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おばけのはなし




まさきの元気がない。朝からしょぼくれているまさきの周りをもりすけがぐるんぐるん回っている。ぼくだったら目が回ってると思う。
「まさきー、どしたー、まさきー」
「……なんでもないよ、もりすけくん……」
「なんもなくないだろ!朝から下向いて!朝ごはん食べたか!?」
「食べたよ」
「昼は!?」
「給食食べてたの見たでしょお……」
「夜は!」
「まだ夕方だよ」
こんな調子で、もりすけがまさきをずっと質問攻めにしている。朝おはようを言った時にはしょぼくれてたけど、一日中もりすけがしつこすぎてげんなりしてるようにも見える。ていうかその通りだと思う。ぼくの推理は間違っていない。
「まさき、どうしたの」
「うみくん……」
「あ!おれには言えないのにうみには言うつもりだな!まさきのいじわる!」
「……………」
「もりすけうるさい」
「仲間外れ!」
帰り道で、まさきの話を聞くことにした。ちょっとだけ寄り道。さくちゃんとこーちゃんには内緒だ。川っぺりの土手に3人でランドセルを転がして座る。お尻が寒いけど我慢。
「……あのねえ」
「いじめられてるのか!?まさき!」
「もりすけ静かに」
「……昨日ね」
「昨日!?誰にやられた!?おれがとっちめてやる!」
「もりすけ黙って」
「……………」
「おい!まさき!言ってみろ!あ!分かった上級生だな!大丈夫、おれは強い!」
「もりすけ!」
もりすけを黙らせるのの方が、まさきから話を聞き出すのよりよっぽど大変だった。なんだ?いじめられてないのか?じゃあなんなんだ?とようやく静かになったもりすけの口を手で塞ぎながら、まさきに続きを促す。まさきはとってもたっぷり言い淀んでから、喋り出した。
「……テレビでおばけの話がやってて」
「うん。時々見る」
「うみおばけのやつ怖くないのか?おれは見れないぞ」
「あんまし怖くない」
「ぼく見ちゃって……しかも、最後まで……」
「最後まで!?そんなことしたら、おばけが背中にひっついてるかもしんないじゃんか!」
「ひい」
「もりすけ余計なことゆわないでよ」
「おれはおばけは嫌いだから、助けてやれないからな!」
「ひいいい」
もりすけがまさきの恐怖をたっぷり煽ってくれたので、まさきが涙目になってしまった。かわいそうだ。おばけは怖くないから大丈夫だよ、と一応言ったものの、まさきはぶるぶるしているままだ。もりすけのせいだぞ。
「だってまさきがおばけの話するからだろ」
「もりすけが余計に怖がらせた」
「なんだよ、うみだって、ダイジョーブダイジョーブって、大丈夫なわけないだろ!相手はおばけなんだから」
「でも本物のおばけに脅かされたことないでしょ、ぼくはない」
「む」
「まさきは?」
「ぼ、ぼくもない……」
「だから大丈夫だよ。本物のおばけだって、みんながみんな怖がらせようとしてこないよ」
「うみおばけに会ったことあるのか?」
「うーん、多分ない」
「でもなんか、おばけに友だちがいるみたいだな」
「そうかな」
「な、まさき」
「うん、なんか、会ったことあるみたい」
昨日は夜お母さんと一緒のお布団でも寝れなかったけど今日は平気かも、と少しほっとした顔のまさきが、やっと笑った。どうして怖いはずなのに最後までおばけのテレビを見ちゃったのか聞いたら、途中で終わりにしようと思ってテレビを消したけど、中途半端すぎて気になって逆に怖くなったらしい。そんなもんなのか。
あんまり遅くなるとさくちゃんやこーちゃんが心配するので、そろそろ帰ることにしよう。寄り道したことは内緒にして、みんなで学校の図書館で本を読んでたことにしよう、と口裏合わせをして、バイバイした。はずなんだけど。
「海、今日の夕方なんで川っぺりにいたの?」
「う、うみじゃない、人違い」
「もりすけくんとまさきくんと一緒に」
「それはどっぺるげんがー」
「マジで?海やばいじゃん、ドッペルゲンガーって出会ったら危ないらしいよ。同じ街まで迫られてる」
「う、う、さくちゃん近い」
「どうする?明日になって海が朝起きたら海のドッペルゲンガーがさくちゃんとこーちゃんにおはよう言って朝ごはん食べて勝手に小学校行ってまさきくんともりすけくんと遊んでたら」
「しつこーい!」
「怒んないから白状しなさい」
「……こーちゃんには言わない?」
「言う」
「じゃあドッペルゲンガーでいい……」
「航介。海が今日の帰りに寄り道したって」
「あ?」
「わー!さくちゃんのうそつき!」
「言うって言ったじゃん」
嘘はよくない。おばけも、怖いおばけがいるなんて嘘をつかないで、おばけはいるにはいるし優しいのもいれば怖いのもいる、と正直に言えばいいと思う。


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