このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

名称未設定 2



「カラオケ行きたい」
「……行けばいいんじゃない」
「俺が歌うんじゃなくて、歌ってるのが見たいんだよー」
分かってないなー、ぎたちゃんー、としなだれかかられて、そっかー、と返す。んー、それは分かんなかった。ボーカルくんの「カラオケ行きたい」はてっきり自分が歌いたいもんだと。とりあえず重たいからどいてほしい。
「誰になに歌ってほしいの」
「えー、俺、どらちゃんのバラード好き。徳永英明とか」
「失恋した時にしか歌ってくれないやつじゃん」
「お金払うと歌ってくれるよ」
りっちゃん、こっす。お友だちからお金取るなし。そんぐらい歌ってやれし。でも、ノリノリの時のりっちゃんのバラード、めっちゃ感情こもってていいってのは分かる。ノリノリじゃない時のりっちゃんのバラードは途中で湘南乃風みたいになるからダメ。勝手にアーとかイエーとかウォーとかめっちゃ高いテンションで言い始める。
「あと、どらちゃんのperfume」
「あれウケる」
「死ぬほど笑った」
「俺はじめて聞いた時、喉張り裂けるかと思った」
それは別に頼まなくてもリクエストすればやってくれる。全編裏声でお送りするりっちゃんのポリリズムは、聞いてるこっちの耐久力がゴリゴリに削られるので、おすすめである。
「べーやんのジャニーズも好き」
「それはボーカルくんが歌わせるから……」
「だってべーやん歌ってくんないんだもん」
ベースくんは、カラオケに行っても隅っこの暗いところでひたすら他の人の歌を聞く係になることがほとんどで。ボーカルくんが上手なんだから歌えばいいじゃない、とかずっと言い訳してたけど、よくよくみんなで問い詰めたら、他の友達とカラオケに行ってもそうらしい。だから無理やり歌わすのだ。これなら知っているだろうと言い逃れできないぐらいに有名な、例えば大ヒットドラマの主題歌とか、子供でも口ずさむぐらい超有名なCMソングとか、そういうのを勝手に入れる。嫌がるのを押し切って無理やりマイクを渡せば、しどろもどろしながら歌ってくれる。しどろもどろしてる割に、別に下手くそじゃないしね。破茶滅茶に目は泳ぐけども。あと、一番だけで大概終わりにさせられるけども。ベースくん、酔っ払ってたら話は別なんだけどなあ。マイクいらないぐらい声でかいし。
「カラオケ行きたくなってきた」
「でしょ?早くべーやんとどらちゃん帰ってこないかな」
「ねー」
ちなみに、二人がなにをしに行っているかというと、挨拶回りである。社会人ぽーい。今度一緒にライブやるバンドの人とか、ライブハウスの人とか、その他にもなんかいろんな人に挨拶しに行った。俺とボーカルくんがどうして置いていかれたかって、迷子になったからだ。最初はちゃんと付いてってたんだけども、見たことない機材とかあったから立ち止まってみたり、可愛い女の子がいたから立ち止まってみたり、そういうことしてたらみんなが消えた。俺は自分で立ち止まって、あっちからしたら失踪したわけだけど、ボーカルくんは勝手に走り出して失踪したそうなので、俺とはわけが違う。どっちも居なくなってることには変わりないってりっちゃんには蹴っ飛ばされたけど。足癖悪いよね、りっちゃん。だから彼女にも付け爪で思いっきり引っ掻かれた上に車道に向かって突き飛ばされて振られたんだと思う。ね、ボーカルくん。
「バイオレンスかよ」
「全治二カ月だったよ」
「轢かれてるし……」

4/4ページ