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現在地、居酒屋。備え付けのテレビは、バラエティとバラエティの隙間に五分間だけニュースをやっていて、ぼんやりと何とは無しにそれを見上げる。女子高校生との金銭が発生する不純異性交遊の疑いが、と喧騒に混じって薄く聞こえてきたアナウンサーの言葉と、テロップで流れる容疑者らしき男の名前と年齢に、居た堪れなくて目を逸らした。うわ、同い年。わけもなく辛くなった。
「女子高生にお金あげてしかも最終的に捕まるって、前世でどんな罪を犯したらそんな踏んだり蹴ったりになるんだろうな」
「……失ってばっかりだね」
どうやらドラムくんとギターくんもニュースを見ていたらしい。それにつられてテレビの方を振り向いたボーカルくんが、お金をあげてから捕まるまでの間に良い思いをしているのでは?と推察したけれど、枝豆をつまんだギターくんが一言で切り捨てた。
「……女子高生相手じゃなくても良い思いはできるでしょ」
「んお、ぎたちゃん頭いー」
「へへ……」
全然照れるところじゃない。店員さんを呼び止めてなにやら注文していたドラムくんが、そういえばさ、と口を開く。
「女子高生の妹が、彼氏に時計プレゼントされたんだけど」
「へー」
「普通に俺も時計プレゼントして欲しいんだけど。彼氏作ったらいい?」
「えー、俺も時計欲しー」
彼女にもらえばいいのでは、と一応口を挟んだものの、ボーカルくんは「だって俺今彼女いねーし!」と豪快に笑った後、特大のブーメランだったのか机に突っ伏して嗚咽を上げ始めた。可哀想だ。ドラムくんに目を向ければ、冷めた目で見られる。
「あのな、ベースくん。彼女如きが良い時計を突然プレゼントしてくれるわけないだろ」
「……そ、うかな」
「適当な値段のそれなりの時計なら有り得るけど、俺が欲しいのは一生使えるマジで良い時計なわけ。そんなんプロポーズの返礼品ぐらいでしか手に入んねえだろ」
「プロポーズしたらいんじゃない」
「ギターくん天才?指輪代で時計買うわ」
俺は無料で良い値段の時計を手に入れたい、そのためにはプレゼントされるしかない、しかし同年代の彼女からもらうのは無謀と言える、だから年上の彼氏を作るしかないんだ!そうドラムくんに力説されて、全く共感できないけど、とりあえず頷いておいた。めんどくさい。
「おい、ボーカルくん、年上の男を紹介しろ」
「ゔぅ、そんなん知らないよお、パパ活アプリとかで探しなよお」
「成る程……彼氏じゃなくても、パパになってもらえばいいのか……」
狂ってんのか?それともただ酔っ払っているのか。俺は前者だと思う。足になら自信がある、と自分の太腿を叩いているドラムくんに、もう視線を合わせないように机の隅っこだけを見つめることにした。俺は無関係です。ギターくんが、りっちゃん足綺麗なの、知らなかったー、と平坦な声をあげて。
「見たい」
「見るか?いいぞ」
「まくらないの」
「尻から見てほしい」
居酒屋で脱ぐのだけは勘弁してほしい。ライブで脱ぎ出すのはもう諦めたから。ベルトのバックルの音がするので、もう神に祈りを捧げる気持ちで目を閉じた。ああ、今日ばかりは先に帰ればよかった。


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