このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

クリスマス戦線



「メリークリスマース!」
「いえーい!」
「……いえー」
「中原くん暗いぞー!ほらほら!写真撮っちゃう!いえー!」
「シャンパン開けましょ!ねっ!」
「……………」
どうも、新城出流です。こちらはマイスイートハニーの中原新くん。もう一人がお友達兼ペットの町田裕也、もしくは立川環生くん。中原くんがどうしてこんなに暗いのかって、そして俺と町田くんがどうしてこんなに無理やり盛り上げてるかって、明日から30日まで俺と町田くんは一緒に福岡へ撮影、中原くんはうちでお留守番だからである。一緒に来てもいいんだよって何度も言ったし、なんなら旅館もとってあげようとしたけれど、「ぶちがいるから」「俺がいたら邪魔だから」と中原くんは頑として首を縦に振らず、しかし出発の明日が近づくごとにどんどん追い込まれて暗くなっていくわけで。
「今日はお酒飲んでいいよ、中原くん!」
「そっすよ!ね!泣いても脱いでもゲロ吐いても俺付き合いますから!」
「……飲まない」
「じゃあ俺が飲む!」
「新城さん!俺が飲みます!」
「いいやダメだ!俺が飲む!」
「あんたはいいシャンパン独り占めしたいだけでしょうが!」
まず、期間が長いこと。次に、俺と町田くんは一緒なのにも関わらず自分は置いてきぼりなこと。最後に、クリスマスという一大イベントを挟んでいること。その三つが中原くんをいたく落ち込ませているらしく、けれど一緒についてくるのはどうしても彼の中で認められることではないようで、中原くんの中では俺の仕事に自分がついていくことは邪魔者以外の何者でもないのだ。いや、むしろモチベーション上がるけどね。撮影旅行の間の新城さん、荒みに荒んでるの中原くん知らないでしょ?ていうか中原くん一人で置いていくのも、いやなんだよなー。ご飯ちゃんと食べなくなるし、煙草ものすごい勢いで吸うし、俺のいないところで泣くし。
そんなことを考えながらやいのやいのと町田くんと言い争っていると、ソファーの上で膝を抱えて丸くなっていた中原くんが、すっと立ち上がって寝室の方へ消えた。やべえマジで怒ったかな、と二人で顔を見合わせて、最終手段の手筈の確認をしておく。ちなみに最終手段とは、中原くんが寝た後に中原くんを車に積み込み、なるべく人目につかない手段で福岡まで無理矢理ご一緒することである。ぶちちゃんはペットホテルに預ける。ほんとに手がつけられないぐらい落ち込んで、置いていくこと自体に危険性を感じたら、町田くんと力を合わせて実行する予定だったやつ。旅館の方には一人増えるかもって話つけてあるんで、とこそこそ言われて、俺の方もこそこそと、ポケットに用意していた目隠しと猿轡を、いざとなったらこれを使うから、と見せたりしていたら、中原くんが戻ってきた。
「おっ、おかえり!」
「ケーキ食べます!?」
「……これ着ろ」
「は?」
「えっ?」
「着ろ」

「あっはははは!ひいっ、ふはっ、はははははは!」
「……………」
「……新城さんえぐいぃ……」
「おめえもだよ!」
「あ″ははははっ、ぉえっ、えっ、ひ、ひひひっ、やば、っは、ふはははっ」
中原くんが床に痙攣しながらのたうちまわって笑っている。元気が出たようで何より。俺は今すぐ彼を泣かせたい。
中原くんが「着ろ」と持ってきたのは、俺がクリスマスの時期になると中原くん用に勝手に用意する、ミニスカートだったりお腹が見えていたりするタイプのサンタさんのコスプレ衣装だった。一通りあれそれが終わったら、捨てろ!と毎回激怒されるのだが、クローゼットにとっておいていたのだ。こんなことなら捨てればよかった。綺麗に洗って干してしまいこまなければよかった。
俺のやつは、スカートがとんでもなく短くて網タイツのやつ。中原くんのため、と思って羞恥と涙を飲んで着たけど、彼用に買ったものなので普通にチャックが上がらないしタイツがめちゃくちゃに痛いので、一瞬で後悔した。町田くんのやつなんかほぼスクール水着に一応サンタさんのふりをしている赤いポンチョなのに、なんで自分を棚に上げて「えぐい」とか俺のことを罵ることが出来るんだ。お前も見るに耐えねえよ、ごついんだよ!成人男性は!中原くんは別!
ついに泣きながら笑っている中原くんが、喉が渇いたのかシャンパンを一気に煽って、喉が焼けてげほげほ咳き込んでその勢いで机の上をはちゃめちゃにして、ずっと丸まって我関せずの態度をとっていたぶちの隣に倒れこんで、そのままむにゃむにゃ言い始めた。てめえ。町田くんも真顔である。限界サンタを二人残して安らかに眠れると思うなよ。
「なにします?」
「あれやろう。次の日起きれなくなるやつ」
「今から出発したら車だと明日の朝10時にはつきますね」
「新幹線か飛行機は?」
「飛行機の方が……明日の早朝出発がありますけど。新城さんお金どのぐらい出せます?」
「いっぱい」
「クソセレブ」
「明日の朝発なら今日の夜は中原くんをいじめられるしそれにしよう」
「連れていくんすか?」
「縛って荷物にしまう。俺のライナスの毛布だから」
「最初からそう説得すればよかったのに……」「抱き潰して言質とれば良かったよね」
「そこまで言ってません」


3/5ページ