教えてくれるので問題なかった。
久しぶりにみんなで集まろうってなって、確かちょうどユウの誕生日が近いから祝ってあげようみたいな感じだったと思う。多分きっかけはそうだけど、とりあえず集まれればなんだっていいのだ。なのにうちのパパったらちょうどドンピシャで大阪に出張が入って、タイミング悪いったらない。パパもすごい悔いてたし、どうにかならないか苦心してたみたいだから、あんまし責めらんなかったけど。ユウのギター、パパ好きなのにね。残念。
「……コナツくん、なにやってんの?」
「クッキーに顔を描いています」
「なぜ」
「悠くんが喜ぶと、都子さんが」
「えー。かわいー、なにこれ。ユウにそっくりじゃん」
「お土産の分もありますよ。多く作りすぎてしまって」
「……コナツくんが作ったの?」
「はい」
「やっば……なんなのあんた……」
「手作りは嫌ですか」
「……コナツくん、苦手なことなんかないの。言って」
「お笑いの番組を見るのが苦手です」
「うわ苦手そう。笑えないんでしょ」
「はい。どこで笑っていいのかが分からないので」
「はー。プラマイゼロになったわ」
「味見しますか?」
「んー。もらう」
星とかハートとか猫とか鳥とかの形に型が抜いてある方は、器用な完璧人間のコナツくんがデコレーションしているので、恐らくは切れ端であろう欠片をもらう。普通においしい。ていうか今日休みだったんだ。スーツじゃない普通の服着てるの、ちょっと珍しい。
「旦那さんは、いらっしゃらないんでしたか」
「うん。大阪」
「そうですか……」
「夜の会食終わってから新幹線で帰ってこようかとか言うから止めた」
「無茶言いますね」
「パパはユウが好きだからねー……あ、もしかしてこれ誕生日プレゼントだった?食べちゃった」
「味見してほしかったので。大丈夫でしたか」
「おいしい」
「そうですか」
それからしばらくして、ミヤコちゃんが帰ってきた。お醤油はちゃんと買ってこれてたけど、何故か三種類もあった。どれがうちで使ってるのか分かんなくて…としょぼしょぼしながら醤油を見せるミヤコちゃん。別にこだわりはないのでどれでも大丈夫です、と返すコナツくん。むしろ三本もいらないとのことなので、一本もらえることになった。実家来て醤油とクッキーもらって帰るってどういうこと?
それからちょっとだらだらしてるうちに、ユウとカオルちゃんが来た。人数が二人増えただけで、急に会話が混線したので、事実そのままをお聞き願いたい。
「こんばんわー」
「あっカオルちゃん、お醤油いる?」
「こん、あっ、え、お、おしょうゆ……?」
「こんばんは」
「うまそーなにおいがする」
「カオルちゃん、いらなかったらいらないって言ったほうがいいよ」
「こら、つまみ食いしない」
「うええ、叩いた」
「えー、お醤油なんていっぱいあっても困んないよねえ」
「じゃああげなくてもいいじゃん」
「そりゃそおなんだけど」
「あっちで座ってなさい」
「一個ぐらいいいじゃんかさー」
「後で」
「あ、あの、お醤油、もらえるならいただきます」
「ケチ!このおとーさん!」
「お父さんは悪口じゃありません」
以上。コナツくんとユウ、カオルちゃんとミヤコちゃんとあたしでそれぞれ喋ってるはずなのだけれど、何故か全員台所周りに固まっているのですごいうるさい。クッキーをもらえなくてふてくされたユウがリビングの方にどたどた行って不貞寝した。ユウが退いたことでようやくカオルちゃんにクッキーが見えたらしく、かわいいですね、とニコニコしている。かわいいといえば。
「カオルちゃん髪切った?かわいーね」
「えっ、わ、わかります?前髪ちょっとだけ、短くなりすぎちゃって」
「そんぐらいのが似合ってるよ、ねー、ユウ」
「俺もそうやって言ったのに薫さん拒否った」
「ゔ、だ、だって、それは」
「ちょっとさー、髪色も明るくしてみたら?」
「えー、じゃあネイルとかももっとかわいくしよーよー」
「メイクもさ」
「薫さんを改造しないで!」
「うるさーい、ユウは拗ねてて」
「カオルちゃん、今度一緒にお買い物行こーよー」
「俺も行く!」
「ユウは来なくていい」
「荷物持ちしたいなら来てもいいよ」
「ぐ……」
ただの荷物持ちは嫌がると分かっていてこっちも言っているので、案の定反論の言葉を飲んだユウが、荷物は持ちたくないけど、でも行きたいけど、とぶつぶつ言いながらこっちに戻ってきた。だから台所に全員集まるのやめよーよ。
冷蔵庫にはケーキがあって、昔は三人で分けてたはずのそれは、今は五人で分けるようになった。今はいないけど、うちのパパも入れたら六人。それが増えたのは、なんだかちょっと嬉しい。


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