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只今開店中




本日の構成。台所、母。カウンター、俺、うめさん。母は基本台所要員なので、一人でやった方が確かにさくさく進むだろう。先日のように母とはっちゃんで台所を預かっていたのは、はっちゃんに母が料理を教えている節もあったわけで。
夕飯どき、席は割と埋まって来た。うめさんがデレデレのデレになる対象であるおじさんたちもそれなりにいる。俺は今日は暇そう。雨だしいつもよりかは客入り悪そうだなあ。これから荒れるって言うし。
「イエーイイエーイイエーイ!イエー」
「うるっせ」
「開けて!開けてよ!雨だし寒い!うるさくしないから!お願いします!お願い!」
「お前が来ると閉店まで一席潰れるんだよ」
「お姉さん痩せた?髪切った?」
「太ったし髪は伸びてんだよクソガキ」
「ぶえっ」
朔太郎が来た。来たし、うめさんに追い出されたし、めげずに入って来たし、適当な媚を売った挙句に叩かれた。どんなスピード感だ。
「大将いつもの!」
「誰が大将だ」
「テンションおかしくない?熱ある?」
「ない」
まあ、朔太郎がおかしいのなんていつものことか。いつもの、と言われたけど、いつものがないわけじゃない。朔太郎が好んで飲むやつはあるので、それを出せば、お肉が食べたいだの焼きおにぎりが食べたいだの騒ぎ出した。航介六人分ぐらいうるせえ。一人なんだから静かにして欲しい。
「都築飲まないの」
「仕事中」
「と見せかけて?」
「……うめさんにはこれは水だって言えよ」
「うん」
水、に見せかけた酒、だと朔太郎は思っている水を飲むことにした。いやだって、この人と一緒だと本当に飲まされるから。カウンターの中にいる人間に対する気遣いとかないから。とは言え一応仕事中でしょう?みたいなのマジでないから。ふざけてるのと本気の境目がぐらぐらになっちゃってるから。理性とか無いから。
ご飯を食べ出すと、一応は静かになる。これなに?と、焼きおにぎりを入れていた飾りの竹をかじっているのはちょっと面白かったから動画を撮った。1分間、食べられないものを食べようとして格闘する朔太郎が撮れたので、航介と瀧川と、高井さんにも送っておいてあげた。面白動画だよ、と。
「ねえ。これ固い」
「それは竹」
「竹?」
「そう」
「たけのこ?」
「違う。竹」
「早く言えよ!」
「バランを食べたことがあるって航介に聞いてたから、竹も食べたいのかと思って」
「食べてねーよ!嫌いなんだよあの緑!」
「あ。航介から返事が来た」
「ヒッ」
「……………」
「……………」
「……なにしたの?」
「……なにもしてないよ」
絶対嘘だ。だって航介からの返事『そこか』だよ?なにしたら『そこか』って追い立てられるほど怒らせるんだよ。しかも朔太郎さっきヒッつったし。いやにテンションが高かったのも納得だ。うちに逃げて来るな。
「お会計……」
「航介が今から来るって」
「おつりはいりません!」
「ベーコンでアスパラを巻いたものを作ってあげるから待ってなさいよ」
「あー!好き!立ち上がれない!」
ずるいぞ!と罵られたけれど、ずるくない。そこにいさせとけ、と航介直々にラインが来たのだ。通りすがりのうめさんが、半分ぐらい減った朔太郎のグラスにお酒をなみなみ継ぎ足していった。そうやって人の友達をおもちゃにするんじゃない。朔太郎も、椅子にお尻がくっついちゃってる!とか言って椅子をガタガタしないでほしい。お尻は椅子にはくっつかない。
数十分後。
「おい」
「あ。航介来た」
「遅いぞー、もうアスパラとベーコンをくるくるした美味しいやつは無くなっちゃったぞ」
「お前」
「これならあるよ、食べる?」
「俺の焼きプリン」
「あ、作ろうか?」
「都築焼きプリン作れるの」
「は?それは作れないよ」
「え?」
混線してる混線してる。航介が素面なので、酔い始めている朔太郎の早口に置いていかれ、俺が朔太郎に合わせて喋ってしまったがための混線だ。食べられたのが焼きプリンで、俺が作ってあげられるのは朔太郎が今食べてるちっちゃい焼売。整理して、焼きプリンは作れないけどこっちならあるよ、欲しい?と聞き直せば、混線していたわやわやしていた会話がすっきりした。食べるそうだ。ナチュラルに朔太郎の隣に座った航介の前に、音速でうめさんがグラスを置いた。普通にそれ飲んでから、俺まだ頼んでねえ!って言ってた。気づけや。そしてうめさんもやめてください。
「なんで怒ってたの」
「朔太郎が俺の焼きプリンを食べた」
「はい!食べました!ぼくがやりました!」
「朔太郎はなんで食べちゃったの」
「お腹が空いたから」
「焼きプリンそんな好きなの?航介」
「……伏見が送ってくれたプリンだった。日持ちがしない、東京の有名なお店のだって」
「朔太郎が有罪」
「いいえ!伏見くんのプリンを一人で食べようとした航介がいけないと思います!」
「うめさん、この人にあの紅茶もどきのお酒を五杯飲ませてください」
「潰せってこと?」
「罰だから」
「オッケー」
「おっけーくない!帰る帰る!明日仕事あるから!」
「でも伏見くんのプリンを食べた罪は重いと思うので、うめさんによる、酒と酒と酒を混ぜたカクテルをたくさん飲むの刑に処します。どう?航介」
「俺は面倒は見ない」
「いいよ、店の外に捨てるから」
「……携帯と財布だけ持って帰ってやるよ」
「こーちゃん優しー」
「優しくないでしょ!都築姉の辞書、遠慮とかいう文字ないじゃん!焼きプリンなら買って返すから!」
「できたぞー」
「できちゃったよ!早えよ!ばか!」
「ほら、早く飲めよ。いっき、いっき」
「怖い!目が怖い!助けて!航介謝るから!」
「俺帰るわ。お勘定」
「焼きプリンがかわいそうだから今日はおごりでいいよ、お酒一杯と焼売三つ分だし」
「マジで?親切」
「またねー」
朔太郎がロングアイランドアイスティーで溺れてがぼごぼ言ってる。うめさんは人間をアルコール漬けにする天才だからな。朔太郎ワクだから酔っ払わないけど。


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