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アクトチューン




「見て」
「……なに」
「サヤがくれた。DVD見れるやつ」
「へえ」
「これでりっちゃんにパソコン借りなくてもDVD見れっから!」
「そりゃよかった」
「俺よりもりっちゃんのがよかったでしょ」
「……そうだな」
「ね。よかったね」
「よかった」
ただ、もらったはいいけれど、使い方がわからない。サヤの家には新しいのがあるらしい。だからこれはもう完全に俺のものなのだけれど、いかんせん説明書を一緒にもらってこなかったので、操作方法がいまいち分からない。いや、再生を押せば再生されることぐらいは分かるんだけど。それだけ分かっていれば充分と言えば充分だし。
サヤには、ついでにこれもあげる、と映画のDVDを何枚か渡された。置き場がなくて困ってたんだ、でも全部面白いから見て、と俺の手の上にDVDのパッケージを重ねていくサヤの顔が容易に思い出される。渡されたのは、洋画ばっかり。それに、俺はそもそもあんまり映画を見ないので、多分有名なんだろうけど、みんな知らないタイトルだ。いっそポケモンとかなら分かる。だってきっとピカチュウがパッケージにいるでしょ。
「なに。お前こんなの見るの」
「りっちゃん知ってる?」
「一応」
「じゃーこれ見よ」
「べったべたの恋愛モノだろ?これ」
「ふーん」
「……見んの?」
「うん。なんで?」
「イメージないから」
「失礼なー。俺のことなんだと思ってるのさ」
「服着てるスライム」
人間じゃなかった。嘘でしょ。一番上に重なってたパッケージは恋愛映画だったらしく、あからさまに嫌そうな顔をされた。そういうやつ好きじゃなさそうだとは思ってたけど、予想の上をいくしかめっ面を見せられると、ちょっと面白い。他にもあるでしょ、と言えば、上から順繰りにパッケージを見て、平坦な返事。洋画ばっかりだったので、一つも内容が分からないのだけれど、りっちゃんは知ってる感じの雰囲気だった。
「なにこのチョイス」
「貰い物だから分かんない」
「あっそ……」
「どれ見たい?」
「……今見んの?」
「うん」
「自分で選べば。俺どれも話知ってる」
「見たことあんのかー」
ちょっと憧れだったんだよね、誰かと家で映画見るとか。家で映画を見るぐらい遊べる相手が今までいなかったし、そもそもうちには再生できるものすらなかったわけで。
化物っぽいのがパッケージの中央にぼんやり佇んでる、多分ホラーだろうなーってのを差し出せば、別に嫌がられもしなかったけど喜ばれもしなかった。りっちゃんホラー苦手とか聞いたことないし、それこそイメージないから、平気なんだろうな。あらすじぐらいは知りたくてパッケージの裏を見たけれど、日本語が無かったので諦めた。ていうかなんで日本語書いてないの。
「輸入盤だからだろ」
「なんで書いてあんの?」
「怖いって」
「へー」
「……お前って怖がったりすんの?」
「え?分かんない。映画とか全然見ないし」
「はあ」
せっかくだから部屋暗くして見ることにした。再生してすぐに、聞こえてくる言葉が全部英語だったので、隣をつつく。スマホとかいじらないで一応真面目に見てくれてたりっちゃんが、こっちを向いた。なに、と目だけで問いかけられて、口を開く。ほら、ほんとは、映画の間って喋るのってあんまりじゃん。でももうこれはしょうがないよね。だって今のところなにもかも意味分からないわけだからね。
「りっちゃん。日本語吹き替えにして」
「だからなんないって。輸入盤だっつってんじゃん」
「えー、もー、一個もわかんないよー」
「なんでもらってきたんだよ」
「日本語ないとか知らないもん」
「誰にもらったんだ……」
「姉」
「姉はお前が馬鹿なこと知らないの?」
「知ってる。学生の時ブチ切れ倒されたことある」
「……もうこれで勉強しろってことなんじゃないのか」
「じゃありっちゃん吹き替えして」
「画面でなんとなく察せよ」
「今ケビンっつった?」
「言ってない」
「この人がケビン?」
「ケビンはいない」
「じゃあジョージ。ジョージかっこかり」
「せめて主人公に名前つけてやれよ」
「えっ!?ジョージ主人公じゃないの!?」
「違う」

「は」
「……スプラッタホラーで寝るなよ」
「寝てた?あっ、終わってんじゃん。起こしてよ」
「起こしたよ」
部屋の明るさに目を覚ましたら、呆れ声が降ってきた。寝ちゃったのは、まあ、部屋が暗かったからいけない。暗くされたら、そりゃ寝るよね。暗くしたのは自分だけど。もしかしてりっちゃんが映画を止めて電気をつけてくれたんじゃないかと思って時間を確認したけれど、ちゃんと2時間ぐらい経ってた。なんで起こしてくんないんだ。ひどい。いくら俺でも、起こされたら起きると思う。多分だけど。
「ジョージどうなった?」
「死んだ」
「なーんだ。残念」

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