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「どらちゃんってしっかりしてるよねー」
「褒めても奢らねえぞ」
「そうゆうんじゃなくて」
恐らくボーカルくんが言いたいのは、どらちゃんって「ちゃらんぽらんに見えるし実際あんまり理性的でない部分が多い割には」しっかりしてるよねー、である。かっこの中を言ったら蹴っ飛ばされるから言わないだけで、俺もそう思う。
だって、ライブの打ち合わせも、スタジオの予約も、基本的にそういう業務はドラムくんがやってくれている。全員いい年した大人だし、別にできないわけでも、面倒なわけでもないけれど、ドラムくんが窓口になってくれていると楽なので、お任せしているのが現状だ。だってやってくれるし。なんでなの?と頭の上にはてなマークを浮かべたような顔で聞いたボーカルくんに、ドラムくんが少し考えるような間を空けて、答えた。絶対嘘つく。
「……10人兄弟の長男だから」
「うそ!」
「嘘」
「どらちゃんのバカ……」
ほら見ろ。ボーカルくんが打ちひしがれているのを見て、ドラムくんがげらげら笑っている。性格が良くない。我関せずといった感じでスマホを弄り続ける一人の世界のギターくんも、関わる気がなさすぎてどうかと思うけれど。
「違う違う。俺、高校の時生徒会長で」
「嘘!」
「ほんとほんと。そういう、仕切るとか動かすとか?苦手じゃないし、嫌いでもないから」
「……ほんと……?」
「信用ねえなあ」
次からなにもやらんぞ、と片眉を跳ね上げたドラムくんに、疑いの目を向けていたボーカルくんがへこへこ媚を売っている。まあ、ドラムくんに一番助けられているのはこの中だと確実にボーカルくんだし。なにもかも頼ってるし。年上と付き合うとダメになるタイプでー、とかなんとか自分でも言ってた。確かにずぶずぶに甘えまくってなんでもやってもらってそう。
いや、しかし、俺はドラムくんと同じ高校出身であったはずなのだけれど、生徒会長は果たして、あんな顔で、あんな声で、あんな軽薄な奴だっただろうか。全く覚えにない。そもそも俺は友達も少なかったので、同学年の知り合いレベルのつながりすらまともに存在していないのだ。俺に確認する術はない。よって、ドラムくんの言うことを信じるほかない。一応、正答率五割のガバガバ嘘発見器、ギターくんに目をやったけれど、最早スマホを横持ちにしてにまにましていたので、全く使えなさそうだった。なに見てるんだ。この前「なにって、アニマルビデオだよ」と見せられたのは女子プロレスだった。怖いし、全然アニマルビデオじゃない。
「じゃあどらちゃん頭良かったんだー」
「生徒会長って頭良いもんなの?」
「そうじゃないの?」
「知らねえ。じゃあ俺頭良いわ」
嘘くさくなってきたけど、話に参加しなければどうということはないのだ。曖昧に笑いながら一言も話さずに、その場の空気でいることに成功した。参加してる、風。俺の得意技だ。
……自分で言ってて悲しくなってきた。


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