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「りっちゃん」
「なに」
「背中にでっかい埃ついてるよ」
「とれよ……」
「ええ……」
触りたくないよ、と言いながらにんまり笑われて、普通に失礼だった。ジャケットを脱いではたく。暑いし、このまま着なくてもいいか。
「りっちゃん」
「なんだよ」
「……あめ食べる?」
「いらね」
「おいしいよ。すっぱいよ」
「……………」
別に酸っぱいものは好きではないのだが。にへら、と渡された袋を受け取って、一応お礼を言う。ギターくん、今まで関わってきた人間の中でトップクラスに掴めない。自分を抑圧しすぎているせいで酒を飲むと箍が外れてキレ散らかすベースくんや、単純に脳みその出来が悪いボーカルくんの方が、まだ人として理解できるレベルだ。なにをするでもなくただぼけっと宙空を見つめ出したギターくん。そういえば。
「ギターくんさあ」
「ん?」
「なんで俺のこと、俺の元カノが付けた渾名でずっと呼ぶの?」
「そおだっけ」
「そうだよ。忘れてんの」
「んー」
忘れているらしい。ただの嫌がらせだったら最高にタチが悪いな、と思っていただけに、忘れられていると拍子抜けだ。怒りにくい。由来は俺も覚えてないし、別にその渾名で俺を呼ぶ奴ももうギターくん以外にいないし、不都合があるわけでもなし。一応、本名で呼ぶとか、他の奴らみたいに「ドラムくん」でも構わないのだけれど、とそれとなく匂わせたものの、本名をそもそも覚えられていないことが判明した。そんなこったろうと思ったよ。
「えー。じゃあ、りっちゃんはみんなの名前覚えてるの」
「覚えてるだろ、普通」
「すげー」
平坦な拍手。別に、バンド組んだ最初から「ドラムくん」「ぎたちゃん」なんて呼び合えるほど仲良しこよししてたわけじゃない。なんなら今も、そんなにべったり仲良いわけでもないのに。一応は、全員が全員に対して若干距離を置く最初期が、なかったわけでもないのだ。いつのまにか適当になんとなくやるようになって、慣れたけど。
「ギターくん。なにかんがえてるの」
「……んー、ポテト食べたいなー、て」
「マック行く?」
「賛成ー」
今150円だし、と教えてあげたら、ギターくんが目を丸くして真顔になったので、全くツボが分からなかった。そんなに真剣な顔ができるなら、前回のライブの時にもふにゃふにゃしてないで真面目にやって欲しかった。って、ベースくんなら思うと思う。

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